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【社会はどう病気と戦うのか?】新型コロナウイルスから学ぶ公衆衛生

2020.03.04

”はじめに”の前に―公衆衛生・感染症の情報リソース―

こんにちは、筆者のナスノです。

これは新型コロナウイルス問題を切り口に、「社会が感染症に対してどう立ち向かうか」を公衆衛生の視点から取り上げる記事です。

今すぐ役立つ”新型コロナ問題”の対策や現状を知りたい!という人は、一旦以下のリンクの自分に合いそうなものを開いてみてください。(気が向いたらぜひ戻ってきて欲しいです。) 
(ウェブページ名称はいずれも2020年3月4日時点)

日本政府の機関

東京都

諸外国の機関・国際機関(掲載言語)

  • CDC「Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)」(英語、中国語、スペイン語)
    アメリカ合衆国のCenters for Disease Control and Prevention(CDC, アメリカ疾病対策センター)の特設ウェブページです。CDCはアメリカ国民の健康を守ることをミッションにした、感染症を始めとした公衆衛生に関する最もすぐれた研究機関にして実務機関の一つです。COVID-19に限らず健康を守るための情報提供(がん、糖尿病などなどについて)を積極的に行っています。
  • WHO「Coronavirus disease (COVID-19) outbreak」(英語、アラビア語、中国語、フランス語、ロシア語、スペイン語)
    国連の専門機関であるWorld Health Organization(WHO, 世界保健機関)の特設ウェブページです。多くの命を奪った感染症である天然痘の撲滅をはじめ世界における健康の改善に貢献している重要な国際機関です。特設ウェブページでは解説ビデオなども掲載されています。

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はじめに―新型コロナウイルス対策にとりくむ社会―

中国武漢での肺炎の流行にはじまった新型コロナウイルス感染症をめぐる動向は日本社会・国際社会の大きな注目を集めています。

”重症度”等の病気の深刻さだけでなく、その流行にともなう社会経済的な影響も注目されています。
卑近な例で言えば、楽しみにしていたライブ等のイベントや春休みの旅行が中止になった人も多いでしょう。

なにを隠そう筆者も楽しみにしていた卒業旅行が中止となり、図らずもできた時間を使ってこれを執筆しています。無念。

パソコンをしても一人

社会は病気をめぐって混乱しながらも、様々な対策をしています。

リモートワーク、検査体制や病院の官民挙げての整備、
社会が病気に対して立ち向かう取り組みの背景にあるのは、「公衆衛生」に基づく考え方です。

「公衆衛生(Public Health)」とは、(患者を対象にした医療に対して、)患者も健康な人も含めた「みんなの健康を守るため、より良い知識や実践を求める取り組み」のことを言います。

昨今話題の休校措置も、その公衆衛生の一環です。

実は、昨今話題の休校措置や手洗い消毒も、その公衆衛生の一環です。

僕は東京大学で、「公衆衛生」を専攻しました。

これを読んでいるあなたは、

「わざわざ勉強しなくても、伝染る病気が流行ってるなら、学校が休みになるのは当たり前では?」

と思うかもしれません。

そりゃ、学校を休みにすべきでしょ。当然。

確かに、公衆衛生の取り組みや考え方のなかには、当たり前に思えるものもあります。
しかし、その「当たり前」となる制度や習慣をつくることすら、公衆衛生の重要なテーマなのです。

「公衆衛生」の定義は広く、予防から保険医療体制、企業の対応など多岐にわたります。

そして、食べ物等の日常生活や「当たり前」の所々にも公衆衛生の考え方は、しっかりと根付いているのです。

感染症だけじゃない。

参考文献; 医療情報科学研究所(編集)、「公衆衛生がみえる」、メディックメディア、2014年、p3

みんなの健康はどう社会の問題になるのか

「当たり前」とはいうものの、公衆衛生自体は簡単な取り組みではありません。

現に、COVID-19に関連して、様々な社会問題が発生しています。

COVID-19に関連して、コンサートなど娯楽イベントの自粛をめぐる意見の対立や不安や混乱を煽るデマの問題を目にした読者の方も多いでしょう。

Wikipediaより以下の風刺画を引用しました。

公衆衛生(ジェンナーによって開発された天然痘ワクチン)をめぐって、200年以上前に同じように社会の混乱が起きた様子を描いたものです。

公衆衛生は病気そのものだけでなく、「人々の健康をめぐる社会の混乱」とも歴史的に向き合ってきました。

(引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/公衆衛生 作者:ジェームズ・ギルレイ 「種痘を行うエドワード・ジェンナーの風刺画」 作成:1802年1月1日 ライセンス:パブリックドメイン)

