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東大生と考える、内申制度って理不尽?という話

2021.11.13

こんにちは。秋も深まる季節です。みなさんいかがお過ごしでしょうか。

さて突然ですがみなさん、想像してみてください。あなたは今、未来ある中学3年生です。そうです。ピチピチの15歳です。半年後には高校受験を控えています。吹き付ける北風の寒さに、日に日に近づく受験を感じているかもしれません。

そんなあなたがもし――もしですよ、あなたの中学校の教師に、不当に低い内申点をつけられてしまったら。どんなことが起こるでしょうか。そしてあなたはそれを、どう思うでしょうか。

低い内申点を見せると、通っている塾の講師はあなたに、出願校を変更するように言います。その点数では、あなたの志望校に出願するのは厳しい、やめておきなさい、と。公立高校に行きたいのなら、もう少し偏差値が低いところでないとリスクが高い、と。

そんなのあんまりだ。私には医者になりたいという夢があるのに。私の家から行ける、偏差値を下げた公立高校からじゃ、医学部なんて夢のまた夢。それどころか、それなりに名の知れた大学に合格することさえ厳しいかもしれない。ああ、どうしよう。立派な医者になって、たくさんの人を救って、大きな家を建てて2人の子供と幸せに暮らす、私の人生の夢は?

中学3年生の、たった1科目の内申点ひとつで、こんなにも選択肢を奪われて、私の人生、お先真っ暗。

さて、ここまで読んで、あなたはどう思ったでしょうか。

その通りだ、私の人生どうしてくれる、中学校に徹底抗議だ!と思ったでしょうか。あるいは、生徒の人生を顧みずに志望校の変更を半ば強いてきた塾が悪い、と思ったでしょうか。

それとも批判精神の豊かなあなたなら、たかが内申の一つや二つくらいで大袈裟な、医者になれなかったら人生お先真っ暗だなんて、流石東大生はエリート思考がお強いことで、と思ったかもしれませんね。で、結局何が言いたいのかって?もう少しお付き合いくださいよ。

さて、本題です。長々と「もしも」の話をしてきましたが、実はこれ、今年の駒場祭で法と社会と人権ゼミ(通称:川人ゼミ)有志がオンライン配信する模擬裁判のあらすじを少しデフォルメしたものなんです。

選択性緘黙という疾患を患い、人前で声を出すことが難しい中学3年生の尊くんは、その疾患が原因で、歌のテストの際にクラスの前で歌うことができず、それを原因に内申点で5段階評価中の「2」をつけられてしまいます。母親が抗議するも学校は応じず。

尊くんが目指していた学校は県内随一の偏差値を誇る高校。ハイレベルな戦いの中でこの「2」は大きな障害となり、塾講師に説得されて志望校を変更した尊くんは、変更後の志望校に合格したものの、その後すぐに自ら命を絶ってしまいました。

残された尊くんの両親は、学校の設置管理者である市を相手に裁判を起こします。尊くんの死の責任は学校にあるのか。そして音楽教師は、どうして尊くんの選択制緘黙を考慮に入れた上で成績をつけることができなかったのか。

事件の裏には「内申」という高校入試制度の問題点や受験戦争の実態、そして中学校教員の過労問題もあって…

なんだ、宣伝記事か。

いやいやそう言わずにもう少しのお付き合いを!実はこの模擬裁判、判決をあなたの手で決めることができるのです。

記事冒頭で、中学3年生の気持ちになりきったあなたはどう思いましたか?それではあなたが、日々様々な仕事に追われながら何百人もの成績をつけている音楽教師だったら?日々教育格差に疑問を抱きながらも、そんな構造のもとで利益を享受している塾講師だったら?

あるいは、あなたが裁判官だったら?

川人ゼミの模擬裁判では、あなたが裁判官の一人です。

遺族サイドと学校サイド、それぞれの熱のこもった主張を聞いた後には、フローチャートを用いて、観客のみなさんにご自分の考えに最も近い判決を選んでいただきます。アンケートを集計し、最も多かったものが判決として採用されます。公演が始まるまで、判決はキャストを含め誰にもわからないのです。

もちろん判決以外のご意見も大歓迎です。「恵まれた東大生の分際で教育格差なんて語るな」と思ったあなたも!ぜひ配信にいらして、アンケートでその思いをお伝えください。

昨年度模擬裁判の様子

さて、ここまでお読みいただいて、こう思った人もいると思います。

実際、内申が原因の裁判なんてあるの?

