多摩美から某外資系IT企業へ入社と同時に、東大の情報学環に入学した福岡さん。しかし、入社2年目にして早くも退社し、次は単身ニューヨークへ!
デザイナーとして、自分の世界観で戦っていくと決めた彼女の決断と覚悟を聞いてみました。
「わたし、視力は0.3なんですけど、人と目を合わせるのが恥ずかしくて、コンタクトは入れてないんです」
しっかり僕の目を見ながらそういって、彼女のインタビューは始まりました。
— なかなか東大ではお目にかかれなさそうな、おしゃれな雰囲気を感じますね。
「いや、そうでもないと思いますけど(笑)」
–さすが美大出身、という感じです。どうして多摩美に入ったんですか?
「小さい頃から絵を描くのは得意で。高校時代から、とにかくものを作れる人になりたいって思ってたんです。そのためには技術を身につける必要がある。だから、自然と美大を自分の進路としてました」
そうして見事現役で多摩美術大学へ進学し、美大生としての生活を始めた福岡さんでしたが……
「でも、周りには自分より上手い人がたくさんいて。打ちのめされましたね。」
— やっぱり凄い人がたくさん居そうですよね。
「じゃあ自分はどうすれば戦えるのかって考えました。それでまずは領域を絞って、グラフィックデザインとかの平面で勝負しようと思ったんです。」
— 戦えそうなフィールドで、長所を伸ばしていこうと。
「でも、だいたい二年に上がったくらいの時期から、『デザインって、立体とか平面だけじゃないよね』と思って。デザインの定義ってなんだろうなって考え始めました。」
— デザインの定義ですか!なんとなく、絵とか物の形とかをイメージしちゃいますけど。
もっと広く捉えようと思って。私がゼミで選択した、「サービスデザイン」だってデザインの内なんですよ。簡単に言えば、モノを使う人の立場になるデザイナーの観点でビジネスを考える、みたいなことなんですが。
— ビジネスにまでデザインは広がっているんですね。
「自分の軸を平面のグラフィックっていう風に絞っていたのですが、そこからメディア全般まで広げました。ウェブ、紙、ここ最近は誰でも3Dプリンタでプロトタイプを簡単に作れるようになってて、モデリングとかも勉強してました。様々な媒体で表現出来るようにならなければいけない、と感じました。」
レベルの高い学生の中でもまれながら、自分の特性を見つけていったんですね。
いまの福岡さんがどうやって形作られたか、少しずつわかってきました。
[広告]
— 現在福岡さんは東京大学大学院情報学環教育部(以下:情報学環)に所属されてますが、東大との出会いはどんなきっかけだったんでしょうか?
「三年生の頃、駒場キャンパスで開かれていた“i.school KOMABA”に参加したのが最初です。ここでは、新しい製品、サービス、ビジネスモデル、社会システムを生み出すためのワークショップみたいなことをやっていて。面白そう! と思って飛び込みました」
–なるほど、他大生として駒場の授業を受けていたんですね
「参加してまず思ったのが、『1つの問題についてぐるぐる考えがループするのって、たのしい!』ってことです。美大生って、結構技術信仰みたいなところがあって、手は動かすけど、『そもそも本質的な問題とはなにか?』みたいなことって、あまり考えないんです。やはりものづくりするのが好きで志望する人が多いので、思考より先に技術の方に興味が向く人の方が多いです。」
— 意外ですね! 美大こそ、そういうことを考える場なのかと思ってました。
「うーん。美大って基本的に生徒も教授たちも、自分たちがナンバーワンだと思ってる。机の上のあれこれより、実際に絵が描ける我々が偉い、みたいな。」
— 割と職人的な世界なんですね
「だからこそ、東大に来て新鮮でした。みんながあーだこーだ言いながら、普段は当たり前のように思われがちな問題や課題について議論する。今の私に足りないのはこれだなって直感的に感じました。」
— 美大にはなくて、東大にあるものですか。
「自分の技術がどんなに優れていても、そのうちテクノロジーの進化で代替されちゃう。そのとき、わたし達にできるのは、結局頭を使うことなのかもしれないな、と感じました。とてもざっくりですけど、思考力を鍛えなくてはいけない。東大生と議論していると、やはり東大生の強みはその部分だなと感じました。必要とされている場以外でも常に考えていられる、みたいな。」
— 入社と同時に、情報学環に入学したそうですね
「就職しちゃうと、目の前のことに追われて広い視野が失われちゃうんじゃないか、って思ってたんです。そしたら、i.schoolの友達に情報学環を紹介されました。社会人でも入れる、ジャーナリズムとか広告とか、メディアの新しい可能性を考える組織があるよって」
— でも入社してすぐ東大にも、って結構勇気がいりますよね。先輩達からの目とか、出世に響くとか、普通は考えちゃいそうですが。
「ビジネス的思考に自分を寄せたくなかったんです。それに、もともと会社も、入って二年以内に辞めようと思ってたんです(笑)」
— え!? それはびっくりですね。超一流企業じゃないですか。
「うーん。会社でやったことって、やっぱり商業デザインなんですよ。でも、わたしはあくまで自分の表現を追求したい、って思ってて。デザイナーはどうしても社会の中でしか生きていけないから、社会人としての経験のための入社のつもりでした」
–自分の表現、ですか。
「はい。自分の表現から作られる世界観、みたいなもので勝負したいって気持ちがありました。わたしは多摩美にデザイン系で入ったんですけど、いま思えばアート系で入った人たちを見て“羨ましい”みたいな気持ちを抱いていたと思います。彼らの打ち出す表現には、自分の感性や想いを信じて打ち出している信念のようなものを感じて、心が動かされました。」
— デザインとアートでは、その信念の強さは差がありそうですよね。
「やっぱり自分の世界観で勝負したいと思いました。でも、少なくともいまの日本のデザインの世界で、私にはそれは出来ない。だから外に出なくちゃと思いました。」
[広告]
— 日本と海外のデザイン界には、そんなに違いがあるんですか?
