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五月祭の医学部企画が、3年ぶりに対面で復活したので潜入してみた!(後編)

2022.05.24

五月祭の目玉企画の一つである「医学部」の企画。

仕事休みを利用して五月祭にやってきた私は、医学部企画ならではの手術体験から、医学生のピアノ演奏会まで、幅広く楽しんだ。

そんな前編はこちらから

五月祭の医学部企画が、3年ぶりに対面で復活したので潜入してみた!(前編)
学問・研究
五月祭の医学部企画が、3年ぶりに対面で復活したので潜入してみた!(前編)
東大医学部五月祭企画 2022
東大医学部五月祭企画 2022
2022-05-23

東京大学医学部五月祭企画のホームページを見ると、まだまだたくさんの企画が待っているようだ。早速、行ってみよう。

VR発達障害体験

誰かの考えていることを――あるいはその人の経験している世界そのものを、自分のものとして体験することができたら、どんなにいいだろう。そんな思いから始まった企画があるという。

会議室のような部屋に入ると、黒光りする機器が鎮座していた。VR機器だ。

「こんにちは。VR発達障害体験にようこそ。」

VRとはVirtual Realityの略。視覚や聴覚に働きかけるゴーグルとヘッドセットで体験する。

この企画では、VR機器を用いて発達障害を持っている方の世界を覗かせてもらえるという。

「頭の中と言っても、もちろん体験できるのはそのごく一部です。今回は発達障害を持つ方に見られる症状の1つである感覚過敏と、不注意・多動を特徴とするADHDの症状を有する方の思考の変化を体験していただけます。」

VRを用いた感覚過敏とADHD症状の体験。一体どんな世界に出会えるのだろう。

「それではまず、感覚過敏から体験していただきましょう。」

ゴーグルを装着すると、聴覚過敏と視覚過敏の2つのプログラムが表示された。それぞれに独自の世界が広がっている。百聞は一見に——ここは一験とでも言うのが正しいのかもしれないが——如かず。詳細はあえて語らずにおこう。

その後、感覚過敏の当事者の方のインタビュー動画を見せてもらった。その世界を体験した後に聞くと、また違った世界が見えてくる。

「次にADHDの方の思考の変化の体験です。」

ADHDの中でも不注意優勢型の障害を持つ方の思考の変化を体験することができた。このVRでは当事者の方の心の声が聞こえるような演出になっている。めまぐるしく移り変わっていく思考に、いつしかVRの世界に入り込んでいた。普段の自分であれば気に留めないような事柄が気になって仕方がない。

VRでなければ体験できない、感覚過敏や不注意優勢型の障害を持つ方の視点を学べた。

「そうですね。ただ、感覚過敏もADHDも個人差が大きくて、得意なこと、苦手なことは人によってまるで違うんです。ADHDの方の中には自分で自分の『取り扱い説明書』を作って対応している方もいらっしゃるそうです。」

そうか。VRがリアルなだけに、世界に入り込めたものの、たった一度の体験でわかったと思い込むのは早計だったと気付かされる。

「大切なのは、当事者本人との対話を通して関わり方を模索していくこと。今回使用するVR機器を提供していただいた株式会社シルバーウッドの開発者の方々も、当事者へのヒアリングを最も重視して製作したと聞いています。」

その根底にある思想は、障害は個人に内在するのではなく、社会の環境や制度によって個人が制限を受けてしまっているのだという障害の社会モデルの考え方だという。そうした社会的障壁を小さくしていく取り組みは合理的配慮と呼ばれる。展示されているポスターで、合理的配慮や当事者研究の試みなど、学問的背景について学びを深める。ポスターは部屋の外に展示されるため、事前予約が必要ないらしい。VR体験の整理券を惜しくも手にできなかった多くの来場者が見にきていた。

相手の見ている世界、聞いている世界を知りたい。その思いから、相互理解は始まるのだろう。

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MedTech

VR企画のポスターを十分満喫し、隣の部屋を覗いた。MedTechという企画らしい。その語感から近未来の世界を思い浮かべずにはいられない。ヘルスケア産業はこれからの成長産業として重点をおく国も多く、その動向は自分にも必ずや影響を与えてくるだろう。しかし、MedTechという概念のもつ射程は幅広い。この企画ではどのような技術にフォーカスしているのだろうか。

