変化する世の中のための、ルールづくりの仕事とは?【東大出身パブリック・アフェアーズ座談会】

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新たな魅力的な技術が、次々生まれてくる現代。
でもよく考えてみてください。適切なルールがなければ、実際には社会に広がらないと思いませんか?

例えばUber。テクノロジーを使って、乗る側が「安くて便利で安心」、というだけでなく、乗せる側は「自分の車で人を運んでお金を稼ぐ」仕組みです。アメリカではタクシーに代わる勢いで普及しています。
でも日本ではうまくいっていない。日本の規制が厳しく、「緑のナンバープレートの車」しか、人を乗せてお金を取ることができません。業界の力も強くて、最近は経産省でタクシーが集まってデモをしたというニュースもありました。

ここまで読んで、「規制は悪だ!」って思いました?
でも日本のタクシーの質が高く、安心して乗れるのは規制のおかげです。新しいテクノロジーをそのまま受け入れたら、タクシー全体の質が下がる可能性があります。

こんな時に登場するのが、新しいルールづくりをする「パブリック・アフェアーズ」という仕事です。政治も省庁も、企業もNPOも巻き込んで、動かしていく。

「そんな仕事聞いたことない!」っていう人がほとんどだと思います。でも、めっちゃ面白そうじゃないですか?
そんなパブリックアフェアーズの仕事をなさっている東大出身の先輩方に、最前線の景色を聞きました。

この記事は、東大に10年続くコミュニティースペースLab-Cafeが企画した「Tech×Public Affairs: 社会課題解決のためのルールメイキング」(3月23日開催)の美味しいところを凝縮した記事です。

UmeeT初代編集長で、当日のファシリテーションを担当した杉山がお送りします。

 

場所は東京ミッドタウン日比谷のカンファレンスRoom6。皇居と省庁と東京駅に囲まれた、思わず「これ日本の中心やろ!」と叫び出しちゃうような場所でしたよ!

☞現役パブリック・アフェアーズのゲスト紹介


お名前:
藤井 宏一郎さん
所属:グーグル株式会社執行役員兼公共政策部長を経て、Public Affairs専門コンサルティング会社のマカイラ株式会社を起業。
学歴:東京大学法学部卒、ノースウェスタン・ケロッグMBA

 


お名前:
吉川 徳明さん
所属:株式会社メルペイに参画し、メルカリ社長室 政策企画マネージャー。前職にヤフー株式会社の政策企画部門。
学歴:東京大学大学院経済学研究科修了

 

改めてこの仕事について教えてください!

藤井さん:
政府や業界団体・NPOなどを相手に利害を調整し、新しいルールを作るのが、パブリック・アフェアーズです。
新しいイノベーションが出てきたときに、技術を社会に無理なく活かすためには、新たに規制や仕組みを作る必要があります。

吉川さん:
私は経産省で働いた後、ヤフーでパブリック・アフェアーズの領域を担当してきました。今はメルカリ社長室の政策企画マネージャーとして仕事をしています。

藤井さん:
僕の場合は、グーグルを経て、パブリック・アフェアーズ専門のコンサル会社、マカイラ株式会社を起業して活動しています。

パブリック・アフェアーズは企業の中の役割で、専業でサポートするコンサルもあるということですね。
最近世の中での事例はどんなものがありますか?

藤井さん:
「法人設立のオンラインワンストップ化」がありましたね。
他国と比べ、日本は法人設立の手間がかかりすぎると言われています。

直接出向いて届け出する必要がある。さらに、「公証人の定款認証」のために公証役場に行き、5万円が手数料として掛かるのです。「資本金1円法人設立が可能」と謳われているのに……。公証人は、裁判官・検事の「高給天下り先」とも批判されています。政府は日本の起業環境を世界最高水準にするために、テクノロジーを使って、手続きのオンラインワンストップ化を進めようとしていています。

これはニュースでも聞いた人が多いかもしれません。

藤井さん:
この流れが生まれたのも、実はパブリック・アフェアーズの活動の結果なのです。
「未来投資会議」の場で、日本の起業環境をよくしよう、と働きかけた人たちがいたことで、法人設立オンラインワンストップ化が取り上げられました。そこから、2017年に「法人設立のハードルを手間とコストの両面で改善しよう」という検討会が開催された、政府が動き出したんです。

現状のルールを変えるパブリック・アフェアーズの動きが、実はあの時事ニュースの中にもあったわけですね。

藤井さん:
検討会では、公証人の定款認証の一部が「形骸化している」という判断になりました。定型の定款については公証人による定款認証が不要、という議論になったのです。あとは印鑑届を任意化するなどして、完全にオンラインワンストップで法人設立する道が拓けるはずでした。

「はずでした」というと……?

