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「染色文化全体を守りたい」浅草の老舗染料店で家業を手伝う東大生が愛する染色と伝統工芸

2024.12.06

「浅草で200年以上続く染料店の家業を手伝う、染色と伝統工芸の文化を愛する東大生」

今回取材したのは、そんなレアキャラ東大生。

そして何を隠そう、その彼、保田優太さんは、かの有名な(進振りや締切の情報で誰もが一度はお世話になったことがある)学内メディア、UT-BASEの元代表なんです!

そんな深掘りしがいのある保田さんですが、今回は彼の家業での挑戦とそこに懸ける思いに焦点を当てたインタビューをお届けします!

学生証
  1. お名前:保田優太さん
  2. 役職:農学部国際開発農学専修4年
  3. 備考:UT-BASE元共同代表

実家は浅草で206年続く染料・染色道具の販売店「藍熊染料」。3年次(2022年)秋より1年間、東大を休学し、その頃から家業を手伝う。

保田さんが取材に藍染の布を持ってきてくださいました。

筆者
筆者

素敵な藍染ですね!これが保田さんのご実家の商品ですか?

保田さん
保田さん

いや、説明が難しいんですが、実家は染物店ではなくて、染料店なんです。
着物や暖簾、半纏といった染め物それ自体ではなくて、それを作る時の道具とか材料とかを、職人さんや趣味で染め物をやっている方に売っています

家業の手伝いの中では、海外向けの輸出インバウンド向けの染色体験の2つの事業をやっています。

2022年の秋、僕が東大を休学してしばらくして家業を手伝うことにしたんですが、そのタイミングでまず海外向けの販売サイトを開設して染料の輸出を始めました。
染色業界って急速に縮小しているので、もっと多くの人に染め物の魅力を知ってほしいという思いからです。

保田さんの休学を経ての価値観の変化と家業を手伝うに至った経緯については、東大新聞の記事でも詳しく語られています。

今インバウンドの現場で求められる、”高付加価値”な文化体験

保田さん
保田さん

その1年後くらいからは新しく、インバウンド向けに染色体験のワークショップを始めました。うちの会社は普段染料や道具を売っているので、日本中の職人さんとの繋がりがあるんです。そのコネクションを使って職人さんを会社にお招きして、実際に直接習ってみましょうというものです。

筆者
筆者

私もワークショップのInstagramをフォローしてよく見てますが、結構なスピードでフォロワーが増えてますよね。

Instagram @japanese_dyeing_workshops
保田さん
保田さん

ありがたいことに結構予約が増えていて、週に1回以上は開催しています。

最初は僕自身、みんなどこから見つけてくるんだろうと思ってたんですが(笑)、口コミが多いみたいです。「私の尊敬するアーティストの〇〇さんがこのワークショップに行ってたから、私も行かなきゃと思って来たんだよ」とか言ってくれたり。

筆者
筆者

どんな人がワークショップに参加しているんですか?

保田さん
保田さん

大きく分けて3種類ですね。

まずは織物、編み物といった繊維関連の趣味を持っている方

次に芸術家。タトゥーアーティストの方とか油絵画家の方とかが参加してくれました。
アーティストの方って、自分の表現を広げられないか日々研究してるんですよね。それで日本の伝統的な染め物の技法を勉強したいということで来てくれるみたいです。

そしてこれから増やしたいのは、日本の歴史や伝統文化を勉強したいと思ってくれているような、日本文化愛好家のような人たち。フランスで盆栽を買ってるような人たちというイメージです。

筆者
筆者

テレビでインタビューを受けた訪日観光客が日本文化への愛を語ってくれているのをよく見ますが、ああいう人たちですかね。

保田さん
保田さん

単価を高めにとっているので、テレビで見る人たちよりはいわゆるインバウンド富裕層が多いですね。1回の旅行で100万とか1000万とか使うような。日本人よりも日本文化に詳しい方も多くて、僕も知らない日本人の画家のお話をされたこともありました。

クラフトやテキスタイル(編注:織物・染め物・編み物・刺繍などの繊維に関する事柄の総称)の業界って狭いので、口コミが広がりやすくて、今は業界の人が多く来てくれています。でも業界の人って数はたくさんいないので、これ以上広がることはないと思っていて。それで日本文化愛好家の人たちに向けてもできないかと思って、旅行代理店と連携してのワークショップをつい一昨日始めたところです

