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1本の綿棒から、一滴のDNAから世界を変える研究を!

2017.10.01

微生物はあなたを支えるパートナー

 どうもこんにちは!東京大学2年の石田晴輝です。

 突然ですがここでクイズです。あなたの腸内にはどのくらいの腸内細菌が住んでいるかご存知ですか?

 答えは……100兆個以上!!

 その数私達ヒトの体を作る細胞の数よりよっぽど多いです。よくヨーグルトに書かれている「100億個の乳酸菌」なんて雲の下に霞んで見えるスケールです。

 人間は世の中で一番綺麗好きな生き物かもしれませんが腸内だけでなく皮膚上にまで至る所で共生している微生物(皮膚上にいるというのは毎日丁寧にお風呂で体を洗ったとしても、です!)とは切っても切り離せない運命共同体なのです。

 近年注目されている腸内環境だけでなく皮膚上にいる微生物も肌の病気や乾燥から守る大切な役割を担っています。これでやっと、私たちが最も自分たちの側にいる生き物である微生物のことを知らないことがどれほど大変な事かお分かりいただけたでしょうか。

 近年、多くの研究によりヒトと微生物には大きな関連があることが知られています。多種多様な微生物がヒトの身体、そして生活環境のあらゆるところに生息し、ヒトに様々な影響を及ぼしているのです。

 しかし、従来の研究では特定の微生物だけに注目し、その生態に関する研究したものにとどまっており、その環境にどういった種類の微生物がどんな割合で住んでいるのか、といった微生物群集全体をテーマにした研究は盛んではありませんでした

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世界各地で始まった挑戦

 2015年アメリカのコーネル大学クリストファー・メイソンをはじめとして,Metagenomics & Metadesign of Subways & Urban Biomes (MetaSUB) というプロジェクトが立ち上がり、世界で初めて、特定の微生物に注目するのではなく、地下鉄を中心に都市環境中に生息する微生物の群集としての特徴と、人間の生活との関係を探ろうという試みが始まりました。

 いわば都市環境を1人の人間の腸内に見立てて、ヒトと微生物の共生によって生まれる健康のメカニズムを探ろうというコンセプトです。

 人間と共に様々な都市環境に住む微生物を調べることで健康に暮らせる街づくりが見えてくるわけです。

 日本でもMetaSUBに先駆けて東京大学と慶應義塾大学の学生で2016年11月に研究チームが立ち上げられました、それが私の所属するGoSWABです!

GoSWAB公式ロゴマーク

 このチーム名の由来ですが、結成当時はかの有名なPokémonGOが大流行していて街中を老若男女(おじさん世代くらいまでなので老なんて言うと怒られそうですが…笑)が歩き回ってスマホ片手にポケモンをゲットしていた頃でした。

 そんなPokémonGOみたいにみんなが歩き回って気軽にスワブ(綿棒でこすってサンプル採取すること)する市民科学実現の未来が来て欲しいという願いが込められています。

USBで遺伝子解析だって出来ます

 ひと昔はヒトゲノムの解析に莫大な時間やお金をかけていましたが、技術が進歩した今ではスマホから給電した手のひらサイズの機械 (SmidgIONで遺伝子解析だって出来ちゃうんですからそう遠くない未来なのかもしれません、いや、私達がそうして見せます!!

 活動目的としては、微生物と東京を中心とした日本の都市環境との関係を探り、一般参加型の研究イベントの企画などを通じて一般の方にも広く微生物環境について知り興味を持ってもらうことを目指しています。

どうやって調査しているの?

 駅や学校など人間が多く行き交う場所、感染症が蔓延する可能性がある場所など興味深いデータが取れそうな環境を選んできて実際に現地に出向き1サンプルあたり3分の時間を計って専用の綿棒で壁,椅子,机,手すりなどの表面をこすりとっています

 調査地の一例として駒場キャンパスや慶應義塾大学の三田キャンパス、都内の利用者数の多い駅などで調査を行ってきました。

慶應義塾大学でのサンプリング風景

 その後、得られたサンプルを生物学、統計学、情報学の最新手法を用いて微生物群衆や遺伝子レパートリーを解析し、学会で発表しています。

 今年6月には,MetaSUBが主催し世界で一斉に微生物採集が行われるイベントであるGlobal City Sampling Day 2017 に参加し、山形県鶴岡市、渋谷でサンプリングを実施しました。

