初めまして。文科二類1年の早水です。
突然ですが皆さん、『東大美女図鑑』という名前を聞いたことはありますか?
東大美女図鑑は2014年から刊行されている、東大の女子学生をモデルとした冊子です。
東大美女図鑑という名前を聞いて、こう思った人もいるかもしれません。
「図鑑だなんて、人を物みたいに扱うなんて!」
「人を外見で判断するなんて!」
実際に、東大美女図鑑はここ数年、このような批判に晒されてきました。
しかし、そんな東大美女図鑑にも確固たる理念があるというのです。
そこで今回、この夏に東大美女図鑑編集部に入ったばかり・右も左もわからない!新入部員の僕が、先輩編集部員に疑問をぶつけてきました!
編集部のルッキズムに対する思い、そしてコロナ禍での活動の難しさ、必見です。
以上3名の編集部員の方に、僕とUmeeT編集部の方とでインタビューを行いました。
本日はどうぞよろしくお願いします。まず簡単に自己紹介をしていただいてもよろしいでしょうか?
現在制作中の『東大美女図鑑 vol.14』編集長を務めております、法学部4年/情報学環教育部2年の望月花妃です。
理科二類2年(医学部健康総合科学科内定)のUです。昨年秋から活動に参加していて、企画やSNSの運営をしています。
改めまして、文科二類1年の早水遼馬です。さて、早速ですが、東大美女図鑑ってどんな活動をしてる団体なんですか?
はい、私たちは年2回の学祭に向け『東大美女図鑑』という冊子を制作しています。
……冊子といっても100ページはあるんですけれど(笑)。
ですね(笑)。
「東京大学を、東京大学に通う女子学生をもっと身近に感じてもらえたらなあ」と言う気持ちはずっとあって、その上で毎号一冊のテーマを決めて……。
それに沿ってまず、ご協力いただくモデルさんにインタビューをして、それから撮影して、編集して、デザインして、校正して、刊行して……というのが主な活動内容と流れです。
なるほど。それって誰に向けて作っているんですか?
メインターゲットは東大を目指す、または今後目指すかもしれない高校生です。
そうですね。誌面を通して東大に通っている女子学生を知ってもらって、自分の将来を重ねられるロールモデルを見つけてもらえたらいいなと思って制作しています。
へぇ!
ちょっと大きな話になってしまいますが、2021年「東大女子率2割の壁」(編注:東大の入学者のうち女子学生の割合が長年2割に満たず、こう呼ばれた)が若干崩れまして。
ちょうど僕の入学年度です。
若い!そう、でもまだまだ、それをさらに、3割、4割の壁が見えてくるように女子高生にも東大を身近に感じてもらいたいんです。
あと、創刊当初は今とはちょっと違う目的があって。数年前、今でもあるのかな、「東大女子って芋っぽい」みたいな偏見が……
芋っぽい?
えっと、勉強ばっかりしていて、おしゃれとか恋愛とかしなくて、いわゆる「ガリ勉」のイメージみたいな。
そうそう。でもそれだけじゃないよって伝えたくて。きらきらしてる女の子を伝えることで、東大女子のイメージを変えるっていうのが創刊したばかりの頃の活動趣旨にはあったとか。最近は「東大女子のイメージ」もだいぶ変わってきて、だからやるべきことも変わってきているんですけれど。
なるほど?
「東大女子=賢いだけ、じゃないんだね」となって。
かしこいだけでもないし、かわいいだけでもないしってなって。
「かしこい」も「かわいい」も多様だし、って伝えたいという、欲……が……?
当初から色々変化してきているんですね。
そうですね。試行錯誤だと思います。
えーっと、まとめると、主に高校生へ向けたロールモデルの提示が主にあって、それから社会における「東大女子」のイメージの幅を広げることで今の東大生も、少しでも過ごしやすくなったりしたらいいなっていう感じです。
なるほど、意外なほど考えているんですね……。
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昨年と今年はコロナ禍の影響があったと思いますが、具体的に困ったことなどありましたか?
ありましたありました。昨年の私はいち部員の立場でしたから網羅的にお話できる自信はないんですが、一応時系列に沿って、まず2020年の春学期のことから。
その時はもう、大学に入れなかったんですよね?
はい。2020年五月祭に出すための『東大美女図鑑 vol.13』を制作していましたが、終わってない撮影もあって、結局刊行は同年の駒場祭になってしまいました。
その間、5月から駒場祭がある11月までは何をしていたんですか?
えっと、ミーティング?何をしていたんでしょう……ね(Uさんを見る)?
えっ!えっと、9月にもオンラインの学祭がありましたよね。
そうですね、これが東大としても初めてのことで、結構大変でした。まあ、夏までは正直、空白の期間がなくはなかった気もします。
なるほど。学祭がオンラインになることで何か大変なことはありましたか?
