【進学選択を徹底解説】経済学から読み解く進振りの生き残り方【後編】

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受入保留アルゴリズムで「青田買い」問題を解決!

医学部生にとって、「どの病院で臨床研修を受けるか」が、自身の医師としてのキャリア形成に大きなインパクトを及ぼすため、より良い教育環境を有する病院や、名声のある病院で研修を受けたいと考えます。

一方で、病院側からみると、研修医は労働力として重要であり優秀な新人医師を獲得したいという強い動機があります。

当然ながら病院は、優秀な研修医を獲得するために他の病院に先駆けて研修医を獲得しようとします。

「優秀な研修医はどこだぁ…..」

病院間の競争が過熱していくうちに採用時期の早期化が進み、医学部生は臨床経験がない低学年のうちから採用オファーを受けるようになります。

このような「青田買い」の採用方式は、学生・病院双方にとって望ましくないマッチングをもたらします。

学生にとっては、自分の将来やりたい仕事が決まらないうちに研修先の病院が決まってしまうことを意味し、また病院にとっても臨床経験のない低学年の医学部生を採用することは医師としての資質を見極めることが難しいという点で高いリスクが伴うためです。

まぁ、とどのつまり、「最適」とか「安定」には程遠いということですね。

就活でも似たような状況が???

そこで考え出されたのが、「研修医マッチング」で、受入保留アルゴリズムの雛形というべきものです。

医師臨床研修マッチングとは、医師免許を得て臨床研修を受けようとする者(研修希望者)と、臨床研修を行う病院(研修病院)の研修プログラムとを研修希望者及び研修病院の希望を踏まえて、一定の規則(アルゴリズム)に従って、コンピュータにより組み合わせを決定するシステムです。

厚生労働省 医師臨床研修制度のホームページ
より引用

「前編」で受入保留アルゴリズムについてある程度詳しく見ているため、この研修医マッチングについて詳しい説明はしません。

が、解りやすいアルゴリズムの図解がマッチング協議会HPに掲載されているため、興味のある人はぜひどうぞ。

このような画期的なシステムによって、「青田買い」が蔓延る中ほとんど達成されていなかったと言っていい「最適性」「安定性」が研修医市場にもたらされました。

「優秀な若者を取りこみたい」病院側の意向によって強引で横暴な戦略が採られること、そしてもちろん、「なるだけいい病院に行きたい」研修医による志望順位の偽りが意味を為さなくなり、強かな戦略のカゲで涙を流す病院や研修医は(研修医市場においては)いなくなったのです!

…… と思ったら、別の問題が新たに表出してきました。それは、

カップル問題!!!

です。

カップルがマッチングに参加すると??

男女のイチャコラ

けしからん問題ですが、怒りを抑えて見ていきます。 アメリカで研修医マッチングが導入されたのは1952年。

しかし、女子の医学部生が増えるにつれて研修医マッチングにある問題が起き始めました。原因は、男女のイチャコラです。

医学部の勉強ってストレスが溜まるんでしょうかね?1970年代には、既婚カップルがマッチングにちらほら参加するようになります。

彼らには、できるだけいい病院で研修を受けたい、という他の研修医とは一味違う欲望がありました。

「愛する人とともに研修を受けたい」。

気持ちは分からんでもないですが、受入保留アルゴリズムのもと画一的に整備される研修医市場にはいい迷惑なワケで。

カップルで同じ地域で働けるよう、

①マッチで決まったオファーを断る、
②そもそもマッチングに参加せず直接病院と交渉を始める

カップルが発生しはじめたのです。 アツアツですね。そのまま自然発火点まで到達すればいいのに。

という妬み嫉みだけでは当然済みません。

理論上は、上記のようなカップルがいるマーケットでは安定的なマッチングは存在しない可能性があるのです。

せっかく安定したのに……

ところが!!!

実際にアルゴリズムを運用すると、安定的なマッチングが実現され続けていることが分かっています。 なぜ、経済学的にも心理的にも許容しがたいカップルがいるにも関わらず、安定的なマッチングが実現するのでしょうか?

Kojima, Pathak and Roth (2013)は、カップルが存在してもマーケットのサイズが大きければ安定的なマッチングが存在する確率が1に近づく、マーケットサイズが無限大になると1に収束するということを証明しました。*2

つまり、「数いりゃなんとかなる」ことを明らかにしたんです!

研修医マッチングのようにマーケットサイズが大きい場合、カップル問題のような、理論上示されるマーケットメカニズムの限界を克服できる可能性があるのです。 よかったな、医学部のリア充。

経済学はカップルを救う

以上で受入保留アルゴリズムが実際に社会で果たしている役目についての紹介を終わりますが、これはほんの一例に過ぎません。

他にも、アメリカでは学校選択マッチングに導入されていたり、と様々な応用例があります。興味がありましたら、ぜひ調べてみてください!

最後に

さて、これで後編はほぼ終わりですが、いかがでしたでしょうか。

皆さんの教養、そして人生の足しになれていれば幸いなのですが。

この記事を見て、

「へぇ〜、解りやすい説明するやんか」

と思ってくださる神様は、

今度は◯◯とか解説してよ

今社会で起こっている◯◯っていう現象が分かんないんだけど

という要望・クエスチョンをぜひUTEAにお寄せください!

 

「ん?”UTEA“? ここで新ワード?」

 

・・・前編の一番始めに出したんだけどな・・・

では、説明しましょう!

UTEAは東大経済学部の学生により運営される、東京大学公認の学生団体です。

今回のような、身近な社会現象や制度を経済学的に分析した記事の執筆や、大学生・高校生を対象とした経済学の魅力をより多くの人に知ってもらうための勉強会・ワークショップの主催といった活動を企画・実施しています。

4月には、大学院生のご協力のもと学部生向けイベント(@本郷)を開催

活動に興味を持っていただいた方は公式Webサイト、Twitter・Facebook等情報発信のチェックをお願いいたします!

新規メンバーは学部・学年を問わずいつでも募集しておりますので、他学部生や大学院生もご興味あればご連絡お待ちしております!(公式Webサイトはこちら

また、Aセメスターの始めには新歓活動をする予定ですので、こちらもよろしくお願いします。

ではまた、いつかの機会にっ!!

参考文献

*1 Alvin E. Roth(2015) Who Gets What — and Why: The New Economics of Matchmaking and Market Design , Eamon Dolan/Houghton Mifflin Harcourt (アルビン・E・ロス (著) 櫻井 祐子 (訳) (2016) 『Who Gets What(フー・ゲッツ・ホワット) ―マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学』, 日本経済新聞出版社)

*2 Kojima, F., Pathak, P. A., & Roth, A. E. (2013). Matching with couples: Stability and incentives in large markets. Quarterly Journal of Economics. https://doi.org/10.1093/qje/qjt019

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UTEA(The University of Tokyo Economics Association)は、高校生や進学選択前の駒場生に経済学の面白さを知ってもらう機会を提供する東京大学公認の学生団体です。現在、東京大学経済学部3, 4年生が中心となって運営に携わっています。 経済学に関心を持つ学生を増やすことで、東京大学経済学部をよりアカデミックな魅力溢れる場にすることを目指すとともに、社会における経済学のプレゼンス向上にも貢献すべく活動しています。

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