テレビでも東大生の習い事としてよく話題に出るピアノ。
実際に子どもの頃に習っていたという人も多いのでは?
実は筆者もピアノ経験があるのですが、大学に入るとなかなか練習するタイミングもなく遠ざかってしまっていました……。
そんななか、全国約4万5千人が参加するピティナ・ピアノ・コンペティション(PTNA)のソロ部門の最上級「特級」で、グランプリを受賞した東大生がいると聞き、早速お話を伺ってきました!
PTNA特級といえば、国際コンクールに最も近い国内コンクールとして知られ、国際舞台で活躍するピアニストを数多く排出してきたコンクールです。
プロの登竜門として知られる大会に、東大生として挑み、今や全国各地でコンサートを開催しているという角野さん。
東大生としてプロを目指すコンクールに挑戦することの意味とは?
東大での研究とどう両立しているのか?
グランプリまでの道のりとともに、角野さんの人物像に迫ります。
──本日はよろしくお願いします!まずグランプリをとったときの率直なお気持ちから教えてください!
とにかく驚きがほとんどですね。全くとれるなんて思ってなかったので。
ただ、徐々に実感が湧いて来て。嬉しさというより責任を感じるようになりました。
──責任というと?
グランプリになると1年間はコンサートがたくさんあって、いわばPTNAの顔として活動するようになるんです。
肩書きを背負って活動するということで、今までのグランプリの人に劣らないような活動をしていかないといけないという責任を感じるようになったんです。
──それだけでもコンクールの規模の大きさが伺えますね……。
そうですね。僕以外の出場者はみんな音大生でしたし。
──では、自分以外みんな音大生というコンクールに、どうして出場しようと思われたのでしょうか?
小さい頃からずっと習っている先生が勧めてくれたのがきっかけです。
僕がコンサートで楽しそうに弾いてるのをみて、ちゃんとやった方がいいと言ってくれて。
当時もちょこちょこコンクールを受けてはいたんですけど、やはりプロになるわけではないし……というためらいもありました。
コンクールを漠然と受け続けることに疑問を感じて、だったら一度ちゃんと向き合ってみて、それから今後のことを決めようと思ったんです。
──実際に挑戦してみてどうでしたか?
想像以上に大変でした。
そもそも当時の僕は、こんなに多くの曲に取り組むこと自体初めてでした。
各ラウンドの曲で手一杯なので、次のラウンドに向けて並行して練習する余裕がないんですよ。
だから受かってから次のラウンドの曲を練習しないといけなくて。
──確かにハードなスケジュールですね……。
そうですね。しかも当時はインターンもしていたので……。
──インターン??練習とはどう両立させていたんですか?
基本的には日中にインターン、夜にピアノの練習というサイクルを回していました。時間的には研究とピアノを半々くらいというイメージですね。
8月だとインターンを6,7時間やって、帰ってからピアノの練習を6時間。
──1日って24時間で合ってますか?
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──小さいころからそんなに練習されていたんですか?
いや、当時はそんなに練習した記憶ないですね。せいぜい平均2時間くらいですね。
──気づいたらピアノ弾いてるとかなのかと思ってました。
普通に気づいたらゲームですよ笑
練習がそんなに好きではなかったので、母親がいなくなるとよくサボってました。
ただ、ピアノを弾くこと自体は好きだったんです。だから本番は好きだし、遊びで弾くのも好き。
でも、練習って言われると何をすればいいのかよくわからなかった。
当時は先生に言われたことを直せば、なぜかうまくいくという感覚でした。
どうすればうまく弾けるようになるのかっていうのが直感的にしかわからなくて。
──現在の練習はどうですか?
今は結構考えて練習するようにしています。
例えば暗譜するときは、和声進行で覚えると止まることはまずなくなります。
ちょっと音が変わっちゃうことはあっても、全体としての流れは変わらない。
効率的に暗譜するなら、メロディーや和声を抽象化して覚えるのがいいんです。
もちろん曲ってそれだけじゃないですけど、僕はまずそこから始めています。
──まずは、楽譜を概観するんですね。
そうですね。
もちろん一方で、それぞれの声部がどう変わっていくかも大事です。
単に和声として見るのではなくて、それぞれの音どうしがどう関係づいているかを考えるんです。
それで、音の方向性を見極めます。
同じ音であっても、次の音に向かっていく音なのか、それとも戻ってくる音なのかで弾き方も全然違います。
もちろん、そのためにはどの音を頂点に持っていくべきかも考える必要がありますね。
あとは、楽譜に書いてある指示や色々な人が弾いてるものの解釈を参考にして、楽譜を自分なりに解釈するんです。
──楽譜を「読む」と表現する意味がわかったような気がしますね。演奏には作品の理解や解釈が重要な役割を果たすんですね。
そうですね。ただ、そこがクラシックの難しいところでもあります。
そもそもピアニストって、すでに素晴らしい作品があってそれを演奏するという立場なんですよね。
もちろん生演奏であるということに一定の価値はあるけど、すでにたくさんの偉大なピアニストが演奏してきているわけで。
自分が演奏することになんの意味があるんだろうって考えちゃいますよね。
でも、だからこそ自分の演奏に感動してくれる人がいればとても嬉しいし、やっててよかったなとも思います。
──ピアノの演奏にはそういう意味合いがあるんですね。
──そもそも音大の受験は考えなかったんですか?
興味がなかった訳ではないし、行きたいなという気持ちもありました。でも、思うだけで特に行動はしなかったですね。漠然と迷ったままでした。
今では考え方も変わってきましたが、当時は、数学とかと違って、ピアノの練習はずっとはやってられないなとは思っていました。
勉強の方が向いてるんじゃないかなって思っていたんですよね。
それに、中高の頃はクラシックピアノはあまりやっていなかったんです。音ゲーとかバンドとかに熱中してました。
──音ゲーですか。意外ですね。いつから熱中していたんですか?
