こんにちは。ライターのトヨマネと申します。
今回、我々UmeeT取材班は、「東大生でありながらミュージカル俳優としてプロの俳優と一緒に舞台に出ている人がいるらしい」という情報を入手いたしました。
ちょっと冷静に考えてください。
東大生でありながらミュージカル俳優としてプロの俳優と一緒に舞台に出ている人、マジすごくないですか。
頭いいくせにダンスと歌で人からお金もらってるわけですよ。マジすごいじゃないですか。
そんなわけで、ちょっとビビりながら取材のお願いをしたんですが、結果的にめっちゃいい人でした。
ということで、今日は中智紀さんにお話を伺います。中さん、今日はよろしくお願いします!
─お願いします。
いきなりでアレなんですが、今回取材をさせていただくにあたって、事前に中さんの名前でググってみたら、こんなページが出てきたんですよね。
これあれですよね?芸能人しか持ってないやつですよね?普通、自分の名前でググっても町のコンクールで入選した小学生の頃の読書感想文くらいしかヒットしませんよね?
─いえいえ、そんな大したことないですよ、ほんと。
(いや、絶対大したことあるだろ…。)
まあ、このページがある時点で「どうやらなんかすごい人っぽいぞ」というのはわかったんですけど、舞台に詳しくないので、何がすごいのかよくわからないんですよね…。中さんの実績を、舞台ド素人の僕にもわかりやすく説明してもらってもいいですか?
─そうですね……。たとえば有名な俳優さんで言うと、今までには寺島しのぶさんですとか、岡田将生さん、阿部サダヲさんといった方々と共演させて頂きました。
ああ、サダヲね。サダヲ。
サダヲ…サダヲ???サダヲって、1992年、舞台『冬の皮』でデビューすると、数々の舞台作品での活躍で演技力への評価を高め、舞台を中心にテレビドラマ、映画と幅広く活躍中。2019年のNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺~』の主演にも決定した、大の読売ジャイアンツファンで一男一女の父でもあるあの超有名俳優「阿部サダヲ」ですか??
─そうです!その「阿部サダヲさん」です。
有名人の名前に「さん」をつけるあたりからして業界人感がパねえ…。
あ、でも待ってください……?もしかして「共演」って言ってるけど、実際は「同時に舞台に乗った」だけで、役は「村人F」とかそういうパターンですか!?
あ、でも待ってください……?もしかして「共演」って言ってるけど、実際は「同時に舞台に乗った」だけで、役は「村人F」とかそういうパターンですか!?
─もちろんそういう時もありましたが、普通にセリフがある役も頂いてましたよ!(笑)
いや、普通にすごいやつじゃないですか。
ということで今回は普通にすごい人です。あと、めっちゃいい人です。
正直、大学生やりながらミュージカル俳優やるって、全く想像つかないんですけど、実際何やるんですか?
─当たり前なんですけど、「舞台をやります」というお話があったら、オーディションを受けて、合格したら稽古をして、公演をします。
なるほど。そこまでは想像通りです。
─舞台って、オーディションに合格してからおおよそ一か月くらいみっちり稽古をして、一か月くらいかけて公演する、っていうのが基本的なスケジュールなんですね。
一か月で稽古&一か月で公演…!密度感とスピード感がすごい。舞台って、もっと時間をかけてやるものと思ってました。
─次々と新しい舞台が来ますからね。もちろんその二か月間は生活の中心が舞台になってしまうので、僕の場合、なるべく長期休暇に重なるような舞台のオーディションを受けていました。
大学生特有の長いお休みフル活用ですね!
─ただ、やっぱりどうしても何回かは授業期間と重なっちゃいましたけどね。その時は大変でした!
いや、めっちゃサラッと言いましたけど、そんなに簡単にできるんですかそれ…。その稽古って、どんな感じで進むんですか?
─舞台によって違うんですけど、だいたいお昼頃に始まって夜まで、7〜8時間という場合が多いですね。稽古期間中の一か月間は、これをほぼ毎日やります。稽古場はアクセスの良い都心の方にあることが多いですね。
7〜8時間をほぼ毎日…?強豪野球部もびっくりのハードトレーニングじゃないですか。
─そうですね。稽古では全身を使ってダンスや歌、お芝居をするわけなので、疲労もハンパじゃないです。稽古場に早く行ったり、居残ったりしてほとんど毎日個人練習してましたし、家に帰ってからも自主的に練習したりするので、正直かなりハードです。
7〜8時間じゃ収まらないってことですか??練習しすぎですよ…働き方改革って言葉知ってます?
