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本郷キャンパスに遊び場を作ったら予想外の障壁に出会った話

2020.02.03

赤門のそびえ立つ、厳格な雰囲気の本郷キャンパス。

勉学に励む学徒が集うキャンパスは、「遊び」なんてものとは無縁な印象です。

しかし、実は、2019年の11月から12月、本郷キャンパスに「遊び場」ができていたんです。

 
総合図書館前のベンチ……だけど、よく見ると……
畳敷きなんです!

他にも、こんなライトアップイベントが、一夜限りで出現していました。

法文2号館アーケードに……
大量のキャンドルライトが!

これらの企画、名付けて「東大 遊VIVA!プロジェクト」

とはいえ、この企画、ただ遊んでいたわけではありません。

私たち、東大の「ある問題」を解決するため、とっても真剣に遊んでいました。

どうして私たちがこのプロジェクトを実施するに至ったかを聞いてください。

そして今回、東大に遊び場を作るにあたり、私たちは東大の構造が持つ「障壁」にぶち当たってしまいました。

このプロジェクトを実施するまでに出会った障壁についてもお伝えします。



アートで本郷の問題を解決する

私は、文学部社会学・文化資源学演習小林真理ゼミで広報を担当していた林といいます。

「東大 遊VIVA!プロジェクト」は、このゼミの学生が主体となって実施しました。

「文学部文化資源学・社会学演習小林真理ゼミ」が何を専門としたどのようなゼミなのかは、昨年春に本ゼミで寄稿したこちらの記事でわかりやすく説明されていたので、まるっと引用します。

アートで社会問題を解決?!東大×アートプロジェクトで、社会と芸術の接点を探る東大生たち
学問・研究
アートで社会問題を解決?!東大×アートプロジェクトで、社会と芸術の接点を探る東大生たち
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ビリー
2019-05-16

小林真理ゼミとは、東京大学大学院人文社会研究科内にある文化資源学研究専攻が、学部で開講している演習の授業のこと。

そもそも文化資源学とは何かというと、世の中に存在しているのに注目されていない文化的価値を発掘しそれを活用することを考察する学問領域なのですが、

その中でも小林真理先生は、そこで重要な役割を担う地方自治体の文化行政や文化政策をテーマに研究をされています。

地域が持っている文化的な価値を掘り起こし、それを地域の住民が行政や民間企業などと連携して文化にするプロセスは、まさに文化資源学的営みです。

また芸術それ自体の価値を社会に認識してもらうためには、様々な手法がありますが、既存の文化施設の役割やあり方も重要です。文化や芸術を持続的に振興・展開してくための制度を研究しています。

このゼミではアートマネジメントや芸術文化政策の実践に注目しそれを評価することを主眼にしています。

つまり、ざっくり説明すると、このゼミでは「地域と文化をつなぐ・つないでいく」試みについて勉強しています。

そんな私たちの今年度のテーマは、「アート・プロジェクト」を実践すること。

「アート・プロジェクト」とは、コミュニティが抱える課題を、アートの力を借り、その実践を通して解消していくようなプロジェクトのことです。

辞書的にはこのように説明されています。

作品そのものより制作のプロセスを重視したり、美術館やギャラリーから外に出て社会的な文脈でアートを捉えたり、アートを媒介に地域を活性化させようとする取り組みなどを指す。

artscape>Artwords>アート・プロジェクトの項より引用

とはいえ、辞書的な説明だけでは分かりにくいかもしれません。

そこで、実際に行われた代表的なアートプロジェクトの一つ「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」についての説明をこちらの記事から引用して、アートプロジェクトの具体例を紹介します。

例えば、2000年から行われている新潟の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」は里山全体が展示会場となった芸術祭ですが、これはただ単に会場を美術館から外に移して展覧会をやっているわけではありません。

アーティストは自らの作品が設置される場所と向き合って作品を制作し、地域住民はボランティアとして参加することで芸術祭を作り上げ、来場者は作品を拠り所にして里山をめぐります。

準備や作品制作の段階からアーティストと地域の人々が協働 することでコミュニティが活性化され、廃校や廃屋がアートの力で生き返ります。

また、多くの来場者が訪れることによって経済効果も生まれています(昨年※の来場者数は約54万人!)。

コミュニティの弱体化や観光客の減少といったその地域の課題をアート/芸術の力で解決しているという点でこの芸術祭はアートプロジェクトであると言えます。

※2018年のデータです。 

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プロジェクトのはじまり

アート・プロジェクトが何だかわかってきたところで、

では、どうして私たちはそれを実践することになったのか。話は私がまだゼミに所属もしていなかった昨年度に遡ります。

 

