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アメリカ在住東大生の夢と米〜RICE DAO・丸山壮さん〜【東大生起業家レポートvol.2】

2024.12.13

スタートアップに挑戦する現役東大生起業家たちに、その熱い思いを語ってもらう本企画。

シリーズ第2弾となる今回は、RICE DAO代表、丸山壮さんにご寄稿いただきます!

学生証
  1. お名前:丸山 壮(まるやま そう)
  2. 役職:株式会社RICE DAO 代表取締役
  3. 東大での所属:経済学部4年
  4. 好きな漫画:宇宙兄弟、ブルージャイアント、ハイキュー

はじめまして、株式会社RICE DAO代表の丸山です。

DAOとありますが、法律や技術の整備が進むまでは株式会社として経営予定で、国内VCやエンジェル投資家から資金を受けて、全国の水稲事業の承継を進めています。

風立ちぬ 生きねば。

フランスの詩人ポール・ヴァレリーの詩「海辺の墓地」の一節です。

企画担当者のわかなさんとは27組のフランス語クラスで知り合い、誕生日が同じであるという一点のみで何度か会話を交わしました。

今回彼女からこうした機会を頂いたので、下手なりに自分の起業にいたる想いを伝えられればと思います。

今自分はアメリカに住んでいます。

東大では経済学部に所属し、サークルの友達と毎日お酒を飲んで適当に授業をこなして、稼げるという以外にはたいした動機も持たず投資銀行への就職活動をしていた自分をアメリカに運んだのは、故郷の風でした。

小・中・高と、自分が一番好きだった駅前の本屋がなくなったことを知ったのは、コロナも終えた、大学何年目の帰省だったでしょうか。

東京大学に入学してすぐに、何度もコロナの波が寄せ、高校の友達と東京でシェアハウスをしていた自分は一人暮らしの寂しさを感じることもなく、久しく奈良には帰りませんでした。

あの本屋は、もうありません。

駅から降りて、特に買いたいものもなくぐるっと回って使わない知識を身につけたり、友達とうるさくならないように漫画をおすすめしあったりしたあの本屋には、もう行けません。

突然ですが、自分の趣味はお城巡りです。

城は、多くを語っています。

城には、城郭自体のかっこよさはもちろん、守り方、攻め方、治め方を考える楽しさがあります。繁栄を築いた名君の理知で豪胆なエピソードも欠かせませんし、たまにある町人のなんやそれ話も大好きです。日本全国にあるので、旅行や仕事ついでにふらっと行けるのもお気に入りなところです。

ただ、どんな名君が治めた城下町でも、今現在も栄えているとは限りません。あの本屋は、全国にあったはずです。

今の日本は、いわゆるストロー現象で土地の記憶もおかまいなしに産業・人口の一局集中が進み、かくいう自分も今は故郷に住んでいません。

地方に産業を興さなければならない。

それは何も高尚なものでなく、単に、地元のお餅つき大会にもう一度行きたいだとか、人がごった返すお祭りで中学の友達とばったり再会したいだとかから来る感情です。

地方に強い産業が生まれることで、それに付随する多くの企業と雇用、そして人が生まれ、集まってくると考えています。

いわゆる日本論的な本はまだ全く読めていませんが、どんなに初歩的に思えても、これが自分の命を使いたいと心から思える生き方でした。

そしてそれを実現するのが、『サーチファンド』や『ETA』、『承継型起業』だと信じ、アメリカ留学に発ちました。

団塊の世代が全員75歳以上になる2025年問題では、後継者のいない地方の中小企業の存在を問題視しています。

一方で、昨今大学生の間での起業ブームが熱を帯び、大学に行くと周りは社長だらけです。

学生の間でそうして会社を立ち上げた人のいくらかは経営を継続し、残りは就職の道を選んでいきます。

自分は、そうした起業経験のある学生が、後継者のいない地方の中小企業を承継して、0から1を生み出す起業ではなく、10を100にする起業をする道があると考えました。

それが、『承継型起業=サーチファンド』です。

このスキームは1984年からスタンフォードやハーバードのMBA生の間で流行し、近年日本でも盛んになってきています。

地方銀行などが組成するファンドから資金を受け、数億円の会社の経営者にいきなりなる人も少しずつ現れています。

彼らの経歴を見ると、みな承継予定の会社が属する業界での経験と、『中小企業診断士』の文字がありました。

中小企業診断士は経営の国家資格で、実際学んでみると財務・会計や経営はもちろん、法務・経済・情報システムや政策・補助金など日本での会社経営において学ぶべきことをおよそ網羅した資格に思えました。

こうした知識と、一度や二度会社を立ち上げた経験、それにもともと会社にいらっしゃる従業員の意見を聞く姿勢があれば、地方に強い産業を興していくことは、決して不可能ではないと考えます。

才覚と環境に恵まれた東大生の皆さんが、一人でも多く、自分の育った地方や日本、あるいはもっと大きく世界がこれからも活気で溢れるように、自分の命を燃やして、生きてほしいと思っています。

