「最新鋭のヨットは、海上をいかに早く走るかを追究した結果、船体が水面から浮き上がり、ヨットが浮いてるように見えるんです。これは船体と水との抵抗をぎりぎりまで抑えるための工夫の結果なんです。」
そう語るのは、東大ヨット部から世界へと飛び出した、法学部4年の宇佐美翔大さん。運動会運動部を入口としながらも、自分にしかできない選択をし、独自の道を歩んでいく彼の挑戦を語ってもらいました。グローバルを目指す東大生に贈る、もう一つの「グローバル」論、はじまり、はじまり。
長きにわたる運動会報コラボの連載もついに終わりを迎えます。フィナーレを飾るのは、東大から世界へ飛び出した宇佐美さんの物語。
挑戦する人を応援したい、そんな想いでインタビューに応じてくださいました。
運動会運動部を入口としながらも、自分にしかできない選択をし、独自の道を歩んでいく彼の挑戦に迫ります。
-こんにちは!早速ですがいろいろ聞いていきたいと思います。まず、今なにをしていらっしゃるのか教えていただけますか?
レッドブルユースアメリカズカップ(Red Bull Youth America’s cup)というヨットレースに挑む、「海神チームジャパン」という団体に所属し、そこの選手をやっています。
このレース近年日本でも開催されているエアレースなどと同じエクストリームスポーツに分類されるもので、非常に過激で、スリリングなスポーツですね。海を漂い、ゆっくりと進んでいく、いわゆる一般的なヨットのイメージとは全く異なります。
そしてこの、Red Bull Youth America’s Cupという大会は、19歳~24歳までの若手セーラーのワールドチャンピオンを決める大会で、その後に続くオリンピックなどプロへの登竜門とされています。
-いきなりスケールが大きいですね笑 どんなヨットに乗ってるんですか?
日本にはないので笑、公式の動画しか見せるものないんですけど、こんな感じの船です。普段これとおなじのに乗ってトレーニングしています。
youtube https://www.youtube.com/watch?v=Wxd__t0hxbk
youtube https://www.youtube.com/watch?v=xXWGSvJRACE
動画はYoutubeTMのアメリカズカップ公式チャンネルからお借りしました。
-知ってるヨットと違う… これ、空飛んでません?(笑)
あ、そうなんです。僕がチームで乗ってるヨットは、海上でのスピードを追求し続けた結果、船体と水の抵抗を減らすための工夫で船体が船から浮き上がり、ヨットが浮いているように見えるんです。
-はい( ̄□ ̄;)!!??
…浮いてるんです笑笑 この状態を私たちは「フォイリング」と呼んでいます。
-フォイリング…
ヨットというと、東大の山中寮とかに夏行くと乗せてもらえたりするじゃないですか(※)。そういうイメージしかないんですよね。
※東京大学運動会が所有する山中湖畔の寮、山中寮では、夏期開寮の時期にヨット部員がお客さんをヨットに乗せてくれるのです。
あれとはどれくらい違うんですか?乗り方とか。
普通ヨットは風の力を使って進むので、速度は風よりはもちろん遅い、ということになります。ですがこういう船になると、さっき言ったようにスピードを追求した結果船が浮いているので、水面との抵抗がなく、風が吹けば吹くほど加速していくので、最終的には風の速さを超え、風速の約2.5~3.0倍近い速さになります。
-…すごくないすか。
それでこの船は風よりも速いので、ちょうど自転車で加速していくのをイメージしてもらうと分かりやすいですが、自分が進めば進むほど常に風が前からバーッてくるんです。
どんな走り方をしても追い風になることがない(笑)
普通のヨットと違って楽できる場面がない。なのでキツいです。常に向かい風の人生を歩まなければいけないんですね。
-…うまいこといいますね。
あとはやはり大きさが違いますね。
これは全長10m、高さが20mくらいあります。まるでプールが縦になったようなイメージの大きさですね。帆の大きさが人にかかる負荷に比例するとすると、ヨット部で乗っていた時のヨットに比べ、1人当たりの負荷は5~10倍くらいになると思います。
-人が小さい…
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-どうしてまたこんな道を?