健康問題の解決は難解で、一筋縄ではいきません。

さらに健康の考え方や、病気の「当たり前」は時代ごとにどんどん変わっていきます。

そして時には混乱を伴い、時には対応が一刻を争います。

現在、読者の皆さんは社会が混乱しているように感じているかもしれません。
そのような時だからこそ、公衆衛生の考え方が重要なのです。

今回は特に感染症である新型コロナウイルス感染症・COVID-19とその予防をめぐって、「公衆衛生」に基づく考え方や仕組みがどう機能したのかみていきたいと思います。

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感染症の予防からみる公衆衛生―予防の呼吸 3つの型―

新型コロナウイルス感染拡大に対して、公衆衛生が具体的にどう機能しているのか。

公衆衛生には様々な考え方がありますが、今回は「予防」というキーワードに注目します。

「予防?手洗い、消毒で終わりじゃないの?」

やってるよ。手洗い消毒でしょ?

確かに、これらは重要な予防ですが、予防はこれだけではありません。

その目的によって、予防は「1次予防」「2次予防」「3次予防」の3段階に分けて考えることができるのです。

壱ノ型「1次予防」―先”手”で守る―

予防の呼吸の最初は「1次予防」です。

「1次予防」とは、個人や社会が健康を損なうことを未然に防ぎ、さらにその健康を高めること(健康増進)です。

皆さんの考える「予防」とほとんど同じ意味です。

例えば、個人の手洗い消毒等も、立派で効果的な1次予防です。

皆さんの考える「予防」は「1次予防」。

また個人だけでなく、国も1次予防に努めており、感染症の1次予防に関する法律も制定されています

その法律とは、検疫法と感染症法、予防接種法です。

これらの法律は、「感染拡大の防止」という重要な役割を果たしてきました

それらの法律は、実際にどのような役割を果たしたのでしょうか。

まずは検疫法について見ていきます

これは、感染症が国内に持ち込まれることを防ぐ法律です。COVID-19をめぐり一躍注目を集めました。

この法律によって、日本に来る船や飛行機の検査や消毒、「隔離入院」、入国・入港を保留する「停留」等が行われます。この一連のプロセスを「検疫」と言います。ニュースで多く聞いたことだと思います。

検疫のため横浜港に停留するクルーズ船

次に感染症法です。

これは、みんなが感染症の流行状況を把握し、政府や自治体が予防と流行への対処を可能にするための法律です。

連日報道される新しい患者の報告も、感染症の社会での実態を正しく知るためのこの法律によるプロセスです。(サーベイランスと言います。)

この法律は、政府だけでなく全国の医療機関、自治体が病気を正しく知り、そして協力してCOVID-19の対策をしていくために必要でした。

最後の1つ、予防接種法は、名前のとおり、ワクチンの予防接種をする法律です。

ウイルスから個人だけなく社会を守るワクチンのイラスト

予防接種は、個人の病気を防ぐだけでなく(個人防衛)、感染症が流行することを未然に防いで、結果的に少ないコストで社会の健康を守る(ワクチンによる集団防衛・社会防衛)ため、公衆衛生において重視されています。

COVID-19の公衆衛生でも、今後のワクチンの開発などが期待されています。

参考文献; 医療情報科学研究所(編集)、「公衆衛生がみえる」、メディックメディア、2014年、p264-p281
参考文献; 長谷川友紀(編集)、長谷川敏彦(編集)、松本邦愛(編集)、「医療職のための公衆衛生・社会医学」、医学評論社、2014年、p167-p170

弐ノ型「2次予防」―早さで攻める―

「2次予防」とは1次予防で防ぎれなかった病気の発生を早期に発見して、そして素早く治療していくことを言います。

1次予防は一般的に皆さんが思い描く「予防」でしたが、2次予防はどちらかと言えば「診察」や「治療」と聞いた方がピンとくるのではないでしょうか。

あえて言えば、病気の「重症化の予防」です。

早い段階で病気の発見・診断するためには、検査の順番や仕組み、費用対効果が重要です。

例えばCOVID-19の公衆衛生では、とくに早期の発見についてメディアで注目されていますね。

COVID-19対策では、初期段階では保健所等が「濃厚接触者」を優先させるなどの調整をした上で、検査が行なわれていました。

「検査」や「健康診断」は身近な言葉ですが、COVID-19をめぐったPCR検査やCT検査の問題のように、医療の体制や人的・金銭的リソース、科学的な信頼性、などが複雑に関係してくる領域です。

日本の健康を支えるため、医療や食品、上下水道の監督など広く公衆衛生のハブとして活躍する保健所のイラスト

参ノ型「3次予防」―逃さない―

参ノ型は「3次予防」です。

「3次予防」では、病気の再発の防止や後遺症の軽減、社会復帰などを目標とします。

病気は治ったら終わりではありません。
病気が長引くことや後遺症が残ることを予防する、これが3次予防です。

COVID-19の公衆衛生も、他の病気と同じように3次予防の段階、たとえば感染した人が差別(「スティグマ」とも言います)なく職場に戻れることや新しい病気(合併症)を防ぐことが求められます。