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業界の壁を壊し、協働を最適化せよ

大変に偉そうなことを言いましたが、RICE DAOはまだ、ただ米を売っているだけの会社です。収益も米粒です。

でも夢の大きさだけは、自信があります。

今年の米不足で、今までよりはお米への関心が高まっていると思います。

ここでは簡単に、日本の農業の未来の話をさせてください。

日本の農業は、従事者の平均年齢が68歳、割合で言うと75歳以上が最も多い、日本の産業の中でも群を抜いて継ぎ手に困っている市場です。こうした供給力の減退と異常気象が、今年の米不足の要因とも言われています。西日本は今年も大変でした。

当然、農業は大規模化することでコストが抑えられ競争力を獲得できるということで、戦後の農地改革で増えた零細な兼業農家から担い手農家と言われる大規模農家・農業法人への農地集約が進んでいます。また、スマート農業・農業DXによる省力化・自動化の流れから農業にかかる人手はこれからも減り続けます。

そういった意味で、農業人口の減少は問題ない、農家はもっと減っていいという人もいます。

農家目線としてはある意味では正しいですが、産業全体で見るとどうでしょうか。

大規模農家の規模拡大にも限界はありますし、これから爆発的に増える離農で減少する供給量を補えるだけのスピード感を実現できるとは思えません。自動栽培技術の投資効率は未だ低く、高いお金を出して導入しても人を雇うことのコストと比べて費用対効果が見合っていない上、農業には、栽培以外にも多くの労力が必要です。道の草刈りや水路の清掃など、地域のインフラを担ってくれている側面もある農業で、日の目を浴びるのは栽培の自動化だけです。

結局、今後も農業の人手は必要ではあり続けるし、何より地域から人がいなくなることは悲しいです。

では小規模農家・兼業農家を存続させればいいのか、半農半Xを増やせばいいかというと、素直に肯定はできません。

零細な規模で営農すれば当然規模の経済は働かず、せっかく購入・レンタルする農機も稼働率が上がりませんし、自動栽培技術の導入に関しても、高い導入コストを回収しきるには何十年もかかってしまいます。また農薬や肥料、農業に必要な資材の購入も、収穫した生産物の販売も、大規模農家と比べると価格交渉力は低い状態になります。

そこでRICE DAOが掲げるのは、産業・国民全体からの資本集約と自動化の導入、農業の分散所有です。言い換えれば、巨大資本による兼業農家です。

DAOというのは、分散型自立組織と言われる、例えばビットコインに代表されるブロックチェーン技術を用いた組織運営の形です。

DAOではトークン(株式会社で言う株式)を保有している人の投票で組織の意思決定が下されます。厳密性を欠きますが、要は多数決で、意思決定権は”民意”にあります。

つまり、今のお米産業に同じ課題感を持つ企業群や一般個人が、皆一様にお金を出し合い、ブロックチェーン上に擬似的な株式公開会社、すなわち上場企業を設立するわけです。

例えば今のお米産業全体は市場規模が5兆円。この企業群全体から資金を調達すれば一体いくらの額が集まるでしょうか。しかも、かつての財閥やカルテルのように排他的ではなく、誰でも、一般個人も出資でき、収益の分配を受ける権利を持つわけです。

企業間・個人間の利益調整は行われず、集められた資金を以て、ただひたすらに日本の農業問題を解決すべく、公共善を指針として、”民意”で事業を運営していきます。

当面は、日本の後継者不足の農業を承継していきます。ここでは、大規模農業法人が集約を進める平野での営農ではなく、本当に継ぎ手に困っている飛び地、山間地、不整形地など条件不利地の承継に集中します。全国的な営農と条件不利地での効率性の問題は、これまでにない自動栽培技術と1対n監視技術で解決します。そして販路はSNS直販・海外販売で、今の日本のお米の供給を担っている農家さんとはきちんと棲み分けを行います。

そして前述の、農業の栽培以外の部分に関しては、DAOの持分を持ったメンバーが担い、貢献に応じてまた報酬を分配します。自動的に栽培される農業の収益の分配を受けるという意味では国民・企業全体が”農家”となり、地域に住みながら、他の仕事をしながらたまに草刈りを手伝うだけで”儲かる”基礎を作り、地域の活気と産業復興の基盤を生み出すことが出来れば、そう考えます。

また、もっと先の話ですが、日本の人口減少と農業の進歩がこのまま進むと、”食料自給率の達成”という意味では日本の”不要な農地”はさらに増えます。そうなると、世界では増え続けている人口を支える、穀倉地帯になる道も見えてきます。

世界では水資源に恵まれる国は少なく、人口の増加ペースに耕作地の増加が間に合わないことが容易に想像できます。世界の胃袋を支える農作物を、日本クオリティで、輸出できる未来はないでしょうか。

そしてこのモデルが東南アジアやヨーロッパでも機能すれば、RICE DAO ASIA / RICE DAO EUが世界の食糧危機を救う未来もあるのではないでしょうか。

今自分たちは、来年度の条件不利地での自動栽培技術の実装とSNS・海外販路の拡大を進めています。DAOらしい、トークンでの調達と運営はきっともう少し先になると思いますし、自然や人を相手にする農業なので、進歩はきっとゆっくりだと思います。

若輩も若輩が、凄腕ベテランに溢れた農業で迷惑をかけることもあるかもしれませんが、やれることは全部やるつもりです。日本の農業と世界の食料を担える会社・DAOを作ります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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丸山壮
水稲の事業承継をしています。いっぱいお米を食べます。
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