「僕らの企画というのはひとつ大きなテーマを定めていて、それはBrain Machine Interfaceというものなのですね。MedTechの中でも比較的臨床の方にも結構応用されていて、すごい可能性を感じる分野だったので、せっかくなら特集したい。そしていろんな人に広めていく価値がある、といいますか、この五月祭でとりあげて、あんまり知識が今までなかった方々に知っていただけると一番いい方向に向かう分野なのかなと思ったので、Brain Machine Interfaceというものを選びました。」

Brain Machine Interfaceでは、脳波などを用いることで機械を操作できるようになるという。手を動かせない方が、自分の腕の代わりとなるロボットを自由に動かせたら、どんなに良いだろうか。

脳卒中後のリハビリテーションにも使われるBrain Machine Interface。

Brain Machine Interfaceといえば、他にはイーロン・マスクのNeuraLinkといったものを思い起こさせる。素人考えではあるが、脳から情報を読み取り何かするなど、本当にできるのだろうか。脳から情報を読み取られるって、自分の心の中が全部読み取られてしまうのではないか?でも、うまく開発できれば、今までの世界では考えられなかったまったく新しい可能性に満ち溢れた世界が広がるかもしれない気がする。漠然とした不安とSFに近い世界への期待、これが自分の正直な思いだ。この企画のポイントは、こうした自分たちのもつイメージを医学部学生にお伝えし、今の正確な現状を解説していただくことにより、未来の社会のあり方について共に考えることにあるようだ。

「Brain Machine Interfaceについて知ってもらうだけでなく体験もしてもらって、さらにこの分野の研究に対するイメージとかどういう未来がいいかというのをご意見いただくことで、研究者たちだけで閉じていた世界から、より社会を巻き込んだ流れを作り出したいと思います。」

新技術が生み出されると、それは往々にして社会に論争を巻き起こしてきた。原子力発電、遺伝子組み換え作物、クローンの作成。新技術が突然センセーショナルな形で登場するよりは、予め丁寧に市民と対話しておいた方が、今後社会的に受容される可能性を高めるだろう。彼らはそれを目指しているのか。

慶應義塾大学理工学部牛場研究室の開発したヘッドホン型脳波計で、脳波測定の体験ができる。

そんな彼らの思い描くBrain Machine Interfaceのある未来社会像について訊ねてみた。

「やっぱり僕らってある程度生まれ持った身体性、生まれ持った遺伝子とか環境によってできることとできないことがあって、例えば足早くなりたいけど限界があるよね、とか、手に異常がある人がピアニストになりたくても、指の数が少なくてなれない、とか、そういう身体の制約をBrain Machine Interfaceなら乗り越えていける。僕、諦めることがすごくきらいなので、どうしようもない諦めというのがこれを通して減っていく社会を考えていますね。」

「僕はとにかく、この企画を通して医学だけでなく全てのことについて、その可能性を知ってもらいたい、という気持ちが強いですね。一例として、Brain Machine Interface がALSのリハビリに使われるとかもありますけど、医学以外に視野を広げれば人間に尻尾をはやして操るとか、今までであれば夢のまた夢であったことができたりするんですよ。そういう風な可能性を加味していくと、人間がデジタル化されていったとき、その結果どうなっていくか、という空想ができる社会になると思います。」

自分の脳波からアートを生成する体験ができる。十人十色、違ったアートが生み出される。

彼らにはいろいろな夢があった。Brain Machine Interfaceについてはさまざまな課題もあり、今後社会実装されていく上では、紆余曲折もあるだろう。私たち一般市民は技術開発には直接的に携わることはない。しかし、大学などで展開されているこうした研究に関心を持って、研究者とともに主体的に未来社会をつくり上げていくのが理想的だと思う。それこそ、科学技術が私たちを押しつぶすゴーレムとなるのを防ぐ唯一の道だ。

AMSS

3階の踊り場まで戻ってくると、大きなポスターが4枚貼ってあるのが見えた。

「こんにちはー!」

爽やかな挨拶が響いた。

「鉄門サークルの一つ、AMS学生プロジェクトです。ここでは私たちの活動紹介として、主に4つの分野でポスター発表をします!」

4枚のポスターには、黒い文字が踊る素敵なロゴが映えている。このロゴを見るに、AMSの正式名称はArts Meet Scienceらしい。

AMS学生プロジェクト、通称AMSSには、どんな学生が所属しているのだろうか。

「東大医学部をはじめとする医学生と、東京藝術大学などに所属する芸術系の学生から主に構成されています!オンラインでの活動が盛んになった最近では、都外から参加しているメンバーもいます。」