昨年度の授業のはじめ、先輩たちは年間のゼミの活動テーマを決めるため、プレゼン大会をしたそうです。そこで選ばれたテーマが、「いつもは研究対象としているアート・プロジェクトを、本郷という身近な舞台で実践してみること」でした。とはいえ、この時点ではまだ具体的にどんな課題の解決を目標とするかは決まっていません。

 

そのとき、先輩たちの頭にあったのは、2018年当時問題視されていた、東大の生協中央食堂の改修に伴う宇佐美圭司氏の作品《きずな》の廃棄でした。

 

価値ある芸術作品を誤って捨ててしまうほどに、東大は組織として柔軟に連携できていないのではないか。

そしてその原因は、土地も広く、組織の縦割りが明確な本郷キャンパスにおいて、学部学科を超えたつながりが生まれにくいことではないか。

これがゼミとしての大きな問題意識となります。

 

おおよその課題の方向性も決定し、いざプロジェクト構想へ! と思いきや、この計画、先生の半年間の海外出張の都合などが重なり、年度内の開催が困難になってしまいます……!

 

昨年度の先輩たちは、この問題意識とプロジェクト実践への思いを、次年度に託すことにしました。

こうして迎えた今年度。新たなスタートを切った私たちは、まずは新体制のゼミの親睦を深めつつ、資金調達のため五月祭に出店したり、アート・プロジェクトの事例を勉強したりとあっという間の前期を過ごしました。

そして、Sセメスターも終わりが近い7月、具体的な課題設定とプロジェクトの計画を始めます。

 

議論を進めるうちに、「学部学科を超えたつながりの薄さ」は、「学生の本郷キャンパスへの愛着のなさ」と通ずる部分があるという仮説がたちました。

 

この議論の根底にあるのは、駒場キャンパスと本郷キャンパスの比較です。

 

駒場キャンパスって基本的に賑やかでしたよね。

学食に集まる学生たちに、生協前ダンサーズ。夕方歩いていれば、どこからか楽器の音が聞こえてくる……。

そんな「学生の自由な活動」に満ちた駒場キャンパスがある一方で、本郷キャンパスはいまいち学生の活動が表に出て来づらい。学生がのびのびと活動でき、愛着を持てる場とは言えないのではないか、と議論は進みます。

 

本郷に愛着が持てれば、みんなが学部の外に出てきて、交流が生まれる。

交流が生まれれば、みんなが学部の外に出てきて、本郷に愛着が持てる。

 

この2つの相互に関係する目的を果たすため、私たちは、

・本郷に愛着を持てるようキャンパスの魅力を再発見すること

・所属の違う学生の交流を促すこと

の2本の柱のもと、プロジェクトを企画することとなりました。

キーワードとなったのは「遊び」です。

この「遊び」は、英語で言うところの”play”と、ゆとりを意味する「あそび」の2つの意味を持っています。

 

学内での自由な活動って、「遊び」であり、大学という研究の場におけるゆとりの部分、「あそび」ですよね。

 

本郷キャンパスに、もっと「遊び」を増やしていきたい。

そしてプロジェクトを「東大 遊VIVA!プロジェクト」と名付けました。

東大 遊VIVA!プロジェクト

こうしてようやく外枠が完成したプロジェクト。この時点で10月に入る頃でした。

ゼミ内の役職を決定し、以下のような組織図を作ります。

プロジェクトの内容としては、1つの調査と2つの企画を行うことに。

一番順調に進んだのは学生対象のアンケート調査、「東大生と文化芸術・アートに関する調査」です。

※現在は調査は終了しています。

この調査の目的は2つ。

1つは、東大生の文化芸術・アートへの関わり方を明らかにすること。《きずな》の廃棄問題を出発点とし、東大生全体の傾向をつかむとともに、学生の持つ属性が、文化芸術への関心に影響を与えるのかを分析しました。 

もう1つは、本郷キャンパスにおける「遊び」の実態を明らかにすること。本郷キャンパスと駒場キャンパスを比較しつつ、キャンパス内の「遊び場」の有無や、キャンパス内でやってみたい「遊び」について質問しました。

残りの企画は、名付けて「図書館前畳週間」「三四郎池ライトナイト」

「図書館前畳週間」は文字通り、総合図書館前広場に1週間畳を敷いてみる、という企画です。

この企画の目的は、所属の違う学生の交流を促すこと。学生たちがそれぞれの学部で散り散りに過ごしている本郷キャンパスにおいて、どの学生にも平等に開かれた場所である総合図書館を舞台としました。いつもは学生たちが思い思いに過ごしている図書館前広場で、強制的でない方法で学生たちの交流を促すにはどんな方法があるだろう……。議論の末、広場の一番広いベンチの上に畳を敷いてみることになりました。

