はじめまして。ついこの前UmeeTに加わりました、ゆりです。
東大には法学部推薦入試に合格して入学しました。専門はいわゆる地方自治です。
長野出身、自然大好き、田舎最高。東京の暮らしにもやっと慣れてきました。
UmeeTに入ったのは先輩のりほさん(美男美女とお酒が好きなライターさん)にオススメしてもらったからなんですが、特に魅力的だったのが、教授に取材にいけるという点でした。
大学に入学して、自分の専門のみならず、関心のある分野の授業を受けてきたわけですが、
なかなか進路が定まらない。私のやりたいことには様々なアプローチ方法があるので、選択肢は増えるばかりなんです。なのに気が付けば、春には三年生。そこで先輩と話してて思いました。
地方自治のプロにインタビューに行けば、なにかヒントがみつかるのではないか。
ということで今回は、東京大学法学部大学院・金井利之教授に、地方自治について伺いました。
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筆者:本日はお忙しい中ありがとうございます。前に、金井先生の授業(法学部特別講義・都市行政学)をとらせていただいて、お世話になりました。
金井先生:いえいえ。
筆者:私は東大に推薦入試で入ったんですけど、地方自治を専門にして行きたいと考えています。これからの進路にも悩んでおりまして、今日は学問的なお話と、私の進路についても少しご相談させていただけたらなと思っています。
筆者:まず、先生がこの道を選ばれた経緯を教えてください。
先生:単純です。サラリーマンになって、満員電車に乗りたくなかったのです。
筆者・編集部:……えっ?
先生:もともと体力に自信がなかったので、毎朝満員電車で通勤するようなサラリーマンには、なれないと思ったんです。
筆者:自治体に対する興味があったとか…?
先生:最初からは特にあったわけではありません。ただ、気宇壮大に国家とか、国際的な問題とかを考えるのは嫌いでした。大きいことを考えるのは、生理的に合わないのです。
筆者:だ、大学時代は政治学を中心に学ばれてたんですか。国際法とかじゃなくて。
先生:そう、国際とか世界とか国家とか、実感として遠いのです。基本的にあまり外には行きたくないのです。
編集部:フィールドワークは行かれるんですよね?
先生:行きますよ。でも、自治や地域現場に引き籠もっているだけです。華々しい活躍をしている人や事柄には興味ありません。
筆者:…でもあの、先生ってオランダで研究員をされてましたよね。
先生:オランダだけです。他の外国に関心はありません。当時のオランダは、質実剛健で自由で個人主義的で多文化共生的で、誠実な社会でした。主に都市計画や土地利用規制について研究してました。
筆者:では、このお仕事を選ばれたのは、気宇壮大でなくて、満員電車にも乗らなくてよいからっていう…
先生:そうです。
筆者:私なんかは、満員電車に乗りたくなかったら長野に戻ってしまおうとか考えるんですが。
先生:僕も長野出身ならそうしますけど、首都圏育ちなので戻る田舎もないしですし、縁もゆかりもないところに行くのも変な話でしょう。それに、地方圏でもサラリーマンや行政職員は基本的に毎日出勤するでしょう?
筆者:はい。
先生:そう考えると地方圏の生活も、大変じゃないですか。
編集部:えええ…
先生:かといって農業でもペンション業でも、自分で経営する才覚もないのです。
筆者:ちょっと意外でした。
先生:いや、多くの学生もそう考えていると思いますよ。自分で起業するのは大変だから就活するわけですけど、いまの日本では、仕事は辛いことです。実際、毎朝大学に通うことは大変でしょう。
筆者:…そうなんですね。すみません、なんか衝撃的すぎてうまく反応できないです。
先生:普通の人は、仕事でも勉学でも、建前論者が煽るほど、熱意を持っているわけではありません。
(筆者心の声:東大教授に熱意なんてないと言われるなんて、思いもしなかった…)
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筆者:東大ホームページの先生の関心・担当分野を見ると、様々な科目がありますが、先生のご専門は何ですか。
先生:一般的に言えば「地方自治」ということになります。この「地方」という言葉には色々な意味があって、世間で流布しているのは簡単に言えば「田舎」のことでしょう。
前期に受けてくれた「都市行政学」は、名称からするとそういう「地方」と対立する「都市」の行政ということになります。農村社会の村落共同体的な自治ではなくて都市社会においても自治があります。「地方自治」と銘打つと、大都市圏の自治への関心が希薄になりやすいのですが、中世自治都市のように、都市こそが自治の原型という発想もあります。ちなみに全国の大学を見ても「都市行政学」という科目を開講している大学は多くありません。東大は東京という大都市圏の大学ともいえます。
しかし、公共政策大学院を作るときには、都市社会の自治に限る必要もないだろうということで「自治体行政学」という一般的な名称になりました。大都市圏に限らず、また地方圏に特化するわけでもない、ということです。
筆者:歴史的背景があって、微妙な意味合いが違ってくるんですね…。パッと聞かれて答えるのはどれなんですか?
先生:それは、「自治体行政学」ですね。都市にも田舎にも限定していません、ということです。
筆者:普段の研究としては何をされているんですか?
先生:自治体に関わることは何でもします。ジェネラリストです。
筆者:具体的には…?
先生:一つは制度的な話です。もう一つが制度を前提とした個別自治体の実態に関する研究で、これがミクロな視点になります。制度と個別実践の往復運動という、両方を見る視点も大切にしています。そして、個別自治体の実践の集合として、自治体が全体としてどのように動いているかで、これがマクロな視点です。
例えばふるさと納税の話なら、ふるさと納税という制度それ自体を研究するのが一つ、個々の自治体が、制度を前提に何をしているのかが一つ、そして、個々の自治体の動きの結果、総体として自治がどうなっているのかという三つの論点がありますよね。
何をしているのか?と言われれば、自治にかかわる制度を精確に分析することが基本ですが、福島の被災地の話、東京23区の話、「地方創生」の話、政策の話、住民の概念…その時々の情勢に合わせて、様々に即応しています。
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