こんにちは。鎌田みどりと申します。
2014年の夏から2015年の春まで、カナダのトロント大学に交換留学していました。国際法とアジア地域の民主化やナショナリズムについて勉強していました。
留学先のトロントはカナダで一番大きな都市で、人口600万人くらいです。アメリカの大都市よりは田舎だけど充分便利で、日本でいうと東京とまではいかなくて名古屋とかそのくらいのレベル感です。冬が寒いのが難点で、一番寒くて-25度とかになるので、冬の途中から、「マイナス10度?今日あったかいねー」みたいな感覚になります。
もう一つトロントについて特記すべきは、人口構成の多様性でしょうか。人口の半分が移民、ともいわれるこの街では、アジア系、アフリカ系、中東系、ヨーロッパ系、南米系までありとあらゆるタイプの外見と料理(!)に出会うことができます。アボリジニ、と現地では呼ばれているネイティブアメリカンの血を引く人もいます。
どこかとどこかのハーフやらクオーターやら、親世代で移民してきたり数年前にカナダに来たばかりだったりと移住時期も様々ですし、英語ともう一国語あるいは複数か国語話せるという人は珍しくありません。
こんな状況なので留学生やワーキングホリデーで訪れる方も多いのです。結果として、会う人会う人、バックグラウンドも多数の文化への関わり方が全然違っていて、これは本当に魅力的なことだなと思います。
さて書きたいことは色々あるのですが、ここでは私が暮らしていた女の子だけのシェアハウスについて書きたいと思います。色んなバックグラウンドの色んな国の女の子が6人集まって大きな家に住んだらどんなことが起こるか、というお話をします。
さて、留学したら緑あふれるキャンパスの寮に住むんだ!と張り切っていた私ですが、手続きで不手際があったのか、はたまたスローなトロント大学国際交流オフィスのおかげが、寮に空き室がなく、大学のオンラインの掲示板で見つけたシェアハウスに住むことになりました。
一人っ子だから親以外が家にいる状況には不慣れだし、ていうか女ばっかりの世界ってドロドロしてそうだし、もしパーティーアニマルみたいな子たちばっかりだったらどうしよう…と不安だらけのままトロントに到着し、年季の入った一軒家の扉を開けた訳です。
家の作りは3階建て、半地下のフロアにベッドルーム3つとバスルーム、一階にキッチンとリビングとダイニングとバスルーム、二階にベッドルーム3つとバスルームがある、というものです。つまり個人のベッドルームは6つあり、そこに6人の女の子が住んでいた訳です。
とくにキッチンとダイニングはみんなで使うんですが、お掃除スケジュールとかを決めたりしていました。
まあ総合してみるときれい好きな子が多く、わたしは掃除苦手サイドに属するくらいだったので、留学でよく聞く「ルームメイトがお皿を洗ってくれなくて…」という悩みは幸運なことに持たずにすみました。
紹介が遅れましたが、メンバーはこんなかんじです。
A.P.:カナダ出身。お母さんがケベック(カナダの中のフランス語圏)出身なのでフランス語を話す。なぜか趣味で手話もできて地下鉄で突然聴覚障害のおじさんとコミュニケーションしたりする。部屋の掃除は苦手。ジムに足繁く通い、彼氏よりマッチョ。
A.D. :イラン出身。トロント大学で博士号まで修めているハイスペック女子。お掃除とお料理が得意で、一度作ってもらったイラン風のパンケーキ(韓国のチヂミみたいな)がすっごくおいしかったんだけれど料理名も思い出せない…
N.M. :高校まで日本、大学はカナダ。サステナビリティファッションに関心。夏に始めてあったときはウガンダから帰国したばかりで日に焼けてるし帰国子女でもないのにとっても英語がうまいしで、日本人だと俄には信じられなかった。
E.W. :カナダ出身。出身はトロントとは対照的な、白人が多数を占める郊外の街で、大学進学でトロントに来たときはアジア人やら多人種の多さにびっくりしたらしい。ゲームカフェやら高級会員制レストランやらいろんなバイトをしている。編み物が得意。
V.R. :メキシコ出身。メキシコシティの大邸宅に住むお嬢様でカナダの大学に留学しつつインターン。朝起きてすぐシャワーで熱唱し笑顔をたやさず、水のようにテキーラを飲むナチュラルハイガール。と同時にだれよりも几帳面で毎朝8時に家を出て夕方まで働き、部屋の整理整頓が完璧で、大雑把な性格だと思っていたラテン系のイメージを大きく覆される。
わたし:日本出身。高校までは日本のとある田舎、大学から東京。国際関係やら東アジアやらジェンダーやらに関心。よく食べるけれどお酒はあまり飲めない(何で飲んだら顔が赤くなるの?とメキシコ人に困惑される)。お掃除は苦手、英語勉強中(特に英語のセクシュアルなジョークとかわからなくて笑われる)。
