「自分が何をしたいのか分からない」
「こんなはずじゃなかった」
「そもそもあんな賢い人たちに勝てる訳ない」
これは、多くの東大生が抱いたことのある感情なのではないでしょうか?
かくいう私も、このような感情に押しつぶされ、YouTubeで時間を溶かしていました。
そんなとき、目に入ってきたのが、
「日曜日の初耳学」での東大卒・AI博士カリスさんと林修先生の対談。
16歳で東大に合格できた逆算的勉強法を始め、
「人生を生き抜く上でハッタリが一番大事」
「手間を惜しむための手間を惜しまない」
など、人生をより良く生きるヒントになる言葉の数々。
東大に入って挫折を感じている駒場生にも是非アドバイスして欲しい!
今回は、カリスさんに、周りとの比較で苦しんだ経験のある駒場生に向けて、今を前向きに生きる思考をお話していただきました。
⸺ 今日はお越しいただきありがとうございます!自己紹介をお願いします。
※現在は廃止された制度
(ご経歴を聞いただけで圧倒される。。)
⸺ 今日はそんな素晴らしい頭脳をお持ちのカリスさんに来ていただいたので、
そんなことないですよ(笑)。
⸺ 東大に入ったが挫折を感じ、なんとなく毎日を過ごしている東大生へのアドバイスという形で、お話を伺いたいなと思います。
分かりました。任せてください。
⸺ 早速ですが、東大生は周りと自分を比較し、挫折や諦めを感じている人が多いように感じます。そのような、いわゆる競争疲れの人に贈りたいアドバイスはありますか。
無理に比較して競争しなくていい。天才になろうとするから、苦労する。天才じゃなくて変態になればいいだけだと思いますね。みんなと違うことをしてしまえば、競争相手がいなくなるので、自分が勝てるんです。
みんなナンバーワンを目指すから苦しむのであって、オンリーワンになればいい。オンリーワンは、限られた分野ではナンバーワンでもあるので。
⸺ 私たちは、競争に出くわしたとき、無理して戦うか、逃げるかの二択を迫られ苦しんでいるように感じます。そもそも競争に持ち込まないということですね。
そうですね。競争するにしても、自分に勝ち筋のある競争をするべきだと思います。明らかに競争が激しい所で戦う必要はない。
【補足】
これが比較優位という概念(最も基本的な貿易理論)ですね。役割分担を通じて、各人が自身の最も優位な分野に特化・集中するときにこそ、それぞれの労働生産性が最大化され、互いにより大きな利益を享受できます。
僕はAIの研究者で、博士号もとりました。でもAIの研究をやっている人って、日本にも海外にも無限にいるじゃないですか。僕も優秀な方ではあるけれど、自分よりもさらに100倍、1000倍と素晴らしい方々がいるフィールドで、そのまま戦うのは得策ではないと思ったのですね。
だから、AIだけでなくて、✕(かける)何かという形で勝負することにしました。実際に医療AIという形で勝負して、日本で若手の中だとぶっちぎりでトップの研究業績を上げられました。多分戦略がすごく良かったと思いますね。AIという大きい領域では勝てないけれど、医療AIくらいであれば自分が一番になれる。そういうのを見つけるのが、駒場生のみんなにとっても一番大事なんじゃないかな。
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⸺ AIといっても様々な分野がある中で、カリスさんはどのように医療AIに勝ち目があると判断されたのですか?
まずは自己分析といったところですね。自分は何ができるのか。僕は言語力が高いという自覚があったんですね。しかも、日本は医療AI分野でものすごく弱い。だったら、AIの能力だけでなく、言語力も生かして海外のトップ大学と共同研究すれば、医療AI分野だと自分が日本でトップを獲れるんじゃないかと考えました。
そうやって自分が持っている手札をちゃんと認識した上で、掛け算することが大事です。他にはない価値を出すには、いわゆる狂気みたいなことが求められるのですね。確かに掛け算の結果のほとんどは、ありえないポンコツみたいな組み合わせなんですが、冷静に判断すると「これは確かに普通じゃないけど、やってみたらすごい面白そう」「これだったら勝てるんじゃないか」という組み合わせもあると思うので、そういうのを見つけていくのが大事かなと思います。
⸺ 勝てるフィールドを探すために、人を見るのではなく、自分を見るということですね。
そうですね。そもそも他人と自分を同じ天秤にかける必要はなくて、自分がどういう人間なのか知るところから始めるべきですね。
⸺ 進振りで悩んでいる駒場生も多いと思うのですが、進振りってまさに自分を分析して、オンリーワンになれる分野を見つけていくことですよね。カリスさんは進振りの時、どのように自己分析されましたか?
