毎年お正月にテレビで放映され、新春の風物詩となっている箱根駅伝。今年(2025年)行われた第101回箱根駅伝では、8区の秋吉拓真選手から、9区の古川大晃選手へと、東大生同士のタスキリレーが行われ、「赤門リレー」として世間の大きな注目を集めました!
今回は、関東学生連合チームの一員として箱根駅伝に出走し、お茶の間を湧かせた2人の東大生ランナーを取材しました!秋吉選手と古川選手の関係性や普段の生活、東大に対する思いなど、普段は決して聞くことができない部分は必見です!!
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毎年1月2日・3日に行われ、東京・読売新聞社前~箱根・芦ノ湖間を往路5区間(107.5Km)、復路5区間(109.6Km)の合計10区間(217.1Km)で競う、学生長距離界最長の駅伝競走。
関東の大学のうち、前年大会でシード権を獲得した上位10校と、10月の予選会を通過した10校、および予選会を通過しなかった大学の記録上位者から選ばれる関東学生連合を加えた21チームが出場。2025年大会の優勝は青山学院大学。
本日はよろしくお願いします!
まずはお二人のこれまでの経歴についてお伺いしたいのですが、お二人はいつ頃陸上を始め、どのような経歴を辿られたのでしょうか?
もともと小学校の頃から学年で1位を取るなど足は速かったのですが、陸上を部活に入って本格的に始めたのは高校からですね。進路選択の際、箱根駅伝を走りたいという気持ちから、関東の大学に進学することも考えましたが、最終的に熊本大学に進学し、箱根駅伝を走りたいという気持ちは一旦なくなりました。
ただ、同じ九州の長崎県で行われている島原駅伝に興味が湧き、駅伝に取り憑かれるようになったため、島原駅伝の強豪・九州大学の修士課程に進学することに決め、必死に陸上の練習に取り組んでいきました。
もともとはずっとサッカーをやっていたのですが、中高時代、中1~高2のみんなで毎年30キロ走るイベントがあり、中2で中学生・高校生含めて全体1位を取ったんですね。そこで、長距離走をやっていた方がより上の世界を目指せるんじゃないかと思い、高校の頃に陸上を始めました。そして、練習しているうちに記録が伸び、東大に入って箱根駅伝を目指してみようかなと思うようになりました。
お二人はなぜ東京大学への進学を目指そうと思ったのですか?
競技の面でも研究の面でも東大に進学したいという気持ちがありました。競技の面では東大ならば箱根駅伝を走れる可能性がありましたし、研究の面では東大の総合文化研究科の工藤和俊先生のもとで最先端の研究をしたいという気持ちがあり、東大に進学したいと思うようになりました。
まずは勉強面でレベルが高い人の中でやりたいという気持ちがあり、また関東の大学に進学して箱根駅伝を走りたいという気持ちもあったので、東大に進学したいと思うようになりました。
なるほど。お二人とも将来的に箱根駅伝を走ることを目標としつつ、研究や勉強といった面も踏まえ、東大を目指されたということなんですね!
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ここまでを踏まえると、お二人は箱根駅伝をかなり早い段階から意識されていたと思うのですが、箱根駅伝が憧れから現実的な目標となったのはいつ頃ですか?
自らの学部や修士課程の頃の陸上の実力を考えると、うまくいけば箱根駅伝を走ることができるレベルにはあるのかなという感覚がありました。ただ、東大に入って博士課程1年目の予選会では例年よりもレベルが高い中での補欠だったので、箱根駅伝を走れるくらいの走力はあるのだなと認識することができ、そこから現実的に目標とし始めたという感じですね。
ちなみに修士・博士を含めた大学院生で箱根駅伝を走った方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか?
ここ20年だと多くても5人以下だと思いますし、博士ではこれまではいないと思います。そもそも大学院生が箱根予選会に出るためには、標準タイム(10000mを34分で走る)を切れる大学院生を10人揃える必要がありますので、そもそもそのハードルが高いです。近年これができているのはほぼ東大くらいしかありません。
僕の場合は、箱根駅伝までは山あり谷ありという感じでした。
先程も言った通り、高校で陸上を始めたのですが、正直高校の陸上部はあまり強くなく、大会を目指して練習していたのは自分だけという環境でした。ただ、自分は周りと比べて遅い時期に陸上を始めたにもかかわらず、県大会に進むことができたので、井の中の蛙になっていたんですよね。このままいけば、いずれ箱根駅伝を走れるだろうと思っていて、正直東大陸上部を舐めていました。
しかし、東大陸上部に入ってみたら、自分より速い先輩がかなりいて、東大の選手にも勝てないようでは箱根駅伝を走るなんて到底無理なのではないかと絶望しました。そこからはしっかりと練習を積んで記録を伸ばし、箱根駅伝を走れるくらいのタイムを出せるまでになりました。
高校までは根拠もなく箱根駅伝を目指していましたが、目標との差を測りながらだんだんと力を伸ばしていき結果を出していくなかで、箱根駅伝に出れるなという感覚を掴んでいきました。
箱根駅伝当日、どんな気持ちだったか教えてください。
当日はそこまで緊張せず、むしろ直前1ヶ月の方が緊張していましたね。風邪を引いたらアウトで、箱根駅伝を走れるラストチャンスだったので。当日は「よかった!風邪を引かずにここまで来れた!」と穏やかな気持ちでした。
当日はあまり緊張せずワクワクしていました。中継所に入って沿道の観衆の数をみて「すげえ!」と思い、走っている時はとても楽しかったです!!