出入りもありつつこんなメンバーで暮らしていました。育った環境も文化背景も外見も全然違うわたしたちですが、話すこと、一緒にやることはたくさんありました。
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ごはんはみんなばらばらで、タイミングが合ったら一緒に料理して一緒に食べる、というゆるいスタイルでした。何回かあったホームパーティーでは料理を持ち寄ったり。家では餃子が大流行し、一度に100個単位で餃子を作るイベントをよくやっていました(おかげで日本ではほとんど作ったことがなかったのに餃子作りスキルがすごく上がりました)。
キムチやら納豆やらよくわからない食べ物に見えたと思うし、メキシコやイランの食事なんて想像もつかなかったのですが、さすが多文化都市トロントらしく、どんな料理にもみんな果敢に挑戦するのが印象的でした。とくにメキシカンコーヒー(シナモンとサトウキビみたいなのが入ってる)とセビーチェ(白身魚をライムなどの香辛料につけるメキシコ料理)が絶品だったのと、韓国料理やら中華料理やら、エスニックを外に食べに行くこともありました。
女の子ばかり集まると定番の話題ではありますが、彼氏の話、かっこいい男の子の話、はたくさんしました。だれかが彼氏や彼氏候補を連れてくることも多く、彼が帰った後で女の子だけで厳しい評価を共有したりも(笑)。
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大学に通っている子でキャリアについて話す子も多く、女性が働くこと、家庭を持つこと、という側面からジェンダーに関わる話をすることもありました。カナダでは女性が子どもを持ったあと働き続けることは特に珍しくはなく、日本で「女性は家を守るのがよい」という規範が過去にあったこと、いまだにその名残に苦しむことがあるのを話すと、関心を持ってもらえました。
悩む部分も似ていて、仕事も続けたいけれど家族も大事にしたい、どっちに軸足をおいてこれからの人生生きてこうか、という話題もありました。また、日本に比してどの国も家族の時間やバカンスを大切にしていて、こういう姿勢は見習いたいなあと思いました。
カナダは人種的に多様なだけでなく、セクシュアリティの多様性でも有名です。ゲイのカップル、レズビアンのカップルを見かけることにも慣れ、大学でもカムアウトしている友人に何人も出会いました。トロント大学ではないのですが、家の女の子のうち3人が通っていた大学では、男女別のトイレのほかにLGBTQに配慮したGender Neutral Bathroomsってよばれるトイレがあったりもして、LGBTQのトピックにはみんな親しんでいました。
なぜ日本ではLGBTQへの理解が進まないのか、どうやったらどんなセクシュアリティの人で も快適に生きられる世界が作れるのか、なんて真剣な話もしました。
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「日本の戦争についてどう思う?」とカジュアルに質問を投げかけられることもありました。いまでもアジアの他の国と軋轢があるのか、それについてどう思うか、違うバックグラウンドを持つ人にまっすぐに自分の意見を伝えるのは簡単ではないなと感じました。
また折しもカナダの他の都市でテロが続き、フランスでのテロがあり、シリアでの日本人拘束事件が起き、アメリカに続いてカナダでもイスラム国などテロ組織への関心が高まっていました。暴力と戦争について、宗教や歴史が生む憎しみについて、一緒に住んでいる女の子同士ならではの率直さ、それでいてこれまでは違う歴史や国の文化に浸って育ってきたという背景、これがせめぎあうディスカッションができたのは貴重なことでした。
長々と書いてしまいましたが、ここには書ききれないくらい素敵な体験、はずかしい失敗談があり、一個一個の日常が本当に幸せでした。
留学でだれもが経験する最初の壁は友達を作ること、自分から声をかけに行くことの難しさだと思いますが、一緒に住むことでこの困難も軽減され、本当に優しくて寛容なルームメイトに出会えた自分は好運だったのだと思います。
きっとこのシェアハウスでの一年間は、おばあちゃんになっても覚えているだろうなあ、と思います。
Thank you so much, my lovely house sisters!(こんなふうに自分たちを呼んでいました)
そして、ここまで記事を読んでくださった方、ありがとうございました!