始めたのは5歳のときです。友達の家で初めてやってハマりました。
本格的にやり始めたのは中3ですね。本格的ってなんだよって感じですけど。
──そこからYoutubeの動画投稿も始められたわけですね。
最初のきっかけはそうですね。今ではピアノ演奏の動画がメインなんですが。
──例えば、どんな動画をあげているんですか?
一番多く見られた動画だと、スーパーマリオのビッグバンドの曲を演奏した動画です。
もともとビッグバンドの曲なんですが、ピアノにアレンジして弾いてみたんです。
実は、そのプロセスが一番好きで。
小学生の頃から遊びでやっていたのの延長なんですが、CMの音楽を適当に弾いてみるような感じ。
──いわゆる「耳コピ」ですか?
そうですね。でも今やっているのは単に耳コピという訳でもないです。どちらかというと編曲ですね。
──具体的にはどういうプロセスなんですか?
メロディとコード聞き取って、特徴的なリズムを捉えて。メインメロディ以外の対旋律。いいメロディがあったら取り入れてみたり。
あとは、オーケストラの音の響きをピアノでどう再現するかという視点もありますね。
和音をリハーモナイズしたり、響きを変えてみたり。
それが違った味を出せるなら、それを使ってみるみたいなことを考えるのも楽しいですね。
結局ピアノでは全てを弾くことはできないので、取捨選択して、編曲する必要があるんです。
──なるほど……。まさに編曲ですね。
実は大学での研究もそれに近いことをしています。
大学院では自動採譜、自動編曲をテーマに研究をしています。自動採譜っていうのは、ピアノの音源からスコアを作るのを学習するシステムのことです。
ピアノの音からピアノのスコアを出すのは簡単ですけど、評価基準をきちんと定めれば、例えばオーケストラの音源からピアノのスコアを出すっていう編曲にも応用できるんじゃないかなと思って。
卒業研究の時は音源分離っていうのをやっていて。色々な楽器が混ざった音源を、それぞれの楽器の音に分けるっていう。それも面白かった。
──東大での研究もやはり音楽と結びついているんですね。
そうですね。学部選ぶ時はピアノとか音楽とかに関わることをしたいなと思って選びました。
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──ここまでお話を伺ってきてクラシックの演奏・研究・編曲など様々な活動をされていますが、何か1つに絞ることは考えなかったんですか?
もちろん迷うこともありますが、基本的にはどっちもやろうという感じですね。
というか、迷ったらどっちもやる。
自分から閉ざすのが怖いんですよね。
どっちも中途半端になってしまうリスクももちろんあると思うんですけど……。
どうしても、チャンスを受けないことによって得ていたかもしれない機会の損失を考えてしまう。
そうなると、どっちもやりたくなってしまうんですよね。
もちろん、一つのことに集中できる人もいて、僕は心の底から尊敬します。
自分にはできないことなので、本当に羨ましく思います。
ただ色々なことをやっていると視点が増えて世界も広がるのも確かで、僕のような性格の人にとってはこういう生き方が合ってるんじゃないかなと思います。
──一方で、ピアニストと研究者って将来的には両立が難しいように思うのですが、その点についてはいかがですか?
そこが一番難しいですよね。そろそろどっちもとか言ってられなくなってきた。
でも、多分どっちもやります。
できるのかわからないですけど笑
ただ、研究も音楽に関わることをしたいと思っていますし、音楽の理解という点で、実はピアノの演奏と同じことをやっているとも言えます。
──研究とピアノを両立する上で、大事にしてることはなんですか?
どっちも融合したいという気持ちはずっとありますね。音楽家だからこそ見える研究もあるし、研究しているからこそできる演奏もある。
どちらも続けるという選択肢を取ることで、自分にしかできないことができればいいなと思っています。
Youtubeでの活動も同じです。
クラシックの技術とか表現方法をアレンジに生かすっていうのは、自分の価値を発揮できる部分なんじゃないかなと思っています。
今でこそクラシックは再現の音楽ですが、モーツァルトだってリストだって即興の天才だった。
彼らが今もし生きていたとしたら、現代に存在するクラシック以外のあらゆる音楽を自分の中に取り入れない手はなかったと思います。
クラシックと、いわゆる「弾いてみた」のような活動は似ているようであまり接することが少ない世界ですが、本質的には変わらないものだと思っています。
どっちも好きだから、どっちもやっていきたい。
大学生ともなると、専門も絞られ、将来の選択にも迫られ、何かを選ばなければならないような気持ちになることも多いもの。
しかし、「迷ったらどっちもやる」と言い切り、新たな選択肢を生み出す角野さんの姿を見ていると、意外とそんなことないかも?と自分の選択を見直したくなりました。
興味に貪欲に突き進む角野さん。今後の活躍がますます楽しみですね!
記事内でもご紹介しましたが、角野さんの活動をもっと詳しく知りたいあなたは、角野さんのYoutubeチャンネルをチェックしてみてください!
音ゲーからクラシック、編曲と様々な活動を動画で配信しています。
ちなみに、筆者は音ゲーの指の動きに圧倒されました。人間ってこんなに指動くっけ……?という気持ちになれておすすめです!
また、以前UmeeTでも取材させていただいたあきたさんとのコラボ動画も先日公開されたそうです!
特別対談から角野さんの練習風景、コラボ演奏まで、「え、ここまで見せちゃう……?」と目を疑うような豪華コンテンツなので、ぜひ覗いてみてください!