こんにちは。突然ですが、「東大には女子が少ない」ということは、よく知られていますよね。
東大に通っている女の私は、日頃からこれを痛感しています。だって、35人のクラスに、5人しか女子がいないんです・・・。しかも、筆者は三重県四日市市出身で、昨年まで名古屋の予備校に1年間通って浪人をしていたのですが、私が入っていた東大理系コース約40人のうち、女子はたったの5人・・・。東大は女子がそもそも少ないのに、地方から来ている女子となると、その数はほんの一握りです。
地方出身の筆者としては、地方から来る女子をもっと増やしたい!という切実な思いがあります。最近は女子率の低さ自体には東大外からも注目が集まっていますが、
でも、実際に女子を増やすにはどうすればいいんだろう?
そこで今回は、東京都の都内私立女子校出身のUmeeT編集部メンバーの同行のもと、駒場でジェンダー論を教えられている瀬地山角先生にインタビューしてきました。
先生、よろしくお願いします!
早速ですが、東大の女子比率を上げるにはどうすれば良いのでしょうか。
東大の女子比率を増やすのに一番手っ取り早い方法は、毎年東大合格者を十数人輩出している高校の東大志望者の女子比率を上げることです。問題の所在がパッとわかるデータがあってですね・・・。
まずこれです。四日市からそんなに遠くないところにある、進学実績のある高校です。愛知県の公立高校で、この2年の東大京大名大の合格人数の分布を見ると、名大はなんと現役は女子の方が多いわけです。
ところが、浪人になった瞬間に名大も男子が多くなるでしょ。つまり、浪人して東大を受けるっていうのは、女子はほぼ許されない。京大も似たような傾向。この高校、名古屋大学は通学圏で自宅から通えるんです。四日市からも通えるよね。
そうですね。名古屋大学受けてる人多かったです。
これね、現役で名古屋大学に行った人が女子の方が多いってことは、この高校の女子は、受ければかなりの確率で、東大京大に通れるはずなんだよね。少なくとも男子と比べて学力に大きな差があるということはない。
でも、浪人で東大に合格した生徒は男子の方がダントツ多いってことは、そもそも女子は浪人させてもらってないってことなんだよね。
なるほど。
だから、浪人と親元から通えないっていうのが二大束縛要因になっていて、それをクリアしないから、東大を受けていない。合格する以前の話。
受かる実力のある生徒たちがそもそも受けさせてもらえないってことですね。
男子と女子で、合格率は全く変わらないんだよね。だけど、当たり前だけど受けないと通らない。だから東大女子を増やしたいってなったら、受けてもらうしかないんですよ、とにかく。ご存知の通り、東大受検の倍率はたかだか3倍なので、受けたら割と受かる確率が高いわけだよね。
そうですね。
だから、この「同じ高校なのに、男子は東大を受けて、女子は受けない」という現象をどうにかしなきゃいけないんです。これは、福井県の進学校のデータです。
数値で見るとすごいですね。
本当にすごいでしょ。このことが、首都圏の人にはわかってもらえていない。
私も知らなかったです。
だから、問題解決のために手っ取り早く資源を重点的に投資するとなると、こういう、毎年東大合格者を10人くらい輩出する全国の公立高校がターゲットなんですよ。こんなこと東大が公式にいうことはできないけどね。
この層には、絶対受けたら受かってくる人たちがいて、そういった人たちが受けさせてもらえてないっていうのが私の問題意識です。もうちょっとターゲットマーケティングやった方がいいんじゃないかな。そのためにこそ母校訪問(注2)があるんですよ。
(注1)biscUiT
2011年4月に創刊された、東大女子が贈るフリーペーパー、およびそれを発行する団体。
(注2)母校訪問
東京大学の女子学生による母校訪問プロジェクト。長期休暇の間に母校を訪問し、東京大学の広報スタッフとして東大受験や大学生活について、母校の学生に伝えるというもの。母校訪問した東大の在校生には謝金として1万円が支払われる。
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私は今年の夏に、東大女子の母校訪問プロジェクトに参加しました。
母校の生徒にお話をした後に、アンケートを書いてもらったのですが、今まで東大は雲の上の存在だった、自分が東大に行くなんて想像ができなかった、という感想が多く見られました。私は東大が地方、首都圏関係なくもっと気軽に目指せる存在になるべきだと思うのですが。
そのために母校訪問があり、そのための制度だと思っているんです。だからそこに具体的にアプローチできるのは、出身校に帰った人たちではないかなと思っています。
雲の上の存在でなくすためには、私たち教員が行くよりも卒業生が来てくれる方がずっと意味があるはずです。
つまり、高校の卒業生が出身校に行ったことで、少なくとも、雲からおりてきた仙人ではない、普通の人間が出てきたと思ったはずで、それが一番大きいんじゃないかなと思います。勉強の仕方とか聞かれたでしょ?
