男性の育休取得率の伸び悩み、育児疲れで親が子を殺害、など仕事と育児の両立に関するマイナスなニュースを皆さんはこれまで幾度となく目にしてきたことでしょう。政府も様々な施策を採ってはいるものの、今だにこれらに関連する問題は山積み状態。今この瞬間も苦しんでいる人々が沢山いらっしゃるはずです。
さて、読者の皆さんの多くは、これから本格的に社会に出て、仕事をしたり好きなことをしたりして社会を創っていき同時に次世代を育てていく大学生の方であることと思います。そこで質問です。
貴方はこの仕事と育児の両立の問題を、一度でも自分事として考えたことはありますか?
個人的な将来の過ごし方を考えた時のこの問題の重要度は人によって異なっても、自らを社会構成員として考えた時には、我々は皆均等にこの問題に対する興味を持つべきであると考えることもできるかもしれません。今回は皆さんに、問題の中でも特に育休について考えていただきたいと思います。
今回は、東大発ニュースメディア、Newsdockが、女子東大生32人、男子東大生30人の計62人を対象に育休についてのアンケート調査を実施しました。
世間には多様な未来を持つ若者が存在しますが、読者の多くの方と同じ、東大生に絞ったアンケートである為、若者全体でのアンケートよりも、自分により近い将来設計をしている大学生の声が反映された興味深い分析結果をご覧いただけるはずです。
調査の結果はなんと、「就職後の現実は、我々大学生が思っているよりもかなり〇〇だ」という衝撃的な事実が…!我々大学生は、育休についてどのような幻想を抱き、社会に出た時一体どのような現実を突きつけられるのか、さあ一緒にみてみましょう。
Point
男女ともに「育休を取りたい」と考える割合は9割以上。
もし将来結婚をして共働きをしている状態で子供を産んだとしたらという条件の下で、「将来結婚して子供ができたら夫婦でどうやって育児休暇をとりたいですか?」と東大の学生(女子学生32人、男子学生30人)にオンラインアンケートで質問した結果がこちら。一番多かった回答は、「二人とも育休をとる」(男女各28人の計56人)です。男女ともに9割前後の学生が、子供が生まれれば双方が育児休暇をとって育児に参加したいと考えていることが見て取れます。
皆さんはこの結果を見てどう思いましたか。思った通りですか?それとも、育休を二人ともとりたいと考える東大生の割合意外と多いな…と思いましたか?
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先ほど紹介した東大生の考えと社会の実態に差がないならば、男性も女性も等しく育児休暇の取得率は高いはず。では、実際の社会人の育休取得率は果たしてどのくらいか?見てみましょう。
2020年に日本労働組合総連合会が未就学児を持つ20〜59歳の働く人1000名を対象に実施したアンケートによると、「育児のために取得したことがある休業・休暇」という質問に対し、「育児休暇」を回答した女性は64.4%、男性はたったの13.4%でした。「育児のために休業・休暇を取得したことはない」と回答した男性はなんと41.4%にのぼっています(女性は25.0%)。
男女で育児休暇の取得率に50%以上の差があり、さらに未就学児を持っている男性の4割が育児のためになんの休業・休暇も取得したことがないという実態は、先ほど紹介した若者(東大生)の理想とは大きくかけ離れていることがわかります。
ではなぜ、若者(東大生)の希望と社会人の実態の間にはこれほどの差が生じているのでしょうか。育休を申請することができないから?それとも結婚を機に退職をする人がたくさんいるから?
内閣府が今年調査した、20・30代既婚男性の育休取得希望状況に関する調査をもとに、東大生と社会人既婚男性の育休に関する考え方を比較してみましょう。左の棒グラフは育休の取得を「希望する」東大男子学生の割合を、右の棒グラフは育休の取得を「希望する」20〜30代の既婚男性の割合を、それぞれ示しています。これを見ると、育休の取得を「希望する」東大大学生は93.3%であるのに対し、育休の取得を「希望する」20〜30代の既婚男性は39.4%となっており、この二つのデータには大きな差があります。
なぜ社会で働く20〜30代の男性たちは育休を希望しないのでしょうか。男性は、「職場に迷惑をかけたくない」「職場が育休を認める雰囲気ではない」「収入が減少する」などの理由から、長期間の育休を取ることが難しいと回答しています。
つまり、制度上では育休を取ることができるし(育休は行政が会社に対して義務づけている制度)、心の底では育休を取りたいという思いもあるかもしれないが、育休の取得がハンディキャップや後ろめたさになってしまうという現実を、社会に出た男性たちは感じ取っているのかもしれません。実際に、育休を取得した男女からも、「収入が減少した」「キャリアにブランクが生じた」などの声が寄せられています。
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ここまで、データの比較を行いながら、育休取得に関する東大生の希望と社会人の実態とに大きな差があることを見てきました。では、この差を解消して、誰もが暮らしやすい未来を作っていくために、わたしたちには一体何ができるのでしょうか?
ある研究によって育休問題との関連が指摘されている「多元的無知」という心理現象があります。例えば育休問題の場合では、「私は本当は育休を取りたいんだけれど、他のみんなはそんなこと思っていないくて、私にも育休を取って欲しくないんだろうな…」と、職場のほとんどの人が思い込んでしまうことで、結果として誰も育休の取得を希望しなくなってしまう、というような状況が成立してしまうことを指します。
ここで、アンケートの結果をもう一度思い出してみてください。少なくともわたしたちの世代の東大生においては、多くの人が育休の取得を希望していることがわかりました。そして、実際の社会人で育休の取得を希望しない理由としては、「職場の後ろめたさ」に関する事柄が多く挙げられていました。
つまり、まずわたしたちにできることは、「みんな育休を取りたがっているんだ」ということを、知っておくこと、そして育休に関する自分の意見を、周りの人達と交わしてみる、といったことでもあるのではないでしょうか?
※注
この記事では私たちの独自アンケートに加え、子供を持つ既婚女性に焦点を当てた女性の社会進出問題についての考察やアンケート結果の引用を含んでいます。そのため記事内容の都合上、「男性と女性で結婚し子を持ち共働きをする人の暮らし」を前提として書かれている部分があります。人の働き方・生き方については多様なトピックがあることを承知していますが、今回は今の社会の多くの人の暮らし方になっている「男女夫婦の共働き家庭」の子育て時の男女の役割分担意識にフォーカスをして東大生の考えと社会の実態を比較しています。
参考資料
日本経済新聞「九大、日本における男性の育休取得率の低迷と多元的無知の関与を解明」2017年9月20日
ITmediaビジネスONLINE「男性育休「取得せず」4割超 職場内での「後ろめたさ」が要因に」2021年6月7日
nippon.com「男性の育休取得率13.4% その約半数が「希望日数取れない」―連合調査」2021年1月28日