「【東大生が全力解説!】「バカッター」から考えるWeb炎上【ポッキー炎上事件に添えて】」のサムネイル画像

【東大生が全力解説!】「バカッター」から考えるWeb炎上【ポッキー炎上事件に添えて】

2015.12.30

年末大炎上スペシャル!

ポッキー爆買い東大生が炎上に物申す!

ポッキー爆買い東大生が炎上に物申す!
ネタ
ポッキー爆買い東大生が炎上に物申す!
田中マルクス
田中マルクス
2015-12-29

に添えて、そもそもWeb炎上はどうして起こるのか?という謎に、東大院生が迫ります。今年何度も話題になった「バカッター」に注目した解説、一読の価値ありです!

学生証
  1. ペンネーム:mlmさん
  2. 所属:東京大学大学院

■「バカッター」から考えるWeb炎上

「Web炎上はなぜ起こるのか?」という問いに対して,あなたならどう答えるでしょうか.

Web炎上の原因は,多くの場合,発端となった文章や画像を投稿した人の「見られたいという欲望」や「承認欲求」に求められます

しかし,この種の議論は,ただ陳腐であるだけでなく,Web炎上の重要な側面を見落としており,また,ソーシャルメディア時代の倫理,つまり,私たちが「つながりっぱなしの日常」をどのように生きるべきかを考える上で,大きな障害となります.

この記事では,2011-2014年に流行した「バカッター」という事例を通して,Web炎上という現象をより俯瞰的に見るための視角を提供しようと思います.

「バカッター」とは,2011年から2014年にかけて群発的に発生し,特に2013年に大流行した一群のWeb炎上を指す呼称です.個々のケースについては後ほど詳しく説明しますが,おおむね共通しているのは,「若者が迷惑行為をTwitterにアップロードすることから炎上が始まった」ということです.

■「バカッター」が目指したもの

手始めに,「バカッター」において,なぜ炎上が起こるのか,そのメカニズムについて考えます.ここで,2つの代表的な「バカッター」事例を紹介しましょう.

1つ目の例は,2013年7月23日に京都府で発生した「ミニストップ業務妨害事件」です.この事例では,男子高校生がコンビニエンスストアのアイスケースの中に寝転がるという衝撃的な写真がTwitterに投稿され,大きな反響を呼びました.

この事件はインターネットの内部で完結せず,朝日新聞(2013.7.26・9.6・9.7・11.16),読賣新聞(2013.7.26・9.6),毎日新聞(2013.7.26・9.6・11.16),日本経済新聞(2013.9.6),日経MJ(2013.9.11)等の有力紙にも取り上げられました.

この高校生は威力業務妨害で警察の取り調べを受けることになりますが,彼は「面白半分だった」と供述したそうです.

http://oshiete.goo.ne.jp/qa/8192117.htmlより

2つ目の例は,2013年8月13日に愛知県で発生した「スシロー業務妨害事件」です.この事例では,若年の男性が回転すし店のテーブルに設置された醤油差しをそのまま直接口につけて飲んでいる写真が投稿され,先ほどの例と同様に大きな反響を呼びました.

この投稿には写真と共に「この人醤油のんでる。やだ。こわい。笑」という文章が添えられていました.

ここで注目したいのは,アイスケースに入った高校生も、醤油差しを直接吸った若者も、それが「面白い」という前提で画像を投稿しているということです.

1つ目の事例では「面白半分だった」という供述が,2つ目の事例ではツイートの末尾に「笑」という記号が入っていることが,そのことを示唆しています.

具体的には記しませんが,他の多くの事例でも,「w」や「ウケる」等,笑いという感情を示す記号が添えられています.「バカッター」を考える上では,「笑い」が一つのキーワードとなります.

恐らく,この記事を読んでいるほとんどの人は,コンビニのアイスケースに寝そべったり,回転すし店の醤油差しを咥える写真を見て,「面白い」と思うよりも,むしろ「怒り」や「呆れ」といった感情が喚起されるのではないでしょうか.このことを念頭に置いて,次は,こうした画像は,誰のために投稿されているのかを考えることにします.

[広告]

■誰のための「バカッター」?

「そろそろ寝よ( ̄▽ ̄)/今日の1枚♪( ´▽`)/てっちゃんは先出て行ったからおらんけど(笑)」(店内のアイス用冷凍庫に頭を突っ込む画像)

「楽しかった!!いつも俺の顔怖いな(つД`)ノどーにかなんねーかな笑耀くんおめでとうございます(o^^o)」(男女全裸で飲酒する画像)

http://michaelsan.livedoor.bizより

前者は2013年7月30日に大阪府で発生した「コンビニ業務妨害事件」,後者は2013年8月10日に発生した「高校生飲酒公開事件」(場所未特定)の発端となった投稿です.

この2つの投稿に共通しているのは,先ほど指摘したように,笑いを示す記号が含まれていること,そして,どちらも人名を含んでいるということです.

前者では「てっちゃん」,後者では「耀くん」がそれに該当します.固有名がツイートに含まれているということは,これらの投稿が,限られた仲間内,その固有名を知っている人びとに向けられたメッセージであるということを示唆しています

■ネタ・コード

ところで,「何を面白いと思うか」の基準は,決して時間的・空間的・社会的に不変ではありません.今年,東京大学界隈を賑わせた「東大生ポッキー炎上事件」の当事者となった学生は,「ノリ」という言葉で表現していましたが,その場の状況で,「何を面白いと思うか」は全く異なります.また,その人がどのような属性を持った人物かによっても,「何を面白いと思うか」は規定されます(ちなみに,私自身はポッキーを1111箱買うことは全く面白くないと考えています).