答えは、ほとんどありません。今回の模擬裁判は、モデルとなった事件が存在するようなものではないんです。

いやいや、模擬裁判というくらいなんだから、実際の裁判でよくある事件を題材にするのが普通なんじゃないの?と思うかもしれませんね。でもこの模擬裁判には、ただの裁判の真似事以上の意味があると、少なくとも私たちは思っています。

少し話は逸れますが、我々川人ゼミの模擬裁判は、その脚本の全てを前期教養学部の2年生が執筆し、1年生が演じます。しかしこの裁判劇は、まだ法学部で法律を専門的に学ぶ前の学生たちが自分なりに調べ、考えて作り上げたものであるからこそ、社会に新しい視点と問題意識を提供できるのではないかと思うのです。

裁判というのは、異なる視点や立場のぶつかり合いです。世の中はぶつかり合いだらけです。相手の視点に立たないとわからないことに満ちています。

尊くんの遺族は学校を恨んでも恨みきれないかもしれませんが、あなたが件の音楽教師だったら話は違うでしょう。毎日毎日授業に準備に部活動指導、加えて何百人もの成績評価もしなければならず残業三昧な中で、尊くん一人の成績が2だろうが4だろうが知ったこっちゃない。死の原因が内申にあるのは認めるにしても、その責任を負うのはたった一度2をつけただけの自分ではなくて、そんな微々たる差が大きく影響する高校入試制度、そして高校がそのまま大学ひいては職業に直結するこの社会のはずだ。そう思いませんか?

観客のみなさんには、証人一人一人の立場に立って、この模擬裁判を見ていただきたいと思います。各シーンの迫真の演技を見るうち、どの人の言うこともその通りだと思えてきて、あなたは判決を決めるのが難しくなるかもしれません。でも、そうして考えることで見えてくるものがあると思います。それぞれの立場があると知ること、そしてそれに寄り添うことこそが、尊くんの事件にとどまらず、社会にはびこる様々な問題を考える上で大切なことだと思うのです。

私たちはこの模擬裁判が社会に小さな気付きを与えられると信じています。だからこそ、今回の模擬裁判で扱うのは、世にありふれている事件ではない。私たちが届けたいのは、世には注目されていないけれど、私たちには問題であるように思われることです。それが「内申制度」でした。

練習風景

さて、先ほど、川人ゼミの模擬裁判の脚本は2年生が執筆していると書きました。そんなんじゃ、所詮お遊び程度の脚本しか書けないんじゃないの?と思ったあなた。見くびらないでください。私たちの模擬裁判は、現役弁護士として実際に法廷で活躍するゼミ講師3人のバックアップのもとで作成した、自慢の脚本を使っています。例年多くの法律家の方にもお越しいただき、好評をいただいています。ご安心を。

そろそろ宣伝の押しが強くなりつつあるのでここらでやめにしましょう。

川人ゼミの模擬裁判は駒場祭1日目の11/21(日)13:00〜15:00にYouTube Liveで生配信されます。

川人ゼミ模擬裁判2021
  • 〈日時〉11/21(日)13:00〜15:00
    (生配信終了後、11/23(火・祝)17:00の駒場祭終了まではアーカイブ配信を行いますが、判決アンケートに参加したい方は21日の生配信をご覧ください!)
  • 〈場所〉YouTube Liveにて生配信
  • 〈駒場祭企画紹介ページ〉https://www.komabasai.net/72/visitor/kikaku/328
  • 〈公式Twitter〉https://twitter.com/mogisai2021

公演時間になりましたら、駒場祭ウェブサイト・TwitterよりURLを公開します!Twitterをフォローしてお待ちください。

お昼ご飯を食べながらでも気軽な気持ちで見られて、現役弁護士監修で本格的な裁判劇、しかも対面開催時は来場者1000人・昨年はアーカイブ1000回視聴を超える人気企画だなんて、見るしかありませんね!21日、YouTube Liveでお待ちしています。

判決はあなたの手に!

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東京大学法律相談所
2018-05-16
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法と社会と人権ゼミ(川人ゼミ)
法と社会と人権ゼミ(通称:川人ゼミ)は、電通過労自殺事件をも担当した現役弁護士・川人博先生らを講師に持つ、駒場最大の法律系ゼミです。 是非私たちの記事を読んで行ってください!
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