突然ですが、みなさんは東大生と恋バナしたことがありますか?
「お前、不器用だな…」「考えすぎじゃない?」誰かにそう思ったことはありませんか?あるいは、誰かに言われたことはありませんか?
そんな時に使われるこの言葉。
「お前、こじらせてんなあ…」
こじら・せる【×拗らせる】
[動サ下一][文]こじら・す[サ下二]
1 物事をもつれさせ、処理を難しくする。めんどうにする。「問題を―・せる」
2 病気を治しそこねて長引かせる。「風邪を―・せる」
(デジタル大辞泉より)
辞書にはそんな意味ひとつも書いてないのに、何故か恋愛に関する文脈で使われることが多いこの言葉。
(「男子校こじらせ」なんかもそうですね)
考えすぎて「こじらせ」になるというのであれば、なかでも最高学府ことこの†東†京†大†学†は「こじらせ」日本一ということになってしまいます(諸説あり)。
我々はそんな東大生の「こじらせ」を研究する企画「こじらせ東大生の恋愛相談会」です。
今回は我々の研究会の中で生まれた議論の一部を紹介しつつ、皆さんにも是非ご自分の恋愛・人付き合いを振り返るきっかけにしてもらえればと思います。
名前:カビ
所属:東京大学3年
生物学的性別:女性
性自認:女性
性的指向:多分どんな人も性別を問わず好きになる可能性はあるんだけど女の子が苦手で男の子が好きなので結果的にいわゆる”普通”の異性愛者になっている
研究会の主催者。恋愛について真剣に悩んでいる暇があるならそろそろ就活のことでも考えるべきなのだが、完全に出遅れている。
名前:ぴょこ
所属:東京大学3年
生物学的性別:女性
性自認:女性
性的指向:異性も同性も好きだし特別な関係には憧れるけど、名前付いてなくていいし1人に限らなくていいし性的接触はなくていい
交際ステータス:恋人(男性)がいる
規範の波動を察知する特殊能力を持っている(後述)。
名前:広島
所属:東京大学3年
生物学的性別:男性
性自認:男性(ただし自らの男性性は嫌い)
性的指向:恋に落ちてしまうのは女性だが、誰かと共に生きていく上で、別にそれが男性であっても構わない
交際ステータス:恋人いない歴=年齢
口数が少ない。自称「あきらめ東大生」。
名前:ひな
所属:東京学芸大学3年
生物学的性別:女性
性自認:女性
性的指向:男性
交際ステータス:恋人いない歴=年齢
かねてより「悪い男に引っかかりそう」と周囲から懸念されていたが、『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ)を読んで、主人公の美咲の行動が自分そっくりのように感じ恐怖を覚えているらしい。
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かび:私たちは日々自分自身の「こじらせ」人間関係に悩んでいるわけなんですが、ふと周りを見渡すとそういう人間関係の悩みっていうのは本来必要なものではないんですよね。自ら「こじらせ」にいってるというか。
ぴょこ:國分功一郎先生の『暇と退屈の倫理学』にこんなことが書かれてた。
苦しむことはもちろん苦しい。しかし、自分を行為に駆り立ててくれる動機がないこと、それは「もっと苦しい」のだ。何をしてよいのか分からないというこの退屈の苦しみ。それから逃れるためであれば、外から与えられる負荷や苦しみなどものの数ではない。自分が行動へと移るための理由を外から与えてもらうためならば、人は喜んで苦しむ。 (※「」内傍点)
(國分功一郎『暇と退屈の倫理学』より引用)
日々の生活はなんとなく回ってる気がする。けれどわざわざこういう研究会に参加して(笑)生きづらさについて考えて、自分のことを嫌になったり他人のことを嫌になったり、つける必要のない傷をつけちゃっているような気もする。自分は退屈だったのかと。
ひな:確かに。毎日、今日を生き抜くのに精一杯な人は、そんなこと考える暇はないはず。
「あなたたちがちっぽけな恋愛のことで悩んでいる間にもアフリカの子どもたちが…」という声がどこかからか聞こえてくるような気がするよ〜
