国際法研究会は、国際法で模擬裁判をやりながら世界を目指すサークルである。
新歓期には、どこのサークルも似たようなことを言う。
優しい先輩と青春っぽい合宿と各界で活躍するOBさんと、なにより最高の仲間たち。そんな世界にまっすぐ飛び込んでいければいいが、ついつい「まあそんなのどこのサークルでも同じだろ」と思ってしまうこともあるだろう。
筆者も3年前、新歓というものにどうもなじめず辟易した記憶がある。飯を奢られるばかりで肝心の活動内容がよくわからなくては、らちが明かないではないか。
わが国際法研究会に、上記のような青春らしさが欠けているというのではない(女子もたくさんいる。疑うなら新歓にくるといい)。ただ、ここでは肝心の「国際法」と「模擬裁判」について話してみたいのだ。
国際法と言っても、自衛権の発動要件といったホットな分野から宇宙開発・環境保護・人権保障といった別な意味でホットな分野まで多岐に渡る。
到底すべてをこの原稿でお話はできないので(人権法や環境法等々に興味があれば新歓で聞いてください)、ここでは少し普遍的に「国際法はどんな『法律』か」ということについて書いてみる。
国際法は、「いいかげん」な法である。
法律と聞くと思い浮かべるような膨大な数の条文と判例で成り立っているタイプのものではない。そもそも世界には、民法や刑法のように一冊の本になった「国際法」という法律が存在するわけではない。
仮にそんな素敵なものがあったとしても、それを全世界で統一的に解釈して執行してくれる機関はない。
世界全体の裁判所も(「国際司法裁判所」はあるが、韓国が竹島問題で抵抗しているように、付託はあくまで紛争国間の合意による)、世界の警察も(ずいぶん腹立たしい「世界の警察」はいるが、どうもトランプ氏はそれもやめてモンロー主義に戻したいようである)、存在しない。
結局、国際社会はアナーキー(無政府状態)であり、国際法というのはあくまで、国家が「自分たちでした約束は守ろうね」と互いに牽制し合っている状態にとどまる。そこから、次のような国際法の特質が導かれてくる。
⑴立法者は国家自身である
⑵最終的な解釈者は国家自身である
⑶適用されるのも国家自身である
そんな滅茶苦茶な、と思われるであろう。それでは法なんて無いも同然ではないか。自分たちで作った決まりを(「明日から毎日部屋片付けようね」とルームシェアの友達同士で取り決め)、自分たちで解釈し(「でも明日の昼は用事があるから、はじめるのは明日の夜からにしよう」)、自分たちに適用する(それで実際やらなかったとしても怒ってくれるお母さんはいない)。
ちなみにこのような例は気候変動枠組み条約などに典型的に見られる (自分たちのためではあるが、守ってもだれも短期的には得をしない) 。
ただここで大事なのは、だからといって部屋を片付けなければならないことに変わりはない、という事実である。いつまでも汚くなる一方の部屋に暮らすわけにはいかない。
そして、自分一人で片づけたとしても、汚し続ける友人がいる限り事態は変わらない。皆でお互いの納得できる落としどころを探しながら決まりを作って、折り合えるような形で(なんとなくでもいいから)守っていく、そうしない限り事態は前に進まないのである。
だから、「国際法は有効か」という問いは、間違っている。どこかから法律が降ってきて、とりあえずそれに従わなければいけないかのような発想がその問いの裏にあるだろう。
そうではない。「国際法は必要だ」なのである。国際法が国家を縛っているのではなく、国家が必要だから国際法を作っているのだ。もちろん必要の度合いは国によって違うし、守るための能力も違う。
より多く汚した人がより多く片付けるべきだし、掃除機を持っている人間の方が、雑巾しかもっていない人間より広い場所を掃除しなくてはいけないのは当然である。
それでも自動掃除機ルンバを持っているのに「そもそも部屋が汚れるのは自然の摂理であって俺らのせいじゃなくね?」などと抜かして掃除に参加したがらない奴とかもいて(どの国のことを言っているかお分かりだろうか)、調整はなかなかに難しい。
「いいかげん」だから楽しいのだ。世界政府があって世界最高裁判所があって一冊の分厚い「国際法」ですべてが裁かれる世界なんて、少なくとも僕は住みたくない。
いろんなルールが氾濫している中で、自分と世界にとって最適なルールを選び取って組み立ててゆくその過程こそが、一番人間らしい、スリリングな挑戦で、アーレント的に言えば”action”なのである。何か「あるべき姿」があって、そこに向かって努力するというのではない。そんな画一的なものではない。
だから国際法は面白いと、自信を持って申し上げることができる。
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活動内容たる模擬裁判についても紹介させてほしい。これは国際司法裁判所(ICJ)を模した法廷で、裁判官を前に原告国代表と被告国代表がそれぞれの法的見解を戦わせる一種の知的ゲームである。
ただディベートと違って国際法というベースになるものがあるので、入念な下調べと本番の瞬発力のどちらも必要になる。「知的」な部分を愛する人も、「ゲーム」な部分を愛する人も、どちらも楽しめるし貢献できる部分があるのがいいところ。かくいう筆者はもうお分かりのように下調べ専門だが、勝ち負けが絡むからこそ下調べにも熱が入るというものだ。
模擬裁判の成績については、「最近、けっこう調子がいい」とだけ申し上げておこう。数年前は人不足で大会に出場すらできなかったが、ここ最近部員が急増して躍進。国内大会の順位も先日の宇宙法裁判では2位まで肉薄した。
とはいえ早稲田等々に負けっぱなしではやはり悔しいし、なにより国内で1位になれば世界大会への切符が手に入る。ぜひ今年こそはワシントンDCの世界大会で結果を残したい。本気で1位を取りに行くためにも、諸君の力が必要である。
最後に、その他についても少し。
OBは豊富だ。当研究会はもともと国際法学の泰斗、筒井若水教授が自分の私的なゼミから発足させたものであり、爾来50年近い歴史を刻んできた。
模擬裁判で鍛えたロジカルシンキングの効用は抜群らしく、東大法学部の現役の教授だけでもOBが4人、教養学部で諸君が「法Ⅰ」を習うであろう早川眞一郎教授も当会のOBである。大学だけでなく官界や法曹界にも卒業生は多い。
今度の4月26日には、OBでありCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)で日本側の事務方代表を務めた水越元外務省参事官をお招きする。僕の適当な文章より絶対ためになるので是非いらしていただきたい。その他新歓は下の通り。話だけでも聞きに来てください。
【新歓日程】
4/15(金)4限後 模擬裁判実演会@駒場 その後19:30〜 渋谷で食事会
4/24(日)16時頃~(確定ししだいご連絡します) 英語模擬裁判実演@駒場 その後18:30〜 渋谷で食事会
4/26(火)5限後 OBの水越英明様(外務省出身、在外公使などを歴任)の講演会@駒場 その後21:00頃〜 渋谷で食事会
メールアドレス(新歓用) utmilc.shinkan@gmail.com
twitter: @ut_milc
そんなこんなで、国際法研究会は客観的に見てもけっこういいサークルである。
学術系サークルにありがちな女子ゼロでもないし、薬学部でありながら大活躍した先輩もいるので、理系の諸君も歓迎する(理系の専門知識と法学の素養を持った人間の稀少価値は極めて高い)。
それに、ほぼ全員兼サーであり運動部で実際に活躍している先輩もいる。
ラクロスで日本一を目指しながらでもボートを漕ぎながらでも構わないので、そのかたわら、僕らとアナーキーな国際社会に立ち向かってほしい。君の参加を待っている。