【トイレも1つの社会問題】研究対象が「トイレ」の東大推薦生・谷口智海さんに突撃。

2020.04.08

Ar

東大の推薦入試が始まってから、今年で5年目となりました。

筆者の周りにも様々な推薦生がいて、それぞれ色々なことに興味を持って学んでいる人が多いと感じています。

そんな中で、今回なんと「トイレ」を研究の対象としている推薦生の方を見つけました。

取材に応じてくださったのは、推薦入試3期生の谷口智海(たにぐちともみ)さんです。

学生証
  1. お名前:谷口智海さん
  2. 出身:鹿児島県
  3. 所属:東京大学教養学部統合自然科学科3年
  4. 備考:第2回日本トイレひと大賞グランプリ

ー 早速なんですが、「トイレの研究」って一体どんなことをしてるんですか?

私が最初に取り組んでいたのは「災害時のトイレ問題」ですね。

ー 災害時のトイレ問題?

はい。簡単に言うと、災害時にトイレが使えなくなってしまったり、使えるトイレはあっても不衛生な状況になってしまったりして、それらに付随して様々な問題が発生するということです。

ー なるほど、確かにそれは困りますね・・・。

ただ、トイレが問題になるのはこのような非常時だけではありません。トイレという空間が用意されていても使えない、使いづらいということがあります。

例えば、車椅子の方のためには、車椅子が入って方向転換のできるスペースや移乗のための補助設備などがあるトイレが必要です。そして、そのように作ったトイレでさえ、実はまだ使いにくかったりします。

ほかにも、脊髄損傷の方や、いわゆるセクシュアル・マイノリティなどの方にとっても、トイレを使う上での問題が存在します。

このような、トイレを使う方の特性が限られている部分のトイレ問題がどうやったら解決できるかということにも興味を持っています。

ー 当たり前に使っているトイレですが、マイノリティの方にとっては障がいもあるんですね。トイレの研究って最初はピンときませんでしたが、確かに生活に根付いたトイレにはいろいろな課題がありそうです。

はい。トイレの研究テーマはあらゆる分野に関わってきます。

例えば、文化や宗教の視点から見てみると、そもそも「トイレ」という概念がなかったり、宗教的な理由で不衛生な排泄の方法をとったりしているようなところに「トイレ」を導入するにはどうするかという問題があります。

教育現場におけるトイレの問題というのもあります。特に最近では小学生に多いようですが、授業中にトイレに行きたくなっても恥ずかしくて言い出せずに行けないということや、行きづらい、あるいは和式トイレが使えなくて行けないなど、様々な問題があって、これが便秘という重大な健康被害としてあらわれることもあります。また発展途上国等では、女子教育において学校に十分なトイレがないことで生理中に学校に行けなくなるなど、教育機会にも関わります。

生物分野との関連でいえば、バイオトイレという、微生物の働きを利用する技術の開発も進んでいます。貝殻を用いて汚水を浄化したり、浄化した洗浄水を仮設水洗トイレそのものの中で循環させて再利用したり、おがくずやそば殻などの資源を用いたりすることで、水資源を使わずに排泄物を分解して有機肥料にできるトイレもあって、各地で実用化されています。富士山に設置してあるのも有名ですね。いつか富士山に登ってトイレ巡りをしてみたいです(笑)。

そして、先ほど脊髄損傷のことに触れましたが、下半身不随などにより尿意・便意を感知できないなどの感覚機能面や、自力で排泄できないなどの運動機能の面も実際にトイレを使う上では問題になりますね。

ー なるほど……。そうすると、谷口さんが意識されている問題は、特にどのようなものなんですか。

トイレ全般、と言ってしまえばそうなんですが(笑)。

現時点で特に私が問題として意識を向けているのは、本来気軽であるべき「トイレに対するアクセス」が何らかの形で阻害されるという状態についてでしょうか。

それから、日本で私のようにトイレを専門にしてやっている人はもちろんいるんですが、実際には発信者に女性がかなり少ないという現実もあります。そうすると、女性にとっては当たり前に必要な設備に対して男性が気づけなかったりするんですよね。もちろん逆もあります。

先ほどの車椅子の方向けのトイレについても、サニタリーボックスが小さくて下すぎると車椅子の方だと届かないと思うんですよ。こういう点では女性目線の指摘がきわめて大事で、私もそのような役割を担っていけたらと思うのですが……。話しやすいことではないと思うけど、男女だけでなく様々な立場にいる人同士での意見交換はもっと必要だなと思います。

トイレへ関心を持ったきっかけ

ー そもそも一体、どうしてトイレに興味を持つようになったんですか?

実は、先ほど言った「トイレに対するアクセス」についての関心は、小さい頃からあったんです。

私は小さい頃から割とトイレが近くて、家族で出かけたりしたときもやたらトイレに行きたがって迷惑をかけていたこともありました。中学生になってもやはりそのような意識はあったので、例えば部活の試合前とかは、集合前に済ませておけるよう、会場に到着したらすぐにトイレの場所を確認していました。それ以外にも、基本的にトイレの場所に対する意識は敏感でした。

でも実際私に限らず、急にトイレに行きたくなったときには、すぐに場所が分からないと困りますよね。

ー 確かに、困ります・・・。

では、研究対象としてトイレに関心を持ったのはいつなんですか?