次は、お二人の東大での生活についてお聞きしたいと思います。お二人の研究内容について教えてください!
「なぜ人と一緒に走ったら楽に走ることができるのか」というテーマで研究をしています。熊本大学時代、強い留学生選手の後ろを走っていたら良いタイムが出たのですが、なぜか1人で走ってもそのようなタイムや感覚を再現できなかったという経験から、このテーマに興味を持ち、現在も研究しています。
研究内容が走りに活きていると感じるときはありますか?
走りにおいてパフォーマンスを発揮できる要因が10個あるとしたら、研究の内容はその1個か2個くらいを占めているような感覚ではありますね。勿論、走る際には気合いやセンスなどの要素も大きいですが、前のランナーによる空気抵抗軽減や注意の向け方の研究は、走りに活きている部分もあると思います。
自分はこの4月からスポーツロボティクスについての研究を始めました。具体的には、義足ランナーの走る力を伸ばせたらという思いから、義足を選ぶ際に役立つ研究をしています。現在、義足を選ぶ際には、技術者の経験に基づき、義足を何個か試す形で行われているのですが、本人の骨格のデータを入れたら実際に試さずともシミュレーションで合うものを選べるのではないかと思い、ソフトウェアの研究をしています。
この研究は、自分の走りに直接活きるわけではないのですが、今までスポーツが自分の生活をかたどってきたということもあり、スポーツに関係することがしたいという思いで研究しています。
陸上の練習と学業や研究生活との両立はどのように行っているのでしょうか。
練習は1日2~3時間取れたら十分だと思っています。1日20キロ走ったり部活でしっかり練習したりしつつ、それ以外の時間を研究に充てるイメージです。ちなみに、他の大学では、年で均したら平均1日5時間やっているようなイメージですかね。
東大陸上部ではみんなで集まって練習するのは週3で、他の日は柔軟に練習できます。だから、両立に困ったことはないですね。
練習のある日は練習に行って、それ以外の日は1.5~2時間かけて20~25キロ走っています。1日の中でいつ走るか決めて、それ以外の時間で勉強や課題をこなしています。周りもそこは両立するのが当たり前というような雰囲気です。例えば、1~2年生で駒場キャンパスにいた時は、昼休みに10キロ走った後、ちょうど食堂が空いてくるのでご飯を食べて授業に行って、というようなスケジュールでした。
キュッとした時間で練習すると集中できて、覚醒度が高まるので眠くなりにくいんですよね。
今は両国から本郷まで5キロぐらい走って通学しています。2年生のときに本郷で授業があったときは、1~5限に授業が入っていて、練習して電車に乗って帰ると遅くなってしまうので、本郷から三鷹台まで18キロを1時間15分~20分くらいで走って帰っていました。
家まで走るのと電車に乗るのとでは20分くらいしか変わらないので(笑)、タイムパフォーマンスはかなり良かったと思っています。
よくその発想に至りましたね(笑)普通の人からすれば、なかなか大学から18キロも走って帰ろうという発想にはならないと思うので、常人には想像できない領域です(笑)
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少し話は変わりますが、古川さんと秋吉さんがお互いについてどのように思っているか、お互いに刺激を受けることはあるかについて聞きたいです。
秋吉は何と言っても負けず嫌いですね。同じペースで走る練習のなかで、最後にお互いが競り勝とうとどんどんペースアップしていく状況を、叩き合いと呼ぶのですが、秋吉は叩き合いが好きで、とにかく1番になるという意識があります。秋吉の負けず嫌いさに感化され、自分も忘れていた感覚を取り戻しました。
正直大学院に来て伸び悩んでいたという感覚があったのですが、秋吉のおかげで最後の追い込みができたという感覚です。
古川さんは、先ほど話した、自分が東大陸上部に入ったときに絶望を感じた速い先輩たちの頂点にいました。自分一人で高みを目指すのは難しかったと思いますが、古川さんという目指すべき目標があったからこそ頑張ることができました。
2年生のとき、関東インカレという大会で初めて古川さんと一緒に走り、ここで古川さんを倒そうと息巻いていたのですが、2日前と3日前に既に別の種目を2本走っていた古川さんに負けてしまいました。そこで古川さんに「経験の差がでたね〜」と言われ、悔しくて絶対に倒そうと思ったのを覚えています(笑)
自分と古川さんは年の差があるにもかかわらず、自分は生意気な態度を取ってしまっているのですが(笑)、古川さんはそれに乗っかってくれて、ライバルとして一緒にやってくれるおかげで自分も強くなれたと思っています。
お二人の関係性が窺える良い話ですね!年齢は離れていながらもお互いに高め合える、まさに理想の関係性ですね!!
