真夏のピークが去り、8月もそろそろ終わり。8月5日から始まったリオ・オリンピックも、閉会式での最後の花火とともに終わりを告げました。9月7日からパラリンピックが始まります。東京でのオリンピックを4年後に控えた本大会では、様々な選手の活躍がメディアで報じられました。
この記事では、日本でのオリンピック報道をアメリカのオリンピック報道と比較します。その上で、オリンピック報道に文化差が見られる理由を紹介します。最後に、オリンピック報道以外で見られうる文化差について、簡単に紹介したいと思います。
リオ・オリンピックは2016年8月5日から21日にかけて行われました。開始前は少し冷めた目で見ていた自分でしたが、オリンピックが始まると一転、レスリングやバドミントン、テニスなど真夜中2時過ぎまで見てしまった競技も数多くありました。
ここでは、今回のオリンピックがメディアによってどのように報じられたかを振り返ります。
以下、リオオリンピックの報道をピックアップしてみました。
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「人生の金メダル」に号泣=姉の結婚式でサプライズ-競泳の金藤選手〔五輪・競泳〕
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016081200058&g=spo
体操 男子団体決勝 「兄姉の分も」思い強く 「3きょうだい」田中佑典
http://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20160809/ddm/035/050/096000c
伊調馨変えた母の遺影と銀 内容より五輪4連覇
http://www.nikkansports.com/olympic/rio2016/wrestling/news/1696147.html
リオ五輪 瀬戸選手 母の手紙が支え ロンドン五輪代表落選で「必ずプラスになる」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201608/CK2016081202000146.html
吉田沙保里 銀メダルに「お父さんに怒られる」母は「大丈夫 よく頑張ったよ」
http://www.sponichi.co.jp/sports/news/2016/08/19/kiji/K20160819013197030.html
「父を信じて…」重量挙げ・三宅宏実が銅メダル
http://news.tv-asahi.co.jp/news_sports/articles/000080827.html
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こうして見ると、日本では、選手の家族に着目した報道が少なからずあることに気付かされます。
もちろん、私がそういう記事を恣意的に選んで紹介しているのですが、FNNのページには「リオ五輪 栄光のメダルの陰には家族の絆の物語がありました。」と題した特集があることや、ご家族がオリンピック会場から生中継でテレビ出演している様子を見ると、選手だけではなく家族も注目されているという点は納得できるものかと思います。
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リオ五輪 栄光のメダルの陰には家族の絆の物語がありました。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00333257.html
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このような家族に着目した報道は、世界的に一般的なものなのでしょうか。それとも、日本特有のものなのでしょうか。
実は、このような報道の文化差、しかもオリンピック報道の文化差を学術的に研究した論文が、社会心理学という分野に存在します。
どうして心理学が報道という、一見人々の心と離れた現象に着目するのだろうか、とお思いになる方もいるかもしれませんが、社会心理学では、個人の心理のみならず、個人の心理に影響を与える社会的要因まで視野に入れて、検討を行っているのです(図)。
さて、少し話がそれてしまいましたが、日米のオリンピック報道の比較を行った結果、以下の様なことが明らかになりました(Markus, Uchida, Omoregie, Townsend, and Kitayama, 2006)。
1)日本よりアメリカの報道で、ライバルとの競争に関する記述が多いこと
2)アメリカより日本の報道で、他者(家族など)の期待に応える(あるいは期待を超える)という記述が多いこと
そして、著者らはオリンピック報道に文化差が見られるのは、日本とアメリカで人間観が異なっているからだと主張します。つまり、
1)日本人と比べてアメリカ人は、「個人の特徴によって行動が引き起こされる」という信念を持つ傾向があること
例:Aさんがメダルを獲得したのは、Aさんの筋力とスタミナが優れていたからだ。
2)アメリカ人と比べて日本人は、「個人の特徴のみならず、他者の存在やその他のバックグラウンドによって、行動が引き起こされる」という信念を持つ傾向があること
例:Bさんがメダルを獲得したのは、Bさんの筋力やスタミナが優れていたことに加え、家族の応援があったからだ。
簡単にまとめると、
1)アメリカ人は、自分自身の特徴・性格によって、ある行動が引き起こされると認識する傾向がある
2)日本人は、自分自身の特徴・性格のみならず、他者の存在やその他の背景によって、ある行動が引き起こされる認識する傾向がある
ということになります。
さらに、このような信念・心の文化差があるからオリンピック報道にも文化差が現れ、報道に文化差があるから、文化によって信念・心が異なり……という文化(ここではオリンピック報道)と心が互いに影響を与えるプロセスがモデルとして想定されています。
日本とアメリカでは人間観が異なっているとするならば、オリンピック報道以外にも文化差が見られてしかるべきだと考えられます。
例えば、ある人が罪を犯した場合を想定しましょう。そのとき、アメリカ的な人間観を持っていれば「罪を犯した人には、悪い特性がある」と理解すると考えられます。
一方、日本的な人間観を持っていれば「罪を犯した人に悪い特性があるのみならず、その周囲にも何らかの原因があったのではないか」と理解する可能性があります。
ここ数日、息子の行為の責任を母親が問われる事態になっていますが、こうした事態はある種日本的であると考えられます。アメリカなどでも同様にこうした事態が起こりうるのかは気になるところです。
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高畑淳子さん「共に贖罪すべきと思う」 裕太容疑者逮捕
http://www.asahi.com/articles/ASJ8T6KFVJ8TUCVL017.html
高畑淳子「育て方いけなかった」涙ながら謝罪会見
http://www.nikkansports.com/entertainment/news/1700879.html
61歳の母親・高畑淳子さんが64分間立ちっ放しで涙の謝罪会見… 「ここまで愚かとは」と断罪しつつ「どんなことがあってもあなたのお母さんだからね」と涙、涙…
http://www.sankei.com/entertainments/news/160827/ent1608270010-n1.html
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最後になりましたが、「比較する」と言いながらも、外国の報道を取り上げることができていませんでした。普段、海外ニュースを見ないので何も言えないのですが、アメリカでも家族に着目した報道はあるようです。
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Michael Phelps’ mom still wants him to race in Tokyo
Rio Olympics 2016: Where is Michael Phelps’ father?
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文化を語るとき、「○○人は○○だ」というステレオタイプを簡単に持たないように注意する必要があります。全ての○○人が○○ではない、ということを常に認識しつつ、その一方で、「○○人は他と比べて○○な傾向がある」と認識することが適切かもしれません。
ここまで、マスメディアの報道(オリンピック報道)や個人の持つ人間観の文化差を取り扱ってみました。
社会心理学には「社会」という言葉と「心理」という言葉が含まれていますが、個人・対人・集合(マス)の3層にわたって、学びを深められる点に社会心理学の面白さがあるのではないかと思っています。興味を持った方は、是非図書館で本を借りるなどして読んでみてください。楽しいです。
参考図書:
池田謙一・唐沢穣・工藤恵理子・村本由紀子著 「社会心理学」