そうですね。
で、そうやって普通にやってたら東大に受かるというのが彼女や彼らにはわかったはずで、そういうことが大事なのではないかと思います。
東大在学生がもっと積極的に母校の高校生と交流するのが効果的なのですね。
そう!東大に十数人入ってくる高校に、在校生をどんどん送り込まないと。そうやって東大受けてねっていうメッセージを伝えるのが重要だとおもいます。
私の高校には、女子だから浪人しちゃいけない、という理由で第一志望以外に安全校を受けて、第一志望に落ちたらそっちに通う、という人もいました。
なんで女子は浪人しちゃいけないんだろう?
私はずっと東京ですが、東京でもいました。なんか、女子は浪人したくないっていう人が多くてみんな早稲田か慶応受けてました。対して男子は東大一本とか、早慶に受かっても浪人する人がかなりいたのを覚えてます。なんでなんだろう。
全体で浪人の数が減ってるのは事実なんです。ただそれ以上に性差があって、女子だけ教育投資の対象から外されてるんですよね。一年余計にかけて東大に受かるっていうのは純粋に経済計算として考えると、実はかなりリターンの大きい投資なのよ。生涯賃金考えたら。こういう議論を人的資本論(human capital theory)っていうんですけどね。それなのに、女の子だけ教育投資しないっていう行動が行われているわけ。かなり不合理だと思うんです。
女子の浪人に関しては、結婚の年齢を気に心配してるとかいう説もあるのですが、ここでの一年ぐらいなんのロスにもならないと思います。
加えて地方だと、浪人に加えて、親元を離れるという束縛要因もある。だからまさにさっきの愛知県の高校で名古屋大学に行く女子が多くなってるわけね。ただ、親元を離れるって言っても大学生だし、東京の治安がそんなに悪いとも思えないしねえ。東京から距離がある九州とか北海道で起こるならまだ分かるけど、名古屋みたいに東京まで二時間もかからなくて、新幹線の先に見えてるところでこういうことが起こるってなると、もうどうしようもない。
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少し話題が変わりますが、女子の住まい支援(注3)が行われているじゃないですか。なのに女子比率が2年連続で下がってしまっていることについてどう思われますか。
これはもう東大側の問題とは説明しきれなくって。先ほど言った通り多分女子が東大を受けさせてもらってないわけなんですよね。
住まい支援にも関わらず東大に来ないとなると、そもそも親元から離れるのはダメって考えてるのが一番多いとしか言いようがないですね。さっきから言っている通り、浪人をどんどん忌避するようになってきているからそれの影響が出たのかもしれません。
ただ、女子比率が下がったと言ってもそれほど顕著に下がったわけではないので、ほぼ変わらないという風に見る事もできます。
実は私も住まい支援を受けているのですが。
でも高いでしょ、部屋自体が。
そうですね。
部屋が高いから、補助があってもある程度費用がかかり、それを払えない層は支援対象外となってしまいます。なので、この制度は経済的に考えるとプライスレンジが高すぎるんですよ。経済的に折り合えない層は三鷹寮が受け皿。逆に言うと住まい支援は、地方の女子を経済的に支援するというよりも、「地方女子来てね」ってアピールすることがひとつの目的になっていると私は考えています。
(注3)東京大学では世界最高水準の研究・教育のさらなる向上のため、多様な学生が活躍することのできる支援体制の整備の一環として、東大に入学する自宅からの通学が困難な女子学生のために、東大が提携する民間の住まいを100室程度用意し、家賃支援を行なっている。支援を受ける学生は月額3万円の補助を受けることができる。
