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研究成果をイラストに。東大生と美大生がタッグを組んでサイエンスイラスト事業!

2022.10.04

Zoom授業中
koi
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はぁ、Sセメの時に体感したけど、X先生は生真面目すぎて、授業はとめどなく話し続けるから聞くのが辛いんだよなぁ。なんだか近寄りづらいし、やっぱり学生が嫌いなのかなぁ。Aセメの初回はZoom授業だからまだ良いけど、気が重い。……おや?

(X先生に似ているポップでかわいらしいアイコンがZoomに表示されている)

koi
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あ、あれ。なんか可愛いぞ。講義中はいつも仏頂面なのに、めっちゃいい笑顔! 背後に数式が並んでいて、土星を持っているけど、惑星に関する研究をしているのかな。僕も高校時代は天文部で、星には興味があるし、授業が終わったらZoomチャットでちょっとだけ話しかけてみようかな……。

 ……というのは冗談で。(X先生は筆者の創作です!)以下の可愛らしいアイコン達をご覧ください!

 デフォルメされた研究者の似顔絵と研究内容を表現するアイテムが相まって、とっても魅力的ですね。これらを作成したのは、Nakajima Science Graphics の皆さん。東京大学の学生と美大生がタッグを組んで、論文イラストや研究者アイコンの作成をしています。

 今回は、Nakajima Science Graphics代表の中島佑佳さんに取材をして、活動のきっかけからその展望までを伺いました!

学生証

お名前:中島佑佳さん

所属:工学系研究科化学生命工学専攻の修士2年生

研究内容:バイオミメティックスな機能性材料開発

科学と芸術の橋渡し

――現在の活動について教えてください。

1年ぐらい前から、論文のイラスト事業をやっています。「もっと知りたいを一緒に作る」というビジョン、「考えを魅せるグラフィックを提案する」というミッションを掲げていて、8人のメンバーと共に活動しています。

 ホームページ:https://sites.google.com/view/nakajimasciencegraphics

――活動のきっかけはなんだったのでしょうか。

大学3年生の時に、五月祭でポスター発表をする機会があって、訪問した研究室の手伝いをした時に発見した面白い結果を発表をしました。せっかく五月祭で発表するので、友達を呼んで見に来てもらいました。すると、見に来てくれた友達は「へー、すごいね」と言ってくれました。

でも、そこで違和感だったのは、「発表するなんて、すごいね」や「ポスターかっこいいね」のようなことは言ってくれるけど、研究の内容についての質問があんまりないということで。私としては、すごく面白い視点を見つけたから発表をしている訳で、もっと中身に興味を持って欲しかったのに、中々そこまで食いついてくれる人がいませんでした。そこで、伝えることの難しさを感じたんです。

また別の機会に、ある研究者の方が私に、パワポを見せながら研究の紹介をしてくれたのですが、その時のパワポにはたくさんのイラストが使われていました。研究の内容は私の専門外だったのですが、質問がとてもしやすかったです。指を差しながら「ここってどういうことですか」とか「こことここの関係ってどうなっているんですか」とか、たくさん聞くことができて。そこで、イラストって研究に興味を持ってもらうきっかけになっているんじゃないかと思いました。

――まさに、そのイラストに研究の内容を魅せられたということですね。

そうですね。自然な流れで、研究を知りたいという気持ちになりました。

ただ、一つ問題があって、私は人の考えを整理したり、人とコミュニケーションを取ったりするのがとても好きだけど、イラストは描けない。ちょうどその時に「食ぎゃらりー」というオンラインコミュニティを立ち上げ、運営していたんです。(注:「食ギャラリー」とは、毎週決まった野菜をテーマにアート作品を発信するInstagramメディア)

「食×アート」っていう一風変わったコミュニティなんですけど、そこでデザインやイラストを専門とする人たちと繋がりがあったので、それを活かしました。私はデザイナーとして研究者の方とコミュニケーションをとって、イラストの構図を決めて、イラストはプロの子にお願いする。論文イラスト事業は二人から始まりました。

食ぎゃらりー

――「デザイン」と「アート」の二段階を踏んでいるのですね。

はい。私たちの事業の強みとして、科学に知見のある人がデザイナーをしているというのがあって、科学的に正しいことを伝えるデザインにしたいという信念があります。ただ、見栄えは良い方がワクワクしますよね。なので、正しさの枠の中で、イラストレーターがアートにしています。

