昨日、こたつを出した。
去年こたつを出したのもこのくらいの時期だったと思う。もっとも、当時受験生だった私は塾の自習室やら図書館やらカフェやらにこもりっきりで、こたつにはほとんど入らなかったのだけど。たぶん去年の冬も寒かったんだろうけど、自習室があったかすぎたから、寒かった記憶はあまりない。
勉強に始まった2020年。あの頃はまだ日本で新型ウイルスが猛威を振るう前で、渋谷の坂の途中にある某予備校の自習室で朝から晩まで数学の問題集を解いていた私は、マスクをしていなかったと思う。
入試がやってくるのはあっという間で、世界がウイルスの脅威に包まれるのもあっという間だった。迫りくる入試に追われながら日本史の過去問30年を必死に解いていた私は、気づけば決戦の日を終えて、こたつで呑気に編み物をしていた。久しぶりの棒針編みで帽子を編み上げた頃には、私は晴れて東大生になることが決まった。
合格発表は、リビングでスマホで見た。本郷キャンパスで掲示板を見て涙を流して、友人たちと手を取り合って、テレビに取材なんかされちゃって…なんてのを期待してたけど、情勢が許さなかった。受験生時代の息抜きだったカラオケには、12月以来行けていなかった。
不運だなあとは思いつつも、もう少し待てばまたすぐ元の生活が戻ってきて、思い描いたキャンパスライフがやってくると思っていた。
思っていた。
先日、UmeeT編集部のミーティングで、「2020年にやりたかったけど、コロナのせいでできなかったこと」についてエッセイを書く依頼を受けた。やりたかったこと…と言われると、そんなに思いつかないなあ、なんて思いながら引き受けた。
今でこそ緊急事態宣言下で諸々が制限されているけれど、つい先週までは人数制限と検温と消毒で細心の注意を払いつつ、サークル活動だってできていた。サークルにもクラスにも友人だってできたし、入場制限中のディズニーランドにだって行ったし、カラオケでマスクをしたまま歌ったりもした。バイトも始めた。UmeeTにはオンラインメディアという特性上、ほとんど支障なく馴染むことができて、今は編集部でガリガリ記事を書いている。たぶん、環境に相当恵まれている。
私の2020年、それなりに楽しかったような。
2020年にやりたかったこと。そりゃやりたかったことなんてたくさんあるけれど。
コンサートにだって行きたかったし、海外旅行だってしたかったし、合宿だって楽しみだったし、ジャンル問わずいろんな人に会ってみたかったし、花火大会とか海とかパーティーとか、青春っぽいことだっていっぱいしたかったけれど。そんな贅沢は言わない。今は我慢する時だもの。みんなが我慢してる時だもの。あと何年かすれば、きっとできるようになると信じて、今はただ待っている。それでも、それなりに楽しい2020年だった。
2020年にやりたかったこと。
緊急事態宣言が出て、昨日、活動停止前最後のサークル活動に行った。友人と学食でご飯を食べて、友人が「もしかすると学食ラストかもしれないな」と言った。
そうかもしれない。お気に入りのチキン竜田丼を食べた。
もう来ないと思うと寂しいような気もするけれど、一席ずつディスタンシングされて正面を向いて食べるだけのこの空間に、語るほどの思い出もない。
ああ、気づいた。2020年にしたかったこと。
海外旅行だとかパーティーだとか、贅沢は言わない。私はただ、そこにあったはずの日常が欲しかった。
眠い目を擦りながらキャンパスの門をくぐって、大教室で知り合いの隣に座って授業を受けて、落とした消しゴムを拾ってくれた子と思いがけず仲良くなれたりとかして、もしかしたらいつも斜め前に座ってるミステリアスな彼が気になっちゃったりとかして、昼休みに学食が混む前に、2限に授業がない友達と学食の席取りをして、課題がやばい!!なんて話をして、授業が終わったらそのままサークルに行って、活動終わりにはみんな揃って渋谷で焼肉を食べて…
そんな、どこにでもあるような日常が欲しかった。
何でもないようだけれど、大学1年生の今しか経験できない、今の私にしか見られない風景もきっとある。
きっと2年のSセメスターになったら対面授業なんて1コマもなくなるし、Aセメスターになったら、私たちはもう本郷生だ。駒場キャンパスは、まだまだ攻略できていない。そういえば、とある部活のオンライン新歓イベントで、「駒場キャンパスの1号館〜18号館の場所を当てる」ってクイズがあって、「1年生はまだわからないよね〜」なんて言われたけれど、まだ1号館と5号館と10号館と11号館しか知らないまま、私は本郷生になるのだろう。
学食の前に行列はできないし、授業中に落とした消しゴムを拾うのは私だし、ミステリアスな彼はいない。銀杏並木の銀杏はちゃんと臭かったけれど、人通りはいつも少なかった。
たぶんだけど、私が逃した日常は、もう返ってこないんだと思う。それってたぶん、小さいようで大きなことなんだと思う。だって、高校3年生の私にしか経験できなかったような、学校帰りにスタバを片手に渋谷の自習室にこもった記憶は、今も私の中で息をしている。渋谷246沿いの歌広場は、私の思い出の場所になった。
2020年にやりたかったこと。平凡な日常を過ごしたかった。
そんなことをいくら言ったって、どうしようもないことはわかっていて、結局のところ、この新しい日常を精一杯楽しんで生きていくしかないんだろうなあ、なんて書きながら一人こたつに座っている、2021年の幕開け。
2021年は、日常が戻ってきますように。
改めましてこんにちは、編集部わかなです。
2021年という新たな年を迎えた節目に、1年生の目線から、2020年への心残りを文章にしてみました。
コロナに翻弄された2020年、満足のいかない年になった人も多いことでしょう。
行き場のないその気持ちを共有し、少しでも消化すべく、上のようなエッセイを書いてみませんか?編集部にて審査・編集の上、記事として公開させていただきます。
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