二兎を追う者は一兎をも得ずー「東大」と「スポーツ」という二兎を手に入れた吉澤登吾さんについて知りたい!!2025年、「陸上競技U20日本王者」と「東大理一現役合格」という経歴を持つ吉澤登吾さんが、東京大学に入学しました。文武両道の秘訣を聞くべくインタビューしてきました!
──どうやって文武両道を成し遂げましたか?
高校時代は、「勉強」と「陸上」の二本柱で毎日を過ごしていました。勉強していない時間はたいてい陸上に取り組んでいて、逆に陸上のない時間はずっと勉強している、そんな感じでした。
あえてこの2つ以外のことはあまりやらないようにしていて、大会や遠征の移動中も、基本的には勉強していました。ペルーに遠征したときなんかは、飛行機の中で10時間くらい勉強していたと思います。
とはいえ、野球部みたいに朝から晩まで練習漬けという感じではなくて、陸上の練習は長くても2〜3時間くらいだったので、勉強との両立もしやすかったです。
高3の平日のスケジュール例
6:55 起床
7:20 家を出る
15:10 学校終わり→部活
19:00 帰宅
20:30~23:00 勉強
高3の頃は、だいたい2週間に1回くらいのペースで大会があって、土日はほとんど大会で埋まっていました。部活も8月まで続けていて、最後の最後までやり切った感じです。
でも、東大受験に関しては「一気に追い込む」タイプではなくて、いわゆる積み上げ型でした。派手さはないけれど、高3になって急に伸びたというよりは、中学の頃からコツコツ続けてきた結果が今につながっている感じです。
高2までに基礎はかなり固めていたので、高3の1年間は「実力を維持しつつ、少しずつ上積みしていく」ような感覚で勉強していました。
──これから、どうやって文武両道を成し遂げていきますか?
大学に入ってからの生活も、正直なところ、高校時代とあまり変わっていません。
理系ということもあって、今も「勉強と陸上」の二本柱の生活を続けています。変わったのは、活動の場所が高校から大学に移ったというだけで、毎日授業があって、部活も火・木・土の週3回。部活がない時間は、課題をやったり、授業の復習をしたりして過ごしています。
アルバイトはしていません。理由は、「あまりお金を使わない生活をしていること」と、「自分の時間をできるだけ自分のために使いたいこと」の2つです。
そんな感じで、大学生になった今も、やっていることの本質は高校時代からあまり変わっていないなと感じています。
──東大受験について聞きたいです!
東大受験は、結果的にはある程度余裕をもって合格することができました。
今だから言えることですが、陸上を続けながらでも合格できた、というのが実感です。もし不合格だったとしても、浪人するつもりはまったくありませんでした。
というのも、陸上的に1年間練習ができないというのは、自分の中ではどうしても考えられなかったからです。この1回で受からなかったら、それはもう縁がなかったということ。もう一度同じことを繰り返すのは、自分にとっては意味がないように感じていました。
受験の時点で、自分の力はほぼ出し切ったという感覚もあって、これ以上1年間かけても、学力が大きく伸びるとは思っていませんでした。
それに、東大に入るために陸上を犠牲にするほど、「東大」という看板にこだわっていたわけではありません。大学の名前に、自分を語らせたくないという気持ちも、どこかにあったと思います。
──もし、東大に落ちていた場合、どうする予定でしたか?
