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惨めな少女が数学を手に権力に抗い、輝く「シンデレラ」となるまで。【ギャル盛りの美人研究者・久保友香氏インタビュー】

2016.03.06

武士に武士道があるように、

ギャルにはギャル道がある。

武士道? ギャル?

なんだかよくわからないけど、

何なんだこのヤンキーが言い放ちそうなDQNメッセージは!!!

が、これ、実は東大の特任研究員である久保友香さんが、昨年開催されたTEDxUTokyoSalonというパブリックなイベントで講演されていた内容だそうです

「渋谷ギャルの生態調査を行い、プリクラでの盛りを解析的に研究している」という噂を聞きつけ、「何を考えてこんな挑戦的な研究テーマに取り組んでいるのだろう」 と思い、取材に行ってきました。

ギャルと研究者という、一見、あまりに遠すぎる種族。

それらの間に接点を生み出し、新たな研究領域を切り開く久保友香さんの野望とその原点に迫ります。

(TEDxUTokyoSalonでのプレゼンテーション)

学生証
  1. 名前:久保友香さん
  2. 職業:情報理工学系研究科 特任研究員(≠ギャル)
  3. 所属:東京大学大学院情報理工学系研究科
  4. 進路:慶應理工学部 システムデザイン工学科→東大新領域環境学専攻 メディア環境学研究室 博士課程 修了→研究者の道へ

ギャル文化に根付く新技術「シンデレラ・テクノロジー」

「シンデレラ・テクノロジー」

これは、“「魅力的な外見で、多くの人から注目されたい」という夢をかなえるための、先端的なデジタルコミュニケーション技術であり、久保さんの近年の研究活動における一貫したテーマです。

日本では古くから、芸妓・巫女・花魁など、不特定多数から見られる仕事の女性が、化粧や衣装で元の姿を隠し、”理想的なアイデンティティ” を作ってきた文化がある。その文化に現在、情報通信技術の影響を受けた新しい展開が起きている。(中略)

理想な姿を目指す彼女たちは、既製品をカスタマイズして自分なりのコスメを作るなど、創造的な作業を日々行っている。その複雑な女心を、日本の優れたエンジニアが形にしていった結果、日本のシンデレラ・テクノロジーは、世界で他に類を見ない発展を遂げてきた。

これまでは、日本の閉じた女の子社会の中だけで発展した技術だったが、今後ますますインターネットが発達し、一般市民のアイデンティティのあり方が複雑化していく中、この技術が普遍的に求められることを予想する。日本で発達した新しいアイデンティティを作りあげる技術=「シンデレラ・テクノロジー」が、世界に普及することを目指し、本研究を行う。

本人サイトAboutより

このシンデレラ・テクノロジー。中々目にすることのない、独創的な研究コンセプトですよね。一体全体どのような経緯があって、いつごろ現在のコンセプトに辿り着いたか気になります。

シンデレラ・テクノロジーに取り組み始めたのがいつ頃か聞いたところ、「2008,9年くらいから」とのこと。それまでは「美人画の研究が先にあって、2007年〜2008年の頃に取り組んでいた。」とのことです。

©ignition“Why Do All Japanese Girls Look Like They Have the Same Face?”(,©wikimedia,©Popteen)

もともとは学生のころ日本の「侘び寂び」や「おもてなし」の定量化を目指して研究をしていたことに端を発しており、伝統的な美人画における顔のデフォルメ手法を解析的に研究し、女性の顔がいかなる価値観に基いて、いかに描かれるかを探求することが、久保さんの研究活動における初期の問いでした。

その後プリクラメーカーのFURYU株式会社と話があったことで、分析だけでなく、より現実に近いところで新たな技術を生み出すよう研究を進めることになったようです。

Y.Kubo,H.Shindo,K.Hirota,”,The Orikao Method: 3D Scene Reconstruction from Japanese Beauty Portraits”,SIGGRAPH 2010, Los Angeles, California, July 25 – 29, 2010.

こうした変遷の中で、顔の描き方が日本特有の価値観やコミュニティーのあり方にどう根ざすか考察を進めると共に、新たな「描き方」を必要とするこれからの人々に向けた技術の開発を行うようになり、それが「シンデレラ・テクノロジー」として成立したのでした。

その開発に向けた先駆的な調査のターゲットが、ギャル道を極めるギャル達なのです。

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権力に対する反逆としての「シンデレラ」

ーギャルを研究する背景にはどういう動機があるのでしょうか?同じテーマで他の対象を用いて研究することも出来そうと思いますが、彼女たちに着目したくなる理由は?

