オリエンテーション旅行の日の朝…この日は浅草へ行くのだ。浅草といえばもちろん浅草キッドだが、それ以外にも浅草寺、仲見世、雷おこし、活動写真などさまざまな名物がある。浅草観光に加えて、クラスメイトと仲良くなれる機会ということもあり、私はウッキウキでスキップしながら駒場キャンパス奥の第一グラウンドへ向かっていた。
そんな私の前に唐突に現れたソレは、こんな感じだった。
なんだ、このボロい建物は…？
なんだ、この趣深い建物は…？
駒場キャンパスにこのように退廃的な雰囲気の建物があるとは思いもしなかった。そもそも東大には私をのぞけばマジメで勤勉な学生が集まっており、こういう路地裏感のあるスプレー落書きとは無縁の大学だと思っていたのだが。私はスキップしたひょうしに変な別世界に迷い込んでしまったのだろうか？
これでは楽しみにしていた浅草に行けないどころか、木に255色に光るカタツムリがひっついているとか、空を見上げると月が65535個あったりとかするのではないか。あるいは後ろを向くとサングラスをかけた怪しいおじさんが立っていて「おまえは知りすぎた。ちょっとわれわれの「組織」のアジトに来てもらおう」とか言われて、京王井の頭線でどっかに連行されていくおそれもある。しかしポジティブに考えてみると、もしかしたらこの世界では駒場東大前に急行が止まるのではなかろうか？だとしたらうれしい。というか、そもそも私が元いた世界において、急行が日本最高峰の大学たる東大のキャンパスの最寄り駅を、ことわりなく通過していくほうがおかしいのである。
ところで、そもそもこの建物はなんのためのものなのだろうか…？ドアの上の看板を見てみると、そこには…
若干風化したような看板が掲げられていた。とりあえず、学生会館であるらしい。ここでいう学生会館というのは学生が住むマンション的なやつではなく、サークルなどの活動場所になる部室や共用スペース等がある建物をさしている。
さて、ここで「新」という漢字を漢字字典で調べてみよう。
①あたら-しい（あたらし）。あら–た。⇔旧。
②あたらしくする。あらためる。あらたまる。「刷新」
（以下略）
『新漢語林 第二版』 大修館書店
どうやら「新学生会館」とはあたらしい学生会館、という意味であるらしい。つまり「新」がつかない学生会館というのがあって、そちらはこれよりもそうとう古い建物であるらしい。
ここで「新」がつかないほうの学生会館の写真を見ていただきたい。
どちらがあたらしいかは一目瞭然である。これは看板の書き間違いとしか思えない。
「新」学生会館の成立
われわれ川口浩探検隊はこの人類最大の謎に立ち向かうため、決死の覚悟でアマゾンの密林にある事務室に行き、2020年度学生会館パンフレットの入手に成功した。42ページから始まる「歴史」の章いわく、
1963 学生会館完成
1981 課外活動共用施設（新学生会館）完成
2009 学生会館改修
この3行であっけなくすべての謎が解けたかと思う。なにが看板の書き間違いだ。これまで長々といろいろ書いてきたけれども、年表さえ見ておけば済む話だった。「歴史から学ぶ」とはこういうことなのだ（違う）。
…さて、ここまでいろいろと書いてきたが、あくまでこれはパンフレットの内容の一部をまとめただけだ。まだ謎は残っているし、ここで終わるわけにはいかない。…と、いうわけで、我々探検隊は学生会館運営委員の方にインタビューを行うことにした。ここでようやくこの記事をわざわざ読む意味が確保されたというわけである。めでたい。今頃私の故郷の村では長老のもとに老若男女がつどい、「学生会館運営委員会インタビューの舞」を舞いながらドブロクを呑んで飲めや歌えやの大宴会が行われていることだろう。ちなみに神奈川県の休暇村というところなのですが、だれか休暇村あてにインタビューは無理とのことなので代わりにSlackのスレッドで来た返信をまとめて掲載するという旨の電報を送ってください。
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学生会館運営委員の方の話
1、なぜ学生会館は改修されたのか？また、なぜ新学生会館は改修されないのか？
A.新館はギリギリ耐震工事がされているので（注：学生会館は建設時には耐震工事がなされていなかったため2009年に改修された）、改修工事がされていません。
ある意味一番新しいのは新館のトイレ（2018改修）だったりします。
2、なぜ掃除されていないのか？
