UTEC立ち上げ準備
編「UTECの立ち上げは2004年ですよね。それまでは何をしてらしたんですか?」
GO「文化庁に出向したり留学したりしていました。留学後は経産省に戻りましたが金融庁にも出向しました。
留学は2001年から2年間、スタンフォードのMBAに行ってきました。起業もベンチャーキャピタルも向こうでは当たり前で、起業家やベンチャーキャピタリストの講義もよく受けました。刺激を受けましたね。
文化庁は文科省の外局なのでそこで知り合った方にはUTECでもお世話になりましたし、金融庁での経験も、今の仕事に生きています」
編「この頃、今につながる出会いがあったという感じですね」
GO「2003年の11月に、知り合いを介して、東大の方からお話を受けました。2004年に大学が法人化するので、今後の大学の在り方をどうしていこうか、と。
ご存知の通り東大は研究が盛んですからそれを元に産学連携をするのは大事だという話になっていました。東大には研究者が4000人、どんなメーカーもなかなか敵わない人数です。であれば新しいビジネスの種はあるだろう、と考えていました」
編「研究を元にいかにビジネスを作っていくか、ということですね」
GO「はい、そうです。ただ大学は投資するお金を持っていないし、国から予算が出るわけでも無い。今こそあの時の法律の出番だ……!と」
編「あのとう……投資事業有限責任組合法ですね!」
GO「はい、その法律を根拠にファンドを作り運用する、東大と提携したベンチャーキャピタルを設立しようという話に。
法律を書いた自分としては、ぜひ実際にやってみたいと思ったので、通産省の人事担当(大臣官房秘書課)に『東大と提携するVCを作るので出向させてください』とお願いをしに行きました。
帰ってきた返事は『出向先まだ無いんでしょ?あと留学から帰って来てすぐすぎるからもう少し本省で仕事してください』と」
編「そうか、UTECまだ出来てないですもんね。留学費用出してもらっているのならそう勝手はできないし……お金も含めて迷わなかったんですか?」
GO「あまり迷いはなかったですね。
自分で書いた法律の理念を、実際に技術をビジネスにするために実践してみたいと思っていたので。すぐに辞表を出しました。留学費用は、UTECの立ち上げ後数年をかけて全額返しました」

「辞職……あまり迷わなかったですね」
UTEC立ち上げ
編「先ほど最初の成果が出たのは2009年と伺いました。そこまで長いですよね」
GO「成果出るまでは、みなさんからあれこれ言われますよね。
でも、東大や投資家との間では、中長期的なUTECの方針に理解をいただいていたので、苦しい間もいろいろと支えていただきました。大変でしたがなんとか軌道にのってきました」
編「成果が出るまで結構時間かかっていますが、出るまでは色々と言われたりしませんでしたか?」
GO「『早く成果出てほしいなー』とは思っていたんですが、そもそもUTECを立ち上げる時に『すぐにはビジネスにならないような技術開発段階に投資する』というコンセプトで始めているんですよね。
また、だからこそ、成功した時の成果は、すぐに儲かるものに投資するより大きくなるんですよ。東大も、投資家の方も、そこはきちんと理解して見守っていただけたので、そういった辛さは無かったですね」
なぜこのタイミングで博士に?
編「これまでの成果を色々なところで拝見していて、今まさに企業として伸びていると思うのですが、なぜ郷治さんがこのタイミングで博士課程に入られたのかが気になります……」
GO「今まで取り組んできている投資案件に関してはお陰様できちんと成果が出ていて、それはそれでとてもありがたいことなんですね。
これまでの投資は基本的に、研究者や起業家の方から相談を受けて行ったもの。
ただ、今後中長期的にどのような投資をしていくべきか考えてみると、待ちの姿勢ではなく積極的に、有望な投資分野となる研究を探索することが必要になってきたと感じています」

「なるほど、社長しながら博士とかあるんですね……」(勉強になりっぱなしの編集部)
編「会社の中にも研究分野にお詳しい方はいらっしゃるんですよね?」
GO「もちろん、UTECにも東大にもいます。ただ、最近は新しい技術が出来てから起業するまでのサイクルがすごく速くなってきています。
最近賑わっているものとしては、ブロックチェーンとかゲノム編集とかがありますが、この辺りの概念が出てきたのって2012年頃なんですよ。
4年しか経っていないのに既にもうベンチャーがたくさん出来ている。アメリカとか、研究者がどんどん起業しちゃうんですよね。
そうした流れと戦っていくには『どの研究や技術がビジネスにつながりそうで、誰(どの大学)がそのキーになっているか』ということを研究の動向を常に見て目星をつける必要があると考えます。
ですから、自分の研究も特定の分野についての研究ではなくて、研究動向全般から、ベンチャーを興す機会を探索する、といったことをやる予定です」
編「なるほど……それにしても社長をやりながら工学系研究科の大学院受験にチャレンジされるというのはすごいですね……」
GO「一昨年の10月に受験を決心して、仕事の後や休日に数学を一生懸命やりました。
大学で数学やってないですから、微積と微分方程式と線形代数と……マセマの参考書、あれ良いですよね(笑)土日や夏休みも家族サービス全然出来ませんでした。運良く入れました」
編「すごい……あ、お時間過ぎてしまってますよね。すみません……」
GO「大丈夫大丈夫、この後研究室の飲み会なんだけど自転車で行くから間に合うよ。今日はどうもありがとうございましたー!」
編「どうもありがとうございました!(わ、若い……)」
取材を終えて
取材メンバー(平均学部4年生、21歳)以上にお若いマインドの郷治さん。バイタリティを持って「何でも自分で道を切り開く」という姿勢はお話を伺っていて大変刺激的でした。
印象に残っている本は『論語』『孟子』『失敗の本質』、そして『ガリア戦記』だそうです。
『ガリア戦記』を著したカエサルの名言に「学習より創造である。創造こそ生の本質なのだ」というものがあるようです。
試験とか就活とか色々ありますが、この言葉を胸に力強く生きようと思いました。
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