ヨットは大学に入ってから始めたんですが、ふとしたきっかけで、誰でも出場可能な若い選手のみの大会で、運よくベスト8まで進んだんですね。
しかもこのレースで使用した船が、先ほどの空飛ぶヨットの小型版で、ここで初めてフォイリングを体感しました。そのときの感動は今でも昨日のことのように覚えています。
しかもそのとき周りにいたのはユース世代の有名な選手ばかりで、本当に輝いて見えたんです。しかもそうした若手の選手が、現在は日本の代表として世界で戦っているんです。
自分はヨット部でも練習は頑張っていたっていう自負もあり、彼らと同じように、本気でヨットをやってやろうって思って、思い切って休部して、日本代表のトレーニング拠点がある江の島で一人活動を始めました。
とはいえ、本気でヨットに向き合おうにも一人ではどうしてよいか全く分かるはずもなく途方に暮れていたところ、ナショナルチームの人たちが「一人でやるくらいなら一緒にやろうよ」って声をかけてくださり、それから一緒に練習させていただくようになったんです。
一緒に練習するようになってきて約半年、やっとレベルが上がってきたかなと思っていたとき、転機が訪れたんです。
-その転機とは、何だったんでしょうか?
大学二年の冬、先ほどのGC32という最新鋭のヨットを日本人のオーナーが購入し、外国人のプロの選手を連れて、国内でトレーニングを始めたという話を聞きつけました。
そこで、「どうしても乗ってみたい、もう一度あの海を飛ぶ感覚を味わいたい」と思い立ち、すぐにチームのベースへと足を運び直談判しに行ったんです。
-行動力がすごいですね。
ありがとうございます笑
最初の頃は単純にお手伝いような形でチームに関わっていたのですが、その折に初めてユースアメリカズカップの存在を知り、自分もいつかその大会に挑戦したいと強く思うようになり、セーリングだけでなくハードなフィジカルトレーニングにも励むようになりました。
その後日本チーム発足と、クルーの選考会を行うことが発表され、迷うことなくすぐに応募しました。その選考会を通過して、今に至るといった感じですね。
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-現在チームではどのような立ち位置にいるのですか?
現在は選手と併行してチームのマネージャーという役職についていて、主にチームのスケジュール管理や、財務、PRを担当しています。今のプロジェクトで「東大生らしさ」が出せるとしたらこの分野くらいしかありませんね(笑)
これまでの人生では考えられないほどの世界レベルの大きなプロジェクトで、それに携われることにすごく興奮しています。
…ただ、日本チームなのに外国人が多いので、英語が公用語になってます。英語できない自分としてはつらいです笑 苦労する場面ももちろん多いですね笑
-マネージャーとしてはどんなことをしているのですか?
一番大きな仕事はチームへのスポンサーを獲得することですね。
海外での活動を主とし、多くのレースに出場するにあたっては当然多額の資金が必要になるので、スポンサー獲得が不可欠になります。特にヨットの世界では資金力はセーリングのスキルや経験値に大きく影響してくるんです。大会で結果を残すことを目標としている以上、こういったところにもすごく気を遣っています。
また、山中寮にあるような小さいヨットなら体格の小さい人でも乗れますし、むしろ軽いほうが有利だったりするんですが、このGC32というヨットはいかんせん大きいので、体が大きくないと乗りこなせないんです。でもそんなに体の大きなセーラーはなかなか日本にはいないので、海外の日本国籍を持ってる乗り手を探して、チームを構成しています。
-でもメンバーの中にはヨットをやったことがない人もいると聞いたんですが。
その通りです。従来のヨットの常識が通用しないスケールの船なので、「ヨットの世界で」、というよりも、単純にアスリートとして優れている人をチームに加えています。皆ボート競技や、ラグビー、アメリカンフットボールなどの世界で活躍してきた選手ばかりです。予想以上に彼らのヨットレースの吸収が早く、その成長の速度に日々驚いています。
-なるほど。
冒頭でもお話ししたRed Bull Youth America’s Cupという大会が、今年の6月、大西洋に浮かぶ絶海の孤島・バミューダで開催される予定で、今は基本的には現地で練習してます。
チーム本隊は昨年12月からすでに現地入りし、調整を行っています。私の最終目標としている大会であり、日本として、また、アジアの国として初めてこの大会参加することもあって、このチームの一員であることを本当に誇らしく思います。
今回のユースアメリカズカップで初出場、初優勝というのが理想ですが、ヨーロッパやオセアニアの強豪ひしめくこの大会、そう甘くはないと思います。たとえ今年勝てなかったとしても、その次の大会では絶対に優勝したい。
このチャレンジを今回だけ終わらせることのないよう、日本の次世代のセーラーたちへバトンを繋げることが私の使命だと思っています。
-そこまでの熱意、すごいです。その源はなんですか?
