【瀧本哲史インタビュー】革命抑止大学東大:革命、起こしませんか

2016.04.20
瀧本ゼミ

本稿は、瀧本ゼミ顧問の瀧本哲史氏と、そのゼミ生によるインタビューです。

第一弾「流されるまま東大:消化試合としての人生」

第二弾「地方大学東大:高値掴みする東大生」も併せてお読み下さい。

  1. お名前:瀧本哲史さん
  2. 所属:東京大学法学部卒業
  3. 進路:学部卒業と同時に東大大学院法学政治学研究科助手に採用。助手の任期後、経営コンサルティング会社McKinsy&Companyで主に通信、エレクトロニクス業界の新規事業、投資プログラムのコンサルティングに従事する。その後、2000億円近くの債務を抱えていた日本交通の経営再建に取り組む。現在はエンジェル投資家として活躍する傍ら、京都大学で、起業論の授業を担当。東京・京都で、学生に対し企業分析と政策分析の自主ゼミ「瀧本ゼミ」を開く。

士族平定プロパガンダ

ゼミ生: 前回までの記事が好評を博しており、なんとインタビュー三回目です。それで一回目二回目の記事を見返してみたんですが、 大きなメッセージとして「自分、そして、東大を含め環境を相対化しろ」というのがあると思いました。

瀧本 : 相対化は大事ですね。 企業分析でも、競合と比較して初めて、会社の価値が分かります。あと、競合だけじゃなくて、「会社がどのような沿革を辿ってきたか」も大いに参考になる。

ゼミ生: 空調世界一のダイキンが、実は大阪金属工業の「大金」で、内燃機関や精密機械からスタートした、とかでしょうか?

瀧本 : ダイキンの意外なヒット商品が、戦時中のイ号潜水艦の空調設備ですよね。潜水艦の冷房はイノベーションで、長期作戦行動を可能にした。戦後になると、民需にシフトし、エアコン開発を伸ばしていった訳です。

大阪金属工業株式会社の空調が搭載された、イ号潜水艦

同じように、沿革から東大を見てみると、そもそも東大って革命抑止大学なんですね。

東大のおおもとは、もともと1868年に元勲たち(明治維新での功労者)が設立しました。ところが、当時は革命の真っ最中で、特権を奪われて血気立ってる士族がゴロゴロしていた。まあ、革命と言っても、市民が貴族を倒したのではなくて、有力藩の下級武士が政権を乗っ取ったという話ですが。

実際、この先10年で、西南戦争に代表される士族反乱もたくさん起きている。そもそも、下級武士クーデーター事件後の内紛と、「世が世なら俺たちが政権とっていたのに」という勢力の結託が多い訳です。為政者からすると、気を抜くとフランス革命みたいに「革命返し」されて、自分たちは島流し、みたいなことも考えられた。自分たちも元・下級武士ですが、後から、同じような下級武士が上がって来られないよう、梯子を外しておかないといけない

日本最大規模の士族反乱であり、2016年現在、日本最後の内戦である、西南戦争(1877年)。

そこで、なんとか士族に別の目標を与える必要があった。勉学を頑張れば立身出世しますよ、と。これが学制と帝国大学です。以後、私立大学も含め、立身出世ブームの立役者は全国の下級武士の社会階層です。

そういう意味では、「学問のすゝめ」だってプロパガンダだとも捉えられます。「お前ら刀持ってウロウロしている場合じゃないぞ、これからの時代は学問だ」と。学制を敷いて、全国の優秀な人材を選抜して、地元で不満をためないように中央に吸い上げる仕組みを作ったのですね。

再度、革命・クーデターを起こさないように、「学問」という新しい「管理された競争」を創りだす。そしてその優勝賞品は、統治権ではなく、帝国大学入学。なんと「がんばったご褒美に、僕たちの”家来”にしてあげよう」という仕組みですね。ある意味、シュールというか、ほぼブラックユーモアに近い。

「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言へり」 有名なフレーズはアメリカ独立宣言からの引用とされている。

官僚の低コスト大量生産

瀧本 : そんな訳で、無事、東大は官僚養成機関になっていきますが、基本的なシステムとしては低コスト大量生産ですよね。マスプロ講義というのは、マス・プロダクション=大量生産という意味です。「富国強兵」「殖産興業」で、大量かつ高速に西洋先進国をパクるのがミッションとなります。

東大の沿革をたどっていくと江戸時代の蕃書調所(ばんしょしらべしょ)。つまり、外国語文献を読む組織に遡る訳で、そのころから「翻訳」が学問だったんですね。

それに関連して、東大生一般には、ゼロから文章を書く能力がありません。入試で問われていないし、その後も、ほとんどトレーニングされていない。中高でも、一部のきちんとした私立学校を除いて、事実と論理に基づいて文章を書く教育はなく、「感想」を書かせる「作文」があるのみです。

