東京大学新聞オンライン編集長、須田英太郎さん。
インタビュー前半では、須田さんが紛争や難民問題に関心を持つようになったきっかけをうかがいました。
「自由を持つ者は、持たぬ者のためにその自由を使う責任がある」
ミャンマーでの経験を通して、須田さんは発信への関心を深めていきます。
後半は、須田さんが文章や表現について考えていること、そして
「大人になりたくなかった」という20歳の頃のお話をうかがいます。
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–なぜ東大新聞オンラインに入ろうと思ったんですか?
僕は大学に5年いて、東大新聞オンラインに加わったのは4年の春でした。
友達に誘われたんだけど、入った理由は単純に楽しそうだったから。
もともと文章を書くのが好きで、ロヒンギャの難民キャンプに行ってからは発信にもすごく興味が
あったけど、そういうサイトがあるならやってみようかなというくらいの気持ちでした。
–なるほど!紛争・難民問題について発信する手段というより、
書くこと自体が好きだったんですね。
東大新聞オンラインの須田さんの記事は、難民から映画観、東大OBインタビューまで、かなり幅広い印象があります。
記事を書くことのどんなところが楽しいですか?
まず、取材が楽しいです。
現地に行って1次情報に触れること。
もしかしたら僕はそれが1番楽しいのかもしれない。
それから実際に表現することも好きなんだよね。
もやもやしちゃって書かざるを得ないという気持ちになることもよくあります。
実際に他の人に読んでもらってコメントをもらったりシェアされたりするのもすごく楽しいです。
–「1次情報に触れる」楽しさってどんなところにあるんでしょう?
自分とまったく違う生き方や考え方をしてきた人と喋ると
「この人がこういうふうに考えているように、僕はこういうふうに考えているんだな」
と気づくことがあるんだよね。
そこで自分がどう考えて、何を大切に感じて生きてきたのかを気づけることがすごく面白いです。
それこそ旅行中に飲み屋で会った知らないおっさんとかと喋ったときに、自分の違うモード
みたいなものが自然に出てくることってあるじゃない。
親と喋るときの自分とも、友達といるときの自分とも違う感じで、「そうか、僕はこういう
人間でもあるんだな」って。
–あっ、それ分かります!
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–須田さんといえば、Facebookのエッセイ風の投稿は、ひそかなファンも多いとか多くないとか。
文章がググッと刺さるなと感じるのですが、書くときに気をつけていることってあるんですか?
ありがとう!(笑)
もし読んでいて面白いと思ってくれることがあるのであれば、Facebookにはけっこう個人的なことを
書いているから、似たような関心を持っている人にはグッとくるのかも。
あとは、もちろん媒体によって書き分けるようにはしています。
たとえばFacebookはノリが軽いじゃない。
あまり重たくならないように、冒頭にネタ的なものを置くとか。
Facebook風情に何をそんなに一生懸命になっているんだってことはあるけど(笑)、
けっこう時間をかけて書いているんだよね。
–須田さんの投稿の魅力は、そのこだわりから生まれていたんですね……!
–目標にしている文章や記事ってありますか?
面白い文章を書きたいなっていうのはあります。
読んでくれた人にとって面白いのはもちろんなんだけど、自分が書いていて面白い文章とか
書きたいテーマについて、抱いている問題意識に沿ったものを書きたいなと。
–どんな問題意識を人に伝えたいんでしょうか?
たとえば、バックパックを背負って旅行したり、東北やミャンマーにフィールドワークに行ったりして、最近、特に日本では2011年の震災以降、価値観が変わってきていることを感じました。
ジャンジャン作ってジャンジャン消費しましょうというある種消費社会的な価値観から、
もっと人と人の関係のなかで、それぞれが自分の生き方を探っていくような形に徐々に変わっている。
そういう自分が漠然と思っているようなものを、文章に具体化していきたいです。
東北へのフィールドワークは大学院の授業なんだけど、レポート課題にその問題意識を入れようと思っています。
そんな風に、機会を見つけては思いを言葉にしていきたい。
—人との関係性のなかで生きるということが、須田さんの問題意識の一つなのかな。
文章に限らず、今後やりたいことはありますか?
どうせ変わるだろうというものではあるけど、今やりたいことは大まかに分けると3つかな。
1つ目は、今東大新聞オンラインでやっているようなジャーナリズム。
何かを表現するという意味での伝える仕事です。
現地に行って、一次情報を得て、文章あるいは動画や写真という形で伝える。
フィクションも書いています。
2つ目に、実際に人と人が出会う場所を作りたいということも思っているんだよね。
やりたいことはたくさんあるんだけど、一つはカフェバーみたいな感じ。
現場と出会う、人と人とが出会うという意味で、広い意味でのメディア、媒体になりたい。
3つ目は、実際に問題を解決するために活動したいです。
実際にプロジェクトとして、課題解決に関わりたい。
いずれ博士をとって国際機関で働きたいと思っています。現場で活動するのが楽しいから、現場で。
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—ちょっと変な質問ですが……
須田さんの進みかたを表現するとしたら、どんな進みかたですか?
目の前にニンジンをぶら下げられていて、それを一生懸命追いかけようとしているのかも。
自分がワクワクすることを突き詰めていったら、他の人もワクワクさせることができるんじゃないか。
そうすればもしかしたら食いっぱぐれないかもしれないよね、というのが今僕を動かしているものかな。
さすがに25歳にもなると、どうやって食べていくか考え出したり、周りが結婚し出したりもするわけです。
だから全くそういうことを考えないわけではないけど、自分がワクワクすることで人もワクワク
させることが食べていくことにもつながって、もっと色々な人が新しい気づきを得ながら、
より良く暮らすことができたら良いなと思っています。
—最後に、読者にメッセージやアドバイスがあればお願いします。
1つは、東大新聞オンラインを読んでくださいということです(笑)。
アドバイスか……。
僕も大学に入ったときは自分が何をしたらいいか全く分からなくて、そもそも
僕自身は大人になりたくなかった。
で、20歳になったときに友達と海を見ながらお酒を飲んでいたのね。
当時持っていたのは高校から使っていたガラケーで、懐かしい思い出とかが全部詰まっていた。
昔は良かった、でも俺ら何をしたらいいか分からないよね、ってその友達と喋っていた時にふと思ったんです。
昔が楽しかったとか言っているから、そんな風に今やりたいことが見えてこないんじゃないか。
それで、酔っ払っていたのもあって、衝動的にその携帯を思い切り海に放り投げた。
–(一同、笑い)
将来何をやりたいかなんて、分からなくていいや
って思ったんです、そのとき。
振り返ると、一生懸命に何かをやっているときは努力しているつもりはあまりなくて、
すごく楽しいなと思うことをやっていました。
初めてミャンマーに行ったのも、伝えてやろうとか、より良いミャンマーにしてやろう、
と思っていたわけでは全くなくて、知らないものを見たいという好奇心からだったし、
文章を書くことも「読んだよ」と言われることが楽しくて書いていた。
だからあまり将来のことを考えなくても、何となく今熱中できそうなことをやったら良いと思います。
映画を見るでも、海岸で貝殻を集めるでもいい。
自分のやりたいことを突き詰めて、それに一生懸命になっていれば何とかなるんじゃないかな。
それで人生棒に振りました、と言われても責任とれません(笑)。
—須田さんにインタビューするうちに、自分の肩の力も抜けていくのを感じました。
「魅力的な東大生」みんながみんな、格好いい目標や高い理想のもとで
突き進んでいるわけじゃない。
私が私であることが、1番素敵な生き方なんじゃないでしょうか。
須田さん、どうもありがとうございました!