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「学術に触れられる貴重な機会を楽しんで」QuizKnock・伊沢拓司さんインタビュー

2025.11.12

今や東大生で知らない人はいない東大卒クイズ王・伊沢拓司さん

東大在学中に立ち上げた、クイズを軸としたWebメディア「QuizKnock」は「楽しいから始まる学び」をコンセプトに人気を博し、先月(2025年10月)、10周年イヤーを迎えました。

そんな伊沢さんに、同じく10周年を迎える東大発Webメディア・UmeeTがインタビューしました!

今振り返るQuizKnockの立ち上げ期とここまでの軌跡、「東大生ブーム」のあの頃のこと、そして自身の東大生活の反省と現役東大生へのメッセージ──

様々にお話しいただいたロングインタビュー、ぜひ最後までお楽しみください!

学生証
  1. お名前:伊沢拓司さん
  2. 経歴:1994年生まれ。東京大学経済学部卒業。『高校生クイズ』で史上初の個人2連覇を達成。2016年に知的エンタメ集団・QuizKnockを立ち上げ、現在YouTubeチャンネルは登録者数250万人を突破。2019年に株式会社QuizKnockを設立し、CEOに就任。これまで『東大王』『冒険少年』など多くのテレビ番組に出演してきたほか、全国の学校を無償で訪問するプロジェクト「QK GO」は47都道府県訪問を達成するなど、幅広く活動中。

ガムシャラだった黎明期から「楽しいから始まる学び」へ

──QuizKnockは2016年のサイト開設から来年で10周年を迎えますね。この10年を振り返って、思い出深い出来事はありますか?

やっぱり立ち上げ期のことが一番鮮烈ですね。お金がなくて、西片(編注:文京区西片。本郷キャンパス付近)の交差点にあるマクドナルドで日がな一日コーヒー一杯で作業してました。家のインターネットはお金なくて料金が払えなかったんで、無料Wi-Fiのために。親戚が株主優待の無料チケットを何枚かくれたので、それでクオーターパウンダーを食べるのが数少ない楽しみでしたね。

毎日苦しくて、どうなるかはわからないけど締切があるからその日に出す記事を編集して公開して、3本終わったらようやく一息……で、大学院の勉強を始める、みたいな。とにかく目の前のやることのためだけに生きてる感じでした。それしかやってないから、うっすらとした農学部大学院の記憶と、いつも座っていたマックの席の記憶ばかりがあります。がむしゃらにやって得られたものって結局忍耐力くらいで、それも大事ではありますけど、基本的には少し余裕を持って、反省と改善を繰り返したほうがはるかに良い。コスパ悪いガムシャラでしたね、だからこそこうしてエピソードトークでもとを取ろうとしてるんですけど(笑)。

──自分の好きなこと、やりたいことを仕事にしたい、という思いを持ちつつも、そのリスクや不安感に悩んでいる東大生は多いと思います。伊沢さんがクイズを出発点に「楽しいから始まる学び」をこうしてお仕事として大成することができたカギはどこにあったとお考えですか?

周りに頼れたことかなと。似たようなことをやってる人たちのなかでは、自分が一番、他人に依存してビジネスやってるなと思います。

始めた当初、ガムシャラにやって、一人で仕事抱えすぎてたときに、オーバーワークで締め切りをやぶったことがあって。一緒に働いてくれてた大人から言われたのが「ほんとに仕事のことを大事だと思うのなら、自分で抱えず人に頼れ。コミュニケーションを取らずに勝手に自分で抱えるのは独りよがりだ」と。この一言から、自分の小ささと、チームでやる強さを感じて、少なくとも仕事においては人に頼るのが得意になったと思います。

もちろん、何もせずに人がついてくるなんて都合の良いことはないので、自分の中で「楽しいから始まる学び」という軸が見えたこと、伝えられたこと、率先して動くこと、敬意を持って一緒に働くことなどが、やりたいことを「仕事」に昇華する上で重視してきたことでした。仲間を集めて、束ねて、リスクと不安を分散する。そしてそのために、アイデアをじっくり考える、強固な理念を形成して体現する。徐々にじっくりと信頼してもらった先に、今がある……はず。地道なことですが、不安は少しずつしか解消されないものなので、一歩を大切にしています。

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風向きを感じとりながら「積み重ね」た、WebメディアとしてのQuizKnock

──我々UmeeTも東大発のWebメディアとして活動を続ける中で感じていることですが、この10年間で、動画メディアの発展、「東大生ブーム」の落ち着きなど、QuizKnockや伊沢さんご自身を取り巻く環境は変わりつつあると思います。そのような中で10周年を迎える今、特にWebメディアとしてのQuizKnockの今後のあり方をどのように考えていますか?