─そうなんですけど、そういう風に練習しないと絶対についていけないんですよね。僕は正直ダンスしかできないんですけど、先輩は僕よりダンスが上手い上に、お芝居も歌もめちゃくちゃ上手いんです。
中さんも当然めちゃくちゃダンス上手いはずなのに…。そんなのもうチート以外の何者でもないじゃないですか…。
─そういう中で稽古してると、「なんで自分がこんなところにいるんだろう」って感じで、自分の存在意義がわからなくなることが何度もありました。
肉体的にも精神的にもクソしんどいですね…。
─そうですね…。あと、舞台によっては稽古が始まる時点で配役が完全に決まっていない場合があるんですね。そういう場合、いつ役から降ろされるかわからないので、常にプレッシャーがすごいです。
胃が痛い以外の感想がないです。
─ほんの少しミスしただけで、その人が翌日には外されることもありますし、僕も何回か外されました。
めちゃくちゃ弱肉強食じゃないですか。サバンナかよ。
─ほんと、辛い時は辛かったです…。あ、今日台本持ってきたんで、良かったら見てください。
おお、これが本物の「台本」!!表紙のシワの付き具合から、過酷な練習が偲ばれますね……。
─僕は結構、ポイントとかを直接台本に書き込んじゃうタイプだったので(笑)
教科書とかも、ガシガシ書き込む派と、絶対書き込まないでノートにまとめる派の二派がいますよね。
─わかります(笑)それで、こっちが劇団四季の創始者である浅利慶太さん、こっちが松尾スズキさんの脚本です。
おお…!舞台に詳しくない僕でもわかるようなワードがポンポン出てくる…!!
─今思い返しても、本当に素晴らしい方々と一緒に舞台をさせてもらっていたんだなあ、と思います。
徹子の部屋に呼ばれた俳優みたいなこと言いますね。
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ところで、中さんって教養学部だとお聞きしましたけど、学科はどこなんですか?
─あ、国関です。
あ、こっかんなんですね!こっかん!…国関!??!?
あの、ガチで意識高い文1が法学部への道をかなぐり捨てて選ぶ、日々ドイツ語やらフランス語やらのレポートに次ぐレポートの嵐で毎年必ず5人は死人が出ると噂のあの国関ですか!??!!?
─死人は出ませんが、国関です。
東大の文系で一番ヤバいと言っても過言ではない魔窟じゃないですか…。そもそもあそこ行くのって結構点数必要ですよね?(注:正式名称・教養学部教養学科総合社会科学分科国際関係論コース。東大文系の「ガチ勢」が揃うハイスペ学科。課題が死ぬほど多く超ブラックなことで知られる。トリリンガルの巣窟であり、外務省キャリアを多く輩出している。)
─そうですね。駒場の点数は80点台後半でした!勉強頑張ったので!
いや、中さん、冷静に考えてください。あなた、プロの俳優と共演したミュージカル俳優ですよ。何駒場で80点台後半取ってるんですか。神様、パラメータの割り振りミスってない??ミスってるよね??
─高い志とか、全然ないんですけどね。高校生の頃、なんとなく「国連で働きたい」って思ってて。文系にありがちなやつですよね。
確かにそれは文系東大生あるあるだけども…!!だってさっき中さん、「どうしても何回かは授業期間と重なっちゃいました」って言ってましたよね?国関の授業と死ぬほどハードな舞台稽古が両立できるんですか??
─頑張れば意外とできます。
いや、「頑張り」…ッ!!人間の秘めたる可能性の神秘…ッ!!
─ちょうど三年の夏学期ですね。そもそも、稽古が12時開始とかなんですけど、2限って12時過ぎまであるじゃないですか。なので、2限が取れないんですよね。
「2限が取れない」…??いやいやいや、だって稽古ってそこから夜までブッ続けとかですよね?詰んでないですか??
─そうなんです!詰んでます。なので、その時は1限しか出席できませんでした。週5コマです(笑)
(わかったぞ、こいつアホだ!)…それ、単位足りるんですか?
─足りないですね。なので、主にレポートで単位が来る科目を取ってました。あと、演習だけは出席しなきゃいけないんで、稽古を途中で抜けて、演習を受けてまた稽古に戻ったりしてました。たまたま稽古場が渋谷にあって助かりました…(笑)
ギリギリを生きてる感がヤバいですね…。
─ただ、国際法だけはどうしてもテストを受けなくちゃいけなくて。でも、たまたまその日の稽古が休みだったので、留年を免れました(笑)
なんで今年ストレートで卒業できるんだこの人…。
次ページ、中さん、どこまでもいい人。