畳って、みんなが靴を脱いで過ごすからか、ベンチに比べてどこか親密ですよね。そこにカードゲームやおやつを用意して、遊びに来てくれる方を待ちました。

また、学内のサークルに声を掛け、歌やコント、ダンスなどのパフォーマンスをしてもらうことに! どんな仕掛け・状況によって学生がゆとりを感じられるのか、交流が生まれるのかを考えました。

「三四郎池ライトナイト」は、これも文字通り、放課後の三四郎池をライトアップするイベントとして構想しました。

自然を感じられる場所として存在してきたけれど、重要性はあまり意識されることのなかった三四郎池を夜間にライトアップすることで、その魅力を再発見するきっかけを作りたいと考えました。

 

何だか面白そうな企画ができてきた! ゼミ生一同士気を高めますが、ここで問題が発生します。

大急ぎで始めた許可取りが非常に難航したのです……。

まず相談に行ったのは文学部の教務課。ここで、大まかな今後の流れを教えていただきました。

 

「図書館前畳週間」の企画を実施するには、東大の本部施設部のほか、図書館前のエリアを利用するため広場を取り囲む総合図書館、文学部、法学部のそれぞれに許可をとる必要がありました。また、プロジェクトの様子を写真や動画で撮影するのには、別途本部広報課の許可が必要です。

 

「三四郎池ライトナイト」の方は少し特殊で、舞台となる三四郎池を管轄している学部等が存在せず、課外活動として文学部執行部での許可を得た後、本部総務部と施設部に申請することになりました。(驚いたのは、三四郎池の中でも、樹木とそれ以外では施設部内の担当課が違うこと……!こちらも写真撮影には広報課の許可が必要!)

また、プロジェクト広報のためのポスター掲示は、本部学生支援課への届出が必要でした。

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図書館前畳週間

図書館前畳週間の実施予定日は11月25日から29日。学部でたくさんのアドバイスをいただきながら、文学部と総合図書館と法学部には企画を承認していただけました。しかし、本部への申請ができるのは、なんと企画直前の11月22日の月例会議! 一発勝負、却下されればそこで終わりです……皆でフィードバックを繰り返しながら企画書の精度を上げていきます。

ベンチを採寸して、畳を調達して、ゲストを呼んで、晴れ乞いをして、食品の扱いについて保健所に話を聞きに行って……、あっという間に過ぎた1ヶ月と、迎えた11月22日。

 

なんとか1つ目の企画は実施許可がおりました!!

喜びが滲む念願の告知ツイート

こうして行なった「図書館前畳週間」。

気温も低いし、5日中2日は雨という悪条件でしたが、元から企画を知っていた方だけでなく、たまたま通りかかった方やひと休みしている方など、たくさんの方に参加していただくことができました。

畳の上でゼミ生による似顔絵イベントを行ったり
思わぬ出会いもありました

特に、ゲストのパフォーマンスは圧巻でした。少しの非日常が入りこむだけで、いつものキャンパスが全く違ったものに見えるのが不思議。

三四郎池ライトナイト

畳週間の実施中も、「三四郎池ライトナイト」の交渉は続きます。

こちらの実施予定日は12月3日から12月5日。だったのですが、

 

結論から言えば、三四郎池の企画は実現に至りませんでした。

 

最初に企画書が完成してから、三四郎池の中を1周する案、1周が難しければ入り口から出口まで一本道の案、歩くのが無理なら入り口のみ案……と計4回チャレンジしたのですが、週例の文学部の会議での承認を得られなかったのです。

 

この企画で問題視されたのは、最初から最後まで一貫して安全面でした。

「夜の三四郎池で何かあった場合、責任問題になる」ということ。

 

これはゼミとしてでなく、私個人の意見ですが、責任問題ってすごく難しい。

普段は夜間も開かれている三四郎池を、ライトアップして、段差等に誘導の人を立てて、参加者には同意書を書いてもらう、という前提を作っても、

それ以外の場所で何か起きたときのことを想定しなければいけないのか……と、悔しかったです。広報の私で悔しかったのだから、三四郎池チームのみんながどんな気持ちだったかは私には測りきれません。

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きもちをともそうへの転換

ただ、メンバーはまだ諦めませんでした。

プロジェクトの目的は、三四郎池をライトアップすることではなく、キャンパスの魅力を再発見して本郷キャンパスに愛着を持ってもらう、という課題解決。

プランAが無理ならプランBに変更だ!!と大急ぎで改案を進めます。(これぞ猪突猛進、という感じのスピードでした)