私にとっては医学生に出会うこともなかなかないのに、人生で未だ会ったことのない藝大生まで所属しているとは驚きだ。世間では異なる分野の専門家が協力しあう学融合や学際的研究が話題だが、学生のうちから活動している団体とは、とても興味深い。このポスターを通して、芸術と医学の融合を垣間見るのが楽しみだ。

4枚のポスターが並ぶ。

「まずは、ゲノムグループ。生命体の遺伝情報の総体であるゲノムを手がかりにして哲学的な議論を交わしているグループです。このグループに所属している方で、AMSSの活動を通して得た科学的な知見を自分の作品活動に活かしている方がいらっしゃって、ポスターを見ていただけるとその作品、具体的な活動例についてもわかるかなと思います。」

ポスターの中心には一枚の写真が置かれているのが印象的だ。一人の芸術家の中で、グループメンバーで白熱した議論のもとに科学が消化されて新たに作品が生み出される、そんな芸術活動の一端を感じた。

次のポスターでは、耳の中の構造の図解と何かのグラフが載っている。どういう内容なのだろうか。

「私たちの耳がどのように音色を知覚しているかという医学部らしい内容に加えて、音色の物理的・音響学的な側面を簡単にご紹介しています。私たちの耳や、音を知覚する仕組みについて気づきを得ていただけたら嬉しいなって思います。」

グラフは音色を解析したものらしい。物理学のグラフなんて難しくてわからないと思っていたが、なんとなく眺めてグラフ同士を比較するとポスターの内容がわかってきた。

プログラミングを駆使して音色を解析。

「さらに別のグループとして、エリック・カンデルの『なぜ脳はアートがわかるのか』という本を輪読する会があって、そこで学んだことをまとめたポスターがこちらです。美学に興味のある人たちが集まって、神経生理学に基づいた議論を行っています。医学部の生理学の授業で習った知識が、美学を学ぶときにも出てくるところが面白いですね。」

絵を見るのが好き、音楽を聴くのが好き、そんな感情の機序の解明を目指す研究とは、なんだか不思議だ。

最後、4枚目のポスターを見よう。「脳で触るプロジェクト」?

「このプロジェクトは、芸術作品を通して私たちが感受するなんとなくゾワゾワする感じ、とか、そういったものを少しでも科学的に分析できないかということを目標にやっています。AMSSの中でもかなり対外的な活動をしているグループで、学外の場所をお借りして展示発表をしたり、東京大学附属中等教育学校でワークショップを行ったりしたときの様子を紹介しています。」

ポスターで引用されている図のいくつかは、医学生御用達の分厚い教科書からだそうで、医学部で学んだことがふんだんに活用されていることが見て取れた。

「私たちが医学部でどういうこと勉強しているんだろうと気になった方には、この部分を読んでもらえると、学んでいる内容がわかるかなと、思います。医学部の授業で学年全員が習った内容が元になっています。授業で習った内容を踏まえつつも、さらに発展させた内容をポスターに載せたということが頑張ったポイントです。」

確かにどのポスターも力作で学術的な内容であり、私には理解が難しい部分もあった。一朝一夕には成し遂げられない研究成果が紹介されていることがわかる。これら4つのプロジェクト全て、1年以上の活動を積み重ねているらしい。

「コロナ禍はオンラインの活動がメインで、論文読んで本読んでというインプットの活動が多かったんです。これからは科学的知見と私たち自身の主観的な体験の両方を活かしたアウトプットの活動もしていきたいですね。」

芸術と科学という2つの領域は切り離されているのではなく、深いところで重なり合い、私たちの生活を鮮やかに魅せている。AMSSの活動では、片方の分野を専門とする学生がもう一方に強く関心を持ち、学術的に交わることで、予想し得なかったシナジーが生み出されているのだ。AMSS代表の服部さんは、4枚のポスターを背に語る。

「一番伝えたいのは、東大医学部に芸術と科学との繋がりに興味を持っている人がこれだけいること、まずは存在を知っていただけたら。知的好奇心の赴くままに、大学の勉強とは別に自由に学んでいる人がいるんだなということがわかってもらえたら嬉しいです。」

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イメージング

3階から階段を降りて1階に行き、その右手の廊下まで進んだ。そこではイメージング企画が行われているらしい。医学部での研究を知るにはもってこいの企画だそうだ。部屋に入ると目に入ったのは、説明がびっしりと書かれたポスターの数々。