「正確さを失わない」ことと、「読まれることは正義」というところを、どう掛け合わせてバランスとるかですかね。

何かを発信するうえで、今こそファクトへの厳密さは大事になってくると思いますし、特に我々は立ち上げ段階で「情報氾濫の時代にあって、どう能動的に情報を摂ってもらうか」というところから始まったメディアですからなおさらです。情報を正確に伝えていくことは、「楽しいから始まる学び」において欠かせない要素として今もいっとう大事にしています。そのために校正校閲チームにも人数を割いてますしね。

そのうえで、我々の理念を達成するためには「そもそも読んでもらわないと達成されない」という現実もある。ときには「正確さ」と「伝わること」がせめぎ合ってしまうこともあるんですけど、なんとか粘り強く、そこの折り合いをつけようといつも意識しています。そここそ時間を割くべきところですから。あくまで我々は、知という広大な世界への入口なんだという意識で、エンタメにも学びにも真摯にやっていきたいですね。かつ「次何を学べばいいか」の導線設計までやっていけたらより良いかな。そこはYouTubeチャンネル『QuizKnockと学ぼう』や教材作成、全国の学校訪問などを通して今も頑張ってますけど、より強化していきたいところです。

東大生ブームって、メディアに出ていた一部の東大生のキャラの奇抜さに依存していたわけで、「東大生だから」という理由だけで起こったものではなくて。「ギャルブーム」みたいなことと同じで、東大という探しやすい属性にいた人のうち、変な人を取り上げていたに過ぎないのかなと。赤門行けばインタビュー取れて、そこでめぼしい人見つけたら事務所とか関係なくスタジオに呼べて、ギャラも安くて。クイズ番組なんかと相性が良いし。「意外と便利な100均グッズ特集」みたいな感じのブームだったと思うんです。簡便かつ奇抜……長続きはしないですよね。同じようなキャラが渋滞することも「東大生」という属性の中でしたら往々に起こりますし、同じ人でも手札が枯れたり、飽きられたりしたらどうしようもない。一過性のものだったわけです。当時出てた人たちって、自分も含めて全然東大の代表じゃなかったし、あそこに映っていた東大は全然本来の東大ではなかったですからね、あくまで一部。そんなブーム、継続するほど骨太なものであるはずもなかった

だから、追い風が吹いているうちに「東大生」以外の看板や、実力を見せなきゃいけなかった。メディアで出役をやっていくというのはどうしても運の要素が必要な仕事になりますけど、継続的にメディアの仕事をする上では、ブームという運が回ってきているうちにちゃんと棲み家を作っておく必要があったので、改めてチームプレーでQuizKnockをやって、たくさん動画を出して、実績を作って……ということができたのはとても幸福なことだったなぁと思います。QuizKnockをともにやってくれる人がいなかったら、自分もこの仕事続けられてないなと。

メディアの隆盛についても同じようなことが言えます。動画メディアが主流の時代にあってテキスト中心のWebメディアがある程度の結果を出すには、運も必要だし、メディアの質だけを追い求めてもなかなか日の目を見られない。WebメディアとしてのQuizKnockは、クリックしてクイズの答えを選べるという「能動性」が他のメディアに代替されづらい要素としても残っていて、動画からの流入もある、これが大きかった。ある程度人が見てくれたら、形に残ること、検索性があること、自分のペースで流されずに読めることなどなど、Webメディアが本来的に持っている価値自体は結構あるので、ようやくその良さが出てくる。データベース的な蓄積を9年以上積み上げられたことは、我々の誇れる資産であり実績です。風向きを感じ取りながら、追い風のときに積み重ねを作れたこと、これが本当によかったなと思っています。

その時のナンバーワンメディアをやりゃいいってもんでもないですから、QuizKnockとしても様々なメディアのかたちを、それぞれに有効活用できればと考えています。これからも「積み重ねる」タイプの、バズらなくても堅実でかつ面白みあるクリエイティブを淡々と進めたいですね。

伊沢さんとQuizKnockメンバーのみなさん

「ずっと曇りの日のようだった」東大時代

──東大在学中はクイズ研究会で活動されたり、アンプラグド(弾き語りサークル)でキタニタツヤさんと同時期に活動されたりしていたと伺っています。東大時代を振り返って総括するなら、どんな大学生活でしたか?

一年目はずっと授業に出て単位ばかり取っていました。なんでなんでしょう、新鮮だったからかな。あと、実家から1時間半かけて通ってたから、行くなら授業受けないともったいないなと思っていて。クラスメイトもいましたし。クラスって結構強制力のあるシステムで良かったなぁと思っています。

二年目、クラスメイトと距離ができたのと、一人暮らしを始めたので一気に授業を受けなくなって。進級に必要な単位はほぼ持ってましたし。そこから2年ほど、本当になにものでもない時間が流れましたね。毎日ギターの練習をして、すこしクイズをして、バイトをしてみたいな。ライブに出ることと、そのために練習することのみが生きがいでした。一応クイズの本を1冊だけ書いて出版したんですが、発売記念トークライブをやったら客が10人しか来なかった。ひとりは自分の父親だったので実質一ケタ。あれは寒かったですねえ。

自分に自信がなくて、現状には満足していないんだけど眼の前の目標だけ見てるのが楽だったからそこだけを追っていたころですね。ずっと拠り所というか、ぶっとい自信を欲しがっていたけど、そんなものコツコツ何かをやるしかないから簡単にはできなくて、自分の楽しいことに没入することでそういう喪失や無力感を忘れようとしていた頃でしたね。2年生で出会ったキタニ、めっちゃかっこよかったからなあ。当時から憧れてましたね彼に。余計に自分の何もなさが際立ちましたけど。