僕の進振りは10年以上前になってしまうんですけどね(笑)。今は圧倒的に AI が社会に浸透しているじゃないですか。しかし、10年前はこんなに浸透していなかった。僕は「人類の最終かつ最大の発明は AIになるだろう」という確信があったので、 AI でチャンスを掴むべく電子情報工学科という学科を選びました。
自分の手札を認識し、さらに社会がどうなるか先読みすれば、自分がどういうところで希少価値を発揮できるかは自ずと分かってくると思います。そういう観点で僕は AI を選びました。
⸺ 自己分析に加えて、社会の流れの予測も必要ということですね。
そうですね。いくら自分が何かに長けていても、それが社会から評価されないと意味がないですよね。要は、希少価値なのか希少無価値なのかということです。「これ圧倒的にできるじゃん」と思っても、「だからどうした」というものでは惨めな経験をしてしまいますよね。
⸺ そもそも自分が何をしたいか分からないという人も多いと思うのですが、まず何から始めるのがいいのでしょうか?
先ほど言ったように、自分自身の手札の認識と社会の流れの予測の両方だと思っています。
自分のことを正しく認識するためには、紙に書いてみるのが良いですね。今の自分が自分をどう認識しているのかどんどん紙に書いていく。書いていくうちに共通項や思い入れのある項目が出てきて、「自分は自分のことをこう認識しているんだな」というのが分かってくるんですね。
さらに自分はどうなりたいのかについても枚挙してみる。100個も200個も書いていくうちに、「自分はこういうことがやりたかったんだな」というのが分かってくるんですね。
逆に、書いてみるとイメージがふわっとしていて、「自分は何になればいいのかよく分からない」と思うかもしれない。
そういう時は、そもそもどういう世界があるのかよく分かっていない場合も多いので、いろいろな媒体で情報収集するのがいいかなと思いますね。人から聞くのでも、YouTubeを見るのでも、本を読むのでも何でもいい。そういうことの繰り返しの中で、自分なりの勝ち筋が見えてくると思います。
⸺ 東大に入ってくる人は、試験で順調に勝ち続けてきた人が多いですよね。だからこそ彼らには、東大での試験で勝てなくなると、どうしたらいいか分からなくなる人が多いように感じます。
なんならもう東大に入ってしまった時点で僕らは勝ち組なので、点数なんてどうでもいいと僕は思うんですよ。今後僕らは社会でどう勝つかを考えるべきであって、目の前の試験で何点取ろうがどうだっていい話じゃないですか。進振りでいい学部に行けるかもしれない、その程度なんですよね。
⸺ そもそも大学に入った時点で、試験で評価される勝ち負けは終わっているのですね。
そう思います。だから授業や試験ばかりにとらわれるのではなく、自分のなりたい自分になるために必要なことをやればいいだけなんです。敷かれているレールの上を走り続ける必要はない。ドンドンはみ出して、面白おかしくより新鮮で自由な自分になるべきです。なのにみんな、今まで受験のレールを走り続けてきたので、その延長線上で「試験であいつより何点上だった」とかそういうどうでもいい話ばかりしてるような気がしますね。
⸺ レールがないのは少し不安にも感じるのですが……
むしろ自分でレールを敷いて、仮説を立てて検証していく行為そのものを楽しんで欲しいなと思いますね。
⸺ 仮説と検証、例えばどういう時に使いますか?
例えば、論文はまさに仮説を立てるところから始めますよね。「こうすれば予測どおりに上手くいくのではないか」とか。研究に限らず、人生だって同じで、例えば「弁護士になるという道もありかも」と思ったら、勉強したり色んな人の話を聞いたりして、当初のイメージと確かに合っていれば仮説が「検証できた」ということでその道に進めばいいですし、「ちょっとこれ違うな」と思ったらやめて別の道を探せばいい。
人生においても、そうやって仮説を立てることが大事だと思いますね。仮説を立てることで、本当の自分と向き合えると思います。
⸺ 仮説を立てて検証することによって、自分の好みとかがどんどん分かってくるということですね。
だって、本質を追究するってそういうことですよね。
⸺ 論文でも人生でも同じなのですね!