「よろしければ解説しましょうか。僕は、班長をしている佐々木です。この企画では主に医学部生が行っている研究について紹介しています。この企画で扱っている研究は全てイメージングという技術を用いているんです。」

イメージング。知っているようで知らない、分かるようで分からない言葉だが、医学研究では広く用いられている大切な技術らしい。一体どんな技術なのだろうか。

「簡単にいうと、光を用いて特定のものに色をつけて見やすくする技術ですね。例えば、あちらをご覧ください。」

そこではちょうど別のスタッフがお客さんにガラス容器に入った淡い黄緑色をした液体を見せていた。その容器を蛍光灯のような器具の上に置いた瞬間、液体が鮮やかな緑色に光った!その急激で美しい変化に、思わず来場者の間で感嘆が漏れた。これがイメージング技術なのだという。

ブラックライトに照らすと、クロロフィルは赤色の蛍光を発する。班員が自宅で抽出したらしい。

近くに展示されていたポスターに目をやると、生体内の情報を視覚化するための技術がイメージングだそうだ。タンパク質や脂質など、普通の顕微鏡ではなかなか実態を見ることができない物質に、この蛍光を発する液体をくっつければ、その物質がどこに存在するのか、蛍光を見ればわかるのだ。この技術を使って、がん細胞を光らせることもできるらしい。

「僕は神経の働きをイメージング技術によって視覚化して、神経の機能を調べるという研究を行っています。それについて書いたのがこちらのポスターになりますね。」

なんと、医学部での研究を紹介してもらえるらしい。そのポスターを一瞥したところ、図が豊富で分かりやすそうだ。

「研究内容自体はやっぱり医学に馴染みがない人からすれば難しいものかもしれないですけど、どんなお客様でも分かるように説明することに時間をかけて取り組んだので、読んでくれると嬉しいです。もし話が分からなくなったら解説しますので、遠慮なく声をかけてください。」

せっかくの機会なので佐々木さんの助けを存分に借りて、どうにかポスターを読み終えた。前提知識が全くない私にとって、研究紹介のポスターは正直かなり難しかった。かなり難しかったが、解説を踏まえて自分なりに整理できた気がする。

医学の基礎研究は、暗闇の中で真実を追い求めるようなものなのだろう。生体内も似ているのではないだろうか。ただ顕微鏡を覗くだけでは見えなかったものが「イメージング技術」という光を頼りに視覚化されるのである。今までの企画の中で、最も東大医学部を感じる企画だったかもしれない。研究内容ももちろん興味深いが、何よりそれを理解する過程が知的で面白かった。

鉄門ボート部として活動しているらしい。

受験本

全ての企画を見終え、満足した私は医学部本館をあとにした。

本館前のテントがなにやら賑わっている。ここは物販エリアのようだ。

「受験本を販売しています。興味ありませんか?」

分厚い冊子。

受験に関する本か。東大医学部生が執筆していることを考えると、入試については難解で複雑な内容が載っていそうだ。身構えていると、穏やかな口調で説明してくれた。

「受験本の取りまとめを行った堤といいます。受験本企画は毎年恒例の企画で、“東大医学部生が語る東大受験対策”と題して、主に受験生に向けて、東大二次試験を中心に入試全般についてわかりやすく解説した本になっています。各教科の対策法や、実際に学生が問題を解いて感想を書いたコーナー、再現答案などは毎年ご好評をいただいています。今年は共通テストの変化が激しかったこともあり、共通テストを受けた経験のある2年生にも協力してもらうなど、特に共通テストの分析に力を入れました。」

趣味は写真と旅行。

確かに最近は、共通テストが始まったり、入試の難易度にも変化が見られたり、何かと話題に尽きない。大学入試をくぐり抜けてきた彼らが、昨今の入試をどう分析して、どんな感情を抱いているのか、気になるところである。受験本を執筆する学生たちは、塾や家庭教師のバイトを通して難関大を志望する生徒を指導しているらしい。大学受験での基礎が身についているからこそ、受験を終えても入試の流行にアンテナを張り続けることができるのだろう。受験にも「カタい礎」と「やわらか」い応用のきく部分があるというわけか。