ちなみに秋吉の闘争心エピソードを話しておくと(笑)、合宿の朝ごはんのバイキングで、梅干しを最初に3個くらい乗せた後に、「くそー食ってやるー」と言いながら8個くらい梅干しを追加で乗せていたのを見て、梅干しにすら闘争心を抱くのだなと思った記憶があります(笑)
言い返しておくと、古川さんは精神年齢が幼いです!合宿のとき、ホテルの大浴場の水風呂で、古川さんが「うぇーい」と言いながら、僕に水をかけてきて、夜に長距離のリーダーに僕が怒られました(笑)!学部生に合わせてくれているのか分かりませんが、そういうところが古川さんの良さなのではないかと思っています。
僕は秋吉の闘争心エピソードを話したのに、秋吉はただ僕の幼いエピソードを晒してきました(笑)
お二人は、将来はどのように陸上に関わりたいと思っていますか?
震え立つような強烈に面白い研究がしたいと思っています。先ほど話したように、ランナーが集団で走ったり、人と走ったりしたら楽に感じるというのには物理現象として面白い秘密があるのではないかと思っていて、この不思議な法則性を解明したいと思っています。自分が走ることで現象を観取し、予備実験をたくさんできるというのも面白いですね。そして、日々しっかり走って競技と向き合いつつ、博士号持ちのマラソン世界最速記録(2時間9分49秒)を超えたいと思っています!
将来的にはものづくりに携わりたいと思いつつも、スポーツは大好きでやってきたので、何らかの形で関わっていけたらと思っています。
学部生としてもまだ1年あり、まだまだ記録は伸びると思っているので、できるだけ高みへ行きたいと思っていますし、1秒でも速くなり、1人でも多くの人に勝ちたいと思っています。
今までは東大の入試に合格したり、箱根駅伝を走ったりといったようなわかりやすい目標があったのですが、そのような目標は年齢が上がるにつれ減っていくと思うので、色々なことを試行錯誤しているうちに将来の目標を見つけられたらと思っています。
東大に来て良かったことや、東大生に向けたメッセージがもしあればお願いします!
東大は研究環境、先生方ともに素晴らしいですね。授業一つ一つとっても面白く、先生が研究を芯から楽しんでいるのを実感できますし、物事を原理から理解している先生の言葉が刺さります。
また、東大生の中で歴代で一番速い秋吉に巡り会い、箱根駅伝を走らせてくれた東大陸上部という環境の素晴らしさも実感しています。
色々な面ですごい人が周りに集まっていると思います。科学系のオリンピックの金メダルとか、サークルでロボット作るとか、授業以外のところで活躍している人など、全然及ばないなあと感じる人たちが多く、そのような人たちが身近にいることで刺激を受けますね。また、東大陸上部に所属したことで、速い人がいる中で成長でき、恵まれた環境に身を置くことができました。
正直、その競技を本当に好きでなければ、わざわざ大変な部活なんてやらないと思うので、東大に来てまで部活をやる人たちは良い意味で「変わっている」と思います。そして、特に東大陸上部のみんなは意欲的にやっている雰囲気があり、国公立の陸上部の中では大きな規模で部活をすることができて、恵まれていることを常に実感しています。陸上競技に興味があれば、是非東大陸上部に来てください!
学部のときから東大の環境を経験できたら最高だな、 羨ましいなと思っています。東大生のみなさんには、東大のことを存分に楽しんでほしいと思います!!
様々なお話を伺ってきましたが、お二人とも、陸上というスポーツを愛して着実に努力を重ね、箱根駅伝に出走するという夢を叶えながら、研究にも熱い思いを持って取り組んでおり、2つを見事に両立していこうとする姿勢に胸を打たれました。また、お二人がお互いに刺激を受けながら切磋琢磨していく関係性は、まさに理想の関係性であり、お二人をつなげた東大陸上部という居場所の魅力を感じることもできました!
お二人とも本当にありがとうございました!!