ギャルは反逆的。

「技術は反逆的な気持ちがないと生まれないんじゃないか。特別な人にしか許されてなかった機械を、誰でも使えるようにする技術は、その特別な人の権力への反逆心が無かったら、生まれないんじゃないか。」という思いはあります。ジョブズも軍事用でしか使われてなかったコンピューターをパーソナルにしたり。

綺麗になって注目を集めるモノっていうのは、未だに限られた人にしか与えられていないと思う。もとから美人とか、凄いお金と権力がある人。

でも、誰でも努力でスターになれる仕組みが、インターネットによって初めてできている気がする。プリクラもその一部。逆にお金使ってない読者モデルやブロガーが、評価されたり。バーチャルで人気出てきたり。

気持ちとしてのギャルっていうのは、凄いつけまつげをしているということではなくて、「もともと特別な、綺麗なお金持ちがもてはやされるのは違うわよ」っていう権力への反逆の発想。

高度な技術を用いて、綺麗さを自分のものにし、輝く。

それを”魔法”ではなく”技術”で変身するシンデレラと考えている

ー(「綺麗」を民主化しようという話か…。)そのために久保さんは美を測っているということでしょうか。

美そのものは私の専門じゃない。それは美学のやること。

でもその美の基準がないんじゃないかな、と思うわけで。とかく生まれ持った顔で図られている。そうではなくて、努力で図る。時代に合った格好をしているか。盛れているかどうか。

ー(美を過程・行為として捉え直して評価する基準を作るのだとも言えそうな…物凄い野望の持ち主だ…!)

運動ができず劣等感を抱えていた小学生時代

ー仰ったことは「持たざる者」からの視座ともいえますが、原点はどこにあるのでしょうか?久保さんの生い立ちを教えて欲しいです。

人がすごい苦手。いじめられたりいじめたりとかは全然なかったんだけど。人と接しないのが一番嬉しい。

そして何より、小さいころは運動が苦手で、足が早くなかった

給食食べるのも遅い。放課後も一人で食べてて笑われる。

すごいダメな人。諦めてモヤモヤしている状態

ー今では全く想像もつかないですね(笑)

それなのに結構人とふれあう所に結構行っている。今も、授業だって本当は苦手(笑)。

周りに遅れをとり、追いつけないことに苦しんでいた小学生時代。

この時に抱えたものが、後々彼女を新たな領域を切り開くに至らせる、一つの原動力になります。

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算数をやる時間は幸せ−数字だけの世界にのめり込む

劣等感を抱えて過ごすばかりの小学生時代ですが、高学年になって転機が訪れます。

テストの順位表で上位になり学力というアイデンティティに気づいたことで、「努力で変えられる、報われるモノサシが基本となるべき」という今の研究にも繋がる思いが芽生えたよう。

そこでハマったのが算数でした。

ー小学生生活のなかで好きなものは何だったのでしょうか?

算数が好きで。算数は、やるとできる数字だけの世界。

人間関係とか社会のこととか、切り離されてて幸せだなって思っていた。幸せな時間、できればずっとこの世界にいたいなと。

国語とかは、人の気持ちがわかんないから苦手。そういうのは捨てちゃったから全然わかんないまんま。人とコミュニケーションする欲求がなかったから語学もあまりやんなかった。とにかく目立たない。発言しなければ嫌われもしない。

苦手なことをやっている余裕はない。だから数学ばっかりやってきた。

小さいころは鶴亀算が感動的だった。今でも工学のモデリングの作業が一番好き。仮定を置くことによる発見が楽しい。

このようにして、「数字が使えれば誰とでもコミュニケーション取れるんじゃないか」という思いを抱くほどに、久保さんは数学を通して世界を見ることを覚えます。

努力次第で、魔法のように世界の本質に近づくことのできる科学的活動に、彼女は魅せられてゆくのでした。

数学ばかりに興味の向いた女子校生活

女子校出身の取材陣

こうして算数を得意科目として中学受験を乗り切り、小学生時代を終えた久保さん。中高は女子校に入りました。

現在の久保さんは、「女子校で過ごしたせいかもしれませんが、男性に嫌われるのは全然平気だけど、女性に嫌われるのはすごくいや。」と語るほど、男女それぞれに違った感情を持ち、「女子」をある意味特別視しているようです。

しかし、当時は女子にも、女子のコミュニケーションにも、全く悩んでいませんでした特に興味を持ったり、気にすることも無く、数学ばかりやっていたと言います。

これは今になって振り返ってみると、「自分が行っていた女子校に女子らしい女子が居なかったから」、特に悩む必要がなかったのかもしれないと考えられるとのこと。

その中でも、「無意識には「うまくやること」を考え、特に問題もなく学生生活を送ってきたことで、それが現在「女子」というコミュニケーションに興味を持つことに通じているかもしれない」と彼女は言います。女子校にいた経験があったからこそ、彼女の学校になかった「女子」への興味が出てくると思えるようです。