筆者
筆者

一昨日!思った以上にホットでした。

染色に興味のある外国人も、結構いるものなんですね。

Instagram @aikuma_japanese_dyes
保田さん
保田さん

そもそもワークショップを始めたのも、お客さんからの要望を受けたのがきっかけなんですよね。

家業の手伝いを始めた頃は、輸出事業を進めるのと同時に、店番もしていました。
1年間フルタイムで働いてたんですが、外国の人が店にくると英語要員として「優太さん、1階に降りてきてください」って、仮に僕が昼食中でも呼ばれて(笑)。
それで対応すると結構「体験できないの?」と言われることが多かったんです。

日本人向けのカルチャースクール、中高年の主婦の方が手芸を習うイメージのものは今までも父親がやっていて、スペースやノウハウはあったので、要望に応えてインバウンド向けも始めることになりました。

筆者
筆者

始めてみたら好評と。始めたてのワークショップがそれだけインパクトを持てているのはすごいですよね。

保田さん
保田さん

日本で染め物を、英語で深く体験できるところが少ないというのが大きかったですね。
小学生の頃とか、クラフト体験みたいなものをやったことありませんか?ああいう感じの体験なら一定はあるのですが。

本当に染め物を勉強したい、染め物の世界に入り込む体験をしたいという外国の方は「どこに行けばいいんだろう」となることが少なくなかったようなんですよね。
職人さんと一対一で話す時間が欲しいとか、3時間かかってもいいから3、4万円でも払う、という人が結構いる。学生の僕らからしたら驚きかもしれないけど、ある程度の収入がある大人で海外旅行をするとなったら、自分の趣味、好きなものにお金を払いたいという人は結構いるんです。

でも日本ってそういう高付加価値な体験、とりわけインバウンド向けは少ない。最近でこそ刀鍛冶の体験、茶道の体験とかは増えてきていますが、染色では少なかったんです。

というのも、英語が話せるだけじゃなくて染色の知識があって通訳もできる、観光客と職人さんの間に立てるって人はあまりいない
みんなが求めていたものがなかったから、順当にお客さんが来てくれているという感じです。

保田さん
保田さん

あとは、最近のインバウンドの流れとして、消費が「モノ」から「コト」へ移り変わってきているんです。物の購入以外の体験や宿泊にお金を使う人が増えていて、平均の支出金額も増えてる。観光客の数自体も増えてる。そういう意味でも追い風が吹いているとは思います。

筆者
筆者

で、保田さんは染色のことも英語もわかる貴重な人材としてワークショップの通訳をされていると…?

保田さん
保田さん

小さい会社というのもあってただでさえ人手不足なんですよね。今僕は土日が全くありません(笑)

筆者
筆者

いやいや、保田さんありきで成り立ってるってことじゃないですか!かっこいい…

保田さん
保田さん

今は僕が週1のワークショップの通訳を全部やっていますが、僕は次の3月に就職してしまうので、僕がいなくなっても続けられるようにしないといけなくて。今は後進育成にめちゃくちゃ力を入れてるところです。

英語がちょっと話せて染色文化に興味がある東大や藝大の学生に、月1でいいからやってもらえないかと、4、5人に声をかけているところです。

保田さんのご実家「藍熊」さんでのワークショップの通訳にご興味がある方は、ぜひ保田さんのメールアドレスまでご連絡ください!!
連絡先→ yutayasuda1236[at]gmail.com ([at]を@に変えてご連絡ください)

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店頭で見た、下町中小企業の景色

筆者
筆者

お手伝いの中で、大変だったことはありますか?

保田さん
保田さん

やりたくない仕事をやらなきゃいけないことが一番大変でした。

輸出用の販売サイトを作るとか、インバウンド向けのワークショップを企画するとかって、そこまで大変じゃないんですよ。やることが明確だし、ゴールがキラキラしてるからモチベーションが湧く。

でも、フルタイムで働くとなったら、海外事業だけじゃなくて店番とか梱包もしないといけない。僕は今、全東大生の中で一番早く段ボールを開けて物を入れて梱包できる自信があります(笑)
あとは配達とか。6キロの缶二つを自転車の両脇にかけて、自転車で橋を渡って隅田川の方まで届けにいく。