私立大学には合格していたので、もし東大に落ちていたら、そちらに進学するつもりでした。
浪人という選択肢がまったく浮かばなかったのは、まず陸上の面での損失が大きすぎると感じたからです。1年間競技から離れるのは、自分にとって大きなマイナスでした。
それに、1年間ずっと受験勉強を続けるよりも、新しいことを学んだり、次のステップに進んだりする方に気持ちが向いていました。
正直、どの大学にいても勉強しようと思えばできるし、東大に行きたいなら大学院という選択肢もある。だから、変に「東大じゃなきゃダメ」みたいなこだわりはなかったと思います。むしろ、そういうこだわりが自分の視野を狭めてしまうのはもったいないなと感じていました。
──陸上競技が強いほかの大学に行かなかった理由
これは高校時代からずっと変わらない自分のスタイルなんですが、練習は基本的に自分でメニューを組んで、自分の体調や感覚を見ながら調整していました。
やっぱり、自分の走りやコンディションのことを一番よくわかっているのは自分自身だと思っていて。
どれだけ優れた指導者や仲間、立派な設備があったとしても、「何をすべきか」を他人に決めてもらうやり方では、自分の本当の意味での成長にはつながらないと思っていました。
みんなと同じ練習をして、その中でうまくいくかどうかは、結局のところ“才能”に左右されてしまう部分が大きい。でも、自分の最大限のパフォーマンスを目指すなら、自分に最適化されたやり方を自分で見つけることが一番だと思っています。
だから、みんなと同じように「80点を確実に取る方法」よりも、自分だけの「100点を狙う方法」を選びたい。たとえ結果が60点に終わっても、自分で考えてチャレンジした結果なら納得できます。
東大はスポーツの強豪校というわけではありませんが、十分な設備と自由があります。だからこそ、自分なりのスタイルで突き詰めていくには、すごくいい環境だと感じています。
──将来のキャリアについてはどう考えていますか?
将来のキャリアについて聞かれると、正直まだはっきりとは答えられないところがあります。
あえて言うなら、物理が好きなので、物理系の研究に進んでみたいという気持ちはあります。あとは、これまでずっと陸上を続けてきたこともあって、スポーツに関する研究にも興味があります。でも、実際のところは、そこまで深く将来のことを考えているわけではなくて、「とりあえず今をちゃんと生きよう」という感覚のほうが強いです。
今は、目の前の授業や学びにきちんと向き合って、その中で何か心が動くものがあれば、そのときにじっくり考えればいいと思っています。まだまだ知らないことが多い中で、「これが一番面白い」なんて簡単には言えないですし、今は無理に決めなくてもいいのかなと。
学部を卒業した後のことも、正直全然わかりません。ただ、自分が「自分である意味があること」、つまり代わりのきかない何かに取り組んでいたいという気持ちは強く持っています。
それから、もうひとつ可能性として考えているのは、競技を続ける道です。スポーツの世界って、どうしても身体的なピークがあるので、大学を出た後もまだ競技者としての期間が残っているなら、続ける選択もあるかもしれないと思っています。
──文武双方の目標を聞きたいです!
勉強に関しては、正直「これが目標です」と言えるような明確なものは、あまりないかもしれません。そもそも、勉強自体が好きなので、何か目標があって頑張るというよりは、学ぶことそのものが楽しいという感覚です。
一方、陸上に関しては──たとえば「オリンピックを目指してます!」みたいなことは、今の時点ではまだ言えません。受験勉強を経て実力も一度落ちていますし、そもそも「オリンピックに行くには何をすればいいのか」という道筋すらまだ見えていないのが正直なところです。
だから、「オリンピック出場」が目標です、とは今の自分にはまだ言えません。でも、将来的に本気で「オリンピックを目指す」と自分で信じられるところまで持っていくこと、それが今の目標です。
「あ、これなら行けるかもしれない」「自分なら行ける」と本気で思えるようになること。そういう感覚を持てるところまで、まず自分を引き上げていきたい。
だからこそ、ただ言葉だけで「オリンピック」と口にするのは違うと思っています。口にするからには、自分の中にちゃんとした根拠や実感がほしい。そういう気持ちで日々やっています。
──インタビュー後記
勉強面でも、スポーツ面でも淡々と積み上げて結果を出し続ける努力の人でした。また、「東京大学」や「陸上強豪校」といった権威や形式に捕らわれず、本質的な価値や、合理性、信念で判断する「本質主義者」でした。未来を浅薄な言葉で語ることはせず、「今」を全力で生きる姿勢には学ぶべきところが多くありました。インタビューへの協力、ありがとうございました。