藤井さん:
「不正な法人設立を防げなくなる」と、弁護士・司法書士から意外な猛反対がありました。
結果、テレビ電話の利用によって、公証役場に出向くことなくオンラインで法人設立することはできるようになりましたが、公証人の定款認証と手数料は維持することになった、というのが顛末です。

印鑑届の任意化も2020年度中の実現が目標になっていますが、印章業界からの反対などで制度化は遅れているようです。

変化の影響が大きいだけに、想定できないステークホルダーも出てきて、一筋縄では行かないんですね。

藤井さん:
あるいは、今や当たり前に浸透したイノベーションや技術に関しても、新たなルール作りの必要性がある場合があります。例えばインターネットにおける、児童ポルノの問題です。インターネットが広がったからこそ、児童ポルノは形を変えて問題化しています。そこにも新たなルール作りが必要です。

吉川さん:
児童ポルノのような、インターネット上の違法・有害情報の削除については、前職のヤフーで関わりました。政府を頼りにするだけではなく、企業側が業界横断で自主的にルールを作って運用した方が、効果が出ることもあります。
ネット業界の有志でセーファーインターネット協会(SIA)を作り、児童ポルノやリベンジポルノ画像の削除を行ってきました。実際、非常に多くの違法画像を削除してきました。

すでに浸透したテクノロジーの弊害が生まれた時の対処も、パブリック・アフェアーズの仕事領域なんですね。

炎上している問題の中心に

この仕事の一番のやりがいって、なんなんでしょう?

吉川さん:
世間で「炎上」している問題、みんなが喧々諤々議論している問題に、自分自身が取り組めるのが楽しいですね。

炎上に飛び込んで行くってことですか! 大変すぎませんか……

吉川さん:
大変ではありますけど、魅力ありませんか? 論争がある政策テーマについてSNSなどで論評するだけでなく、実際にその渦中で自ら解決に向けて影響力を発揮できるわけですから。

藤井さん:
テクノロジーが生まれて新たに出てきた争点に、直接介入できるのは醍醐味ですね。
パブリック・アフェアーズは、単にお金で雇われて、ある陣営をサポートする人こともいありますが、自分が理想と思う社会像を持って、働きかけていくのが、本来あるべき姿だと思います。
社会にどうなって欲しいか、があった上で、その実現手段としてパブリック・アフェアーズを使う。その順番でなければ、政治を歪めるだけになってしまう。

吉川さん:
べき論としてもそうですが、実効性の観点からもその順番が大事です。パブリック・アフェアーズの課題というのは多様なステークホルダーの多様な利害が絡み合う難問です。その人の根底にある価値観が出てこない仕事の進め方では、こうした多様な利害をまとめ上げていくのは、実際難しい。
その人自身の人格がにじみ出ていなければ、多様な人を巻き込む迫力は持てないと思いますね。この業界で活躍している人は、自分の価値観を前面に出した上で関係者の利害をまとめあげている。ある意味、「好き放題」やっている印象です。

その人自身のキャラクターと、そこに根ざす理想像が立っているからこそ、価値の高い仕事ができるということですね。

キャリアとしてのパブリック・アフェアーズ

どうしたらパブリック・アフェアーズの仕事がに就けるでしょう?

吉川さん:
パブリック・アフェアーズは新しい職業で、なるためのキャリアパスは確立されていませんね。僕も手探りでやってきて気づいたらここにいたって感じなので。

確かに、募集されているイメージないですね。でもなりたいと思ったら……?

藤井さん:
パブリック・アフェアーズで働くためにまず必要なのは、専門性だと思います。
例えばある法案を通したいと思ったら、政府のプロセス、選挙など政治日程のスケジュール、そしてキーマンがどこにいるかが見えている必要があります。

お二人はどちらも官僚から、この業界に入られていますね。

藤井さん:
私の場合は新卒で官僚を経験したからこそ、省庁側の繋がりがあり、今の仕事に大きく活かされています。
しかしそれ以外にも、議員秘書、メディア、NGO、PR会社など、キャリアパスはたくさんあります。私もグーグルの前はPR会社にいました。

なるほど、そんなに色々ルートがあるんですね。
さらにキャリアを考えるために、別の経歴をお持ちの、パブリック・アフェアーズ経験者の方に登壇いただきましょう。


お名前:
恩賀 万理恵さん
所属:アジア開発銀行 High-Level Technology Fund 担当コンサルタント。前職にグーグル合同会社公共政策部世界銀行など。
学歴:東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻、博士課程修了。Goldman School of Public Policy, UC Berkeley。(実は本郷Lab-cafe OGで、マスター経験者です)

 

恩賀さん:
私は工学の博士課程を修了後、グーグルの公共政策部に所属しました。
博士修了前にも別の仕事はしていましたが、技術と政策や社会をつなげる仕事ができるという点、米国とは違い日本ではまだ確立されていない職種を実際に担当できることは魅力的でした。エンジニアリングのバックグラウンドも多少生かせたと思います。

グーグルの中では、どんな仕事をされていたんでしょう?