これは冊子を売る団体に共通して言えると思うのですが、やっぱりオンラインにすると売るのが大変で。従来なら、来場した方に「目に付いた」とか「来た記念に」と言う理由で買ってもらえることがありましたが、オンラインだと一切ないです。こんなに長引くと思ってもいなかったから、送料も編集部負担にしていて、それ以上に一つひとつ発送作業をしなくちゃいけない手間があって。財政的にもマンパワーとしてもすごい負担が大きかったです。
目に留めてもらうためにオンラインの企画を考えたりもしましたよね。
そのオンライン企画はどんなことをしたんですか?
前期教養の話とか受験の話とか、あと撮影の裏話とかをモデルさんにしてもらって配信しました。あとは編集部トークという、図鑑を制作している側の話もしましたね。でもそれもほんとに視聴者数が2桁とか……広く伝わっているとは言い難かったです。
配信だけでも盛り上がったら、その、かなりの赤字でも「高校生に届く」とか「東大女子のイメージの幅を広げる」ということが叶ったのかもしれないですけれど。
ちなみに、販売数はどれくらい減ったんですか?
例年の10分の1とかになりましたね。
えぇー!!
例年は学祭に出したらけっこう完売近くまでは売れていたそうなんですけど、ほんとに数えられるくらいしか売れなかったですね。
そう、ほんとに売れなくなっちゃいました。見てくれる人自体もずいぶん減ってしまったと思います。ぶっちゃけ『東大美女図鑑 vol.13』がいちばんお金かかっているんですけどね(笑)。
2020年末、駒場祭で『東大美女図鑑 vol.13』を刊行したあと代替わりがありまして、私が編集長になりました。そこで改めて、対面の活動ができてこなかったことの弊害が結構大きかったなと痛感したんですね。
それはどういった……?
「こういう方向性に行きたいよね」とか、「今こういうことが課題だよね」とか、対面で定期的に集まっていればお互い分かり合えたことが、いちいち場を設けなければ通じ合えなくなってしまっていたんですよね。
あー、それは大きいですね。
うん。必要な意思疎通ができていなくて、引き継ぎもオンラインだったから、「引き継げているか」は、正直わからないんです。あまり整っていなかった組織の仕組みをつくりなおすのも大変だったし、私も私で、意思疎通ができているのかわからないから進めていくのにも不安が大きかったな。
なるほど。
部員に申し訳ないことはまだあって、対面で集まって作業すると「活動」って感じがするけど、オンラインで仕事を割り振るとそれは「仕事」とか「作業」になっちゃうと思うんですよ。
あー、なんかわかる気がします!
いつも「あー、これ絶対楽しくないよな」って思いながら「作業」を頼むから、私としても辛かったし、結構負担を感じているメンバーが多かったのかなって思います。個人作業、いわゆるタスク状態になっているんじゃないのかなって。
本当に自分は団体に所属しているのかなって感じになりますよね。毎週何曜日に編集会議があって、とかならまだこの団体にいると思えるから、仕事がやりやすかったり、上の代との交流もとりやすいけど、Slackとかだと……。
定例会やりたかったね。ライター&企画、カメラ、デザインの部署に分けて活動していたり、履修やバイトの関係で参加できている人が偏るとかで上手く実行できなかったのが心苦しい。
そういう点はどの団体もコロナ禍で苦しんでいるところですよね……。
はい。オフラインで集まっていたらみんなもっと自主的に、「こんなことしよう」ってなっていたと思うんですが、オンラインだと指示されたことをやるみたいな習慣がついちゃっいた気もします。
なっていましたね。自分から動こうとしても、本誌全体の、活動の全容が見えないんですよね。今個人ページがどうなってるのか、表紙がどうなってるのか、みたいなのが、対面だと同じ空間で話しているのを聞いて把握できるけど、それがないから自分の担当するところしかわからないみたいなのがある。
あと今年って、緊急事態宣言出てないのが3月だけなんですよ!
あ !そうでしたね!!
私は強欲で、五月祭に出す気力を失っていなかったので、3月は1日に2チームとか結構過密スケジュールでやっていて。
すごい。
Uさんにも結構頑張っていただいて、3月中で撮影をほぼ全部終わらせました。
そうですね。撮影が一番大変だった気もします。なんか撮影の時もマスクしていてくださいっていう場所が増えて。
あー、撮影ひとつとっても大変ですね……。
そういうのを随時調べながら撮影してました。当日もすごく気を遣ったし、大変でしたね。
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最近はジェンダーやルッキズムに対する議論も盛んだと思います。そういう面で、『東大美女図鑑』を作っていく上で大変なことがあれば教えていただきたいです。
やっぱり一番センシティブなのはルッキズムの問題ですかね……それには「美女図鑑」という名称が影響している部分が大きいと思います。
「美女」とあると、一つ「美しい」の軸があってそれに沿った物を並べているみたいな印象がある。色白で、髪が長くて、みたいな。でも、本当はそうじゃないんです。
というと?