A.現状新館と学生会館を学生会館で一括管理しているので、新館が「離れ」扱いされ掃除・整備が若干雑になりがちなのもありそう。
3、この落書きは何か？
A.エキセントリック少年ボウイオールスターズという超有名な吉本の芸人で構成された音楽グループのキャラクター名です。
柱の落書きのとおり、「エテモンキ」「犬ドッグ」「鳥バード」がいる。「猪豚ピッグ」はお蔵入りになったらしい（Wikipediaより）。
1997年にシングルを出して50万枚も売れたんだそうだ。この記事にも50万アクセスくらいはほしいものだ。（無理）あと50万いいねもほしいですね。UmeeTに「いいね」機能はありませんがみなさまのご協力をお願いいたします。
4、この落書きは何か？
A.心当たりがあるのが、「バンクシー」なんですね…
一応はバンクシーの絵は日本にもありはします…
また、このネズミは自分が入学した時からあって、バンクシーが有名になる前なので、「？ 本物かもなぁ…」という感じです…
（東大なので、そういう非暴力・反戦争・反権威主義・無政府主義などをやって欲しいのかもしれません… ）
※「圧倒的勝利」の文字は後から書き足されたと思われる。
なんとバンクシーが東大にも来ていた（かもしれない）のである！さすが日本最高峰の大学である。急行が通過する日本最高峰の大学である！東大生たちよ、非暴力・反戦争・反権威主義・京王井の頭線の輸送力改善ならびに駒場東大前駅への急行停車をかかげて、今日も学生運動に励むのだ！戦争、反対ーっ！急行を、停めろーっ！ワーワーワー！
利用者に聞く
さらに、我々（一人だけど）探検隊は、利用者へのインタビューを敢行することにした。いったいどんな人が好き好んで「新」のほうを使うのだろうか…と気になったのでインタビューをしてみたいと思ったのだが、どうも学生会館か新学生会館かは活動1回毎の抽選で決まるらしい。なーるほど。「新学生会館大好き！いつも使ってるから実家のような安心感！毎日抱いて寝てます！」みたいな人はいないわけだ…まあ、それでも、会館の使用感についての所感は聞かんといかんので、インタビューを敢行することにする。
今回は、3人の方にインタビューを行った。100人くらいのインタビューを期待されていた方には申し訳ないが、残りの97人に関しては自力で行っていただきたい。UmeeTから取材費用は出ませんが、食費として生協の購買部のグァバジュースおよび辛ラーメン代は支給される可能性があります。嘘だけど。
1人目は、地理部で新学生会館を使う龍安寺の歌さん。粋な名前である。
2人目は、応援部吹奏楽団で会館を使うかりーさん。今回はメッセージでのやり取りのみとなった。
3人目は、奇術愛好会で(以下略)を使うmiさん。奇術愛好会に所属し、奇術愛好会のメンバーとして奇術愛好会で活動しているという。
どのくらいの頻度で、どのような目的で新学生会館を利用していますか？
多いときは月に2~3回くらい使っています。
月に0~1回、楽器のパート練習で使っています。
新旧合わせて週に3~4回くらい、マジックの練習をしています。
はじめてこの会館を見たとき（活動場所に案内されたとき）、どう思いましたか？
ここ？って思いました。木に囲まれてて、一瞬見つけられなくて…
初めて使ったのは昼だったけど、こわかったです、大きく書いてある押忍の落書きにビビりました。
治安が悪そう。ボロイだけじゃなく、「変な人の顔を覚えよう」とか書いてある張り紙があって怪しさがあると思ったかな。治安悪そう、怪しい、汚いって感じですね。
「新」学生会館という名前について思うところはありますか？あと、名前の由来は知っていますか？
明らかに逆だろ！って気はします。どうして新というのかは知らないです。
全然新じゃないし、旧にするか学生会館（新じゃないほう）と名前取り替えるかした方がいいと思う。由来は知らないです。
この記事の下書きを読んだから由来は知っているけど、それでもややこしいから名前を変えればいいんじゃないの？とは思いますね。2号館とか、いくらでも変えようはあるでしょって思います。
↑miさんが読んだという記事。いったいどんな内容が書かれているのか、これは読むしかない
他の建物（学生会館など）と比べるとどうですか？
学生会館の方が使いやすいし、夏は冷房の効きがいいから、学生会館を使うときの方がうれしい。
そりゃまあ、きれいな学生会館のほうがいいですよね。でも部屋の中のきれいさとしては新旧変わらないので、使う分にはそこまで問題はなくて、新の方が当たっても「ちょっと嫌」程度ですかね。ただ、シンプルに遠いのはイヤですね。