広い意味では、社会が混乱した状態から、いかにして元に戻っていくかも重要な論点なのです。

参考文献; 医療情報科学研究所(編集)、「公衆衛生がみえる」、メディックメディア、2014年、p4
参考文献; 柳川洋(編集)、中村好一(編集)、「公衆衛生マニュアル 2018」、南山堂、2018年、p3

感染症は社会にとって今も昔もいつも深刻

今更ですが感染症ってなんだか、正確にご存じですか?

そもそも感染症とは、細菌やウイルス等の病原体によって人が病気になることを言います。
ペスト菌によるペストや天然痘ウイルスによる天然痘など、歴史的に見ても重要な感染症の数々を皆さんご存知だと思います。

しかし、現代では感染症に効く色々な素晴らしい薬や治療法があります。

なのに今でもなぜ感染症は人間社会の難敵なのでしょうか?

先程、エドワード・ジェンナーと天然痘ワクチンに関する風刺画をのせました。

その天然痘は公衆衛生の考え方を通じ、医療機関や国際社会といったステークホルダーの連携によって、根絶されています。

将来にわたって世界の人々の健康を守る成果が達成されたのです。

様々なステークホルダーが連携するが公衆衛生では重要

しかしなぜ、今回の新型コロナウイルスや2003年の鳥インフルエンザなど新しい感染症(新興感染症)や2016年のデング熱など既存の感染症の拡大(再興感染症)は同じように根絶されてないのでしょうか?

それは、グローバル化の影響で、感染症の世界的な社会経済への影響が大きくなりつつあるからです。

かつては医療機関や各国政府だけでよかったかもしれません。
でも今や解決のためには、もっといろいろなステークホルダーが公衆衛生の考え方を共有して、連携する必要があります。

COVID-19をめぐっても、多くの民間企業等や地域のコミュニティ、教育機関が、公衆衛生のために苦心しています。

マスクの生産・物流に関わる企業や、エンタメ産業の対応が連日報道されています。

政府や医療機関、研究機関の貢献は言うまでもありません。

幸いにも近代以降、科学や行政を通じて人々の健康は大きく改善されました。

公衆衛生の考え方が広がれば、さらに多くの人々の健康を守ることでしょう。

この記事等が、そのきっかけになれば幸いです。

参考文献;リチャード・スコルニク(著)、木原正博(訳)、木原雅子(訳)、グローバルヘルス 世界の健康と対処戦略の最新動向、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2017年、 p289-p295

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公衆衛生を勉強したい人へ―健康総合科学科と医学系研究科の各専攻の紹介―

東京大学で公衆衛生を体系的に学べるところを、付録として紹介します。

東京大学の象徴に似た大学のイラスト

東京大学医学部健康総合科学科

「健康」をテーマに、自然科学、人文社会科学、実践科学といった学際的なアプローチでのぞむ学科です。通称「健総」「医学科じゃないほう」学科です。筆者の所属でもあります。

学生に比べて教員が非常に多いのがおすすめポイントです。

研究室や専門を超えた密接な学生-教員関係があり、学際的な教育が行われています。
詳細はウェブサイトをご覧ください。進学希望者向けのQ&Aも充実しています。

東京大学大学院医学系研究科
社会医学専攻、健康科学・看護学専攻、国際保健学専攻、公共健康医学専攻

公衆衛生にはこれまで見てきたように様々な側面があります。
東大の大学院にも、医学系だけでこれほど多様な公衆衛生・疫学を専門に学ぶことができる大学院の専攻がこれだけあります。(一覧はこちらです。)

医学系研究科以外でも開発系や社会学系、経済学系など様々な専攻で公衆衛生に関係したことを学ぶことができると思います。

とくに公共健康医学専攻(通称「東大SPH」)は公衆衛生の理論と実践に重きを置いた公衆衛生大学院・専門職大学院です。
医師や看護師、薬剤師などの専門職資格を持った実務経験のある学生も多く、また法学や心理学、社会学といった異なる専門分野を修めた学生も在籍しています。詳細はウェブサイトをご覧下さい。

最後に―謝辞―

この記事の執筆にあたり助言をくれた健康総合科学科の友人、記事を読んでくれた読者の皆様に感謝を申し上げます。

ありがとうございました。

この記事を書いた人
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ナスノ
ゲーム実況を見る合間に、公衆衛生と科学技術社会論を勉強しています。 《医学部健康総合科学科(~2019)、総合文化研究科広域科学専攻(2020~)》
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