こんにちは。春から3年生のひなです。
文学部の推薦生として東大に入学し、現在は国文学を専攻しています。
高校時代は文芸部。俳句・短歌・小説などなど、パソコンでひたすら言葉を紡ぐ日々でした。
つまり、高校時代に動かしていたのは、だいたい頭と指と口だけ。運動とは無縁なザ・文化系女子です。
が、
なぜか現在、運動会女子ホッケー部でバッチリ身体を動かしています。
皆さんの中には、「運動会、なんか怖そう」といったイメージをもたれている方も多いと思います。私もそうでした。
そんな私が一体どうしてホッケー部に入部することになってしまったのか。
それにはこんな経緯があったのです・・・。
今年度はコロナウイルス感染拡大対策のためなくなってしまいましたが、私が入学した年には、諸手続きの後にサークル勧誘がびっしりと続くテント列というものがありました。
まず、大所帯の運動会系がずらりと新入生を迎えます。人の誘いを断れない系女子の私は、前半ほぼすべてのテントに入ることになり、軽く5時間はかかりました。(他の人と比べてもかなり長いです)
「運動に興味がないので」とは言えず、いろんな部活の話を聞いて回ります。チーム競技のPVを見るたびに、熱さに胸をつかまれていきます。もちろん、その中にはホッケー部女子も。
自分の部活の話をする先輩方の目はきらきらしていて、かっこいいなぁと思わずため息が出るほど。
「運動会運動部に入りたい!」とはならないものの、3月特有のやる気が私の心をくすぐりました。
本当はその日のうちに必修の教科書を買うつもりでしたが、そうこうしているうちに教科書販売所の営業時間に間に合わなくなりました。残念。
そういうわけで、次の日です。あらためて教科書を買いに駒場を訪れていた私は、道端でビラ配りをしていたホッケー部女子の先輩と出会います。
あ、昨日の・・・
人の顔を覚えるのが苦手な私ですが、なぜかその先輩の顔は覚えていました。
そして、先輩側も私のことを覚えていました。
せっかくだから体験練習に来ない?
運命のいたずらは恐ろしいものです。教科書を買いにこなければ、この先輩と再会することはなかったでしょう。
この再会が、結果的に私の人生を大きく変えていくのでした。
体験練習に行った日、ホッケー部の先輩、Sさんからの誘いで、お洒落なパスタやさんに行くことになりました。
1対1かと思いきや、なぜか主将も同伴。
運動部の主将です。いったいどんな怖い言葉が飛び出すのやら。
私は非常にびくびくしていましたが、結局食欲には勝てず。調子に乗って一番高いパスタ(セット付き)を注文してしまいました。ヤバイ、締められる・・・。
どんなことでも質問してね。不安なことがあったら聞いておきたいから
え、運動部の主将がこんな優しい言葉をかけてくれるの・・・??
その口調は驚くほど優しく、拍子抜けしてしまいました。私、一番高いパスタセット頼んだんですよ!?
聖母でしょうか。いいえ、運動部の主将です。
その優しさに身を預け、私は主将とSさんに思いのうちを伝えます。
ホッケーに魅力は感じること、それでも部活としてやるのには不安があること、チームに迷惑をかけないか心配なこと・・・主将とSさんはひとつひとつ、ゆっくりと話を聞いてくれました。
大丈夫、ひなちゃんならやれるよ
不安ならまずは仮入部にしてみない?
(仮入部・・・??そんな中学校の部活のようなシステムがあるのだろうか・・・。)
しばらく沈黙が流れます。
井の頭線が通り過ぎていく音が、やけに大きく聞こえました。
・・・仮入部なら
数分考えて、私はとりあえずの返事をしました。主将の強い熱意に引き込まれる形でした。
それでも、「入部します」と、はっきりと口に出すことはできませんでした。
こうして、私の長い「仮入部」生活が幕を開けたのです。
ここで一句。
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「仮入部!?」
やはりもともとホッケー部に、仮入部の制度はありませんでした。
私はイレギュラーな存在で、迎え入れてくれたチームメイト(仮)も、最初は戸惑っている様子でした。
仮ってどれくらい仮・・・?
混乱のあまり、迷言も飛び出します。
私自身も、「どれくらい仮」なのかわからないまま、とりあえず練習に混ざります。
後から聞いた話ですが、当時のチームメイトは、「部員だけど部員じゃない」というポジションの私に困惑していたそうです。そりゃそうだ。
そうこうしているうちに夏になり、合宿へ行くことになります。とはいえ私は仮入部。いつでも逃げられるぞ、と自分に言い聞かせて参加します。
同期の2人(もちろん正規部員)と一緒に頑張るぞ、と思っていましたが、同期2人は事情があっておやすみということに。
もしかして、1年生は仮入部の私だけですか・・・?
いきなり鬼のような試練が訪れます。
せっかくだからと、上級生に混じった練習も増えます。なんてこった、仮入部なのに。
暑さと心細さでやられた私は、日陰で先輩マネージャーさんと休憩。そこで、マネさんたちがひそひそ話をしているのを聞いてしまいます。
例のもの、手配した?
もちろん
じゃあ、次の給水で決行だね。院試のストレスを発散してくるわ
え、なんかアウトローなものでも使ってるの・・・?
マネさんたちは後ろから次々とプレイヤーの後ろに忍び寄り、そして狙いを定めて「撃ち」ました。グラウンドに先輩方の悲鳴が響きます。ヒェェ、殺される・・・!