「少なからずあると思います。日本のデザインにおける暗黙の了解として、『自分の味を出しすぎてはいけない。デザインはあくまで商品のコンセプトを表現するもの』みたいな不文律があるんですよ。それに対して海外は、『自分の世界観をどれだけ持てているか』で評価される部分が大きいように感じます。」
— 確かに、デザインと言われるとなんとなく、何かの目的に沿っているかどうか、が大事な気がしてしまいますね。
「たとえば、NYのサブウェイの地下鉄マップをデザインしたマッシモ•ヴィネッリって人がいるんですけど、この人のデザインは、どれを見ても『あ、マッシモ•ヴィネッリのデザインだ』ってわかるんですよ。つまり、日本はデザインとアートを明確に分けるのに対して、海外ではその境界がもっとあいまいなんだと思います」
–言われてみれば、日本人でそういうデザインをする人ってあまり思い浮かばないです。
「アートとデザインをはっきり分けるのであれば、デザインとは、要求や問題を分解してコンセプトとして再構築し、適切な表現として打ち出すことだと思うんです。だから、日本では表現にオリジナリティーがあるかどうかはそんなに重視されません。」
–要求に対して正しい答えを出せるかどうかが大事、ということですね。
「たとえば、この前のサノケン騒動を見ても、日本のデザイン界の人はみんな佐野さんに対して同情的じゃないですか。それも、やっぱりデザインとアートをはっきり分けるからこそだと思います。あのデザインのコンセプトには独自性があるのだから、結果としてアウトプットが似てしまおうと、別に問題ないだろう、みたいな。」
–あのエンブレム問題にも、日本と欧米のデザインの捉え方の違いが関係しているんですね。
「私がニューヨークのアートスクールに留学するのも、それが理由ですね。」
–会社をやめてまで、留学なさるんですよね。
「自分の世界観で勝負したい。人の生活や価値観を変えるほどのインパクトを持ったデザインは、自分が本当に良いと感じたもので勝負しないと創りだされないと思うんです。アート的なデザインが常に生まれているNYでこそ、自分を押し出すデザインを学べるはずだと」
–自分の表現で戦うための準備、というわけですね。
「自分の世界観を豊かにするには、様々な経験を積んで、人生のナレッジを貯めて、多角的な視野を持つことが大切です。そういう意味でも、様々な人種の人達が切磋琢磨しながら生活しているアメリカ、特にNYはうってつけかなと。生活する上で人々が抱える課題も多そうで、デザインで挑戦していく環境としても面白そうです。」
−留学の先のキャリアパスについて、福岡さんはどう考えていますか?
「うーん。だいぶ先の話になっちゃいますけど……。やっぱり、まずはいっぱしのデザイナーになりたいですよね。自分の表現をしながら、それでもお金の稼げるデザイナー。そして、たくさんの経験を積んで培ってきた自分のセンスを、自信を持って押し出していけるデザイナーになれたら、日本に帰ってくるのも良いかもしれません。」
— まさに「凱旋」って感じですね。個人的には、福岡さんがいつか日本のデザインとアートの境界を取っ払ってくれるデザイナーになってくれるのではないか、と期待しています。
「いやいやいや!笑 そんな大それたことは言えないですよ……。でも、自分が発信したアートの領域にあるデザインが、日本の日常風景の中にとけ込んで、みんなにとってデザインやアートがもう少し身近なものになったら、それは素敵だな、と思います。」
— ひとことで言うと?
「『日本の美意識を引き上げたい』。いや格好良すぎますね笑 そんな自分を目指して、これからもものづくりを頑張ります!」
照れ笑いをしながらも、決意と期待のこもった一言でインタビューを締めてくれた福岡さん。
福岡由夏さんのこれからに、目を離さないでいたいと思います。