ぴょこ:確かにそうかもしれないけれど、それを言われたからって自分の苦しみを相対化できるだけであって、今の絶対的な自分の苦しみが軽減するわけじゃない。世界で一番苦しくないと、苦しいって言っちゃいけないのか。
かび:恋人いる人たちが悩んでるのも「リア充はいいすね(笑)」みたいな感じで微笑ましいエピソードとして片付けられてしまいますね。それは「贅沢」らしい。
でも自分はそういうことを真面目に考えるのって本当に大事だと思ってます。恋愛って「思い通りにならない他人に自分のエゴを押し付けたり押し付けられたりしながらそれでも一緒に生きていこう」っていう営みだと思っていて。私にとっては衣食住であり、生き抜くために大事なことでした。
広島:恋愛は衣食住。
かび:そして時として災害でもあると思います。否応無しに巻き込まれるっていうこともあるのかもしれない、一目惚れとか。または、自分が台風になって相手を巻き込んでしまったり、あるいは相手が土石流のようにこちらに迫ってきたり。
ひな:私が今悩んでるのは、自分のアプローチには加害性があったのかもな、っていうこと。
フラれた相手と一緒に電車に乗ったときに寝たフリをして肩に頭をもたれかけてしまったんだよね。もちろんわざと。
「本当に嫌なら何か言うでしょ」って思って。でもそれが男女逆転したらヤバいんじゃないか、とかセカンドレイプで使われるロジックと同じだよねって言われてハッとした。
かび:「そうは言っても、良いって言ったんでしょ」「嫌って言わなかったんでしょ」ってやつですね。
ひな:あの時相手は不快に感じていたのではないか、そうだとしたらそれはセクハラになるんじゃないかなと思って。
そうやって「私の行動で嫌な思いをさせるかもしれない」と思うと、いいなって思った人がいてもアプローチできなくなってしまった。どこまでやって大丈夫なんだろう、とか。
ぴょこ:アプローチってなんだっけ。もうひなさんは相手にフラれてたわけだけど、肩にもたれるっていうのは何かを期待してのことだったの?
ひな:そういうわけではなかったと思う。むしろこれ以上関係が気まずくなりようがないから振り切れて、欲望に素直になってしまったというか…。
むしろアプローチをかけたい相手、つまり付き合いたいなって思う相手に対しては、突然スキンシップをはかったりして嫌われたらイヤだから慎重になるな。
さらにいえば自分はアプローチをかけてもなびかない相手ばかり好きになるみたいで、だから恋人がいたことがないんだけど(笑)なんでかっていうと、振り向いてもらえるまでに時間がかかった分だけ、自分を大切にしてもらえそうな気がするからかな。
すぐ振り向かれると、「他の子にもこんなに簡単になびくのかな」「女ならなんでもいいのかな」って思っちゃう。
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かび:ひなさんは具体的にどういう人がタイプなんですか?
ひな:えーと、見るからに優しそうとか、色白とか細身とか。感情的な人が苦手で、ほわーっとした人といると落ち着く。なよってした人が好き、とも言えるかも。
ぴょこ:信田さよ子さんの『選ばれる男たち』そのまんまだ(笑)これはカウンセリングの場で働いてきた信田さよ子さんが出会ってきた女性たちを苦しめるさまざまな夫、そして父たちの姿から、逆説的に「選ばれるべき」男たちの姿を照らし出そうとする本なんだけど、こんなことが書いてある。
夢の男を一言で表せば、「女らしい」男のことである。やさしくてよく気がつき、つるんとした肌をしている。美しい容貌でいながらおもしろいことをしゃべって笑わせてくれる。いざとなれば自分のために尽くしてくれ、いっしょにいればほっとできて、それでいて楽しい。無理矢理セックスなど強いることなく、ひたすら自分の望むようにしてくれる。これこそ、かつて男たちが女性に求めた「女らしい」属性ではないだろうか。ジェンダー二分法によって女性の属性として社会的に要請されてきたこれらの特性だが、実は女性だって男性に同じことを求めているのだ。
(信田さよ子『選ばれる男たちーーー女たちの夢のゆくえ』より引用)
かび:お父さんはどんな人ですか?マッチョ系?