論文イラストの例

(その他の作品はこちらから!)

 https://sites.google.com/view/nakajimasciencegraphics/work?authuser=0

――なるほど。科学の知見を持ったデザイナーは、科学と芸術の橋渡しになっているのですね。

そうですね。デザインの部分には想像される以上の時間がかかっていると思います。最初にラフ画っていうのを作りますが、そこでイラスト制作の半分以上の時間を使っています。研究者の方と話して、本当に小さな調整まで打ち合わせをしています。「こことここの位置関係が若干違う」とか。

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相手の伝えたいことをデザインする

――研究結果をデザインする上で大切にしていることは何でしょうか。

最初に、研究者の方からデザインの案をいただくのですが、その際に私がいつも思うのは、絶対そこに乗せられていない何か、描きたいけど描けていない何かがあるはずだということで。「入れたいけど、入れると見栄えが悪くなるなぁ」みたいに、妥協して、簡単にしてしまっている部分があると思っています。

だから、最初は提案されたイラストについて質問するというよりも、研究全体についてとことん聞くというのをやっています。これは、科学の知識がある人がイラスト制作に関わっている強みが一番生きている部分だと考えています。理解に妥協せず、研究をわかった上でデザインをしたいです。こちらが質問責めにすることで、逆に研究者の方から「自分の研究についての理解が深まった」って言われることもあります笑

――それは驚きです笑 

――イラストに入れたくても入れられなかったことって、研究者自身もわかっていないと思います。それを質問で解き明かすというのは難しくないですか。

そうなんですよ。それは、スキル的なことと気持ち的なところがあると思います。スキル的なところは「それってどういうことなんですか」と質問するように、反芻しながら聞くということで。例えば、小腸の図があってその下に血管やリンパ管があるときに「これってどういう血管なんですか」と聞くとか、返答に対してさらに深掘りするように質問するとか、よくやります。

――なるほど。でも、一回返答をもらったら、わかった気になることってありませんか。「あ、これは血管なんだなぁ」みたいな。本当に自分はわかっているのかと考えるのは、意識的にならないと難しいことのように思います。

そこは、もしかしたら二つ目の気持ち的なところかもしれないです。本当に好きなんですよね、研究の話を聞くのが。研究者の方はとても素敵な方が多くて、研究者の方々のふとした考えを魅力的な形で提示するというのをやりたくて。研究者の方々はいつもすごい考えているから、何かあるはずだ、と思って聞き続ける好奇心が大事です。

わかった気にならないというのは、私の性格かもしれません。知識を当たり前だと考えずに、疑ってかかるのは元々の性質としてあって、自分が感じた違和感を大切にする性質が生きているのかなと思います。

――違和感を大切にして、観察するというのはいいですね。僕も日常でやろうかな笑

中島さん

――自分の専門ではない研究を扱うときの苦労はありますか。

自分の知らないことを学ぶのは、自分の適性だし、めちゃめちゃ楽しんでやっています。でも、できない部分もたくさんある。例えば、農学の知識や学部の雰囲気がわからない。その時は他のメンバーに頼ってやっています。

最初に仕事をしたときは、仕事っていうより、近くに困っている研究者の方がいて、偶然知り合いにイラストレーターがいたので、お手伝いさせてくださいって言ったんですね。だから、こんなにちゃんとした仕事にするつもりはなかったんだけど、やってみるととても楽しくて。知らないことを勉強したり、他の人に助けてもらったりしながら、とてもやりがいを感じて、一年間以上続けています。

――考えを引き出したり、整えたりする作業が、楽しいんですね。

我々インタビュアーに通ずるところがある……!

――論文イラスト事業を通して、嬉しかったことはありますか。

やり取りの途中や、完成品を渡したときに研究者の方からいただいた言葉です。

最近だと、グラフィックアブストラクト(論文の結果を表した一枚の絵や図のこと)が必要な機会が増えています。ある研究者の方から依頼をいただいたのですが、その研究者の方の研究は中々理解されにくい分野で、論文が中々アクセプトされないことが多いと悩まれていました。

初めてイラストを依頼されたのですが、イラストをお渡しした際には、「こんなにもわかりやすくなるものかと感動しました。わかりやすくなった分、アクセプトされる確率が上がると思います。またぜひ依頼したいです」と喜んでくださいました。