やはりヨットそのもの、ヨット競技が好きだからだと思います。
-そうなんですか。ヨットを好きになったのはいつ頃なんですか?
ヨット部時代は練習が大変だったりで、むしろ部の雰囲気が好きだったのが大きかったです。ヨットそのものが本格的に好きになったのはやはりこういう活動をしてからですね。
特に、この競技はエクストリームスポーツとされるだけあって、非常にスリリングでその速さゆえの楽しさがあります。
もともとジェットコースターなど速い乗り物が好きなんですが、このヨットの感覚はちょうどジェットコースターの上を走り回っているような感覚ですね。
実際の速度は80km/hくらいなんですが、向かい風だったり海面が近かったりするので体感速度は三倍くらい、数字で言うと200~300km/hくらいだと言われています。
-話だけ聞くとちょっと怖いですね笑 他のスポーツと比べてどんな点が特徴的なのでしょうか?
私は高校まで続けていた柔道は、対人競技ゆえ感覚に頼ることが多く、どうすればもっと強くなれるのかがはっきりしないのでストレスを感じていました。
しかし、ヨット競技はボートの性能や乗り手自身の体格体力など、レースで勝つための様々な要素があり、それら一つひとつを磨いていくことで日々自分が成長できるんです。
伸ばすべきところをリストアップしやすい、という感じですかね。もちろん風や潮の流れ、気象の変化などを感じる力も必要ですが、経験の少ない私を他のメンバーがカバーしてくれています。チームスポーツだからこそのなせる業ですね。
このときにこの人がこうするのが何秒遅れたからこの動作がうまくいかなかったというように、ミスの原因が分析ではっきりわかるというのも特徴的で、日々これらを改善していくことで成長を感じられるのも有意義です。とはいえまだヨットを始めて三年目とかなので、伸びてないと困りますが汗。
-なるほど。ところでヨット部のほうはいまは休部中ということですが、今後の予定などはどうするんですか?
そのバミューダの大会が終わって、今のキャンペーンに一区切りつくので、そこでヨット部に復帰しようかと考えています。
この一年以上世界レベルの選手と一緒に練習して学んだ技術や感覚を、部に還元したいですね。なかなか伝えるのは難しいと思いますが、そこを乗り越えて、ヨット部悲願の全日本の舞台へチームを連れていくのが僕の使命だと思います。毎年あとちょっとのところで壁を越えられずにいるので、その壁を超えるのに貢献できれば嬉しいです。
と、偉そうなことを言っていますが、今乗っているヨットとヨット部で使うようなヨットはあまりにもかけ離れているので、ヨット部に戻って活躍できるとは限りませんが…汗
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-笑。それでは世界を見た東大生として、ぜひその経験をお聞きしたいです。
こうした欧米系の競技であっても、日本人として十分戦えるな、という手ごたえを感じています。今の私たちのチームでこのまま活動を続けていけば、日本人だけのチーム構成でアメリカズカップ本戦に挑戦することも夢ではないと思っています。
(バミューダの次の)大会ではひょっとするとマネージャーに徹しているかもしれませんが、とにかく今のチームで勝ちたい。優勝したい。そう考えています。アマチュアではありますが、ある種のプロ意識のようなものは持って今回のキャンペーンに臨んでいます。
そのために半年間の休学を考えていて、その期間をこの優勝にかけてみたいと思っています。所属した恩を、結果として返せればいいなと思っています。
-応援しています! ところで、これに参加するにあたり東大生であることでよかったことはありますか?