暗殺・・・ではなく、水鉄砲です。暑さ対策に用意してくれたもののようでした。
ほら、ひなも
マネさん方の陰謀で、武器は私に手渡されます。暑さでハイテンションの私は、次々と先輩方を倒していきました。当然、反撃も返ってきます。
いつのまにか、同期のいない寂しさは消えていました。
(七帝戦のために訪れた北海道で、ちゃんと同期との仲も深めました)
夏が終わる頃には、すっかり私もチームの一員らしくなっていました。
「晴れた日、人工芝に水まきをすると、高確率で虹が出る」というのも覚えるほどに。
ところで、虹は夏の季語なんですよ。青春(春じゃん)を彩るのにぴったりですね。というわけで一句。
秋になりました。芸術の秋? スポーツの秋?
俳句という芸術と、ホッケーというスポーツの両方を手にした私に、怖いものはありません。
サークルで俳句を詠み、鑑賞しつつ、ホッケーにも熱を入れます。
ホッケーで一句、なんてこともできちゃいます。ホッケーを詠む人は、きっと世界で私だけですね。
ある日の練習でのことでした。
2つに分かれるよ。今日はどんどんポジション混ぜていこう!
練習の最後には、試合形式での実践練習があります。チームは学年のバランスが均等になるように分けられます。
そして、学年が若い部員から順番にポジション(試合での役割)を選ぶというのも慣例でした。
ホッケーには大きく分けて4つのポジションがあります。
まずはフォワード(FW)。積極的に攻め、得点を狙うのが主な仕事です。
次にミッドフィルダー(MF)。攻守の要で、ゲームメイクを担います。
そして、ディフェンス(DF)。守備のイメージが強いポジションですが、攻撃の起点としても活躍します。
最後にゴールキーパー(GK)。言うまでもなく、守りの最後の砦です。
もともと私はFWでしたが、その日はDFとしてプレーすることを決めました。
DFの動きは見よう見まねです。守り方は教わっているものの、「DFとしての攻撃の仕方」についてはまったくの未知でした。
パスを出せば終わり、じゃないよ。パスを出した相手からもう一回パスをもらってもいいし、もっと攻撃に加わってもいい。守るだけが仕事じゃないのが、DFのおもしろいところなんだよ
休憩時間のこのアドバイスで、私の動きは変わりました。先輩とのコンビネーションがはまり、攻め上がることを覚えたのです。
あれ、ひなDF向いているんじゃない?
このたった1ゲームがきっかけで、私はDFの魅力に取り憑かれることになったのでした。
いよいよリーグ戦が始まります。ユニフォームを着て、自分もベンチに入ります。仮入部ですが、しっかりと番号もあります。「ひな」にちなんだ17番です。
しっかりパンフレットに名前も載っています。仮入部ですが。
そして、もともとのポジションであったFWではなく、DFでデビュー。緊張で足は動きませんでしたが、頼れる先輩方のおかげでなんとかその場を乗り切ります。
秋季リーグの最後の試合が終わり、私をホッケーの道に誘ってくれた4年生は引退しました。
代が変わって初めての練習。
秋の季語である「月」の存在感と、私にとって大きな存在だった4年生の姿が重なりました。
月が、引退していく4年生と同じように、チームを見守ってくれているような気がしました。ちょっとベタかもしれませんが。
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冬、部屋を片付けていたときのことです。ふとした拍子に、渡された入部届が出てきました。
このとき入部届を見つけていなかったら、私は一生「仮入部」だったのかもしれません。部屋が散らかっていてよかった。(部屋が普段から綺麗だったら、そもそも入部届の存在を忘れないのでは)
春、授業の終わった足で、なんとなくドキドキしながらグラウンドに向かっていたこと。
夏、なんだかんだ言いながら、合宿も北海道遠征も楽しんでいたこと。
秋、初めて公式戦に出て、チームとしての喜びや悔しさを感じたこと。
冬、チームが新体制になり、明治神宮の絵馬に必勝祈願を捧げたこと。
一年を振り返りながら、私はゆっくりと名前を書きました。
そして、既に4年生が引退して代の変わった主将に提出しました(前主将には事後報告になりました)。
代どころか年もまたいでいる
入部宣言も忘れ、入部届も出し忘れていた私は、ついに「仮入部」を終えたのです。
「いつでも逃げられるぞ」と思っていた私は、「ここから離れたくない」と思うようになっていました。
いつのまにか、私はすっかりホッケー部員としてのアイデンティティを確立していたのでした。
次の公式試合・春季リーグに向けて、気持ち新たに一歩を踏み出す。その一歩は、最初の弱々しい一歩とは、たしかに違っていました。次の季節がもう目の前です。
運動経験の浅かった私は、「運動会」に必要以上のハードルを感じていました。
練習についていく自信、試合で活躍する自信がまったくなかったからです。
たしかに私は最初、腹筋すらできませんでしたが(スポ身の授業で本当に運動部かと呆れられたレベル)少しずつ練習にも慣れてホッケー部員らしくなりました。
今思えば、「仮入部なら」と言ったあの日の私は、ただ「本入部します」と言うための自信がほしかっただけだったのです。
結論を言うと、運動会ホッケー部女子は怖くないです。
本入部に1年かかった私ですが、「仮入部」の間に得た技術・仲間・時間はすべてかけがえのない宝物です。
ぜひ、新入生の皆さんもホッケー部に来てみてください。
最後に一句。
※俳句と野球に熱心なあまり、国文の大先輩・正岡子規は落第してしまったという。ですが安心してください。ホッケー部員は、みんなしっかりと勉学・研究・留学との両立ができています。
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Twitter:@utgirls_hockey