「さらに注目して欲しいのは、色々なアンケートの結果を通して東大医学部生そして理三生の学生生活に注目したコーナーです。みなさん医学部生や理三生に対して色々なイメージを持っていると思いますが、実際に在籍している学生がどんなふうに大学生活を過ごし、どんなことを考えているのか、意外と知らないんじゃないでしょうか。」

受験だけじゃなくて学生生活まで明らかにされているとは。この医学部本館で行われていた企画は、一口に医学部企画と言っても、想像以上に多彩で興味深かった。個々の企画で学生たちと語り合った今、もはや彼らのことを医学生という単純な属性で一括りにはできない。そんな医学部生の実態をさらに解き明かすためのきっかけが得られそうで楽しみだ。

受験のことだけでなく、大学生活まで詳しく記載されている。

しかしこの受験本、各教科の解説に共通テスト、面接対策、推薦入試、進学選択、大学生活と盛り沢山だが、これだけの内容を取りまとめるのは苦労もあったのではないだろうか。

「そうですね。特に受験に対して、執筆してくれたみんなが並々ならぬ情熱を持っているというか、熱量のあまり分量や表現が暴走してしまうこともあって、それを冊子としてまとめるために形にするのが一番大変だったかもしれません。あとは、誰に執筆を頼むか、という問題もありました。自信を持って各教科のプロフェッショナルと言える人に執筆を依頼していますが、執筆者をリストアップするときに候補が多すぎて、絞り込むのが大変でした。これは贅沢な悩みですけどね笑」

豪華な執筆陣という堤さんの太鼓判に惹かれ、五月祭の記念に一冊購入することにした。大学祭で売られている本とは思えない、立派な書籍である。受験生であれば、自分なりの入試分析と比較しながら読むという楽しみ方も面白いかもしれない。堤さん、素敵な説明をありがとう。

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物販

「そこのお客さま、ぜひこちらの商品もお買い求めを〜!」

受験本を購入したときに隣にいたもう一人の学生から声をかけられた。

「突然失礼しました。物販部統括の今井といいます。医学部企画の副代表と、あと会計も兼任しています。」

大学祭の一企画だと甘く見ていたが、しっかりした組織だったようだ。さすが五月祭の目玉企画。会計まで配置されているとは。

「そうなんですよ〜、今年は感染対策のため五月祭への入場者数を制限しているので、以前と比べてグッズ販売の売り上げはだいぶ落ちそうなんです。だからちゃんと商品が売れないと医学部企画全体で赤字になっちゃう……」

よくよく話を聞くと、企業や個人の協賛にも支えられているらしいが、ただならない気配で宣伝しているのは、物販部統括としての責任感だろう。

「まあ、それは置いておいても、本当にいい商品がそろっているので是非手にとってみてください。」

美しい絵柄に思わず言葉を失う。このクリアファイル、ぜひ手に入れたい。

大学生が販売するグッズにしてはクオリティーが高すぎなのではないだろうか。驚くこちらの顔を見ながら満足げに彼は話を続ける。

「すごいですよね?私も発注したサンプルが届いた時に驚きましたよ。なんて素晴らしいイラストレーターたちが同期にいるのかと。

グッズのデザインを作成してくれた方、商品の発注をしてくれた方、たくさんの同期の力を借りて、医学部企画の限定グッズの販売にこぎつけることができました。限定グッズとしてはクリアファイルだけでなく、ノート、シャープペン、ボールペン、ポストカードを販売しております。いずれも満足のいく出来ですし、記念品として最適ですので、是非この機会にご購入をお願いします!」

左から順に、グッズを販売した今井、松尾、堤、前田。両手に持ちきれない限定グッズを抱えて。

限定グッズをじっくり見たが、全てのグッズが医学部企画に参加した記念に手に入れたい逸品である。既に買うと決めていた受験本に追加して、お土産として一つずつ購入した。

私の2022年の備忘録としてのこの記事に、限定グッズに込められた想いを載せたい。そんな一心で、3名のイラストレーターからメッセージを受け取った。

限定グッズだけでなく、講演会ポスターからグッズ売り場のお洒落なメニューまで、一手に担った谷口さん。実は「手洗い研究」にもイラストが登場していたらしい。

「私はオリジナルノートとシャープペン・ボールペン、またグッズ売り場の看板やメニューなどをデザインさせていただきました。東大医学部でしか買えないような「特別感」や「高級感」を念頭に、ノートの表紙をカルテ風にして医者になったつもりで書き込めるようにするなど、ワクワクできる仕掛けも盛り込んだつもりです。他のメンバーが手がけたグッズも本当に素晴らしいものばかりなので、ぜひ使っていただけると嬉しいです。」