 

こうして生まれたのが、企画「きもちをともそう 東大ライトナイト」です。舞台は法文二号館のアーケードに移りました。実施日は12月20日。

ご存知の方も多いと思いますが、法文の建物といえばあの荘厳なアーケードです。内田祥三氏の設計で、有形文化財にも登録されています。

普段の法文2号館

だけど、あの光景に慣れてしまっている東大生にとって、アーケードってもうただの通路ですよね。立ち止まって眺める機会なんて滅多にない。

「きもちをともそう」は、アーケード内にキャンドルライトを並べて、通りすがりの東大生にそのときの気持ちにあった色紙をかぶせて灯籠にしてもらう、というイベントです。アルファベットのスタンプを用意して、色紙に好きな言葉を書いてもらいました。

この企画、準備期間も実施期間も短かったのですが、想像以上にたくさんの人に参加していただけました。

徐々に増えていく灯籠

5つの障壁

こうして幕を下ろした「東大 遊VIVA!プロジェクト」。そこで私たちが実感した大学内でプロジェクトを実施する際の障壁は以下の5つです。

1.企画の許可を出す部局が不明瞭だったこと

これは文学部の教務課の方々がすごく親身に相談に乗ってくださったことで解消されましたが、それがなければ部局の特定だけで1ヶ月はかかっていたのではないかと思います。それだけ大学の組織は複雑でした。

2. 学部、本部ともにチラシの配布がほとんど認められなかったこと

調査や企画の告知のため、渉外担当者が全学部をまわってチラシ配りの許可取りをしてくれたのですが、結果はほぼ全敗でした。(文学部と薬学部のみ、特定の授業の前後においてだけ許可を得られました。)ポスターの掲示は許可されることが多かったのですが、やはり手渡しビラはトラブルにも繋がるのでしょうか。

3.企画書段階でパフォーマンスの騒音について注意されたこと

特に「図書館前畳週間」の企画について、図書館前という場所柄もあり、騒音問題には最初から悩まされました。音の出るパフォーマンスを昼休みに限定することで許可を得ることはできましたが、指定時間前後には緊張感がありました。

 

4. 周囲への配慮として、本部から動線の確保を指摘されたこと

企画を行うことで通行人の迷惑になることがないように、というのはよく指摘され、意識したことでした。現地でのシミュレーションが必要不可欠でした。

 

5.夜の三四郎池の危険性が指摘され、企画が許可されなかったこと

前述したように、法文二号館での実施という代替案を採用することになりました。

ここまで組織のあり方を批判するような書き方をしてしまった部分もあったかと思いますが、私たちゼミ一同として、関わってくれた文学部や本部の職員の皆さんには心から感謝しています。頭ごなしに否定されることは一度もなかったし、私たちの出す企画書に嫌な顔をせず何度もコメントをいただきました。

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プロジェクトのその後

ただ、プロジェクトが終わったと言っても、私たち小林真理ゼミの今年度の活動はまだ終わりではありません!

ここまでざっくりと書いてきましたが、より詳しく知りたいという方には、ぜひご参加いただきたいイベントがあります。

2月4日(火)に行う、2019年度小林真理ゼミの活動報告会です!

プロジェクトをすすめる中で、小林先生に口を酸っぱくして言われたのがアーカイブを怠らないこと、そしてそのアーカイブを発表することです。

活動報告会では、1年間の活動報告に加えて、ゲストにアーツカウンシル東京の佐藤李青さん、コメンテーターに大学院生の風間勇助さんと韓河羅さんをお呼びして、大学内でプロジェクトを行うことについてのディスカッションを行います。

参加いただいた方には、ささやかですが、私たちの今年度の活動をまとめたブックレットをお渡しする予定です。

まだ残席もあるので、お時間のある方はぜひご参加ください! 東大生以外の方も歓迎します。

参加いただく際は下記のリンクからの予約をおすすめします。

2019年度小林真理ゼミ活動報告会参加申込フォーム

ゼミ生一同お待ちしております。

2019年度 東京大学文学部社会学・文化資源学演習 小林真理ゼミ

この記事を書いた人
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小林真理ゼミ
文学部社会学・文化資源学演習小林真理ゼミです。普段は自治体の文化政策について学んでいる私たちですが、2019年冬、「東大 遊VIVA!プロジェクト」を実施して、本郷キャンパス内に畳を敷いたりライトアップをしたりしました。
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