だからこそ、自分にしか立てられない仮説を立てるべきなのです。そこで自分の価値を発揮できると思いますね。
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⸺「自分のなりたい自分になるために必要なこと」
カリスさんご自身は、東大時代どんなことをなさっていたのですか?
本を読んだり、人と会ったり、プログラミングを勉強したりに時間を使っていましたね。授業はあまり出ていません。今後自分が学んだことを使う訳もないような授業を真面目に取ったところで、何が嬉しいのといったところですよね(笑)。
⸺ 授業よりも大切にして欲しいのは、本を読むなどの自分で勉強する時間ということですか?
「至急ではないけど重要なこと」が何かを考えて、そこに自分の時間をどんどん使って欲しいなと思います。確かに、試験は締め切りがあるので、自分にとって大事であるかのように思えるのですが、それは至急な仕事であって自分にとって重要な仕事ではない。そういうのにばかり時間を使っちゃうと、「気づいたらもう4年全部過ぎてて、東大出ちゃったんだけど・・・」ということになるので、もったいないですね。
⸺ 課外活動についてはどうお考えですか?大学生は、大雑把に言って、勉強を頑張る路線の人とサークル活動に明け暮れる路線の人がいると思うのですが、例えばテニサーのような遊び方向のサークルにはあまり価値がないとお考えですか?
価値は自分で見出すものだと思いますね。
勉強をしていようが、遊んでいようが、そういうのはあまり関係がない。それが何につながるのかという、明確な目的や意図を自分で持っているかどうかの方が大事ですね。
だから例えばテニサーで一見遊んでいるように見えても、交友関係を広げたり、体力をつけたりの意図でやっているのであれば、プラスになっていると思う。逆に勉強していても、嫌々やっているだけなら、自分は何も楽しくない。あと、今後自分に関わりがないような勉強だと意味がないと思いますね。
何が大事かを決めるのはあなたですよ、ということですね。
ここでも仮説を立てるべきだと思います。自分なりの仮説がないと、それが思い通りだったかどうかも検証しようがないですよね。
⸺ 仮説を立てるというのは日常生活であまり意識していなかったです。なんとなく本読んだり遊んだり。でも自分の行為に仮説を立てると、そこからフィードバックが得られて、価値が生まれるようになるのですね。
⸺ カリスさんの過去についてもお聞きしたいと思います。
韓国でいじめや虐待を経験され、中学三年の冬に学校に行くのを辞めた後、周りに信じてくれる人がいない中でも、自分なら東大に行けると押し通し、16歳で東大合格と、まさに人生どん底からの大逆転を成し遂げていますよね。
また、「日曜日の初耳学」に出演された際には、「人生を生き抜く上でハッタリが一番大事」とおっしゃっていましたが、カリスさんにとって「ハッタリ」とはどういうものですか?
既成事実を作って、それを追認していくという覚悟の表明みたいなものですね。
⸺ どうしてハッタリが大事と考えたのですか?
理想と現実のギャップが大きすぎたからですかね。「自分はこれっぽちの人間だし、これくらいの暮らしでいい」というふうに惰性で生き続けるのか、あるいは本当に自分が目指したい理想に追いついていくのかの選択で、僕は理想の方を取ったということです。ハッタリをかまさないと、人生一発逆転はできないと思います。
自分はできると公言してしまって、自分のことを信じてくれた人をどんどん巻き込んでいかないと、大きなことは成し遂げられない。
それこそ、僕は今まさに起業の準備をしていて、いろんな投資家にすごい興味を持ってもらっているんですけど、それは僕が「こんなことができる!」とハッタリをかましているからなのですね。詐欺じゃないかと言う人もいるかもしれませんが、人を巻き込む力でもあるので大事かなと思います。
⸺ なるほど。私も受験生時代に「自分は東大に合格する」というハッタリを自分への宣言という意味でしていたのですが、他人を巻き込むという視点では考えていませんでした。
ハッタリにはどちらの意味もあると思いますね。自分を説得するということと、人を説得するということ。
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⸺ 16歳で東大合格のエピソードをお聞きして、カリスさんには「自分の力が強くて自分だけで頑張ってきた」というイメージを勝手に抱いていたのですが、他人という言葉が出てきたので少し意外に感じました。物事を成す上で他人の要素はどのような意味を持ちますか?
