お久しぶりです。ライターのメアです。
先日初めて参加したUmeeT企画会議。
(ちなみにその時クリスマスイブのイルミネーション企画への参加が決まりました)
「銀魂(編集部注:空知英秋による漫画作品。「週刊少年ジャンプ」に連載中。)で東大に入った人に話を聞きに行く」取材のライターに勢いよく立候補!
と、ここまでは良かったのですが…
そもそも「『銀魂』で東大に入った」って何?
っていうかとりあえず勉強しなきゃ入れないのに「銀魂で」って何?
筆者はプチパニックに陥りました。
でも「銀魂」を極めて東大に入ったんだから、ものすごい熱量をもって勉学に励む、輝かしい人間に違いない。
私のような新米へっぽこライターがインタビューしても怒られないだろうか。
先にリサーチをしておけば大丈夫、と「銀魂 東大」で出てきた検索結果がこちら↓
2次元の世界から飛び出したような方がヒットしました。
(まさかこちらの姿で取材を受けてくださるとは思わないので)
どんな方なのだろう、と想像しながら待っていると…
素敵、と形容するのが一番ふさわしい女性が現われました。
※上の2枚の写真に写っているのは同一人物です。
(言われてみれば確かに面影はある!!!けど!!!ちょっとびっくり!)
ということで、改めて自己紹介していただきました。
本日はよろしくお願い致します。
ーよろしくお願いします。
と、始まった取材が最終的にカウンセリング大会になるとは知る由もなかった…
早速ですけれども、今日取材に伺った理由が「銀魂で東大に入った女性がいる」と耳にしたからなのですが、
「銀魂で」というのがどういった意味合いなのか教えていただけますか?
ー私が「銀魂」にハマったのは中学3年生からです。
高校入学後、進路について考えるときに先生には「東大はどうだ」と勧めて頂いたのですが、東大を目指すモチベーションが何にもなくて。
大学は勉強するところだけれど、将来に向けて、大学で何を身に付けたいかも分からなかったんです。
どうせ大学で研究するなら好きなものがいい、といって頭に真っ先に浮かんだのが「銀魂」でした。
卒論のテーマを銀魂にしようって考えたんです。
なるほど、モチベーションの一つに銀魂を入れる。
ーそれに「銀魂」の研究や取材をするのにはある程度の大学のネームバリューは必要かな、と。
(あくまでも銀魂が主眼に置かれているんですね…)
ーあともう一つ大事なことがあって!
ほほう?まじめな理由が来るのか?
福島県出身なんですがアニメ関連のイベントは東京開催が多いんです。
あっ…(大体流れの予想がついた)
下手するとチケット代よりも往復交通費がかかってしまう。
だから大学は絶対東京に出るって決めてました。(笑)
うん。だからそれも銀魂ありきじゃないか?????
ただそれで東大目指して入れちゃう時点で、一貫しすぎるその姿勢がかっこいい。
さて今年度4年生になる、ということですが、卒論では「銀魂」を扱う予定なんですよね?
ーあ、扱う予定は今の所無くなってしまいました。
そっかそっかー。やっぱり無いですよね。
え。ええええええええええええええ!!!!!!!
だってほぼ銀魂モチベオンリーで東大来て、卒論書くぞーってなってたのに
銀魂について書かないんですか???
ー卒論を書くにあたって、私は銀魂の何が結局好きなんだろうって考えてたんですけど。
作者の先生が一番好きなんじゃないかと思えてきたんですよ。
でも、空知英秋(編集部注:漫画「銀魂」の作者)論については、もう書いちゃったんですよね。
そこで満足しちゃったんです。
もう、書いてしまっただと…?
ー東大銀魂同好会という同好会で、コミケで同人誌を出したんです。
そこに自分で書いた作者論を載せたら「あ、やりきったな、満足だ」となってしまって。(笑)
満足するのはやっ。
なので、3年次に課されるゼミ論文(編集部注:卒業論文の下積みとしての位置づけ)では「コスプレ文化」について書きました。
じつはイベントなどでは、「公共の場でコスプレをして来てはいけない」というルールがあるんです。
でもたとえば大学の講義にコスプレしてくることは誰も禁止していないのに、してはいけないという不文律がある。
ゴスロリなどのファッションが許容されるこの時代に、コスプレへの不文律が存在するののって、何か文化的背景があるのではと思ってこのテーマを取り上げました。
卒論では、コスプレを通じて、アクティブに自分で何か表現する人たちに興味が湧いてきたので、そのようなことについて書こうかなーと。まだ考え中ですが。
※編集部追記:湯田さんは最終的に「銀魂のコスプレ」に関する卒論を執筆されました。
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ここまで少し変わってきたとは言え、湯田さんはご自分の好きなことを貫いてきたのだなという印象を受けました。
就職に関しても、銀魂は譲れない要素なんですか?