カルテ風の表紙。医学部ならではのデザインだ。

野呂さんの色彩豊かなデザインには心を奪われること間違いなし。

「クリアファイルとポストカードのデザインを担当しました。普段趣味で描く絵とは違って商品になるので、医療・医学のモチーフの描き込み、ステンドグラス風の加工など、細部にこだわりつつ全体の雰囲気の統一感を意識して描きました。ファイルについては裏面のデザインも気に入っているので、お手にとってお確かめください。文房具はいくらあっても困りませんし、全部ここでしか手に入らない限定グッズですから、ぜひ五月祭の思い出として手元に置いていただければ幸いです。」

売切続出の人気商品。

最後に、デザイン部統括のイラストレーターから。東京大学医学部五月祭企画HPのメインビジュアルから、ポスターやリーフレット、クリアファイル、そしてポストカードまで。医学部企画の色を創った人物だ。

「このwebを見る人はなかなかの曲者だと思います。なぜそう思うかって? このwebの存在を私が今の今まで知らなかったからです。私が疎いだけ?違います、あなたがオタクなのです。ここまで東大医学部について調べてくれてるあなたなら…このグッズ、買いますよね、絶対。そうですよね。わかってます、私には。

そして、そんなオタクなあなたが私の拙作を使ったグッズを買ってくれたなら…私はその晩、狂喜乱舞して眠れないでしょう。ぜひ私を睡眠不足にしてください。一日十時間以上眠る私を。」

ホームページに光り輝くイラスト。

エピローグ

ふぅ。気がついたら、日はかなり落ち、大きく開けた医学部広場にも夜の闇が否応なく迫りつつある。観客制限のせいか、道行く客はまばらであり、安田講堂からの歓声は遠く彼方のものである。取り囲む高い建物から目を背けるように、自然、足元の石畳に目がいってしまう。門がどこだかよくわからないがとりあえず歩みを進めよう。

思えば、彼らにとっては、3年ぶりの対面開催だ。昨年度の五月祭が9月に行われたこともあり、準備時間もなく勝手も全くわからない中で、暗中模索であったのだろう。

「今まで借りていた会社から器具を借りられなくなったのです。」

「一人一人の負担は例年よりはるかに重かったです。」

無事当日を迎え企画を成し遂げ、充実した表情をしたスタッフの言葉の節々からは、彼らの努力が感じられた。素晴らしい企画だったと思います。

企画をめぐっていると、折々に「社会」という言葉を耳にした。東大基金の紹介やMedTechのように研究を共創するもの、藤堂先生、宮崎先生、石井先生や武藤先生の講演会のように社会に研究成果を発信してうねりをつくりだすもの、VR発達障害体験のように、精神障害を題材に今後の社会における集団のあり方を考察するもの。

そこには、常に患者さんと正面から相対し、社会の現状を透徹し続けながら、研究や臨床、技術開発を進め、これからの未来社会を築いていくのが医学という学問だ、という企画者の思いが感じられた。自分に解説してくるスタッフの言葉は力強かった。それは彼らが、浮雲にのった世迷い人では決してないからである。手術企画や、血圧測定体験、イメージング技術紹介など、彼らは自分たちが寄って立つ医学の基盤から目を背けることがない。

そうか、だから、この企画の名前は『カタい礎やわらか医学』なのか。これまで積み上げられてきた医学の基盤に腰を据えた上で、社会のより多くの人を包み込みながら、未来社会を作り上げていく——

いいじゃないか。ふと立ち止まり、医学部広場を見渡してみた。周囲の建物の高層階にはまばらに灯りがともる。これからの世の中の先行きは暗闇の中だ。しかし、その中に希望の灯りは必ずある。その灯りを信じて、歩み続ければ、高いところに辿りつけるだろう。彼らならきっと歩み続けてくれる。私たちも彼らと共に歩み続け、よりよい社会をつくり上げていけたらいい。

この記事を書いた人
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東大医学部五月祭企画 2022
東京大学医学部4年生有志が主体となって運営する五月祭の医学部企画。2022年度は「カタい礎 やわらか医学」をテーマに開催し、五月祭総選挙MayFesAwardsで準グランプリを受賞。 五月祭で大人気の「医学部企画」をご紹介します。
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