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入学5年目の入学式【エッセイ・コロナ禍の大学を生きる】

2024.04.16

春から東大院生になり、4年前に入学した大学の入学式に初めて参列した。

3週間前に卒業式に出たばかりだ。正直なところ特段の感慨もなく、朝は10時まで寝ていた。

九段下駅から日本武道館までは人混みが続いていて、学部の入学式を終えて駅に帰ってくる新入生ともちらほらすれ違う。学部生と院生とでは纏っている雰囲気が違って、一目で区別がつくのが面白い。

旧友と合流して会場入口に続く行列に並び、ホールの中に入った。テレビやら先輩後輩のインスタやらで何度も見た会場の景色は見慣れたもののように感じられるけれど、実際に見るのは初めてなのが何だか変な感じだ。

ホールに入ると、場内を埋め尽くす新入生の数に圧倒された。4年前、東大入学の喜びに満ち溢れ大手を振って歩いていた頃の自分がこの景色を目にしていたら、自分のちっぽけさに気付かされていたかもしれない。

4年前の自分だったらと、どうしても考えてしまう。コミュニティが閉じ切った大学院では、このホールにいる新入生の9割とはきっとこのまま他人のままだ。4年前だったら、サークルや進学先の学部、アルバイト、無限に広がる学生生活の中のどこかで出会うかもしれない未来の友人たちと思えただろうに。

4年前、コロナ禍で入学式ができなかった唯一の世代として、色々とぐちぐち言っていたこともあったけれど、2年生の頃に安田講堂で「入学者記念式典」なる代替イベントをしていただいたりもして、オンライン世代ならではの思い出もたくさんできて、十分満足のいく卒業ができた。そして、その4年間で幾分かは成長した自分が今ここにいる。

だからこそ、こうして「東京大学入学式」の看板と堂々そびえる日の丸を見ながら、3千人の新入生と肩を並べて座っているのには不思議な気持ちがする。今とは違う夢を抱き、文科一類に入学した当初は、こうして大学院に進むなんて思っていなかった。

総長の式辞は、AI時代においてこそ考えたい「ヒトらしさ」について。人間だからこそ持ちうる知性、身体性、情動。「AIの利用者たるヒトは、AIを正しく使いこなす知識とセンスを磨かなければな」らない、ということの例として、優れた文章を書くには、なんてお話もあり、学部の4年間こうして文章を書いてきた私には「刺さる」話だった。

この4年間で、私たちは多くのものを得たと同時に、きっと何かを失いつつもある。会場までの道ですれ違った学部新入生の彼ら彼女らとは、私たちは確実に違っている。UmeeTでインタビューした方が、「大人になると、自分にできることがどれだけ限られているかがわかってくるから苦しい」と言っていたことを思い出す。

何かを始めるのに遅すぎることなんてないとは言うし、いつから何に挑戦してもいいと信じてはいるけれど、実際問題、歳をとるにつれて考えなきゃいけないことは増えるし、自分がどんな人間なのかわかってくるからこそ見えてくる限界もあるし、何かを求めれば他の何かを捨てなければいけないこともある。と、22歳の幼心に気づき始めているのだから、これからの人生なんてなおさらそうなのだろう。

そうやって、少し変わった心持ちと面持ちで、それでも新生活に少し胸を弾ませながら、「ようこそ東大へ」の声を聞く。不安は大きい、けれど、同志ならここに、こんなにたくさんいる。
研究科の建物にこもって日々を過ごしていると忘れてしまいそうになるけれど、私はこの3千人の中の一人で、東京大学の一員なのだと思わされた。

式が終わって、学部の友人やサークル同期、高校同期、アルバイト先の同僚、そして新しく大学院で知り合った友人たちと写真を撮った。

3週間前の卒業式で集まったメンバーよりは人数が減って少し寂しくなったけれど、それでもこうして、共にあと2年を東大で過ごす仲間が身近にもたくさんいることに心強くなる。

4年前のあの頃と違って、引き続き同じキャンパスで同じ先生方に習う生活の中では入学の実感も感慨もないし、座って祝辞に耳を傾けるこのイベントそのものはさして刺激的なものではないけれど、こうして自分を取り巻く環境の温かさと自分自身の変化に自覚的になれるから、節目のイベントは好きだ。

4年前、PCの画面越しに初めて東京大学の授業を受けた時、
3年前、入学者歓迎式典で友人たちと集まって写真を撮った時、
2年前、対面授業が始まってキャンパスの建物を見上げた時、
それぞれの瞬間に、ああ、本当に入学したんだ、と思ったものだ。そうして、少しずつ、自分は東京大学に属しているんだ、と、どこか居場所を得たような安心感を強めている。

そして今、5年目にして初めて入学式に参加して、その安心感はまた少し強まった気がする。やっと、『ただ一つ』を完璧に歌えた。

明日からの日々が大きく変わるわけではないけれど、学びと出会いに恵まれた素敵な環境にいられていることを改めて自覚した今、ほんの少し力強く踏み出して、矜持を持って残り2年の学生生活を後悔なく終えたいと思う。私、友人たち、名前も知らない仲間たち、入学おめでとう!

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