ーもちろん銀魂への憧れはありますが、もっと広く、こういったコンテンツに携わる人を支える仕事をしたいと考えています。
コミケ(編集部注:世界最大級の同人誌即売会であるコミックマーケットの略)でボランティアスタッフをやっていて、すごく楽しくって。
3000人ものスタッフがやりがいを感じて仕事を楽しめるのは、組織の中心にいる方たちが皆のことを考えて運営してくれてるからだと気づいたんです。
そうしたら、表に出る人も裏方仕事の人も、そこで働くすべての人が楽しくいられる環境を作りたいという将来の夢を見つけました。
でも自身もコミケで同人誌を発行されてると言ってましたよね。そういう制作系の仕事をしよう、とは思わなかったんですか?
ー自分で作るのは楽しいし、大好きなんですけど。得意じゃないんです。
コミケとか行っても自分より格段に上手な人って何人もいるし。
間接的に好きなことに関わるコミケスタッフを経験して、例えばそういった制作者のような方達を支える仕事の方が自分に向いてるんじゃないかって思ったんです。
「銀魂が好き」という、夢見がちにも思えるスタート地点からでも、しっかりとした将来の夢を描けるんですね…。
将来の夢が見つけられない私も見習いたいものです。
具体的にはどのような業界を目指してらっしゃるんですか?
エンターテイメント業界やホスピタリティ業界ですね。企画やサービスを作る人になりたいんです。
もっと具体的に言ってしまうと、舞浜にある某テーマパークとか。(笑)
ああ、あのネズミの。
ーあそこで働いてる方々って、アルバイトの皆さんもとても楽しそうじゃないですか。最初に現場に出るのが多いのも向いてるかな、と思ってます。
…このインタビューを受けた当時、湯田さんはそういってほほ笑んでいた。
ちなみにそれから何か月も経った今、原稿の確認も兼ねて湯田さんにご連絡すると、「全然違う方向に進むことになりました」と、さらっと笑顔で言ってのけていた。
さすがの軌道修正力である。
「人の心を動かせる」「自分が消費者側だともの足りなくなってしまう」エンターテイメント。
それだけは、どうしても譲れない軸として、持ち続けてましたけどね。
…そんなしなやかな強さも、健在だった。
銀魂が好きな気持ちに正直にあり続けながらも、「銀魂」自体には固執しない柔軟さ。
それでいて自分の好きなことは曲げず、大学での勉強や就職の方向付けにおいて、興味のある分野とうまく融合させていく姿勢。
かっこええわ。
ただのオタク(失礼)かと思って身構えてたけど別の意味で身構えておいた方がよかった…。
なんだか聞いていると、高校1年生の時の湯田さんの夢からものすごい変遷を辿って来ている気がするんですが…
将来の夢、変えるのって怖くないんですか?
ー常にこれでいいのだろうかということは考えています。
卒論のテーマだって、高1の時に宣言したものから変えるのには抵抗がありました。
でもお話ししたように、「やりきった」と思えると満足しちゃうんですよね。
もし何もしないで卒論のテーマを変えていたら、もっと迷っていたと思います。
でも同人誌を書いて、「好きな先生の作家論を書いた」と思えたからこそ、引っかかっていたところがなくなったんです。
満足して後悔がないのって、大事ですよね。
今こうありたいと思うことについては後悔のないようにやりきりたい、と思っています。
自信を持って言い切っているお姿が純粋にため息が出るほどかっこいいです。
なんか、失敗したことなさそうというか、常にすごいんですね、湯田さんって…。
ご自分の中で一本確実な芯みたいなものがあって、
そこからブレないように考え続けていらっしゃる。
ーそんなことないですよ。振り返ってみると、すごく些細なことなんですけど後悔していたこともあります。
もともと人前に出るのが好きで、小さい頃はミュージカル俳優に憧れてました。
でも、好きな劇団の女優さんの経歴を見ると、皆さん幼少期からバレエとかを習ってたり、子役として活躍されてたり。私にはそういう下地がないから、その夢を追うだけ無駄だって諦めてた……いや、自分に言い聞かせてたんです。
そのことにすごく負い目を感じていたし、コンプレックスになっていました。
そんな中、まるきゅうProjectでやったミュージカルの再現企画に参加したことが、思いがけない転機になりました。
ーまたここで満足しちゃいましたね。
自分はやっぱり、生身の人間同士が汗をかきながら創りあげる舞台っていう空間が好きなんだな、って忘れかけていた感覚に気づかされました。
完全にやりきったのかと言われたら、たぶんそれは違うんですけど、少なくとも後悔を無理矢理成仏させる程度には!(笑)
またやりきって満足してますね…
なにかやりたい、と思ったことを自分が納得するまでやりきる過程で、大変なことはありましたか?
