「むしろ何故イワシを研究せずにいられるのかが分からない」柏イワシ課の告白。

2016.03.07
酒木
学生証
  1. お名前:酒木
  2. 所属:農学生命科学研究科水圏生物科学専攻修士2年(4月から博士1年)
  3. 進路:ホセ・アルカディオ・ブエンディアのような科学者になる

 
どうも、柏イワシ課の酒木です。

逆から読んでも「かしわいわしか」ですが、だからどうというわけではありません。私は柏キャンパスにある大気海洋研究所というところで修士課程を修了し、4月からそこで博士課程に進学します。
 
柏という土地は、駒場や本郷に比べたら田舎で、治安が悪くて、何をとってもクオリティが今一つで、それでいて「柏は千葉の渋谷」とか自称しちゃうような、呆れ果てた場所です。そんな柏の地までわざわざ来て、イワシの研究をする人たちを私は勝手に「柏イワシ課」と呼んでいます。
 
「なんでイワシなんぞ研究するの?」そう思われる方も多いでしょう。
でも私に言わせれば、なぜイワシの研究をしないでいられるのかがわかりません。

人生は一度きりです。こんな面白くて、挑戦的なものが転がっているのに、それに挑まなかったら、死ぬ間際に何を思うことでしょう。「なぜ俺はあの時、イワシを研究しなかったんだ!?!?」いいんですか? 私は勘弁です。だから今、柏イワシ課なのです。
 
実際、イワシを研究されている方は日本にも世界にも、数多くいらっしゃいます。一体イワシ研究の何がそんなに面白いのでしょうか? ここではその理由の一部を紹介できればと思います。

 1.そもそも海に関する研究は全てChallengingである

2015年夏能登半島にて撮影

海は、好きですか?

こう聞いて、「大嫌いだ」という人に会ったことはまだありません。

日常生活とは違って何もない大きな空間が広がっていることが、ポジティブな感情の根っこになっているのではないでしょうか。


 では、この広いなあと思って見ている海は、実際どれくらい広いのかを考えてみたことがありますか?

単に水平線までの距離を求めるだけなので、実は難しくないですね。

なんと数字にしてしまうとたった5 kmしかないのです。見えている範囲は、半径約5kmの円ということになります。これは地図上でどれくらいになるかというと、、

こんなもんです。もっと言うと

こんなもんでもあります。当然、

こんなありさまです。
 
ちっちゃい!! 広いなと思って見えている範囲なんて、さらに広大な海のうちの、本当にわずかなわずかな一部分でしかないことは一目瞭然です。

海の中で何が起こっているのかを知ろうとすることは、無謀な試みといっても過言ではないくらい難しいことなのです。

イワシという生物の研究も、生物学のみならず、海洋物理、分析化学、生態学などなど様々な分野の知識を結集して、また船に乗ったり実験室で分析したりパソコンで数値シミュレーションしたりと、いろんなことをしてみても、よくわからないことだらけといったところです。

海を研究するということは、とても挑戦的なことなのです。だからわくわくする。この強大な敵にあの手この手を使って立ち向かっていく感じ、たまりませんね!

2.イワシの不思議さ重要さ

ひとくちにイワシと言っても、地球には色んなイワシがいます。その中でも、最も繁栄しているのは、マイワシ(sardine)とカタクチイワシ(anchovy)の仲間です。

マイワシ
カタクチイワシ


マイワシとカタクチイワシはこれらの湧昇域(※ゆうしょういき、一種の好漁場。)を中心に世界中に分布し、時として膨大な資源量を持つ、非常に重要な水産資源となっています。

しかしこの「時として」というのが非常に重要なポイントで、イワシの資源量は劇的な変動を示すことが知られていています。

例えば日本近海の太平洋側に生息するマイワシの近年の資源量の変動を見てみると、最も少ない2005年は、最も多い1987年の0.5%以下の量しかありません。20年のうちに桁が二つ三つ変わるというような、凄まじい変化が起こりうるのです。

(水産庁(2014)より作成)

