皆さん突然ですが、東大の学費問題についてご存知でしょうか?
2020年からの制度変更により、東大の授業料減免制度が大幅縮小。多くの学生が授業料減免を受けられなくなる、という問題です。今回は、この制度変更を問題視し、東大側に制度変更の中止を求めていたFREEという団体にインタビューしました。
僕は小学生の頃から塾に通い、中高は東大にも一定の合格者を出す私立の中高一貫校に通っていたので、金銭面で苦労する同級生をあまり見てきませんでした。
そういう環境で育ったこともあり、大学の学費を捻出するのに苦労している人がいることを知ってはいたものの、「東大生の中にも家庭の金銭面で苦労をしている人がいる」という事実を、大学に入ってから初めて実感しました。
そして、東京大学の中には僕と似たような環境で育った人も多いかと思います。そういう人にとって、授業料減免制度の変更というニュースは、まず耳にすら入ってきにくいのではないでしょうか。この学費の問題がもっとたくさんの人が知るきっかけになればと思い、記事を書くに至りました。
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今回は、FREEに所属している豊島伊織(とよしまいおり)さん(東京大学1年)にお話を伺ってきました。
筆者:「今回はよろしくお願いします。」
豊島さん:「はい、よろしくお願いします。」
筆者:「まずそもそも、一体どうして授業料減免制度が一気に縮小しちゃったんですか?FREEが出していたビラには目を通してたんですけど、正直詳しい話はあんまり分かっていなくて…。」
豊島さん:「確かに流れは結構追いにくいと思います。
まず2019年にいわゆる修学支援法が成立して、2020年の4月から新しい制度で授業料の免除や給付型奨学金なんかをやっていくということになったんです。ただ、あまりに急に変わったので制度の穴があったんですよ。授業料減免制度が変わって、もちろん得をする人もいるんですけど、段階の分け方が雑で、今までもらってた人たちが補助を受けられなくなるという現象が起こっちゃうんですよね。このままだと、全国で45000人ほど授業料減免を受けていたのが、24000人ほど削減されちゃいます。」
筆者:「半分も減っちゃうんですか?」
豊島さん:「そうなんですよ。だから大学側がこの問題に何か対応してくれるようにと動き始めたんですよね。授業料減免があることを期待してこの大学に来た人が困るのは良くないと。ただ、この問題って結構複雑で、僕たちが言わなかったら誰も言わなかったのかなって。」
筆者:「それで署名を集め始めたんですね。」
豊島さん:「はい、9月ぐらいから署名活動をしていました。もともとは10月の頭ぐらいまでやる予定だったんですけど、想定の1.5倍ほど署名が集まったので、活動を延期することにし、最終的にプラス1ヶ月ほど続けてました。結局、署名は500ほど集まったんですけど、こんなに署名が集まるとは思ってませんでしたね。」
筆者:「500!?そんなに集まったんですね!」
豊島さん:「合間を縫って署名活動をするのは大変でしたけど、最初は白い目で見ていた人もだんだん署名してくれるようになりました。」
筆者:「それは励みになりますね。」
豊島さん:「本当にそうなんですよ。」
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筆者:「そういえば、11月の下旬ぐらいに、FREEが集めた署名を東大の副学長に提出したというビラを見かけたんですけど、それを受けて結局東大はどのように対応したんですか?」
豊島さん:「署名を提出した結果、今授業料減免を受けている学生には今までと同じぐらいの援助をしますと公式に発表しました。加えて、授業料の値上げはしないという発表を公式にしたんですよね。これは結構大きなことです。」
筆者:「僕もその記事読んだんですけど、東大って国立大学じゃないですか。そんな簡単に値上げってするんですか?」
豊島さん:「一橋大学はもう値上げに踏み切ってます。そういう波が続いてるんですよね。例えば、東京芸術大学とか東京工業大学とか。どこの大学も値上げをする雰囲気になっています。そういう中で東大が値上げしないと言ったのはインパクトがありますね。東大が学生の声をちゃんと聞いてくれたのはありがたいです。」
筆者:「確かに、授業料に関して、学生の意見を聞いてくれる大学というのはあまりないかもしれないですね。」
豊島さん:「そうですね、なかなかこういう事例はないと思います。」
筆者:「豊島さんも授業料減免を受けたりしているんですか?」
豊島さん:「自分は世帯年収が基準を超えていてもらえませんでした。FREEのメンバーがみんな免除を受けているというわけではないんです。東大のFREEメンバーでは、どちらかというと免除を受けていない人の方が多くて。だから、ぶっちゃけ自分には関係ないけど活動してるという人が多いですね。自分たちに授業料減免制度が必要なわけじゃないけど、やらなきゃいけないという問題意識を持ってやっています。」
筆者:「学費免除の話からはずれますが、豊島さんはどういったきっかけで教育や貧困問題に対して問題意識を持つようになったんですか?」
豊島さん:「僕が通っていた公立の中高一貫校で、お金に不自由していた人が周りに結構いたように感じていたんです。ひとり親だったり、学校に通えなくなって通信制の学校に行ったりという人が身近にいました。10%ぐらいは、不登校やドロップアウトでいなくなったと思います。そのような環境にいたので、そこから貧困問題に関心を持ち始めました。」
筆者:「学校は進学校ではなかったんですか?」
豊島さん:「宮城県で開校10年目の公立進学校です。ただ、現役で東大に入るのは自分が初めてらしいです。」
