突然ですが皆さん、「Learning for All」という教育NPOをご存知でしょうか?
名前は知らない…という方でも、FacebookやInstagramをやっていれば一度はこんな記事を見たことあるのではないでしょうか?
Learning for Allは、経済的困難を抱える子どもへの無償の学習支援プログラムの提供、および子どもの自立する力を育む「家でも学校でもない第三の居場所」の運営を行っているNPO法人で、学校や自治体とも連携し、すべての子どもが自分の可能性を信じ、自分の人生を切り拓くことのできる社会の実現を目指しています。
独立して4年でNHKや新聞各社にも紹介されるほど急成長中のLearning for Allですが、実は代表を務めるのは
まだ27歳の東大OBなんです!!
そして、なんと!!!
今年のForbes JAPAN 30 UNDER 30(世界を変える「30歳未満30人の日本人」)にも選出された、
まさに日本を変える男!!!
しかも新卒で代表になったと聞きます。きっとめちゃくちゃ意識が高くて、めちゃくちゃ熱い思いを持ってNPO代表になった人に違いない!!!
ということで今回は、「なんでNPO代表に?」から「これから教育をどう変えていくのか?」まで、たくさんの質問をぶつけてきました!
[広告]
──本日はよろしくお願いします!早速ですが、李さんはなぜLeanig for All(以下LFA)の代表になったんですか?
いきなりですね(笑)実は僕、初めはただの学習ボランティア教師としてLFAの前身の組織に参加したんですよ。
だから当初は、自分が代表になるなんて想像もしていませんでした。
──えええええ!?では、学習支援のボランティア教師をしようと思ったきっかけは???
直接的なきっかけも、大学3年生の頃に大学の先輩に誘われたことです。でも、当時はただダラダラと毎日を過ごしていたので、参加をためらいました(笑)
──新卒で代表になったということで、てっきり大学1年生から意識高くいろいろな活動に参加していたのかと思っていました!意外と普通の(?)大学生活を送っていたんですね。
そんな参加をためらっていた李さんが参加を決めた決め手は何だったのでしょうか?
LFAが取り組んでいる、「教育格差」という問題自体には前から問題意識を強く持っていたんです。そのため、「何か行動を起こしてみるか」と重い腰をあげました。
私は出身が兵庫県の尼崎市という所で、生活困窮者が非常に多い地域なんですよね。その中でも特に厳しい地区で育ったので、「格差」や「貧困」を実感しながら生きてきました。
実際に、ランドセルを背負って学校に行く道すがら、路上生活者の方が凍死して運ばれるのを目の当たりにすることもありました。この話、信じられますか?
──ちょっと信じ難いですね…。
でも残念ながら本当の話なんですよ。
そんな地区だったので、友人の中には、複雑な家庭環境で育つ人や、家庭の経済的な要因で希望する進路に進むことができず夢を諦めないといけない人もたくさんいました。
一方で東大では、地元の世界とは正反対の世界を目にすることになりました。東大はやはり世帯所得も文化資本も高い人が多く地元とのギャップに戸惑いを覚え、日本にも「階層」があるんだと、感じました。
──東大生の家庭の50%以上が年収950万円以上というのは、近年よく言われていますよね。
そうですね。東大に入って、生まれた地域や家庭環境で人生が大きく左右されることを実感したんです。
特に衝撃的だったのは、私の地元の話を聞いて、「努力しない奴はダメだよね」「馬鹿は馬鹿らしく生きればいい」などと言う人もいたことです。
「これは個人の問題じゃなくて、構造的な課題なんだ!」と、当時の私は怒りを覚えていましたね。
そんな中で、先輩に誘われてLFAに関わることになりました。
──最初から代表になろうと思っていたわけではなく、一ボランティアから始まったんですね。そして、そのきっかけに李さんの原体験があったんですね。
──では、ボランティアに参加してから代表になるまでの経緯について聞かせてください!
最初は生活保護世帯向けの学習支援プログラムで3ヶ月間ボランティア教師を経験しました。
その時は、中学3年生の3名の子どもたちを受験3週間前から担当したんですが、そこでは満足のいく結果を出すことはできませんでした。
──うまくいかなかった原因はどこにあったんでしょうか?
全員、小学校の学習範囲からつまずきを抱えていていたんです。3週間必死に教えたんですが、やはり全員志望校には合格できませんでした。
──小学校の学習範囲からできないって、ちょっと想像がつきません…。私だったら、そんな子どもを目の前にしたら勉強を教えるのを諦めてしまいそうです。
ボランティア教師を経験した後はどんな活動をしたんですか?
自分が教師として成果を出せなかったことをバネにして、支援の質を上げるために運営スタッフとなり、現場責任者を1年間務めました。
子どもたちのためになることはかなり自由にやらせてもらい、結果として自分が教師をしていた時と比べ、学習支援の質を向上させることができました。
──いよいよ成果が出てきたんですね!!!成功の要因は何だったのでしょうか?