ここで,「何を面白いと思うか」という基準・規則を「ネタ・コード」と名づけておきます.前節で2つのツイートを紹介しましたが,両者は,同じネタ・コードを共有した仲間内でのウケを志向した投稿であると解することができます.

仮に,ネタ・コードを共有した者の内部で,コミュニケーションが完結したとすれば,「バカッター」は大きなWeb炎上には発展しないはずです.限られた仲間内で,友人の悪態を単なるネタとして笑い合えば,それで終わりです.

しかし,例えば,高校生がアイスケースの中に入っている画像が,ソーシャルメディアを介して,ネタ・コードを共有していない人びと,つまり,それをネタとしては見ない人びとに届いてしまったら,どうなるでしょうか.

多くの場合,そうした投稿に対して,Twitterで非難のリプライが飛ばされたり,2ちゃんねるでツイートが晒されたりするはずです.さらに,「バカッター」に対する2ちゃんねるの反応を編集した「まとめサイト」に対してコメントが寄せられることもあるでしょう.

このように,常に「ズレ」を生じながら進行するコミュニケーションの連鎖が,Web炎上を総体として作り上げることになります.仲間内でのウケを志向した投稿は,いつの間にか見知らぬ人の義憤を生み,その義憤がまた別の人にとってのネタとなり・・・.

炎上.

膨れ上がったコミュニケーションの連鎖は,やがて投稿者の身元を特定する等,極端な行動にまでエスカレートしていきます.Web炎上でとりわけ問題になるのは,無秩序で過剰な制裁です.

確かに,炎上の発端となったツイートの投稿者が法を犯している場合,それに対しては何らかの制裁が加えられるべきでしょう.

しかし,正当な手続きを踏むことなく行われる,身元特定や大量の誹謗中傷は,果たして正義に適っていると言えるでしょうか

[広告]

■コミュニケーションの素材としての他者

 上述したようなコミュニケーションの連鎖が起こる背後には,ソーシャルメディアのアーキテクチャ(構造)の問題があります.ソーシャルメディアには,コミュニケーションを誘発する様々な装置が整備されています.

例えば,Twitterでは,いいね!やリツイートの数が表示されますが,これは,その数を一つの報酬として「注目されるような投稿」をする欲望が喚起されるような仕組みであると言えます.

アイスケースの中に入る高校生という存在は,それが笑いという形を取るにせよ,怒りの表明という形を取るにせよ,新たなコミュニケーションのための格好の材料となります.そこで他者は,コミュニケーションに好都合な,単なる素材に堕してしまいます.

Web炎上では,投稿者のプライバシーが軽視され,身元や顔写真が流通することが少なくありません.このような現象は,人間が単なるコミュニケーションのための材料として扱われていることを例証するものではないでしょうか(もちろん,炎上の発端となるツイートについても,人間を単なるネタ化のための素材として見なしていない場合が少なくありません).

■Web炎上をめぐる誤解

冒頭でも申し上げた通り,Web炎上をめぐっては,発端となった文章や画像の投稿者が持つ「見られたいという欲望」だけが原因として語られがちです.

しかし,先ほどWeb炎上はコミュニケーションの連鎖だと書きましたが,もし,アイスケースの中に入った高校生が「見られたいという欲望」に支配されているのならば,「見られたいという欲望」に支配されているのは,私たちの側でもあるのです.

それは,私たちもアイスケースの中に入った高校生のように晒されるリスクが常に存在する,ということを意味するのではありません.

義憤の表明であれ,達観したコメントであれ,それが単なる独り言としてではなく,誰かに向けられたメッセージとしてWeb上に放たれる以上,アイスケースの中に入った高校生をソーシャルメディア上で言及する私たちもまた,その瞬間,「見られたいという欲望」に絡め取られ,コミュニケーションの連鎖としてのWeb炎上の当事者と化しているのです.

最後に

「Web炎上」という言葉それ自体について言及しておきましょう.この呼称は,実は非常にミスリーディングです.本来,「炎上」という言葉は,一義的には自然現象を指しています.

しかし,「Web炎上」は,決して自然現象ではなく,紛れもない社会的現象です.つまり,激しい反応を誘うような投稿をしたり,その投稿に対して非難を浴びせたり,その非難に対して再び非難を加えたりするのは,あくまで私たちであるということです.

もちろん,「アカウントに鍵をかけない」等,炎上の発端となる投稿者側のリテラシーの低さも,炎上の原因の一つです.しかし,これだけを強調すると,受け手側にも遵守すべき倫理があることが見失われてしまいます

ソーシャルメディアを使用する一人一人が,大きな炎の一部(それは常に火種であるとは限りません)になりうることを肝に命じることが必要です.Web炎上とは決して自然災害のようなある程度は不可避なものではなく,私たち個々の配慮によって,食い止めることができる代物なのです.

そのためには,「炎上の先に何があるのか?」に思いを馳せる,ほんの少しの想像力さえあれば十分だと私は考えています.

この記事を書いた人
筆者のアバター画像
mlm
はじめまして! mlmです。UmeeTのライターをやっています。よろしければ私の書いた記事を読んでいってください!
記事一覧へ

こんな記事も読まれてます