時間は有限ですし、自分が得意なことはすごく限られているので、人をどんどん巻き込んで、得意なことは得意な人にやらせるのが大事だと思います。まさに比較優位ですよね。
そういった意味で、他人との関係性の中で僕らは生きていると言えます。恋愛やお金のように、僕らが抱えている悩みにはすべて人間関係が関わっていますよね。何でも人間関係に帰結する。人間が社会的動物である限り、人間関係はとても大事だと思います。僕らはこの惑星に一人で生きている訳ではないので。
⸺ 今はコロナ禍でオンライン時代というのもあって、一人ぼっちになりがちなのですが、人間関係を築く上で考えていることはありますか?
「多数のライクじゃなく、少数のラブ」ですかね。
人脈という言葉が悪いのか、みんなとりあえずいろんな人と付き合って、どんどんいろんな飲み会に顔を出すとかに時間を使いがちですが、そうじゃないと思っています。自分にとって本当に大事な人は誰なのかを見極めて、そういう人との関係ばかりを深めていくことが人生には大事だと思いますね。
結局はみんな類友と言いますか、自分が良い人と思っている人の周りには良い人がいて、自分がそういう人に囲まれることでどんどん良い方向に人生が向かって行くので、僕は逆に友達をいっぱい作らなくていいと思います。
結局は自分が本当に困った時に助けてくれる人が大事だと思うので、うわべの人間関係ではなく、本当の人間関係を築いていって欲しいなと思いますね。
⸺ 大学生になると、高校生の時と違って、将来がある程度見えると思うのですが、自分の能力の限界も見えてしまって、将来へのワクワクとか期待を感じにくくなると思うのですよね。天井が見えてしまっているとういうか。カリスさんも自分の能力に限界を感じられることはありますか?
たくさんありますし、誰でもそうだと思います。結局、人間の才能はほぼ遺伝で決まっているので。
でも天井が見えているのだったら、逆にラッキーだと思っています。「じゃあここにこれ以上時間を費やす必要はない」、ということが分かったので。まだ天井が見えていないところを探せばいい。そういう気づきを得たと思えば、前向きでいいんじゃないですかね。
⸺ 無意識的に、天井が見えているところでなんとかしようと考えていました。
青天井みたいなのを見つければいいですよね。
真っしろであるということは、伸びしろ無限大でもあるので、そういうところを大事にして欲しいなと思います。例えば、数学の成績のように、頑張ってもどうしようもないと感じる部分ってありますよね。天井が見えているのに、変にその分野で無理やり頑張ったところで意味がない。「どうせ負けると分かっているのに、なんで頑張ってるの?」という感じです。自分から負けに行ってるようなものですよね。
⸺ 是非、新入生にも参考にして欲しい内容です。
受験生の頃の、東大に入学する自分を想像した時のワクワク感みたいなのを持って、生活できた方がいいですよね。
RPG みたいでなんか楽しいですよね。もっとワクワク感みたいなのを抱きながら過ごして欲しいですね。どうせ壁を超えたら新たな壁が出てくるのは当然なので、そういうのは楽しまないともったいないと思いますね。みんなプレッシャーとか感じすぎだと思う。
⸺ 確かに、東大生って何をするにも失敗を恐れてしまってる気がします。
まあいくらでも失敗して良いと思います。失敗したらまた方向転換すればいい。とりあえず今の自分としての正解を見つけていけばいいんじゃないですかね。時代が変われば、正解もまた変わってくるので。
⸺ 最後に、駒場生にメッセージをお願いします。
「優れるな、異なれ」
君は君の優秀さを十分証明できていて、その証として今東大にいる。だから今から君がとるべき戦略は、優秀さではなく差別化。
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「優れるな、異なれ」
冒頭に挙げた挫折や諦めに対するアドバイスは、この言葉に凝縮されているように感じます。
進振りや就活などで悩んでいる人も多いと思いますが、カリスさんの思考が、自分が何を欲しいと思い何になりたいのか、考えるヒントを与えてくれたのではないでしょうか?
カリスさんは想像の何倍も、気さくで、人間味あふれる方でした。そして、なにより人生を自由に、面白く生きる覚悟と思考を持っていました。
この記事が、みなさんが少しでも人生を前向きに過ごすきっかけになれば幸いです。
カリスさん、そして最後までお読みいただいた皆さん、本当にありがとうございました!
カリスさんのYouTubeチャンネルはこちら→カリス 東大AI博士