恩賀さん:
藤井さんや吉川さんのご紹介あったような内容以外だと、新商品が出るタイミングで、各国政府や、全世界のユーザーたちへの、伝え方を考える仕事も一時期米国本社で担当しました。各国で議論となっている政策課題なども念頭におき、社内へのアドバイスに加え、社外へ必要な情報提供ができるよう準備しました。

藤井さん:
どの専門であっても必要な能力として、利害調整のためのコミュニケーション能力があると思います。
それぞれの利害を読み取り、適切な順番と、説得の仕方で、信頼を醸成することが必要なんです。

利害調整のために必要な信頼って、どんなものでしょう?

吉川さん:
例えば交渉の場では、交渉相手は、本当はもっと譲歩できるのに、その手前で「これ以上は譲歩できない!」と言われたりします。でも腹を割って話して、目指すビジョンを共有したり、こいつは信頼できるな、さらに譲歩する価値があるなと思ってもらえれば、「本当はここまでは大丈夫」とさらに譲歩してくれることもある。
このようにして、「ステークホルダー同士の折り合える幅」を、信頼を積み上げながら確保する能力が求められます。

あなたが世界を変える、そのための武器

パブリック・アフェアーズは、プロだけが関わるものなんでしょうか?

吉川さん:
実はそうではないです。
例えば、この3月に日本で初めて液体ミルクが解禁されたのですが、それを企業を巻き込んで実現したのは僕の学生時代からの友人でした。
日本で普及しているのは粉ミルクだけ。しかし海外では液体ミルクも普通に使うことができるのです。災害時だけでなく、普段の子育てでも夜泣きのたびにお湯を沸かすのは大変だし、子育てをする男女双方にとって、とても有益なものなんです。
その課題を、メーカー側と省庁側に地道に働きかけて解決したわけです。

一般の人でも、新たな課題を発見して動かしていくことができるんですね。

吉川さん:
自分で動いて、オンラインで署名を集め始めたり、厚労省や与野党の議員のところに話を持って行ったりと、コツコツ活動を続けたんです。
もちろん一般の人なので、最短最速の動き方はできないものの、その目的が共感を呼べば助けてくれる人が出てくる。

子育ての苦労を軽減する、大きなインパクトですよね。一般の人でも根気よく動くことで、当たり前だと思われていたルールを変えていくことができるんですね。

吉川さん:
その友人の頑張りを見て、僕も反省しましたね。パブリック・アフェアーズは一部の人だけのものではない、と。動かないと、ルールを変えるやり方なんて分からない。動くと道が開けることも多くて、動いて学ぶことも大事だと感じました。

藤井さん:
学生にも十分できることありますよね。
自分の問題意識に合わせて、学生団体やNPOで政府に働きかける活動をしてみることも、パブリック・アフェアーズと言えます。
世の中のイシューから重要と思うものを選び、すでにある活動をサポートしてみるのもそうです。

吉川さん:
日本はこれまで、社会課題の解決の多くを政府が担ってきました。依然としてその傾向は強いものの、徐々に、そうじゃなくなってきてますよね。ルールは自分たちで作って、自分たちで使っていく。そういう社会は活力があって、変化に強いと思います。

藤井さん:
社会との関わり方が開けています。ぜひ挑戦してみてほしいです。パブリック・アフェアーズのサークルとかが生まれたら、ぜひ教えてください!


 

執筆と当日のファシリテーションを担当した杉山です。
職業としてのパブリック・アフェアーズの魅力が見えてきたのと同時に、社会の中で自分自身がどう生きるかを、考えさせられるイベントになったと思います。
記事からも、皆さんに伝わっていたら嬉しいです!
(現在フリーランスのファシリテーターを仕事にしています。怪我からも回復してとても元気です!詳しい近況はこちら。
学生向けにファシリテーション講座の講師もしています。特設ページがありますので覗いてください!)

当イベントの主催は、東大本郷の老舗フリースペース「Lab-Cafe」でした。
今年度も新たなメンバーで運営中です。UmeeTでの特集記事は以下からどうぞ!

【せっかく東大入ったのに面白くないな、と思っている人へ】本郷の秘密基地「Lab-Cafe」に行こう。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

杉山大樹

UmeeT初代編集長 常にエンターテイナー的でありたいです。 東大お笑いサークル「笑論法」創設代表

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