筆者:「初ってすごいですね!じゃあ、周りに東大に行こうっていう人も全然いないんですね。」
豊島さん:「そうですね。」
筆者:「そんな環境で、どうして東大の推薦を受けることになったんですか?」
豊島さん:「さっき言ったことがきっかけで、高校時代に子どもの貧困について研究論文にまとめたんですよね。このテーマは普段から見ていたものの延長です。みんな当事者だったり、それになりうる感じでしたから。」
筆者:「高校時代から貧困について論文を書いていたんですか・・・すごい。」
豊島さん:「当初は地元の教員養成課程の学校に行こうと思っていたんですけど、研究論文が学校の中できちんと評価されて、それならもう少しやりたいと思いました。あと、一部の学校だけでなく、国全体の学校教育を良くしたいというのがあって、それならもっといい大学に入って、データなどが充実した環境で研究して道筋を開いた方がいいとも感じたんです。」
筆者:「自分の中で問題意識を持って東大に来たんですね。僕なんかは周りが東大目指してたから行こうという感じだったので尊敬します。」
豊島さん:「あとは学生のレベルが高いだろうっていう期待もありましたけどね。同じ関心を持っている人にはあまり出会えてないですね・・・笑」
筆者:「結構不真面目な人は多いですよね。笑」
豊島さん:「それもあるかもしれないですけどやっぱり地方出身だと、人との繋がりが薄くて・・・。いざ何かやりたいと思っても、人が集まらないことが多いんです。一時期は子どもの貧困にフォーカスした自主ゼミをやろうかと思っていたんですけど、なかなか動けませんでした。」
筆者:「でも、豊島さんは教育系の民間企業とのコネクション(プロフィール参照)を持ってますよね?そのつながりはどうやってできたんですか?」
豊島さん:「きっかけは、Twitterでフォローしてた人から誘われたことですね。自分がSNSで色々発信するタイプの人間だったのもあって、目についたんだと思います。笑」
筆者:「SNSでは、具体的にはどういうことを発信するんですか?」
豊島さん:「教育や子どもの貧困の問題に関して意見を述べたりしてますね。たまに攻撃されたりしますけど。笑」
筆者:「今も積極的に活動されていると思うんですけど、今後どういうことがしたいという展望はありますか?」
豊島さん:「まず、教育社会学やその周辺分野の基礎はきちんと身に付けたいです。
推薦には早期履修というシステムがあるので、それを利用して積極的に学んでいきたいですね。あとは、現場重視で色々やっていきたいというのもあります。元々、貧困世帯の子どもたちの勉強を見ることから活動を始めていたのですが、東京に来る前にやめちゃったので、また貧困世帯の子どもたちの支援を再開したいですね。問題について発信することも続けていきたいです。今後はSNSだけでなく、色々な媒体を使っていこうと思っています。やっぱり東大生の中にも、学費の問題や子どもの貧困のことを知らない人は多いので、興味を持ってもらう機会を作りたいです。断念してしまった自主ゼミも進めたいと思っています。あとは、僕が「子どもの未来アンバサダー」という子どもの貧困と学習支援について勉強会を開くことができる資格を持っているので、それを活用したりとか・・・。
とりあえずやれることはやっていくつもりです。」
筆者:「大学生が持ちがちな将来のビジョンとはなんか違いますね。普通「〇〇になりたい」みたいな感じじゃないですか?やりたいことにフォーカスしている感じがカッコいいです!」
豊島さん:「いや、実は将来の進路は迷ってて・・・。」
筆者:「迷ってる?」
豊島さん:「はい。行政の職員になるか、研究を続けて政治のアドバイザーみたいな形でやるか、決めかねていて・・・。有名な教授になると、内閣府の諮問機関みたいなものに呼ばれたりするんですよね。ただ、地元のために活動したいとも思っていて、行政の場合は地元の仙台で、教育委員会や教育局、あるいは県庁などで勤めたいと思っています。」
筆者:「地元に対するこだわりがあるんですね。」
豊島さん:「宮城県では、震災を受けてから、貧困層の子供たちの境遇が悪化しています。僕が昔やっていた勉強を教えるボランティアも、それに関連しているんですよね。将来も地元に関われたらなと思ってます。」
筆者:「今でも震災の爪痕は残っているんですね。」
豊島さん:「そうですね。震災に関するニュースは、地元のローカル紙には今でも載ってます。他の地域の人は知らないことが多いと思うんですけど・・・。」
筆者:「でも、研究職にしろ行政にしろ、現場からはある程度離れちゃいませんか?」
豊島さん:「そうですね。なので、若いうちに現場でどういう問題が起きているのかということを把握しておこうと思います。まあ、そういう仕事についたあとも、自分から現場に関わっていきたいですけどね。やってやれないことはないと思います。とはいえ、一人でやれることには限界があるので、人を集めていくのは今後の課題ですね。結構ワンマンでやっちゃうところがあるので・・・。」
筆者:「確かに誰かと協力するのも大事ですよね。これからも頑張ってください!」
豊島さん:「ありがとうございます。
この記事を読んでくれる方に伝えたいのは、実は結構身近に貧困で苦労している人がいるので、その声を聞いて欲しいということです。専門的なことを学んだり、学費関連の話を理解したりするのは難しいと思いますが、FREEや他の団体もあるので、ほんのちょっとでも協力してくれると嬉しいですね。」
筆者:「当事者意識といかないまでも、アンテナを広げるのは大事ですよね。」
豊島さん:「東大生には恵まれている人が多いので、この記事をきっかけに自分の持っている特権を相対化していただければいいなと思います。」
みなさん、いかがだったでしょうか。
豊島さんのメッセージが一人でも多くの方に届けば幸いです。