ー念願かなって東大で自分のやりたい研究をしていますが、これもなかなか大変です。
私の好きなことって基本サブカルチャーに寄っているので、研究するにもきちんとした文献がないんですよね。
そんなことを論文として書いて、ちゃんと認められるのか、みたいな不安はあります。
でも文献がない中でどうやって研究していくか、考えることを諦めるのも違うと思うんです。
今の状況の中で、目標達成に向けてどうアプローチしていくかは、いつも考えています。癖みたいなものですね。(笑)
やりたくないことにも、好きなものをねじ込んだら、やりたいことに曲げられるんです。
そういうことは得意かもしれないですね。自分に近付けて考える、みたいな。
なるほど。なんだか湯田さんが人生の伝道師のように思えてきました。
このままカウンセリングしてもらいたい気分です。
ーははは笑
就職についても同じです。
銀魂は、私の人生を変えた作品ですが、それに携わることを目指すのは、なんか違うかな、と思っていて。というのも、原作はクライマックスを迎え、実写映画化も果たされ、私の中ではある種完成されたコンテンツでもあるんです。
じゃあ自分は何がしたいのかって考えたときに、誰かにとっての「銀魂」、つまり人生に影響を与えられるようなコンテンツ創りに携われないかな、って思いまして。
クリエイティブなことはできないけど、そういう種を見つけて、いろんな媒体を通して多くの人の心に働きかけるようなことができたら、すごい楽しいんじゃないかなって。
それが、今私がやりたいことです。
半年前はこんなこと全然考えてなかったので、半年後には変わってると思うんですけど。
いやもちろん、何らかの形で銀魂という作品に携わるチャンスがあったら、もうそれは何が何でも飛びつくんですけどね。
だからこそ、就職活動に際して、「銀魂」ということに固執しなかったのだという。
もちろんひとりのファンとして、銀魂への気持ちが失せたわけではありません。
消費者としての好き、を追求していったらいつかその気持ちが失われてしまうかもしれないという怖さはあるんですが、それでも今の好きっていう気持ちに正直でいたいんです。
周りが湯田さんに対して抱きがちな「湯田さん=銀魂」というイメージに抗うこともせず、そのプレッシャーのなかでもご自分を強く持たれている。
そして生まれるそのアプローチの柔軟さ。
勉強になります!
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個人的なことで申し訳ないんですが、私、進路について悩んでるんです。
そういう人に向けたアドバイスなどがあれば教えていただけると…!
ー大学は色々な人との出会いの場だと思います。私が「コスプレ文化」で論文を書こうと思ったのも、駒場時代に、ゼミでお世話になった先生に助言していただいたからです。
私は高校時代、東大入学をゴールに据えていました。その結果当たり前ですが、入学という目標を達成してしまった後、自分がなにをしたいのかわからなくなってしまって――。
―ガス欠になってしまったと。
そうなんです。でも実は、サークルやらコミケスタッフやらで多くの出会いがあって、授業内外で経験したことがすべて、自分の方向性ってものを形づくっていたんですよね。それに気づくまでが結構しんどかったんですけど。
例えば学問に関してなら、幅広い分野で優れた先生が案外近くにいるから、魅力的な先生でも面白そうな分野でもなんでも、何かに興味を持つことができればいいのかな、と思います。
それが思いがけない形で次の出会いにつながるものですし。
たくさんのお話、ありがとうございました!
なおこの後筆者がインタビューではなく真剣に相談を始めたのは言うまでもない。