地方の女子が東京に出てきてまで東大にくるメリットについて、先生は過去のインタビューで生涯賃金が上がることを挙げられています(注4)が、それ以外に何があるとお考えですか。
何よりもまず将来の仕事の選択肢が増えること。官庁含め就けない仕事とか何もないし、国際機関に行くとしても、それなりの学歴として受け取ってもらえるから、そう言った意味で絶対に損はしないし、、。よく「東京に行くと地元に戻ってこないから、東京に出したくない」っていう地方の人がいるんですが、東大を出て県庁や市役所、高校や電力会社などなど、地元に戻る人もたくさんいて、そこで東大での経験が活かされてる。
だからやりたい仕事のレンジがひろがる。仕事の範囲が広がるということかな。研究者でもそうで、東大は日本一大学院生の多い大学だから、学内の競争は大変だけれどもそこの競争から抜け出すとある程度確実に就職はできるっていうシステムになっているので、そこは他大学より有利でしょうね。
あとは人脈かな。自分の駒場時代のクラスでも同窓生が国会議員になったり、メガバンクの取締役になったり、ネットワークの広がりがすごいと思うし、これは損得勘定ではなく、純粋に面白いよ。だからみなさんも同窓会ネットワーク大事にしてね。卒業して10年後くらいから面白くなるから。
(注4)「君の東大」ホームページ https://kimino.ct.u-tokyo.ac.jp/lab-visit/56
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実は私は名古屋で1年間浪人していたのですが。
あ、浪人したのね。
はい。そこの東大理系コースに入っていました。全部で40人くらいなんですけど、女子が5人しかいなくて。
数人ですよね。
はい。文系だと十数人女子いるのに、、。やっぱり理系は文系よりもはるかに女子比率が低いなあと感じていて、それはやっぱり理系科目が男の人の学問だっていう意識によっちゃってるのかなって思っていて。
まあ、偏見ですけどね。これ、ジェンダー論の授業で使ったデータなんですが。
15歳を対象に行った世界の試験データで、男子の平均点から女子の平均点を引いていて、横軸が数学の点数で、縦軸が理科の点数なのね。
これを見ると、日本は数学も理科も男子の方が高いんだけれども、そうじゃない国も結構あるでしょ。数学も理科も男子よりも女子の方が高いって国があるんだよね。
要は、nature(生まれ持った性質)かnurture(育てられた結果)か、って言った時に明らかにnurtureの問題なんです。社会が決めてるんですよ。あるいは少なくとも社会によって変わる問題なのよこれは。だから女の子だから理系がなんたらとかいうのは全部似而非科学ですよ。
そういえば実際周りの理系の女の子でも、数学オリンピックとかに出てる知り合いがみんな男子だから男子に生まれたかったとか言っていて。
いやでも桜蔭は確か8割くらい理系でしょ。だから、それだけ見ても違う。
確かに、普遍的に女子は理系科目が苦手なら、桜蔭でそんなことが起こるわけがないですよね。
起きない。なんかの文化なんですよ、これは。
最後に、先生から全国の女子高校生にメッセージをお願いします。
(女子が)少ない少ないって言って緊張させてしまうのも申し訳ないような気がしていて。
(東大は)普通に受けたら、普通に頑張ったら、普通に一浪したら、受かるところだから受けてほしいです。東大を雲の上の存在だと誤解せず、まず自分の能力の限り勉強してほしいし、周りがそれを許す環境であってほしいということ、、、。Girls be ambitiousなのかな。そうやって外の世界に出ることを楽しみにしてほしい。私自身も地方出身(正確に言うと日本の首都圏はご存じのとおり関西ですから、やむなく「下京」しました)ですからね。一人だけアウェイな環境に出ていくって大変ですけど、面白いことはいっぱいあるので。