 山形県立鶴岡南高校の高校生と行ったサンプリングの様子は,地元の新聞紙にも取り上げられました

高校生のサンプリングの様子(左)と,地元のローカル紙の特集(右)

   8月には3rd Annual Metagenomics and Metadesign of Subways and Urban Biomes (MetaSUB) Conference という国際学会で大学でのサンプリング結果をポスター発表してきました。

発表ポスター(左)と、発表会場(右)

 サンプリングの部分はいくつかの注意点さえ気をつければ専門的な知識や技術がなくても誰でも出来る、という敷居の低さも相まってあなたのアイデア次第で様々な調査が可能になります。

 自分がサンプリングすることでその環境にはどんな微生物がいてどんな危険が存在するのかなどがより身近に感じられるというメリットもあります。

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この研究でどんなことが分かるのか

 さて、ここまで読んで頂いたみなさんはこの研究でどんなことが分かるのか、どんなことが出来るのか気になってきたことでしょう。

 去年ノーベル賞を受賞した大隅良典教授がおっしゃっていたように、まだ結果が分かりもしない研究の予想図を描いて視点を狭めてしまうのも良くないことだとは思いますが、みなさんに興味を持ってもらうためいくつかの例を上げていきたいと思います!

 例えば、今あなたが食事前にスマホでこの記事を読んでいるとすると、スマホについた微生物が手を媒介して体内に侵入してくるわけです。そこでスマホカバーの材質を変えてスマホについた微生物を解析することで、病原菌の付きにくい安全なスマホカバーという新たな評価軸を見つけ出せるかもしれません。

 解析では細菌の遺伝子だけ解析してどんな細菌がいるかに着目する16Sアンプリコンシーケンスと呼ばれる手法の他に、あらゆる遺伝子、例えばヒトの遺伝子薬剤耐性菌の持つ遺伝子などまで分かる、メタゲノム解析と呼ばれる手法もあります。

 遊園地やレジャー施設のお客さんのヒト遺伝子の内訳を知ることで、施設内での移動ルート予測やどの場所にどのようなお客さんが集まるかを予測できるかもしれません。そのデータによって新しいレジャー施設の建設設計に活かすことができそうです。

遊園地で人間ではなく遺伝子の動向を追いかける時代(?)

 病院内で病原菌や薬剤耐性遺伝子などが多く検出される材質の建築材質があれば、今後の病院の材質デザインにも活かせます。

 先述した通り、アイデア次第で多種多様なサンプリング対象×解析方法の組み合わせでいくらでも応用が効くのがこの分野の強みと言えるでしょう。

 後述する2020東京オリンピックと組み合わせたら一旋風巻き起こせそうですよね……!!

世界最先端の研究をこの手で!

都内某駅でのサンプリング(左)と、慶應義塾大学でのサンプリング(右)

 僕達は世界各地で行われているMetaSUBの活動の中でも日本の環境の重要性を強く感じています。

 特に、日本は東京・大阪・名古屋の3大都市には人口の半数が集中しているということが大きな特徴であり、新宿渋谷池袋という、1日の利用者数が世界トップ3の駅を全て有しているといった地理的、気候的な特徴もあります。

 それゆえ日本に特異的な微生物の分布が見られる可能性があり、研究の世界でインパクトがあると私達は考えています。

 それこそ、これから日本の基盤技術を輸入してインフラが整備されていく新興国などでの都市開発に、日本の都市環境の衛生に関する研究は大きく影響を与えていくと考えられます。

 また、日本は2020年に東京オリンピックを控えています。これは、MetaSUBプロジェクトが軌道に乗って以来、初のオリンピックといえます。

 GoSWABでは2020年の東京オリンピック前後の期間にわたって、都市の微生物や遺伝子環境の変化を追いかけて調査するという、世界でも例を見ない規模のイベントを舞台にした研究を計画し奔走しております。

 僕達の流す汗一滴が、採取した一滴のDNAが、必ず日本をいい方向に持っていってくれると信じてこれからも活動を続けていきます。

 専門知識も含め完全に手ぶらでサンプリングに参加するだけからでも始められるGoSWAB、あなたも是非一緒に最先端の科学研究に参加してみませんか!?

   サンプリングするだけでなく遺伝子解析や学会発表などいろんなレベルでの活動を行っているので参加しようと思った、興味を持った方はいつでも歓迎いたしますので こちら までご連絡下さい!!

この記事を書いた人
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石田 晴輝
はじめまして! 石田 晴輝です。UmeeTのライターをやっています。よろしければ私の書いた記事を読んでいってください!
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