高校生のときです。ちょうど私のいたときに、通っていた高校がスーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)になって、その活動の一環としての海外派遣に向けて何かひとつ「研究テーマ」を決めるということになったんです。

(SGHとは:国際的に活躍できるグローバル・リーダーの育成を重点的に行う高等学校を文部科学省が指定・支援する制度。)

そのときに研究テーマを、小さいときから関心のあった「トイレ」にしました。

ー 学校の研究活動がきっかけだったんですね。

はい。これをきっかけに色々調べてみて、災害時のトイレ問題のことを知りました。ちょうどそのときに熊本地震が起こったということもあり、トイレに対してより一層問題意識を持つようになりました。なかなか報道はされていなかった印象があるのですが、このときも実際に問題は起きていたので。

ー 具体的にはどんなことを調べたんですか?

災害の中でも初めは地震に絞って調査を進めることにしました。過去のいくつかの震災の事例について、被災地に仮設トイレが届くまでの時間を調べたり、トイレに関する意識調査のアンケートをしたりしました。

災害が起きたあと、常設のトイレが使えなくなった場合の仮設トイレが届いて使えるようになるまでには何日かかかることが通常です。実際、調査の結果からも仮設トイレの設置に日数がかかっていたことがわかりました。この期間にトイレが一切使えないのはとても困りますし、その期間を補うためにも、最低限携帯トイレの備蓄はとても大切です。

しかしこの調査からは、トイレの備蓄に対する意識の低さも浮き彫りになりました。災害のためにトイレを備蓄しているという人はほとんどいなかったんです。

これらをまとめて、個人としてはもちろん、企業や団体がやっている備蓄の活動などにおいても、携帯トイレの備蓄をきちんとすべきだと提言したのが私の高校生のときの研究です。

広がり続ける視野

ー 谷口さんはトイレの研究で、東大の推薦入試を受けられていますよね。推薦入試を受ける中では、考えの変化などはありましたか?

まず、トイレが様々な分野とどのように関わっているかを調べ直す機会になりました。教育学部の受験を考えたこともあったので、一度トイレと教育の関係を調べてみたりもしました。

ただその上で、やはりトイレには様々な分野が関連しているので、色々な形で学ぶことができる教養学部を受けることにしました。

準備は本当に大変だったのですが、このときは様々な社会問題のことを調べましたね。その中で、例えば「設備」自体への興味というか、新しいトイレ設備などの「開発」も面白そうだと思い始めましたし、宇宙のトイレ事情などにも興味を持つようになりました。

入試当日にも、受けて良かったなと思うことは多かったですね。思い切って、私がトイレに関する研究を出したということについてどう思ったかを面接の最後に聞いてみたのですが、先生お一人お一人が色んな意見をくださったんです。緊張していて忘れちゃった部分もあるんですけど、それこそ、私の関心のある内容は他の問題に絡めることもできるから今トイレだけに絞るのはもったいないんじゃないかという意見をいただいたこともあって、他の視点の存在を改めて意識することもできました。

ー 後期課程の学びもスタートして、専門に触れ始めている時期だと思いますが、ここまで2年間、学びの手応えはどうでしたか?

前期課程では網羅的な授業が多かったので、新たな問題を多く発見することができました。授業内でのプレゼンテーションでトイレのことを発信したりレポートに書いたりする中で、トイレの研究という視点自体がマイナーな分野だということを再確認すると同時に、色々なことがトイレにつながっているいうことにも改めて気付きました。

トイレのことを直接研究できる研究室というのはないんですが、植物系の研究室で学ぶにしても、スポーツ関連で運動機能から学んでいくにしても、まだまだ問題を発見する機会が続くと思うので、これからもじっくり考えていきたいなと思います。

ー なるほど……! ぜひ頑張ってください。

将来はどんなことをされる予定なんですか?

本当に何もまだわからないですね。行政に行くか、企業に行くか、大学に残るか、選択肢はたくさんあって迷っています。今まで言ったように、大学でいろいろなことに触れて関心はさらに広がったのですが……。広がる一方なので、将来のことも含めてまだまだ考えていく必要があるなといったところです。

読者へのメッセージ

最後に、この記事を読んでいる人たちに改めて知ってほしいことをメッセージとしてお願いします。

トイレは、皆さん全員に関わる問題です。それぞれが自分に必要なトイレのことについてきちんと考えていくべきです。足りないことがあれば自分で補わなければならないし、自力でそれに対応できないときは声を上げないといけません。

だから、トイレに関する話をもっと気軽にできるようにもしていくべきだと思います。私も日頃から、SNSなどではどんな些細なことでも発信するようにしています。トイレに関する話はしやすいものではないかもしれませんが、それこそ性別ごとに視点が違うということもよくありますし、やはりもう少し意見交換があってもいいのかなと思います。

トイレに関心があると言うと、「面白い」と言ってもらえることが多いです。しかし本当は、この「トイレへの関心」を特殊なものに思ってほしくありません。社会問題には色々なものがあり、それぞれについて考えている人たちはいますが、それと同じで私も「トイレ」という必要なことを必要なように主張しているだけなんです。

そして、トイレについても備蓄はしていきましょう。いつか地震をはじめとする様々な災害が起こるということはわかっているんですから、食料だけでなくトイレも備蓄するべきです。

ー ありがとうございました。

トイレへの関心と問題意識を貫き通し、学び続けている谷口さん。取材中にはこんなものも見せてくださいました。

上には「Toilet」の文字が

携帯にトイレの写真用のフォルダを作っていて、造りなどが気になったトイレの写真を残しておいているとのこと。

最近では、東大の一般入試の際に設置された仮設トイレの設備が気になったそうで、トイレの後ろ側まで撮影して、水の汲み方のことなども教えてくれました。

仮設トイレについて説明してくれています

トイレの研究という視点、皆さんはいかがだったでしょうか。ひとまず、この記事を読んだからには携帯トイレをきちんと備蓄するようにしたいですね。

この記事を書いた人
Ar
国際関係論を専門に、語学ばかりやっています。
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