それで4年になってようやく焦りだして、院試の勉強をはじめて、それでお金なくなったから在宅でできる仕事としてQuizKnockをスタートして、それで余計に忙しくなって勉強も手につかなくなって。なんとか大学院には進学しましたけど、勉強できてないのにゼミに出るもんだから自信もよりぼろぼろになって。『東大王』の収録くらいかなぁ、心が休まるときは。精神的にも不調をきたしていたんで、興奮しちゃって一日中寝られないまま収録行ったりとかして。ボロボロでしたね、ずーっと「やることが目の前にあるからそれをやってる」だけの時間。結局、休学で大学から遠ざかってようやく落ち着いて、QuizKnockに集中したら成果も上がって自信も戻ってきて、みたいな……。なんかずっと曇りの日のような、そういう記憶しか残ってない学生生活でしたね、今振り返ると。

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東大で、本物の学術を学ぶこと

──「この大学は、もっと面白い。」をキャッチコピーに据えて東大の魅力を発信してきたUmeeTは2025年11月で10周年を迎えます。伊沢さんの考える東大の「面白さ」はどんなところですか?

普通に教育機関、研究機関としての面白みにまずはフォーカスしたいですよね。それが本分ですからね。私自身、在学中にもっとそういうところを楽しめばよかったなぁと思います。

大学という場所の持ってる価値は、卒業生はみんな言うけどやはり大きい。教授、学生、図書館や施設、東大の場合は様々な割引サービス……そもそもお金を出さずしてゆっくり勉強する場や、そういう話をできるコミュニティを得ること自体卒業後は一苦労です。

まあ多くは「東大特有」というより「大学一般に備わっている」ものですけど、東大はそれらのクオリティが高いなと、お仕事でいろんな大学に行ったりすると感じるところはあります。それを若いうちに手に入れられる、しかも学力試験という比較的運任せではない手段を通して、というのはとても貴重なことです。シンプルな「クオリティの高さ」が、東大に対していま私が感じる価値です。

とはいえ、それは東大というブランドから発されるものではなく、これまでの積み上げによるものですし、世間が考える東大の価値みたいなものとは少し離れている気もします。そうしたズレは、伝えていく上では壁になってくる要素です。どう訴求していけばいいか、シンプルなものだからこそ難しさがあるので、そこは伝え手たる我々としても上手にコラボレーションしていけたらとても幸せですね。過去には安田講堂で勉強イベントやらせてもらったりもしましたから、今後も機会があれば発信のお役には立ちたいなと思います。

──最後に、現役東大生の後輩たちに伝えたいメッセージがあればお願いします!

学術の流儀と手法を学び、それを体に落とし込んでください。どうか、小手先の技術ではなく、本物にたくさん触れてください。小手先の技術もとっても大事で、それがないとそもそも話を聞いてもらえない場面は多いんですが、それはあとからでも身につくと思っています。逆に、学術的な考え方や知識、経験はあとからとても手に入りづらい。私もそれでいま苦労しています。まずは落ち着いて、じっくりと学んでください。なにかに役立てるために学問があるわけではありませんが、アカデミアを離れてもなお大学学問を通じて得た考え方は役に立つものです。世間に認められる論文を書くこと以外にも、あなたの学びの報われ方はきっとあるはずです。

別に知識を学ぶことだけじゃないんです、考え方、やり方を身につけることが大事で。そのために欠かせないアイテムとして知識は必要ですけど、知識だけになってはいけないし、大学が教えてくれるものってもっと大きなものだったなと今になって思います。

私が東北大学で特任准教授(客員)のポストを頂いたとき、アカデミアの方には様々な批判を受けました。私は学士までしか修めてないし、テーマがSDGsで、ちょっとチャラい、今風な内容だったこともありましたから、まあ批判は当然かなと思ったわけです。大学の決定に対する批判とか不満でもあったでしょうし、それも妥当でしょう。

それでも自分がその仕事を受けたのは、「SDGsに人をどう巻き込むか」というテーマだったからこそ、発信者としての専門的な知識と積み重ね、知識的裏付けで授業ができる自信があったからで。専門性に対しての批判なんかも、授業を見てもらえれば幾分跳ね返せると思っていたんです。でも、批判してた人たち、せっかく授業の配信とかやって、ハッシュタグまで作って、後日サマリーの動画まで公開したのに、全然それ見てくれてなかった。そりゃ違うじゃん、と思うわけです。せめて見られて、検証されて、丁寧に批判されたかった。Twitter(X)でのライトな、反証可能性のない批判がほとんどだったのは、なんともやるせない出来事でした。

そういう経験もあって、みなさんにはポジショントークに流されず、適切な批判精神と責任感を持って考えられる自分を涵養していってほしいな、と老婆心ながら思っています。それが学べるだけの環境が、東大にはきっとあるはずです。

あとは、心身の健康をくれぐれもお大事に。

──ありがとうございました!

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