実は僕の10こくらい上の人で、東大ヨット部OBで今もオリンピックを目指して活動している人がいるんです。
-そうなんですか!? 初めて知りました。
その人は医学部の首席であるにも関わらず、人生をヨットに捧げているんです。
-ちょっとすごすぎませんか笑
何度か僕もお世話になっているんですが、スペックがおかしいです笑
その人があまりにも有名なので、僕がこういったチャレンジをするにあたり、東大生がこんなことを頑張っている、と理解してもらいやすくはなっていると思います。
あとは初めて会った人と会話するときに東大生という肩書は信用してもらいやすいですし、この活動とはあまりにもギャップが大きいので最高のネタにはなります(笑)
-最後に、記事を読んでいる人へのメッセージをお願いします。
なんでもいいですが、一つやりたいことを見つけたら、日本でも世界でも、その道のトップを目指してほしいと伝えたいです。最近はオリンピックに出るような選手たちと一緒に行動を共にしていて、彼らはすごいと思う場面がいっぱいあるんですね。例えば、生活スタイルです。彼らは生活のすべてを勝ちにつなげようとしています。
本当に無駄がない。
明日のスケジュールが決まってないとか、一か月先のスケジュールが決まってないとかっていうと、「なんだそれ」と軽く怒られるんですね笑
ヨットという競技の特性上、風が強いであったり、視界が悪いであったりで練習ができなくなってしまうことがあるんですが、それを踏まえてスケジュールを何通りも用意しているんです。例えばプランAからプランCみたいな感じで、海上から陸上でのトレーニングに切り替えるとか。
「オリンピックから次のオリンピックまで四年間しかない」と肝に銘じ、今の一日とオリンピック直前の一日に同じ重みがあると思って生活してるんです。
-すごっ。私も東大受験のときに同じような言葉を聞いたことがあるような(笑)
ですよね。そんな彼らでもよく、「時間がほしい」って言っているんです。I want time.とかWe can’t buy time.とかって。そんな彼らをみて、自分も無駄のないように、と日々心がけています。
もちろん彼らも遊んだりとか、たまにゲームしたり、ずっと寝てたりとかもしてます。彼らにとってそれが意味を持てばいい。自分の一日に意味を見出すことが大事だと学びました。
東大生といえど、そこまで一日一日に意味を見出して、大切にしながら日々を送っているって人はなかなかいないんじゃないでしょうか。
-耳が痛いですね…汗
第一線でやる人ってやっぱり、みんな時間は平等なんだから、その中でいかに充実してやれるか、ということに重きを置いているんですよね。
-なるほど。
でもトップを目指したい人、目指している人は結構いると思うんですけど、チャンスの問題もあると思います。踏み出したいけど、時間がない、お金が不安、学校は、単位は…、というような理由で思いとどまってしまう人もいるんじゃないでしょうか?
本当にやりたいっていう気持ちを示せば、周りは理解してくれると思うから、ぜひチャレンジしてほしいと思います。ですが逆に、踏ん切りがつかないで迷うようなら、少し強い言い方ですが、やらない方がいいと思います。挑戦には犠牲も伴いますからね。
犠牲を伴うというのは、その人も気にすることだと思いますが、全力でやりたいという思いがあれば、その熱意は周囲に伝わるはずです。挑戦するだけでも意味のあることですし、僕はそんな挑戦する人は本当にすごいと思います。
仮に失敗したとしても、意味のあることなので、踏み出すだけでも評価に値すると思います。チャレンジする人に変な人はいませんしね笑。少なくとも僕は評価したい。
本当にやりたいことであれば、それだけの価値があることだと思うので、どんな犠牲を払ってでも、ぜひ挑戦してみてください。
僕自身、「人生は一度きり」
あとで後悔することのないようにして日々挑戦を続けていきます。
-宇佐美さん、ありがとうございました!! 宇佐美さんと海神チームジャパンの挑戦、心から応援しています!
海神チームジャパンオフィシャルHP:http://www.jsaf.or.jp/kaijin_japan/index.html
海神チームジャパンオフィシャルFacebook:https://www.facebook.com/kaijinteamjpn/
Red Bull Youth America’s Cup http://red-bull-youth.americascup.com/
※記事内写真は海神チームジャパンのHP・Facebookより、または本人提供のものより、動画はアメリカズカップのYoutubeTMチャンネルよりお借りしました。
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いかがだったでしょうか。宇佐美さんの挑戦、ぜひ応援したいですね!!
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さて、今回を持ちまして、全8回にわたるUmeeT×運動会報コラボの連載は終わりになります。楽しんでいただけたでしょうか。
今回の連載で、運動会に所属する各運動部の活動、また、一番最初の記事でお伝えした、運動会そのものの活動に関心を持っていただけたら、我々としてはこの上ない喜びです。
また、運動会総務部では、今回のような広報活動をはじめ、様々な活動を展開しています。総務部に関心を持った方はぜひご連絡ください! 記事の感想もぜひどうぞ!
もちろん関心を持った各部の活動に参加するのもいいですし、今回紹介した8つの部活をはじめとする、各運動部の活躍を応援していただくのでも構いません。
同じ東大生の活躍を、東大生のみんなでサポートしてほしいと思います。
繰り返しますが(おそらく)皆さん一人ひとりが運動会員です。
ぜひ東京大学運動会というものが、みなさんに寄り添った、身近なものであるということを知っていただけたら幸いです。
それでは、また会う日まで。
(UmeeT編集部の皆様、ありがとうございました!!)