考え自体は良いのに、言葉だけだから伝わらないことって絶対あると思っていて。もちろん、結果を理解するには論文の全体を読むべきで、試行錯誤の過程を知るには研究者の方と話すのが一番良いのですが、そもそも興味を持つきっかけを与えるのは、要約文だけでは足りないと思っていて、そこで「考えを魅せる」イラストが役立つと思っています。だから、「論文、通ってくださいっ」って祈っています笑

インタビュアーも話に惹き込まれます

情報発信と仲間

――先ほど、8人で事業をおこなっているとおっしゃいましたが、メンバーを集めることは難しいと思います。何かコツはあるのでしょうか。

 メンバーは誰でも良いというわけではありません。事業は誰とやるかが大事です。最初は二人で始めたけど、このイラストレーターじゃなきゃ私はここまでやってこれなかったっていうくらい彼女をとても信頼しているし、いつも感謝しています。

コツ……かぁ。デザイナーは私を含めて3人のデザイナーでやっているのだけど、最初の1人とは授業で出会いました。「Innovation for Well-being」っていう授業で、GDPを超えた暮らしやすさを実現するビジネスを考える授業です。この授業は学部や学年を超えた履修生がいるんだけど、そこで一緒になった子と、今一緒に仕事をしてます。

自己紹介で「論文のイラスト代行をやっています」って話したら「ぜひ一緒にやらせてほしい」って言ってくれました。だから、コツとしては「自分がやっていることを発信し続けること」かな。声をかけるというより、思いを発信し続けていたら、一緒にやりたいって集まってきてくれます

もう1人の農学部の子は、私がある先生のところに営業に行ってたのね。そしたら、その様子を見てたらしくて。私がチラシを置いていったら、その子が「なんて書いてあるんだろう」と思って、調べたらしい笑。その後の別の機会で偶然会うことがあって、「あの時の!」っていう感じで声をかけてくれたことがきっかけで、一緒に事業をすることになりました。

――営業も、自分のやっていることの発信ですね。

そうですね。あとは、藝大のグループラインに情報を流してもらったり。でも、私は向こうから積極的に来てくれる人とやりたいと思っていて

Twitterを通じた活動内容の発信

――既に何か実績があると、メンバーを募ることは比較的容易ですが、一番初めはそうはいかず、また違った難しさがあると思います。先ほどの話で「食ぎゃらりー」がきっかけになったとおっしゃていましたが、そこについて詳しく教えてください。

それは、インスタを見てもらうとわかると思います。例えば「アスパラ」がテーマなら、アスパラにまつわる小説や動画、イラストなどをみんなで創作します。他にはレタスやレモンだったり。最初に人が集まったのはコンセプトの存在が大きくて。最初の課題意識として、コロナの影響で授業やサークル活動、世の中に対して不安があって、そこで一旦立ち止まって、周囲にある当たり前の物や自分について考える機会が必要だと思っていました。

食ぎゃらりーに投稿されたイラスト
今回のテーマは「レモン」

私は食や野菜について興味があって、それらをテーマにアートを作る。アートを作るのって自分と向き合うことだから、それをコンセプトにして、いろんなビジコンで出会ったメンバーと一緒に始めました。

――新しいことを始めようという気持ちのある人たちと日頃から交流があったのですね。 

コミュニティのコンセプトに共感してもらったところが大きいです。最終的に25人くらいのコミュニティになりました。

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人と人の繋がりをイラストで生みたい

――デザインに興味を持ち始めたのはいつからですか。

さっき、五月祭でポスター発表をしたって話をしたと思うのですが、そのポスターって今から振り返ってみても結構こだわっていて。例えば、タイトルが「細胞膜で世界を救う」っていう、結構こだわってますよね笑

可愛い細胞膜のイラストをたくさん並べたり、色使いに気を配ったり。今思えば、そのポスター作りがすごく楽しくて、凝っていたんだなぁと思います。

――見ている人に、楽しく伝えたいっていう意識があったんですね。

はい、あったと思います。印象に残したいとか、情報を綺麗に提示することで理解しやすくしたいとか、そういうところにこだわりがあったと思います。

私の中でキーワードとしてあるのが、「人と人とのつながり」とか「コミュニケーション」とかで。結構、個人的なところだと、友達を家に呼んで、一緒に料理をして、小さなホームパーティをするのが好きで。

