「人文学」と聞いてあなたが思い浮かべるものってなんですか?
詩や小説?哲学?宗教?何だか怪しいもの?
大学で名前を聞いたことはあるけど、結局何をしているかわからない…そんな東大生も多いのでは?
こんなときはあれです、ググりましょう。
政治・経済・社会・歴史・文芸・言語など、人類の文化全般に関する学問の総称。狭義には、自然科学・社会科学に対して、歴史・哲学・言語などに関する学問をいう。文化科学。じんもんかがく。
(引用元:「人文科学」『コトバンク デジタル大辞泉』。URL:https://kotobank.jp/word/人文科学-538906?fbclid=IwAR1BQ7llyN-R5Qf12W4Lcgm9-RH9uRtM5OVV9F4unCXH0FayHDP7rJiUBx4)
…………ちょっと固い表現ですが、とにかく人間を対象とした学問だということです。
学部でいえば、文学部や経済学部、法学部、教育学部など、いわゆる文系学部で学ぶ学問が人文学に含まれます。
(厳密に言うと、社会科学は人文科学には含まれないこともありますが、様々な学部で人文学的なアプローチを取る人たちがいます。)
人間の生み出したものや人間の行動に着目し、「人間とは何か」について考えていく学問分野。
そんな人文学をテーマに企画展示を行うのが第69回駒場祭企画「ジブン×ジンブン」。
人文学がテーマ……?全然想像できない……。
ということで、今回は「ジブン×ジンブン」を運営されている東大大学院生の総合文化研究科修士一年の廣川千瑛さんと工学系研究科修士一年の原田央さんにお話を伺ってきました!
企画の発案から運営まで携わってきたお二人に、
などなど、気になる疑問をぶつけてきました。
学問に携わる全て東大生に届けたい、大学院生の熱い想い。どうぞ最後までご覧ください!
ジブン×ジンブンの広報を担当しています。
今回の企画は、現役東大院生の手で人文学の今とこれからを伝えていこうという取り組みです。
例えば、東大教授に取材した『How to make 学術書』や人文系院生がそれぞれに示す人文学の地図『ジンブンアトラス』、カードゲームで体験する人文学『文学部長賞を奪取せよ!』など多彩なコンテンツで、様々な角度から人文学に見て聞いて触れることができる企画になっています。
───人文学がテーマの企画ということですが、どのようなメンバーから構成されているんですか?
廣川さん:本当に様々ですね。比較文化の人。人文地理学の人。美術史学の人。法学政治学の人。宗教学宗教史学の人。教育哲学の人。工学系研究科の人。
───工学系研究科……?今回の企画のテーマって人文学ですよね……?
廣川さん:そうですね。ちなみに、それがここにいる発起人の一人である彼です。
───ほんとに理系なんですね……。そんなバリバリ理系の原田さんがどうしてジブン×ジンブンの発起人に?
原田さん:僕は高校時代からすごく歴史が好きで。
結局理系として大学に入ったんですけど、やっぱり歴史とどっかで関わりたいという気持ちがあって。
あと、今僕は水の循環についての研究(別名、水文学)をしているんですが、やはり水の動きって人の活動と密接に絡んでいるので、それに関わる人文系の学問を盛り上げたいなという気持ちがあったんですよね。
そんな中、今年の五月祭を回ってたら、理系に比べて文系の展示が全然ないってことに気づいたんですよね。それが今回の企画の発端になりました。
───では、廣川さんが参加されたのはどうしてですか?
廣川さん:もともと私は研究職志望で、わくわくすることに対して探求で仕事をするってすごいかっこいいっていう純粋な憧れを持って大学まで来たんですけど……。
実際入ってみたら、思ったよりも世間の風当たりが強くて、「ああ、これは面白そうとか、人類の知に貢献できそうという気持ちだけじゃやっていけない学問なんだな」ってことがだんだん分かってきました。
だったらそれに指をくわえて見てるのではなくて、現状とか思いとかを伝えるだけでも何かしなきゃとはずっと思っていて。
そんなとき原田くんから「人文学の展示一緒にしない?」っていう誘いを受けて、まさに渡りに船だなと思って参加しました。
───ちなみに「世間の風当たりが強い」というのは具体的にはどういうことなんでしょう。
そもそも文系の院生って世間体があまりよくないように言われがちなんですよ。
人文系学部を廃止すべきなんていう意見もよく目にするようになったし。
───え、人文系学部がなくなる……?それ、やばくないですか…………??
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───人文学が廃止ってどういうことですか?