筆者
筆者

なんだかすごく昭和の情景って感じがします。

保田さん
保田さん

いやあ、デジタル化とか言いますけど、日本の中小企業では未だにファックスも電話も超現役ですからね。

ただ、現場を見るとお客さんもわりかしご高齢なんですよね。
一つの会社でデジタル化を進めようと思っても、お客さんと一体となって進めないといけないから一気に進まないのもわかるし、特に顧客の年齢層高い会社においては難しい。
そういうことは現場を見ないとわからなかったので、そういう感覚が分かってよかったと思います。

保田さん
保田さん

他にも、海外向けの送料って商品の重さによって違うので、300〜400個ある商品の重さを3、4日かけて一個一個量るとか。サイトの細かいバグの修正とか、途中で荷物が壊れちゃったみたいなクレーム処理とか、そういう雑用的なことが一番大変でした。
大企業ならアウトソーシングできるところですが、中小企業には人もいないしお金もないから、自分たちでやらざるを得ないんですよね。

保田さん
保田さん

ワークショップの職人さん・アシスタントさんとの日程調整も、以前は予約が入るたびに僕が一人一人に連絡して人力でやっていたんですが、最近はSlackを使って自動化しました。職人さんはSlackを使ったことがない人が多くて、伴走しながらツールを導入するというのは思っている以上に大変でした。
でも日程調整はかなり楽になりましたね。こういうツールの導入は絶対にやった方がいい、じゃないと中小企業からどんどん人がいなくなってしまう、と実感しました。

それこそ、Slackの導入もUT-BASE時代のメンバーに手伝ってもらったんですよ。

筆者
筆者

お、ここでUT-BASEの伏線が(笑)。人の縁を感じますね。

保田さん
保田さん

本当にみんなに助けられています。実はアシスタントのうちの1人もUT-BASEのメンバーのお姉さんなんです。
「この借りはいつか返します!!」というのが140個ぐらい溜まっている状況です。いつかいっぺんに返さないとな…

筆者
筆者

他に、UT-BASEでの経験が生きた場面ってありますか?

保田さん
保田さん

UT-BASEのうちの代には個性豊かな人が多くて、共同代表としてメンバーの調整の役割を担っていたんですが、そこで身についたマネジメント力が生きましたね。

実家の仕事でも、職人、アシスタント、会社内部の人などなど、ステークホルダーがたくさんいます。その人たちと摩擦なくできているのはUT-BASEでの経験が役立っていると思います。物事の進め方とか段取りが身についていたのは大きかったです。

中流から、文化全体を守りたい

筆者
筆者

染料や染色道具の販売というと、BtoBがメインになりますか?

保田さん
保田さん

どちらもありますね。国内だと、職人さんや着物工場といったtoBと、趣味で染色をやっている方や美術学校の学生さんといったtoC。
海外には着物工場とかはないので、toCのみになります。

筆者
筆者

海外の個人が染料を輸入して、自分でグツグツ煮込んで染め物をするってことですよね。そういう人が結構いるのは驚きです。こういう染め物の布自体を好んで買う外国人は多そうなイメージですが。

保田さん
保田さん

でも、うちとしても手ぬぐいや風呂敷など布を買ってほしいとも思っています

一番大きい売り上げは国内のtoBだから、その売り上げが吹っ飛んでしまうとうちも困るんです。

保田さん
保田さん

うちはいわばサプライチェーンの真ん中。徳島の藍農家さんとか、道具を作る人とかが上流にいて、うちが中流にいて、より下流の職人さんに材料や道具を卸す。その上流、中流、下流、どこか一つがなくなると文化そのものが吹っ飛んでしまうので、サプライチェーン全体をどうやって守っていくかというのが問題なんです。
その問題に行き着いた時に、ワークショップを通じて職人さんの作ったものに注目が集まっていけば、下流からも文化を盛り上げていけるなと思って。

伝統工芸をどう守るかという話になると、最終生産物をどう売るかという話になりがちです。高級ブランドとコラボレーションする着物の値段を上げるとか、着物をリサイクルして売るとか。
それももちろん大事ですが、サプライチェーン全体をどう守っていくかを考えないと議論として不十分だと思うんです。

筆者
筆者

サプライチェーン全体、文化全体を守るというところに、伝統文化ならではの人間味のようなものを感じます。文化全体が自分ごとになっているのが素敵です。

保田さん
保田さん

文化全体を守るために、僕はぜひパクってほしいと思ってるんです。うちは高付加価値なインバウンド向け事業をやっていて、職人さんとコラボレーションしてwin-winな形でわりかしうまくいっている。
それを日本各地で真似してくれる人が出てきたら、染色業界全体が盛り上がっていくんじゃないかと思います。

筆者
筆者

染色業界以外の他の伝統工芸との関わりはあるんですか?

