2月28日、午後3時41分。東京マラソンのフィニッシュラインを、二人の学生が同時に踏んだ。アンくんと金井くん、ともに難民かけはしプロジェクトのメンバーだ。
先日の記事(http://todai-umeet.com/article/5237/)で、難民かけはしプロジェクトのメンバーが東京マラソンの完走に挑戦することをお伝えした。
結果は、全員完走。ランナー以外のメンバーからのサポートや、ランナーたち同士の励まし合いが実を結び、7人のランナー全員が走りきることができた。
今日は、難民の背景を持つ学生で今回フルマラソンに初挑戦したアンくんと、アンくんの隣で最後まで支え続けた金井くん、二人の物語をお伝えしたい。(文:川畑(難民かけはしプロジェクトメンバー))
アンくんは、ベトナム難民の二世で、関西学院大学の2年生。
今までお世話になった人たちに恩返しがしたい、そして自分と同じ立場にある難民の子どもたちに勇気と元気を持ってもらいたいという思いで、今回フルマラソンを走ろうと決意した。
金井くんは、難民かけはしプロジェクトの共同代表で、スポーツ好きの東京大学3年生。悲惨なものとして眼差しを向けられがちな
と考え、昨年の春、このプロジェクトを起ち上げた。
アンくんと金井くんが出会ったのは、昨年の夏、姫路に住むアンくんを金井くんが訪ねた時だ。
短い滞在であったが、一緒に姫路城の周りをランニングしたり、色々な話をしたりして、二人はすぐに打ち解けた。
金井くんは最初、アンくんのことを、少し引っ込み思案なところもあるけれど頑張り屋で思いやりのある人だと感じたという。
そんなアンくんを育んだのは、アンくんが小学生のころから通っている、城東町補習教室(通称センター)の、金川先生をはじめとする先生方だった。センターは、日本語や教科の学習が無償でできる場所で、ベトナム人の子ども達の心のよりどころとなってきた場所である。アンくんは、そこで進路について先生方に相談したり、勉強を教えてもらったりしていた。大学受験も、「努力は必ず報われる」という金川先生の言葉を胸に乗り切った。
金井くんがアンくんと一緒にセンターを訪問したとき、金川先生たちがアンくんのことを我が子のように大切にしてきたこと、アンくんの未来が輝くよう心から願っていることが、金井くんにも伝わってきたという。アンくんの温かな人間性はここで培われたのだ。
アンくんが先生たちに向かって言った、
という言葉は、金井くんにとっても重みのある言葉となった。
その後しばらくして再び金井くんや他のプロジェクトメンバーがセンターに足を運んだ時、そこには後輩たちに楽しく優しく勉強を教えるアンくんの姿があった。
「
」とアンくんは語った。
その後も、アンくんは関西で、金井くんは東京で、マラソンの練習を続けた。
アンくんが、打ち合わせや練習のために東京に来ることもあった。そんなときは金井くんやほかのメンバーが積極的に東京観光に連れ出した。普段会えない他のプロジェクトメンバーと交流する中で、アンくんは東京マラソン本番に向けて実感が湧くようになり、気持ちが高まったという。
そして2月28日、午前9時10分。いよいよ東京マラソン2016がスタートした。
最初のほうは、他のランナーと一緒に、順調に走っていた二人。5km地点や15km地点では、応援するプロジェクトメンバーに余裕の笑顔を見せていた。
しかし、30kmを過ぎたあたりで、試練が訪れた。
。他のランナーはペースを保つため先へ行くことに。ペースが落ちてしまったアンくんの隣で
、「今は自分の精一杯のことをするしかない!」とアンくんを励ましながら一緒に走り続けたのは、金井くんだった。
アンくんが諦めそうになった時には、金井くんが「完走できなかったら姫路に帰ってくるなって先生たちに言われてたじゃないか。走りきらないと姫路に帰れないぞ、先生や子どもたちが待ってるぞ」と声をかけた。
「あと少し頑張ろう!」
「1km先にみんなが待ってる!」
-午後3時41分。プロジェクトメンバーの声援に包まれながら、二人はゴールした。42.195kmを走りきったのだ。二人の心に、一気に達成感と満足感と安心感が広がった。
走り終わった後のインタビューでアンくんが言った。
アンくんと金井くんは、仲間としてフルマラソン完走という困難な目標に挑み、それを一緒に成し遂げたのだ。
東京マラソンを駈けた二人の物語は、まだ終わらない。
難民かけはしプロジェクトホームページ
http://nanmin-kakehashi.net/
難民かけはしプロジェクトFacebook
https://facebook.com/nanminkakehashi