2021年9月、猛威を振るい続ける新型コロナウイルス。息苦しさを感じている方も多いのではないでしょうか。忘れてはならないのが、最前線で奮闘されている医療従事者の存在です。病床の逼迫、人手不足、長時間労働、そして医療崩壊……思わぬ形で浮き彫りになる「過労」という問題、果たして医療従事者でなければ無関係だと言えるでしょうか?
東京大学法律相談所がお送りする第73回模擬裁判『麻酔』では、そんな医療従事者の過労問題を扱います。
私たち東京大学法律相談所は、今年で創立76年を迎える歴史ある団体です。法学部の学生を中心とした200名以上が所属し、「学問的研鑚」と「地域社会への貢献」の二大理念のもと、週4回の無料法律相談活動などを行なっております。
模擬裁判とは、当相談所の創立以来続く伝統ある活動であり、今年で73回目を迎えます。社会的に関心の高い問題をテーマとした裁判劇を通じて、多くの方にとって縁遠い存在となりがちな「法律」を、身近に感じていただくことを目標としております。
本年度も五月祭の「見どころ企画」と「学術企画」の両方に選ばれており、例年来場者数が2000名を超える人気イベントです。昨年度は、オンライン配信でしたが、7000回以上の再生数を記録しました。
この模擬裁判の人気の秘訣は、リアルとエンターテインメントが調和した裁判劇である点にあります。
模擬裁判の脚本と判決文は、裁判実務に忠実なものとなるように推敲を重ねて作成しております。また、裁判官役が判決文を読み上げるまでは、役者さえもその結果を知りません。結末を知らされないまま進行する舞台で、役者の演技も迫真の熱を帯びます。
医師の死、その真相はーー。
緊張の瞬間を、リアリティ溢れる法律エンターテインメントとしてお楽しみいただけます!
さて、ここからは本年度のテーマである「医療従事者の過労問題」と模擬裁判のあらすじについてご説明していきます。
この新型コロナウイルスの感染拡大の中で、「医療従事者の過労問題」がマスコミなどで頻繁に取り上げられるようになりました。
これらの情報を見ていると、
「新しい感染症が流行してしまった分、仕事が増えたから、過労問題が起こってきたのだろう」
と思ってしまいがちですが、実際はそうではありません。
従来より、医療従事者は過重労働の傾向にあることが指摘されていたのです。つまり、もともと過重労働であった状況が、新型コロナウイルスの蔓延に伴いさらに悪化した、と理解するのが適切であると言えるのです。
本年度の模擬裁判では、ある若手医師が過重労働を原因として自殺に及んだとされ、その医師の遺族が病院を相手に損害賠償請求を提起した、という民事事件を扱います。
今の社会をより深く理解するという意味でも、ぜひご覧になっていただきたいです。
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ここで、過労死についての法的問題を考えてみましょう。
まず、過労死等防止対策推進法第2条において、「過労死等」は
①業務における過重な負荷による脳血管疾患・若しくは心臓疾患を原因とする死亡
②若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又は
③死亡には至らないが、これらの脳血管疾患若しくは・心臓疾患、若しくは精神障害
(厚生労働省HP)
と定義されています。
ここで問題となってくるのは、「強い心理的負荷による精神障害」を来たすほど業務が過度であったかどうかです。主人公である谷口由紀の業務は過重であったと言えるのかどうか、病院の労働管理体制は適切であったのかどうか、登場人物の証言などを聞きながら、ぜひ皆さんもご一緒にお考えください。
また、次に問題となるのは、死と業務との間に因果関係が認められるかどうかです。つまり、由紀は過労が原因で亡くなってしまったと言えるのかということです。由紀が抱えていた他のトラブルや悩み事が明らかになっていく中で、彼女は何を苦にして亡くなったのか、自殺の原因が業務の負荷であると説明できるか、考えながら見ていただけるとより面白いかもしれません。
本年度の模擬裁判では、医療従事者の過労死問題を題材に、証拠から事実を認定しようとする過程について知ることができます。
法律という言葉から、劇の内容も難しく、堅苦しいものなのではないかと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、模擬裁判は冒頭で法律解説の時間を設けているため、その場で法律について学ぶことができます。さらに、法律について学べるだけではなく、一つの本格的な舞台としてもお楽しみいただける裁判劇となっており、あらゆる方が楽しんでご覧いただける内容です。
また、本年度の模擬裁判では、 病院側、家族側の証言から、過労死したとされる医師の様々な一面が解き明かされていきます。医師を「死」に追い詰めたものは何であったのか、演者すら結末を知らない結末に向かい、リアルタイムで躍動する法廷劇をお楽しみください。
パンデミックの長期化に伴い、医療従事者の多くが、感染リスクと隣り合わせの厳しい労働環境に身を置いています。しかし、この問題は医療従事者だけに限りません。ブラック企業やサービス残業といった言葉が象徴しているように、日本の労働環境は深刻な問題を抱えています。本年度の模擬裁判では、医療従事者の過労死問題をテーマに、ワークライフバランスが重視されているはずの現代において、労働者の働き方はどのようなものであるべきか、観客の皆さまと共に考えられる裁判劇をお届けします。
また、昨年度に引き続き、本年度もオンラインでの開催となり、遠方にお住まいの方など、普段はご来場になれない方もお気軽にご覧いただけます。日常生活と切り離すことのできない労働問題を題材として、皆様が法律に対する理解を深める契機となることを確信しております。
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76年に渡る歴史を持つ東京大学法律相談所が、総力を挙げて作り上げた模擬裁判劇 。 法律が身近でなくとも、本格的な法律エンターテインメントとしてお楽しみいただけます。
また、単なる法的な問題を超えて、「働き方改革が叫ばれる社会で、目指すべき働き方とは何か」 という社会問題についてもじっくりとお考えいただけます。
医師を「死」に追い詰めたのはーー?
この現代社会において私たちが目指すべき「働き方」とはーー?
その答えを見つけるのは、他でもない貴方です。
私たちと一緒に、法律の世界へ足を踏み入れてみませんか?
9月19日の10時から12時、 YouTube Live にてお待ちしております。