保田さん
保田さん

なくはない程度ですね。

地元の地場産業と一緒にやっていきたいとは思っています。ワークショップで完成したものを地元の桐箱に入れて渡すとか、地元のホテルとかとも連携できたらと。

ただ、これが伝統工芸全体における話かというのは別の問題です

伝統工芸の世界には、それぞれの業界ごとに全く違う課題があるはずです。例えば盆栽だったら輸出の時の検疫や規制の問題。漆器だったら道具や材料を作る人の減少。
課題は現場によって全然違うので、これが普遍的な解とは思っていません。

筆者
筆者

そうか…。伝統工芸はひとくくりにして考えてしまいがちでした。

その中でも染色業界の課題はどこにあると思っていますか?

保田さん
保田さん

それはまさに僕の卒論のテーマでもあるんですが、染色業界と言ってもその中でも色々あるんです。着物、暖簾、手拭い、それぞれで抱えている課題が違う

着物に関しては、需要の減少。西陣織は、需要がピーク時の10分の1まで落ちていると言われています。

一方、暖簾や半纏については、廃業が相次いだことも相まって、1つの工場あたりの需要については長い目で見ると減っていないんです。ただ、こちらは今、かつてないほどの人手不足に直面しています。

手拭いは、インバウンドのおかげで需要が増えているけど、材料の供給に制約がある。

一口に染色業界と言っても、ジャンルや工場の規模など、現場ごとに対策が変わってくるんです。だから逆説的に、できるところからやっていくしかない
僕の家では目の前にあったできることの中で一番大きそうだったのが海外の方の需要だったからそれをやっているというだけで、この一手が状況をガラッと変える、みたいなものはないと思っています。

筆者
筆者

保田さんはすごく業界全体が見えていますよね。

保田さん
保田さん

まあ、卒論のテーマですから(笑)。

ただ、僕自身も家業を手伝うまでは「伝統工芸の衰退」という漠然とした認識しかなくて、現場に出て初めて現場ごとの課題の違いに気づきました。手足を動かすのも大事だなと強く思います。

保田さん
保田さん

春からは経済産業省に就職します。配属の問題もありますが、中小企業や伝統工芸周りに携わりたいと考えています。
入省してからも、霞ヶ関に閉じこもってたら現場は見えないから、絶対そうはなるまい、なんとか足を動かして現場を見よう、と思っています。

筆者
筆者

家業を手伝い、中小企業の現場を見たことをきっかけに経済産業省へ。UT-BASEでの経験や人の縁、卒業研究も含め、全部が繋がっているんですね。

今後も染色業界に関わっていくんですか?

保田さん
保田さん

仕事としてやるかどうかは配属の問題もあるので置いておくとして、ライフワークとして、主に染色、それを含む伝統文化や伝統工芸を応援していきたいと思っています。

保田さん
保田さん

あとは、中小企業を応援したい気持ちがあります。

「206年続く染料店」と聞いて、『御曹司(笑)』なんてふざけて言われることもありますが、うちは従業員8人の小さな会社です。建物もそれなりに築年数経ってるし、梱包や電話受付も人力でやってるし…

地元の人と関わっていて、こういう零細企業はまだまだ多いなと思います。そして、この人たちの頑張りが正当に報われてほしいと思っています。

うちも零細企業ですが、素敵な従業員さんや一緒に挑戦してくれる職人の皆様がいたからこそ海外事業にチャレンジできました。それ自体が幸せなことだと思います。だから、中小企業や零細企業も意欲的にいろんなことにチャレンジできるような環境を作ることも、ライフワークにしていきたいですね。

筆者
筆者

ぜひ、現場を知る貴重な人材として、行政から伝統文化や中小企業社会を支えていってほしいです。

私も染め物が欲しくなってきました。一消費者として、伝統工芸品を進んで手に取ってみようと思います。

筆者
筆者

今日はありがとうございました!

余談ですが、保田さんの着ている服は東大発ファッションブランド・Littermateのものです!
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わかな
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