廣川さん:2015年に文部科学省が「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」という通知を出したのが発端なんですけど、
中でも、
特に教養成系学部・大学院、人文社会系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする。
国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて(通知)
より引用
という一文が人文学を軽視した国の判断だと人文界隈から批判の声が上がりました。
本来の文部科学省の意図とは異なる見解が広まっているっていう説もあるんですけど、とにかくこの通知を皮切りに人文学は必要か否かという議論が盛んになって。
この件で「理系の学問は役に立つが、文系の学問は役に立たない」っていう認識が国民に結構浸透しちゃってるってことが分かったんですよね。
もしこの認識がどんどん広まっていったら、文系学部が廃止されるだけじゃなくて、高校の授業科目から、少なくとも今ある形での国語や社会がなくなってしまうなんてこともあるかもしれない。
───深刻な状況なんですね……。そんな風に人文学が役に立たないと見なされてしまうのはどうしてなんでしょう。
原田さん:一つには、人文学のアピール不足があると思います。
五月祭を見て回ったとき、理系の、それこそ工学部の展示だと、人工知能を使って画像を処理してたり、機械作ってたり……。
単純に面白いなって思ったんですよね。全然知らない分野ですし。
それに、これだけ面白かったら学生って集まるよねって。
AIとか自動運転とかってメディアに露出する機会が多いし、みんな興味持つじゃないですか。
そう考えると、文系学部廃止って結局、人文学がアピールする機会が少ないのが理由の一つなんじゃないかなって。
───確かにあんまり人文学の展示って見ないですね。ではジブン×ジンブンではどのように人文学をアピールしようと考えているんですか?
廣川さん:まず、企画の目玉の一つに『ジンブンアトラス』という企画があります。
文章とか絵画とかに対して、考えたことをみんなで書き込んで展示するというものなんですが……。
同じ院生でも、一つのものを見たときに考えていることって全然違うんですよ。
各人が一つの物を見て、どんな風に面白さを引き出そうとしているかを見せることで、物事を面白くさせる方法がいっぱいあるよっていう可能性を示したいなって思ってて。
───物事に対するアプローチの仕方を見せることで人文学をアピールしていくんですね。
原田さん:そうですね。そもそもアピール不足以前に、人文学ってどんな学問なのかがそもそも分かりづらいという問題が根底にあると思うんですよね。
理系の学問って名前から何をやっているかが想像つきやすいんですけど、人文学はどういうアプローチをしているのか学問名からは想像がつかない。
廣川さん:そういうイメージのつきにくさが人文学離れにつながっているんだとも思います。
例えば高校生にとっては、自分の興味が人文学にあてはまると気づくことのってまず難しいと思うんですよ。
国語、数学、理科…って区切られてた世界からいざ一歩出て、自分が抱えてる疑問がどの学問に通じるかってなかなか分からないじゃないですか。名前からイメージがしにくい人文学は特にそう。
知らずに進学しちゃって進振りのあとに、あんな研究室あったんだとか思うのもあるあるな現象で。
だから、今回の企画では、人文学にはこんなに色々なアプローチの仕方があるということを伝えることで、大学であの扉を開けば自分の知りたいことが知れるかもしれないっていうひと筋の光明だけでも与えられたらいいなって。
これは世間の議論が渦巻いている、この状況だからこそできることだと思ってます。
高校生以外にも、人文学が危機に立ってるってことは報道で何となく知ってるけど、自分には関係ないかもとか、そんなに危機でもなくない?とか思ってる人に、自分ともちょっと繋がってるかもしれないなっていう道筋を見出してもらって、自分ごととして考えてもらう機会にしたい。
そういう意味で「ジブン×ジンブン」というタイトルが効いてくるのかなと思います。
───タイトルにそんなに深い意味が込められていたんですね……。
廣川さん:あと、人文学そのものだけじゃなくて、文系の大学院がどういうものかっていう実態も伝えていきたいと思ってます。
一般的にも、やっぱり研究って聞いてまず思い浮かぶのって、試験管とか白衣とか理系の研究のイメージだと思うんですよね。
でも一言で研究っていっても各研究科によって内容が全然違うんです。
そこで「人文学の大学院では何をしてるか」を伝えたくて考案したのが、『文学部長賞を奪取せよ』というカードゲームです。
論文の中間報告会を場面に設定して、誰が一番うまく良いカードを集めて最初に上がれるかを争います。
批判カードとか、図書館焼失カードとか、実際に中間報告会と口頭試問やそれに至る過程で使うものをカードにして、論文を先生たちに読んでもらう現場を楽しみながら想像してもらえたらなと。
カードゲーム面白かったって思うついでに、人文学を学ぶって面白そうかもなっていう気持ちを一緒に持って帰ってもらえるような工夫をしています。
───人文学だけでなく、人文学の研究についても伝えていく企画なんですね。
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