※比較的早歩きの筆者でも、駒場の正門から新学生会館まで徒歩で2分52秒かかった。とはいえ、学生会館やキャンパスプラザも同じくらい遠いとは思う。
廊下やトイレ・立地等、建物全体としての利便性はどうですか？
外観のわりにトイレはめちゃくちゃきれいなんで、すごいと思います。東大の建物は結構年季が入ってるので、天井や壁のぼろさについては気にならないですね。ただ、暗い時だと不気味だなって思うことはあります。
ちっちゃい段差が多いです。転ぶから注意。
廊下はちょっと汚すぎじゃないかなと思うけど、そこまで気になるほどではないかもしれないですね。ただ、1階の共用スペースがちょっと…汚いし、暗いし、怖いというか…無人の受付が怖いと思います。
活動場所の部屋の利便性はどうですか？
よく和室を使ってるんですけど、新学生会館にしかないので、面白いなって思います。最初は興味本位で取ってみたんですけど、そこそこ広くて意外と居心地がよかったので、定期的に使っています。あんまり畳とかは張り替えてなさそうだけど…
ちょっと部屋の壁がぼろくて使い心地があまりよくないです。
部屋の中身はきれいさも使い勝手も新旧変わらないと思います。ですが、こないだの練習だとWi-Fiが通ってなくて嫌でした。
駒場だとどこでもそうですけどね。
総合的に判断して、この建物は好きですか？嫌いですか？何とも思いませんか？
僕は嫌いではないです。
昼はふつう、夜は嫌い。
新のほうが当たるとちょっとがっかりすることはありますけど、嫌いってほどでもないし、何とも思わないかな…
新学生会館を一言で表すと？
一言で表す…というか、印象ですけど、鳥バード 犬ドッグですね。
うーん…週3回通い詰めている身からすると、隠れ家的な？いやそれは言い過ぎかな、穴場？……あ、廃墟！ちょっと秘密基地感もあるけど、汚いってことで廃墟。
新学生会館の改善してほしいところはどこですか？
入口の段差で毎回こけそうになるので、もうちょっと外に明かりがあるとうれしいです。
夜暗くて怖いのでなんとかしてほしいです。
もうちょっと清潔にしてほしいのと、あわよくばエレベーターをつけてほしい。あと、建物はあのままでも明るくして涼しくすれば、普通の学生会館やキャンプラの共用スペースみたいに、人が集まって良い雰囲気になるんじゃないかなと思います。
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おわりに
キャンパスの奥深くに新学生会館と銘打つ謎の廃墟みたいな建物を発見。最初は本当に廃墟かと思ったのだが、取材を進めていくうちに、廃墟じゃないことや、「新」という名前は打ち間違いではないこと、そして、意外と使い心地に問題はないということなどがわかった。しかし、東大のキャンパス内にこういう建物があるというシュールさは、いつまでも変わらない。ただの廃墟であればどこにでもあるのだが、新学生会館は、廃墟じゃないし実用的だけれども異様さがあるという、まさに愛すべき建物なのである。私はきっと新学生会館を見るために東大に入ってきたのだろう。そういったら過言である。
オリ旅行当日、新学生会館の写真を「これ、よくない！？」と言って見せたところ「うーん…いや…」と返してきた私の友達は、この記事を読んでいるだろうか？というか大多数が「うーん…いや…」側の人間だと思うのだが、この記事を読むことで、新学生会館を利用している人はもちろん、利用したことがない人や、あるいは全く知らなかった人でも、愛着が5ミリくらいは湧いてきたのではないだろうか。「ぼくは2ミリだったよ」「わたしは7ミリだったわ」「おいどんは3フィートでごんす」というような意見がある方は、ぜひコメントをお願いします。UmeeTに「コメント」機能はありませんがみなさまのご協力をお願いいたします。
まあ、この記事の感想はチラシの裏にでも書いておいてください。間違っても新学生会館の壁には書かないように。
※文中で取り上げた井の頭線に急行が止まらない問題については以前UmeeTの別記事で紹介されている。「井の頭線の秘密がわかりました！」「60代の私でも若さを取り戻しました！」「読んだら年収が10倍になりました！」といった喜びの声が数多く寄せられているので、今すぐ下のリンクをクリック！クリック！
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