皆さんは「模擬裁判」を知っていますか?
──「なんか難しそう」「つまらなそう」?
そう思ったあなたにこそ、この記事を読んでいただきたいです!!
私たちは今年の東京大学駒場祭で11/19、20に出展予定の「模擬裁判2022」です。東京大学前期教養学部のゼミである「法と社会と人権ゼミ」(通称 川人ゼミ)の有志が集まって運営しています。
今回は「模擬裁判2022」の宣伝記事となってはいますが、この記事を読んでいる皆様に、学びに熱中するゼミ生の活動のストーリーをお見せしたいという側面もあります。駒場祭には行かないよ、という方も楽しめる記事にしたいと思っておりますので最後までお付き合いください!
私たちが行う「模擬裁判」は、模擬裁判と聞いて皆さんが想像するかもしれないような、いわゆるディベート形式の模擬裁判ではなく、【裁判劇】を上演する企画です。
毎年、今日の社会において熟考すべきテーマを据え、様々な立場の証人と代理人(弁護士)の掛け合いを通じて、社会問題を多面的に捉える経験をお届けしています。
そして、ロシアのウクライナ侵攻など国際情勢の激変を受け安全保障への関心が高まる2022年に本企画を実行する我々は、
「安全保障と個人の権利」
というテーマに挑むことにしました。自衛隊・在日米軍基地に関する訴訟をベースに国家の安全保障と個人の権利の相剋を描きます。
決して特定の主義主張を喧伝するものではなく、安全保障という国家の論理と、基地周辺に住まう人々の人権救済という大変に複雑な問題を、多面的・中立的に描き出した上で、我々とともに迷いながら考えてほしい、そのような経験を提供する企画です。
なぜ演劇団体ではない川人ゼミ有志が「演劇」という表現手段を使うのか ──私たちなりの答えは、裁判劇という形式によって各主張の偏重を避けつつ社会問題を描くことができるから、そして、様々な当事者を生身の人間が演じることで、お客様に心を動かしながら、つまり様々な当事者に思いを馳せながら舞台に没入していただくことが可能になるからです。
この没入の経験が、「自分かもしれなかった誰か」と自身とを重ね、一市民の日常からは縁遠くすら思われることもある国家安全保障という大きな問題を己に引きつけて考える一つの契機となればと考えております。
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さて、私たちの模擬裁判で脚本を担当する 「脚本局」のスタートは、なんと半年以上前の4月でした。
歴史ある模擬裁判において、どのようなテーマが相応しいか各自さまざまな案を持ち寄って検討し、その中で、昨今の社会情勢も考慮してこのテーマに決定しました。
本当に一学生が社会問題を扱う裁判劇のテーマを考えられるの?と思った方、良い着眼点です。ここにこそ、川人ゼミの真髄があるのです。少しだけ、川人ゼミについて話させてください。
川人ゼミは弁護士の川人博先生によって30年間開講され続けている東京大学前期教養学部のゼミです。川人ゼミのモットーは「現場主義」です。社会問題が実際に起きている現場に足を運び、当事者の声に耳を傾け、机上の空論に留まらず自分の頭で考えることを大切にしています。
川人ゼミは、現場主義の実践のために、社会問題の当事者やそれに立ち向かう弁護士・専門家の方からのご講義と、学生が主体となって企画するフィールドワークから構成されています。
フィールドワークは、関心分野の社会問題に携わる方に学生自身がアポイントメントを取り、お話を伺いに行ったり、働いている現場を見させていただいたりするというものです。川人ゼミの卒業生などの関係者だけでなく、直接メールをして新しい講師の先生を見つけようとするゼミ生もいます。
さて、今回のテーマ選びになっているのも、そう、このフィールドワークなのです。実際に基地見学などのフィールドワークを通して考えたことが、今回の脚本の礎となりました。
また、「安全保障と個人の権利」というテーマが決まった後も、判例の読み込みやリサーチに加え、基地問題の関係者との対話や、実地での学びを時間の許す限り継続し、答えの出ないテーマにも「現場主義」の精神で立ち向かっていきました。このマインドは、川人ゼミ出身である私たちのアイデンティティとして、裁判劇にも深く刻み込まれています。
そんな私たちの練習風景を少しだけお見せします。下の写真は練習での光景です。みんな真剣な眼差しです……!
登場するキャラクターに言葉を与え、人格を作り上げた脚本担当と、それを具現化して皆さんの前でお見せするキャストがこんなにも密に連携できているのは、チームとしての私たちの一体感が成せる技だと思います!
練習会でキャストにアドバイスを行った脚本担当者は、「キャストがただセリフを読むのではなく、自分が演じる人物として『内発的に』言葉が出てこないといけない」と語ります。
劇自体は架空のストーリーですが、実在した裁判や、実際に起こっている問題をベースとした劇であるため、キャストは本当にその人物が存在しているかのような演技を求められるのです。
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そして今回の模擬裁判は、例年とは一味違う形態になっています!
新型コロナウイルス流行以前は対面のみの実施、以降は動画配信のみの実施だったのですが、今年はハイブリッド形式、つまり対面での裁判劇の上演とリアルタイムのオンライン配信を並行します(アーカイブも第1回公演終了後から公開されます)。
駒場キャンパスに足を運ばれる方も、週末は家でゆっくり、という方にもお楽しみいただけます!
さらに初の試みであるレポート映像、短編ドラマ映像の公開も行います。
短編映像は、フィクションストーリーである本編の裁判劇に出てくる登場人物たちの裁判外の生活を描いたショートムービーになっています。レポート映像は、基地労働者の労働環境についての作品です。
史上初めてこれら2つの作品の公開に踏み切ったのは、基地に関する問題は周辺の人々の生活と直結しており、裁判の形だけでは表現しきれないと考えたためです。特に、基地労働者の問題は本編の裁判劇のストーリーに含めることが難しい中、それでも多くの人々に知ってほしいという思いからレポート映像の形でお届けすることにしました。この一連の作品が、皆さんが社会問題を考えるきっかけとなれば嬉しいです。
このように、私たちは川人ゼミで培った「現場主義」の精神をもとに、多くの人々に社会問題を学んでいただくためのさまざまな工夫をしております。
ぜひ皆さんにも、メンバーの工夫、熱意、気持ちがこもった「模擬裁判」の作品群をご覧いただけると嬉しいです。
11/19(土)
第1回公演 開場 10:30/開廷 11:00/閉廷 13:00
13:00-14:00 映像作品上映
第2回公演 開場15:00/開廷 15:30/閉廷 17:30
11/20(日)
第3回公演 開場12:15/開廷 12:45/閉廷 14:45
会場:東京大学駒場キャンパス KOMCEE21 EAST 地下1階 K011
今年度駒場祭はハイブリッド形式で開催され、本企画も対面・オンライン併用での企画実行を予定しております。オンラインでのリアルタイム/アーカイブのご観劇・映像作品のご視聴は、駒場祭HPもしくは模擬裁判2022のHPにて可能となります。