この変動は、近年にのみ生じた変動でありません。

日本人はマイワシを新石器時代から食べており、1500年代以降はイワシ漁の豊凶を、古文書を調べることで推測できます。

それによると、日本のマイワシは50-70年の周期で豊漁期がやってきます。

漁獲の技術が未発達な時代においても、資源量は大きく変動していました。
もちろん、技術が進化した現代において、膨大な漁獲量は資源量に影響を与えうるでしょう。しかし、ほとんど人間が獲らなかったとしても、イワシ資源量の変動は起こると考えられます。
 
ではなんでこんな大変動は起きるのかというのが興味が湧くところです。これは、産業上の理由でも重要な課題となっていました。

マイワシ資源は多いときには膨大な量になるので、これを使わない手はありません。しかし20年で200分の1になるような変動をされてしまっては扱いが非常に難しいのです。マイワシがいっぱいいるから、マイワシをたくさん獲って処理するための船や工場を作っても、20年後にはそれが全てパーになってしまうようなこともありえます。

ただしせめて、いつ増えていつ減るかということが予測できれば、先を見越して、効率的な投資や、資源の使い方を計画できるというものです。予測するためには、どのような仕組みで増減するのかがわかっていなければなりません。

このような背景もあって、マイワシの資源量変動の仕組みを解明することは、水産学の一大テーマであったのです。
 
ただ、問題なのは、まだ答えが出ていないということなのです!
 
現象としては、面白いことがわかっています。例えば、日本近海に住むマイワシの漁獲量のグラフと、南米に生息するマイワシの漁獲量グラフを比べてみましょう。

すると、すっかり重なってしまうのです!これはすごい、すごすぎる。だって南米といったらほとんど地球の反対側です。遠すぎて当然日本のマイワシと南米のマイワシが交じり合うこともありません。でも、一致するのです!!
 
今度は日本のマイワシとカタクチイワシの漁獲量変動グラフを比べてみましょう。
 

日本のマイワシ、カタクチイワシの漁獲量


すると、マイワシが減ってくるとカタクチイワシが増えてきて、逆にカタクチイワシが減ってくるとマイワシが増えてくる、という関係があることがわかります。この現象は「魚種交替」と呼ばれています。

マイワシとカタクチイワシの魚種交替は、日本近海のみならず、地球の反対側の南米でも起きています。

南米のマイワシ、カタクチイワシの漁獲量

実は他にも、南アフリカやカリフォルニアでも共通して起こっている現象なのです!

こういった現象を見ていると、私はイワシの増減を全部まとめて説明できる一般法則のようなものがあるのではないかという期待を抱かざるをえません。

(※近年は、主に海洋環境の変化によってイワシの資源変動は引き起こされており、海洋環境に対する応答性がマイワシとカタクチイワシで異なるため魚種交替が起きるのだ、という説が有力です。しかし、海洋環境がイワシの増減にどう影響するのか、その仕組みについては研究がなかなか進まず、よくわかっておりません。環境変化以外のものが主因だとする説もあります。)

イワシの資源変動機構というものは、まだまだ熱い研究トピックなのです。
 
私は何をしているかというと、海洋環境とイワシの関係を研究するための新兵器を開発しております。

どういうものかというと、「捕まえたマイワシが、過去にどこを泳いできたかを推定する」という技です。これは画期的です。なぜならマイワシというのは日本の南岸で生まれ、北海道のはるか東まで回遊するような魚なので、過去にどんなところを、どういうタイミングで通ってきたかなんて普通に考えたらわかりっこないからです。

どこまで使い物になるかはまだよくわかりませんが、いい感じのものができつつあります。新兵器の今後の活躍に、ご期待ください!
 

3.おわりに


日本人なら誰もが知っている、イワシという魚。こんな身近な生物の中に、多くの人を惹きつける大いなる謎があるのです。海の巨大さ、イワシの量に対して、イワシ研究者の数は絶対的に足りません。

たぶん未来永劫足りない。特に、未来を担う若手の不足は深刻です。

この記事を読んでイワシに興味が出てきてしまったあなた、一緒にイワシの真実を探す旅に出ませんか。やりたいことがある方も、大抵のことよりイワシの方が面白いはずです。柏イワシ課はいつでも、新人を募集しております。

この記事を書いた人
酒木
はじめまして! 酒木です。UmeeTのライターをやっています。よろしければ私の書いた記事を読んでいってください!
記事一覧へ