西洋の大学の伝統の一つの系列である、リベラルアーツ系のカリキュラムだと、作文はチューターがついて徹底的にやる。しかし少人数教育なので、とてつもなくコストが掛かる。一方、日本は後進国で、とりあえず追いつかなきゃならなかった。だから、目の前の実利(=官僚の生産と工業力の向上)に絡まない指導はしない

リベラルアーツというのは「自由人のための学芸」なので、少人数エリート教育なのですが、東大はそれと真逆の「家来」ないし「高級奴隷」(アリストテレスは「ものを言う道具」と呼んだ)を造る制度を用意していると考えると納得できます。もちろん、改革をしようとはされていますが。

沿革で分かる大学の特色

ゼミ生: 他の大学、例えば京大はどうでしょう。

瀧本 : 京大は、最強元勲である西園寺公望が「もう一個、帝国大学作るか」ということで作りました。

元になったのは舎密局(せいみきょく。オランダ語「CHEMIE:化学」の音訳)という化学実験教育研究機関ですね。これは、テキストを暗記させる、江戸時代の寺子屋教育とは断絶していて、化学実験中心の実証主義だった。しかも、東大とは異なり、ドイツの自由な大学をモデルにした。

自由な体制でやらせてみた結果、滝川事件(1933年の思想弾圧事件)なども起きました。一方、東大の平賀粛学(1939年、経済学部教授の13名が辞表を提出した事件)は思想的なものもありますが、基本、派閥争いの喧嘩両成敗です。ちなみに天皇機関説事件はイチャモンですから、ここではノーカウントでよいでしょう。

いずれにせよ、国家予算の数年分に達した日清戦争の賠償金から、京都大学の創設に金を回して、東大とは違うモデルを創った西園寺は、さすが最強元勲という感じですね(編者注:ちなみに、瀧本ゼミには京都ゼミもあり、東京とは違うモデルで運営されている。両ゼミは東西戦という形で交流・切磋琢磨している)

最強元勲・西園寺公望。数少ない公家出身の元勲で、京大や立命館大学の設立に関わった。議会主義の擁護者としても知られ、対外的にはイギリスやアメリカとの協調外交を志向した。1940年没。

ゼミ生: 日本以外の国はどうですか?

瀧本 : 『ハーバードの世紀』という本があります。これを読むとよく分かるんですが、アイビーの大学は「俺たちが国家建設する」という気概に溢れていますね。いわば、「国家が大学を創った」のではなく「大学が国家を創った」という。

ケンブリッジも面白いですよ。元々オックスフォードで住民と対立した学者たちが引っ越しして出来た。その中でも、面白いのが、ニュートンの出身でもあり、ノーベル賞を32人輩出しているトリニティカレッジです。このカレッジは港を3つ所有しているらしく、そこから賃料収入が入るという、とてつもない財政基盤を持っています。その財力は「昔王様から譲り受けた」ということになっている。えらく社会貢献的な王様だと思うじゃないですか?

ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ。ある王様によって1546年に創設された。

この王様は、実は有名なヘンリー八世で、その財源といえば、国教会を作ったときにカトリック教会から接収した財産ですよね。そりゃあ「元は人のものですから、気楽に寄付出来ますよね」といった感じが、しないでもないです。

ゼミ生: あ〜、カトリック教会には悪いですけど、宗教革命は強いですね。ただ、革命は日本ではもう起きないですよね…。惜しい…。

革命、起こしませんか

瀧本 : でもある意味では、今の東大も革命者からお金をもらっていますよ。赤門入って右は流通革命(伊藤国際学術研究センター)、左は教育革命(福武ホール)です。ちなみに、学生運動に失敗して、東大を中退、外食革命に路線を変えた、ゼンショーの小川さんも東大の大口寄付者で、なかなかお金がつきにくいテーマに寄付を頂いていますよ。

左から、伊藤国際学術研究センター・赤門・福武ホール。

僕としては「こういった革命志向の人間がもっと増えないと、日本は堕落していくだろう」という危機感がある。というのも、明治の元勲達が設計した、「後進キャッチアップ国家」型の「富国強兵・殖産興業、官僚制・常備軍」モデルはさすがに破綻しているだろうと思うのです。

なので、新しい高等教育を再定義して、その小さなトライアルとして、大学生の内に「社会がどう動いてるか」「どのように意思決定をするのか」をインテンシブに学ばせ、のちのち構成員が社会を変えるゲリラになるような組織、というのを創ってみた。実際にやってみたら、案外続いて、もう5年目になりました。

こういう沿革ですから、「就活で自慢することができた」とか「有名ゼミに所属できて嬉しい」とかで満足するような人には全然入ってほしくないです。革命志向の組織なので。あ、でもウチは資本主義革命ですが(笑)

第一弾「流されるまま東大:消化試合としての人生」

第二弾「地方大学東大:高値掴みする東大生」も併せてお読み下さい。

この記事を書いた人
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