こんにちは、森一貴と申します。簡単に自己紹介だけ。
2010年に理科I類に入学し、2014年に教養学部を卒業。
ITコンサルの会社に就職したあと1年半で退職し、いまは鯖江市・ゆるい移住に参加しています。
鯖江市では、デザイナーをやったり、地元職人の経営のお悩み相談に乗ったりしながら、
いまは何か楽しいことができないかともやもや考えています。
今回は私の経験の中から、何かしら皆さんに伝えられることがあればと、記事を書かせていただきました。
私は、東大に入ればなんでもできると思っていました。
私が進振りで選択したのは、教養学部の広域科学科 人文地理分科(いまの学際科学科 地理・空間コース)でした。
なぜなら、そこではまちづくりを学べると知ったから。
卒業したいま私が思うのは、誤解を恐れずに言えば、そこで学んだことは「実に役に立たなかった」ということです。
「誤解を恐れずに」と書いたのは、私は、その学科を否定する気は毛頭ないから。
そこには優秀な同期や先輩と教授陣がおり、地理学の専門知に対する前向きなモチベーションと、それを支える磐石な基盤がありました(大変お世話になりました)。
それが「役に立たな」くなってしまったのは、全ては私の浅薄な思い込みのせいです。
そう、私は、東大に入ればなんでもできると思っていました。
心理学科を出れば人の心を手玉にとることができ、教育学部を出れば人望厚いスーパー教師になれて、
そうして人文地理学科を出れば、まちづくりのプロになれると信じていたのです。
しかし、そうはならなかった。私に身についたのは、専門的な知識だけだった。
それを自分なりに理解できたのは、社会人になってからのことです。
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すこし、コンサル時代の話をします。
コンサル経験を通じて学んだ大事な考え方のひとつが、「スキル」という考え方です。
いまの日本では、人前で話すのが苦手だとか、控えめな性格だとか、センスがないとか、こうしたことは個人の「性質」として切り捨てられがちです。しかし、私が働いていた会社では、それらはロジカルシンキングや、プレゼンテーションや、クリエイティビティといった「スキル」であり、「学べるもの」として解釈されていました。
例えば人前で話すのが苦手なら、プレゼンテーションのスキルを身につければいい。話し方だけでなく、顔の表情や目の動かし方、適切な服装の選び方まで、私たちはそれらをスキルとして学ぶことができる。
つまり、私がコンサル経験を通じて学んだのは、世のなかには、教育や経済のような「領域」の軸に対して、もう一つの軸があるということ。そしてその中には、知識や方法論などの専門知に対して、ロジカルシンキングやプレゼンテーションといった実践を担う「スキル」という概念が存在する、ということです。
翻って学生時代を振り返って思うのは、東京大学はスキルではなく、「専門知」を身につけるところなんだということ。
つまり、私が「まちづくりのプロになりたいから人文地理学科に進んだ」、その動機は根底から矛盾していたのです。
まちづくりの「実践」自体には、地域活性化の先進事例に関する知識は必要ない。必要なのは、まちの人々を巻き込むファシリテーション能力であり、人々と協調して信頼を得るコミュニケーション能力であり、そういう様々な「スキル」でした。
学生時代の私は、だから、大学にいてもなんにもならないじゃん、ともやもやしていたのです。
専門知とスキル、その両方を、大学側が責任を持って教えてくれるものだと思い込んでいた。
履き違えていたのは、私の方でした。
私は、専門知を蔑ろにしろと言いたいのではありません。専門知ももちろん、あたりまえに重要な概念です。
私はただ、「スキル」という考え方、その重要性を知ってほしいと願っているだけです。
今の日本では、あまりにスキルという考え方が浸透していないと感じます。
その結果、「私は教育学部を出たので教師になります」などという、わけのわからない論理がまかりとおってしまう。
教育学部を卒業したからといって、教師に必要なスキルがあることは全く担保されていないのに、
大学を通じて「スキルが身についた」と勘違いしてしまうのです。
あるいは、大学を出ても「何も身についていない 」人、というのも生まれてしまいます。
大学を離れてひとりの個人になるとき、私たちは幾度となく問われます。
「あなたは何ができるの?」と。
それに対し、 「あ、いや、何ができるとかはないんですが、大学では経済を勉強していました」と答えるだけの「何もできない人」が、世の中には本当に本当にたくさんいる。
彼らは、対外的に自分の価値を示せない。それは、本当に辛いことです。
私は、今すぐスキルを身につけろ、というつもりはありません。
しかし、いま学問を学びながら「あれ、なんか違うな」と思っている人は、東大にも少なからずいるはず。
その時に「ああ、私はスキルが欲しかったのか」と気づいてくれる人がいたら。
あるいは「あれ、私、大学で経済を勉強しているだけの人になっているかも」と感じてくれる人がいれば。
そしてこの記事が、どこかの誰かにとって、何か新しい行動を起こすきっかけになれたら、
心より嬉しく思います。
東大に入ればなんでもできると思っていたかつての私に向けて。
(森一貴さんのブログはこちらから→ http://dutoit6.com)