イラストも、カッコよくするだけでなく、その先にコミュニケーションが生まれたり、研究者の方々も自信を持って発表して、人が惹きつけられて、議論が盛り上がって、とか。イラストの先にある人と人とのつながりを魅力的に感じたんだと思います。

デザイナーと研究者が一対一で向き合ってイラストを作ってゆく、正解が未だ見当たらない方法をとっていて、毎回悩むけど、人と人との繋がりをイラストで生みたいという思いでやっています。

今後の展望

――今後の展望を教えてください。

科学を理解してイラストを制作する強みを活かして、東大含め大学の中で論文イラストが必要になったとき、頼ってもらえる存在になることが直近の目標です。お仕事をさせていただいている中で、専門的なディスカッションをすることが多く、先生方から「知識が整理された」という言葉をいただくことがあったり、「論文を読んできてくれるから話がとてもしやすい」と言っていただくことがあります。

このような経験から、科学のバックグラウンドを持ちながら、イラスト制作をさせていただくことは、先生方からの信頼に繋がっていると感じました。これからも、科学を理解する強みに加えて、見た目にも惹かれるイラスト制作を続けていきたいです。

加えて今は、論文イラスト代行について多くの人に知ってもらう必要があると考えています。現状は、イラストを頼みたくても誰に頼んで良いかわからないという声が多いです。

なぜかというと、論文イラストを作るってことはつまり、論文を発表する前に内容を話すということだから、信頼できるとわかっている人に頼む必要があります。イラストにこだわりたいのに、できないという人達を手助けできる存在になりたいです。

――周知度を上げるということですね。それは中々大変な……。

やっている中で、だんだん広がっている感じはしていて。広告をバンって打つよりも、口コミで広がってゆくものだと思っていて。例えば、お試しで頼んでみて、すごく良かったと感じた人が他の人に「最近イラスト頼んでみて、よかったんだよね」って言ったりして、「あ、じゃあ僕も頼んでみようかな」みたいな。

――自分のできることを必要としている人がいるというのはいいですね。

私たちも論文イラストの需要は本当にあるのか、最初は確信がなくて。でも、仕事をこなすごとにお客さんの反応を見ていると、とても喜んでくださったり、イラストを見てもらうと笑顔が漏れ出すみたいな方もいらっしゃって、めっちゃ嬉しくなっちゃうとか。

教授の先生が「僕のやりたいことってこういうことだったんですね」ってイラストを見ながら言ってくれたりして。「あ、そうですよ」みたいな感じになったり。そういうのを通して、ニーズがあるっていうのがわかってきました。

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アイコンで広がる人の繋がり

最近は、研究者のアイコンを作る事業もやっていて、それも喜んでくださる方がたくさんいます。

研究内容を表すアイテムが可愛い

――研究者はおかたいイメージがあったので、アイコンの需要があることに驚きです。

自分のトレードマークになるものがあることで、「あ、またあのアイコンの人だ」みたいなことになったりする。ブランディングってことですね。

――科学者にブランディングっていうイメージはあまりなかったです。

ないか。いやいや、研究者は人との繋がりがめっちゃ大事だと思う……って修士の私が言ってるんだけど笑 研究者に限らず、人生は人との繋がりだと思います。

あと、私たちの作るアイコンは顔だけじゃなくて、研究を説明するようなアイテムをアイコンに持たせているんだけど、それでコミュニケーションが生まれれば良いと思っていて。アイコンってTwitterだけじゃなくてZoomにも使えるじゃないですか。そしたら「アイコン可愛いですね」「そうなんですよ」「何を持っているんですか」「それは、研究テーマに関するこういうもので……」みたいに会話が弾んだりするといいなと思っています。

終わりに

今回は、論文イラスト代行事業を営んでいる中島さんにお話を伺いました。自分のやりたいことを常に発信して、良い仲間を見つける、というのはやりたいことを実現する上で広く応用が効きそうなことですね。

イラストを通じて、研究結果に興味を持ってもらうきっかけを作り、研究者や論文を読む人達のコミュニケーションの輪が広がってゆくと良いですね!

今回の記事を読んで、中島さんの事業に興味を持った方は、是非ホームページを覗いてみてください!

ホームページのURL

https://sites.google.com/view/nakajimasciencegraphics

〈了〉

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鯉です。記事を書きます。ついでに小説と戯曲とボイスドラマを書きます。
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