確かに、何か自らにとって問題となるほどの「女子らしさ」と接することがなければ、特に気にすることもなく自然体で周りの女子と関わってこれますし、逆に彼女の学校から出ればと多く存在する「女子」は特殊な現象として目に映りますよね。

そんな特殊な現象に対して、素朴にも疑問を抱き、それを解いてきたことが今につながっているようです。

仮に「なぜ女子は一緒にトイレにいくのか?」といった現象があれば否定をせず、謎を解きたいからついていく。

「根本的には男女の差はない。生物学的な知識が薄いこともあり、あえて差はないという仮定をおく。」といった工学的な視点から分析しているとのこと。

数学をやるか、女子をモデリングするか。そんな中高時代だったみたいです。

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コンプレックスと戦った大学時代

ー大学時代はどうだったのでしょうか。サークルなどは?

慶應だったので、学校に行くと社交場という感じだったので初めて人間に興味を持ちました(笑)。

サークルはゴルフサークル。結構コンプレックス。周りは慶應の付属校から来た人ばかり。

華やかで、ファッションも、大学入る時点で整っててものすごく憧れました。自分一人だけ野暮ったくて。頑張ろう頑張ろうとは思っていた。

でも、なぜか頑張りきれなかった。母はおしゃれが大好きな人なので、応援してくれあのに、応えられなかった。そのあたりから私には女性が心底そういう気持ちになることが疑問であり、そこがずっと謎であったと

ー(身なりを気にしたくなることそのものを疑問提起するとは、完全に生活者調査をする人の視点だ…笑)

メディア環境学研究への昇華

ー大学時代の専攻は何だったのでしょう?

数学科にいきたかったけど、まわりにヤバイと言われた結果、機械系に進むことにした。

で、実験をしてたんですけど、金属切削をやってたら、機械が怖くて、のけぞっちゃって、安定しなかった。自分だけギザギザで終わらなくて

ガラスばりの部屋のなかで自分だけマトモに実験を進められない。頑張ってもできないのは自分だけで、プライドは傷ついていた

ー(きっとデジャヴ感のある体験だったんだろうな…)

そして、機械そのものというよりはエネルギーの分野にいて、その時に、丸善でエネルギーの本を見ていたら「これからはハードパワーからソフトパワーの時代だ」というのをみて。それを書いていた月尾嘉男先生のもとに行きたいと思って、東大に行くことにした。

ー(「日本文化」の中に世界に普及すべきものを見つけたいのはそのためか!独特の曖昧さがソフトパワーにつながるんだな。)

新領域の二期生であった。そこがメディア環境学をやってるとこだった。先生は建築、機械、情報というひと。

思い返してみたら、両親が共に元テレビ局勤務。どちらかと言うと勉強よりもテレビまんがから学ぶものが多いという教育方針。テレビっ子だった。おじいちゃんもおばあちゃんも、考えてみたらメディアだった。

メディア環境学は自分に無理がないと思った

食卓の話もほとんど芸能の話で。結果的にいきついた現在は歌舞伎の話で持ち切り。大衆文化が好きだった。

そういうのを取り上げたいと思ったけど、私ができる方法としては数字しか持ってない

Y.Kubo,H.Shindo,K.Hirota,”,The Orikao Method: 3D Scene Reconstruction from Japanese Beauty Portraits”,SIGGRAPH 2010, Los Angeles, California, July 25 – 29, 2010.

それで大学院でやってたのは、日本の曖昧な概念を数値化するということ。そこで侘び寂びやおもてなしを数値化してみたが、うまくいかない。

そこで試行錯誤を繰り返した結果、浮世絵や絵巻など日本のデフォルメパターンにたどり着いた。

ーその変遷を追っていくと、ギャルのプリクラでの盛りパターンに突き当たるわけですね。


ギャルの「盛り」文化を洞察して、これからのアイデンティティのあり方を見通し、新たな未来を切り拓いている久保友香・特任研究員。

その研究的な原点は、コンプレックスを受け入れ自分の進む道を見つけた大学院時代に、自らの育った環境である「女子」及び「日本文化」を数学的に読み解き始めたことにありました。

自分が人間、特に女子を理解できないがゆえにコンプレックスをもち、それを克服するために、数学という異色の武器にこだわり続けながら戦ってきたのだろうと思います。

曖昧なものを分かりたい。特別な輝きを手に入れたい。それが彼女の一貫した推進力のようです。

その柔らかい表情は、物心ついた頃から抱えてきたコンプレックスに対して、数学という武器を手にして全力で努力をすることで乗り越えてきたからこそ、見せることの出来る、「シンデレラ」というアイデンティティなのかもしれません。

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見過ごされがちなネタを取り上げます。写真は本人です。
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