まず、自分が学生教師をやって失敗した経験を元に、教室運営の方法を変えていったんです。
週1回の教室を週2回に変更したり、年間を通じた受験カリキュラムを作成したり、今のLFAで基礎となっている運営方法を自ら作りました。
また、質の高い教室運営をするためには「子どもたちの人生が変わる教室を作る」というミッションに共感する優秀な仲間を集めることが非常に重要でした。
参加して仲間になってほしい人一人ひとりに直接、教室でどんな役割を担ってほしいか、どんなことを期待しているのかを話してアツく説得しましたね(笑)
──一人ひとり説得って…すごく地道な努力ですね…!その後はどのようにキャリアを歩んだんでしょうか?
その教室での成果が認められ、職員として学習支援事業の全国統括をするお話をいただき、事業部長に就任したんです。
その後、LFAが1つの団体として独立することが決まり、代表に就任しました。代表就任当時は東大の修士1年生でした。
──なるほど〜!今のお話を聞く限りでは、現場責任者を務めてからは結構トントン拍子に見えます…。でも、実際は苦労されたこととかあるんじゃないですか?
当時は当然経営の経験がなかったので、そこはなかなか苦労しましたね。
──そりゃそうですよね。経営のスキルはどうやって身につけたんですか?
団体の理事や経営の先輩に話を聞いたりもしましたが、結局はトライアンドエラーですね。
「人の5倍考えて、人の5倍働き、人の5倍失敗しよう」と思ってやってました。
──「人の5倍」って凄まじいですね。新しい事業を作っていくには、そのくらいの気持ちが必要なんですね。
[広告]
──李さんが代表になった経緯はよく分かりました。でも正直、出来たばかりのNPOの代表になる以外にも、当時の李さんの目の前にはたくさんの選択肢があったと思うんです。
公務員になるとか、普通に企業に就職して働くとか、はたまた博士に進学するとか。その中でなぜ代表になることを選んだのでしょうか?
実は大学時代はコンサルタントになりたかったので、様々な迷いはありました(笑)
でも、いろんな縁や、それまでの経験から感じていた「すべての子どもたちが自分の可能性を信じ、自らの力で人生を切り拓ける社会を作りたい、そのために現場から社会システムを変えていきたい」という自分なりの軸に沿って代表になることを選びました。
──軸ですか…。就活でもよく「軸は?」と聞かれますが、正直いまだに自分の軸がよく分かりません…。個人的な相談なんですが、自分の「軸」ってどうやったら見つかるんでしょうか?
何かの体験から起こる、感情の揺れ、嬉しいと感じたこと、悔しいと感じたことを掘り下げて、その体験を自分の糧にしていくのがポイントだと思っています。
例えば、文化祭で優勝したという体験があったとしたら、目標達成できたことが嬉しかったのか…仲間と一緒に活動できたことが嬉しかったのか…。人それぞれに「嬉しい」の感じ方が違います。そこに必ず動機の源泉があるはずです。
あと、私の場合はLFAの学習支援の現場で学んだことも「軸」を強くしてくれたと思っています。
──どんな学びがあったんでしょう?
本当にたくさんありましたが、あえて一つに絞るとしたら「教育格差」という問題は非常に複雑である、ということです。教育格差が生じる要因は、様々なんですよね。
もちろん、家庭の経済的要因や生まれた地域環境が大きく影響しています。
ただ、他にも学校内の状況、親世代を取り巻く就労や社会保障の問題、就学前の子どもたちへの保育制度や保護者支援の問題など、様々な問題が複雑に絡み合って、「教育格差」という問題が生じている。
もちろん、大学時代に勉強した範囲で知っていることもありましたが、
実際に現場で子どもに向き合う難しさ、一人の人生に寄り添うことがどれだけ重要で、学問だけではいかに薄っぺらいか…ということは学習支援の現場で活動しなければ分からなかったと思います。
──なるほど…。「現場で活動しなければわからないことがある」というのは重要なポイントですね。東大にいたら格差や貧困を目の当たりにすることってほぼないですからね。
LFAはそんな「格差や貧困を知らない」大学生たちに間接的な「原体験」を持ってもらう場でもあるんです。
──間接的な「原体験」を持ってもらうというのはどういうことですか?
LFAでは大学生ボランティアに、様々な要因で学習の遅れがある子どもの「教師」として3カ月間向き合ってもらいます。
様々なバックグラウンドをもった学生が「教師」として参加しますが、格差や貧困を知らずに育った学生でも、一人ひとりの子どもに真剣に向き合い続ける経験を経て、
子どもたち自身や子どもたちが抱える困難に共感し、その解決を担う当事者としての意識を持つようになります。
実際に困難な状況にある人だけではなく、原体験を持たない人もその問題を知り解決にあたることを通して、誰もが「社会問題の当事者」になることができるということです。
そういった「社会問題の当事者」がいろいろな分野で活躍することで、社会問題を解決していけると思っています。
──今まで社会問題を「他人事」と考えていた人もLFAでの教師経験を通して「当事者」になれるんですね。
これも、学習支援の現場で学んだことの一つですね。
──では逆に、学習支援をする中で課題に感じたことはありますか?
次ページ:学習支援の限界とは?どう乗り越えるの?