まずまあ、ご覧いただければわかると思うんですけど、一様な美しさを伝えたいわけではない。一人ひとり、こういう人がいます、というのを知ってもらいたいんです。
本当だ、結構いろんな人が載っているんですね。
はい、それから、もともと『東大美女図鑑 vol.1』から「かしこいだけじゃない。かわいいだけじゃない」という趣旨のテーマがついているんですが、今も「美女図鑑」と言いつつ、「美しい」というよりかは「かわいい」という言葉を結構使うようにしていて。
それはどうして?
編集部の総意として、「かわいい」は存在肯定、つまり外見の評価だけじゃなくてそれ以外も肯定するような言葉だと捉えているからです。それと、美しいは一元だけど、かわいいは多様だと思っていて。私はかわいいと思うけどあなたはそう思わないっていうことがありうる。
その感じ、わかる気がします。
モデルさんのスカウトの際も、進学校出身だとか地方出身だとか理系文系とか、もっといろんな幅をもって、いろんな「かわいい」を伝えたいと思ってやっています。
あ、「スカウト」っていうのは、モデルさんは、友人の友人であったり経緯は様々ですが、みなさん編集部からご依頼していて、そのプロセスのことです。
いわゆるパッと思いつく美女みたいなのを集めて東大のかわいい子ナンバー1からナンバー10までを集めて写真を撮っているんじゃなくて、みんな自分のかわいいを大切にしてほしい。かわいいっていうのは、その子自身が思う、「あ、これかわいい」とか「これテンション上がる↑」とか、そういうものだと思っていて、スカウトの時にもそれを伝えるようにしています。
そうですね。ただ、これは私見でもあるんですが、ルックスの価値を全部否定したいわけでもないんです。その人の魅力の一つではあるし、その人の自己実現の過程で今の姿があると思っているから。
理想をいえば、頭がいいとか、相談に乗ってくれるとかと同じ特徴の一つとしてビジュアルを扱いたいけど、社会的にはそうじゃない。自分の先天的なものが影響しているっていう部分は確かにあるけど、先天的なままの何もしてないみたいな人はいないじゃないですか。それこそ私は11月に出る『東大美女図鑑 vol.14』でモデルさん2人のメイクを紹介する企画を担当したんですが、いろんなメイクを研究して今のビジュアルになっている人もたくさんいると思うんです。そういう特徴も個性の一つとして扱ってくれると嬉しいです。
ね。ルッキズムや差別的取扱いはもちろんよくない。でも、「よくない」だから「やめよう」で片付かないのは、やっぱりルックスが及ぼす影響がルックスを測る場面以外にも及ぶからだと思うんです。
それはどういった……?
例えば勉強ができる/できないの個性はテストを受けなきゃわからないし、料理ができる/できないも料理をしないとわからない。けれど、ルックスはそうじゃない、頼まなくても測られてしまうし、測ろうとしなくても影響されてしまう。そういう面で他の魅力や個性と並列に語ることはできないと思っています。
なるほど。
でもやっぱり、これも私見ですが、視覚情報の、直感で人を動かしてしまう力を信じてもいて。その上で、じゃあ何ができるかと考えた時に、ルックスを伝えないのではなくてルックス以外もきちんと伝える、ルックス以外の中身の重みを上げる、という方法を考えました。だから昨年の『東大美女図鑑 vol.13』と次の『東大美女図鑑 vol.14』は文章量がだいぶ多くなっていますね(笑)。
欲を言えば、自分が思ってるかわいいとはまた違った一面のかわいさを写真や記事にすることで、モデルさんにこんな私もいいかもって思ってもらえたらいいかなと。
ご協力していただいているぶん、そういった価値の提供ができたらいいなって思いますね。言葉で説得するんじゃなくて、撮影までのプランニングや撮った写真を見てもらうなかで、「あ、私、他人から見たらこういう角度でかわいいんだ」って自分で気づいてもらって、「これもいいな」って思ってもらえたら理想。撮影も、事前にモデルさんにインタビューして、その人にあった撮影を組んでいます。
モデルさんのこともすごく考えられてるんですね…!
今の見た目だけじゃなくて、「なりたい!」を聞いてそれに沿った見せ方をすることを、モデルさんにも価値として提供したいと思っています。例えば「ナチュラル系」と見られる方の「ゴスロリを着てみたい!」を叶えるとか。
え〜!
それから、結局私たちの考えに戻ってしまうんですが、「アンニュイ」って評価されるモデルさんがインタビューで「根は結構、ふわっとしてるんです」って言ってくれたりとかして、そういう面も見せたらもっと魅力が伝わるなと思ったら衣装とか撮影場所とかを変えてみたりして。「パッと見」を生かすだけじゃなくて、モデルさんの中身がわかるようなブランディングをして写真を撮るように気をつけてます。
次の『東大美女図鑑 vol.14』、表紙が人じゃないんです。これは初でしたっけ?