ひな:うーん、細身で色白ではあるけど、いつ怒るか分からなくて、それがトラウマ。その点逆の人を求めてるのかな、優しさで溢れてて、安心感をくれる人。
ぴょこ:『選ばれる男たち』の中の「夢の男の条件」っていう章に「父と反対の男」って項目がある(笑)
広島:『選ばれる男たち』を読んでいると、まさに自分は選ばれるべき男なのではって思ってしまうんだけど
ぴょこ:いや、私もそう思うよ(笑)ただ、選ばれるのはもう少し後かも。同世代が結婚相手を探し始める段階。
主語が大きいとは思うけど、東大男子ってそういう人が多い気がする。良い彼氏というよりは、いい夫。
ひな:広島は絶対いい夫になる。
広島:自分でもそう思う(笑)恋は苦手だけど、愛は得意。
ひな:確かに、浮気とかしなさそうだよね。恋愛に慣れてないから?
かび:慣れてないから浮気するのでは?遊んでみたくなって。
ぴょこ:そういう人もいるとは思うけどね。ただしない人たちもいて、彼らは「付き合う相手は一人」みたいな規範を内面化してそう。先ほどと同じく信田さんの主張なんだけど、こういうのがある。
男性は家族をつくるとき、つまり結婚するとき、ダブルスタンダードをぬかりなく用意して結婚する。「結婚は人生の墓場」というたとえは、妻以外との女性との関係を禁じられてしまいました、ああなんという無味乾燥な……という男の感慨から生まれた。それは「妻以外の女との関係はタブーではない」ということの裏返しなのだ。妻の側が「これで夫以外の男性との関係が禁じられるなんて、墓場のような人生」と感慨を抱くことは、そもそもこのたとえには含まれていない。
広島は「付き合う相手は一人」という規範を内面化してるのかもね。
広島:自分は確かに浮気はしないと思う。
かび:私は、恋愛関係に限らず人と付き合うには互酬性が必要だと思ってます。
恋愛はある種エゴの押し付け合いだと思うんだけれど、かと言って一方的に相手に与えたり貰ったりするのは私としては不健全に感じられてしまうんですね。貿易が成立しないというか。
自分が供給してるのに相手からの供給が感じられなければ「こんなに頑張ってるのに…」ってなるし、一方で自分の方は多くのものをもらっているのに相手に何もできていないと感じていたら罪悪感が出てくる。
とはいえあくまでそれらは主観の問題であって、相手がどう感じているかはそことズレている可能性が大いにあります。「自分は相手に何もできていない」と感じていても、相手は自分から多くのものを受け取ってくれているのかもしれない。
ぴょこ:貿易と違って、今貨幣として表したものの価値は誰が見ても同じというわけではないよね。自分から見たら500円ぐらいのものが、相手にとっては1000万円の価値があるみたいなこともありうる。
広島:その互酬性っていうのは継続する関係の中で生まれるものだよね。「好き!一緒に居たい!」っていうだけならそれを考えなくてもできる。でも結婚して一緒に暮らしていったとき、どちらかが「この貿易、赤字やないかい!」って不満に思ったら離婚とかが起きる。
かび:ひなさんは好きな相手に対して何をしてあげたい、とかありますか?ひなさん自身の方は、甘えたいって話があったけど。
ひな:したい。何かしてあげたい。家事とか。
ぴょこ:あ~、共感できない……
自分の良くないところなんだけど、あらゆるところに規範の波動を察知してしまって嫌な気持ちになるんだよね。
今で言うと、家事は女の役割だとか、そういうやつ。だけど、あらゆるところにそれを見出してしまう自分が一番規範を気にして内面化してるよねっていう。実際今ひなさんは「家事は女の役割だからやりたい」って思って発言したわけじゃないんだし。
かび:規範の波動を察知、わかります。「ピピーッ、内面化警察です!その欲求、本当にあなたのものですか?社会のファンタジーを内面化していませんか?」
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