本稿は、瀧本哲史氏と、学生によるインタビューです。
学生:それでは始めようと思います。早速ですが、瀧本先生が顧問を務める日本政策創造基盤(NPO法人の認可申請中)の主催で、五月祭に河野太郎衆議院議員をお呼びすると伺いました。
瀧本:はい、五月祭企画「河野太郎の大学の悩み聞きます」ですね。
学生:本日はぜひ、企画について詳しく教えてください。まず質問なのですが、どうして河野議員をお呼びになるのか教えてください。
瀧本:皆さんご存知の方も多いと思いますが、河野太郎先生はツイッターを通じ、大学の研究者の方が困っている様々なことを解決するという、昔のソフトバンクの孫さんに近いことをやっておられるんですね。例えば「ネ申エクセル問題」というのがあって、研究者が補助金の申請などのために、情報をエクセルシートに記入するのですが、それがエクセルのセル一つにつき一文字だけを入れるというありえないフォーマットでして、それを研究時間のない教員が埋めるという恐ろしく生産性の低いことが行われていたんですね。これ、常識的に考えておかしいですよね。
学生:あまりに非合理的ですね。
瀧本:大学は予算が減らされ時間も人も減り、研究環境が悪化する中で、みんなが不満に思っていても解決しない、という状況がここ10年くらい続いていたんです。ところが河野さんがツイッターで教員から意見を募集し、ネ申エクセル問題を聞いてそれはおかしい、私がやりますとなった。それで担当する課を特定しそこに行ったら、実はそうしている理由はあまりなく、それどころか担当者は教員がそれで困っているとは知らなくて、すぐに改善されたのです。その結果大学の先生の時間はすごく節約できるようになったわけです。
学生:ルールを作った人は、現場の教員の苦労に気づいていなかったのですね。
瀧本:その通りです。文科省はそれなりに研究環境を良くしようと努力していて、大学の事務員も悪意無くルールを作ったのだけれど、教員はそのルールに縛られ、文科省はなんてひどいんだと思いこみながら仕事をしていたわけです。このもやもやした関係、もったいなかったですよね。河野先生はたくさん問題がある中で、それを一個一個解決するという大学と政策・政治の関係の新しいモデルをつくったわけです。
瀧本:一方で河野先生は単になんでもやりますと言っているわけではなく、政治にできることとできないことを理解したうえで、長い目で見ると日本の財政は小さくなっていくから、大学が何でここに予算をつけているのか、というアカウンタビリティを高めるべき、というところに問題意識を持っておられる。つまり大学と政策当局の話し合いをよりよくするきっかけを作ったという点で、非常に価値のある活動をされているわけです。でも、この活動がツイッターで閉じているだけではもったいないですよね。そこで広くアカデミアの人が参加してくださる五月祭で、河野先生と大学教員陣が直接対話できる場を設けることとしました。
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学生:討論会が楽しみになってきました。具体的な中身について教えていただけますか?
瀧本:今回全国の学者からリクエストを受け付け、河野先生に提案し意見を頂く場を作りました。ただし今回は個人の不満を言うだけの会ではなく、政治にできることを言う会であると。ここにいくつかポイントがあって、個人の問題でなくてみんなの問題であるというほうが政治は解決しやすいわけですよ。また個別の問題に対応するのは難しくて、むしろルールをこう変えてほしいという提案のほうが政策にしやすい。それから、感情論は政策の場では通りにくいので、エビデンスに基づいたものであるほうが社会を変えやすいと。この3つの条件がそろったものを河野先生にぶつければ、こういうのはできてこういうのはできない、できるかわからないけれど部署を探してみる、などと色々意見をいただけるのではないかと思いますね。
瀧本:そして事前にあなたの思いを送ることができる専用ページを作ります。今回は大学教員が困っていることだけでなく大学生が困っていることも取り上げるし、世の中が本当は困っていることで、研究成果もあるのに、解決できていない問題というのも受け付けます。河野先生は今のなんとなく決まっている政治というのを良くないと思っていらして、エビデンスベースドポリシーの考えを持っておられる方なので、きっと関心を持って下さると思いますよ。提案は当日河野先生にお答えいただき、また時間の関係で紹介できなかった意見は事務局の方で整理し、実現できるよう努力します。
(専用ページはこちらから http://konotaro-gogatsusai.strikingly.com/)
学生:大学生も投稿できるんですね。大学生でも社会を変えられるなんて、考えたこともありませんでした。ですが今回は五月祭というイベントだから実現したのであって、実際問題私たちが社会を変えられるのか、私は疑問に思います。
瀧本:実は既に学生が社会を変えているんですよ。
学生:そうなんですか?
瀧本:実は今回、五月祭企画の主催団体が二つあり、一つは瀧本ゼミ政策分析パートというところと、もう一つは新しくできたNPO法人認可申請中の日本政策創造基盤というところなのですが、実は瀧本ゼミでは大学生の意見から社会を変えた例があるんですよ。AEDご存知ですか?
学生:もちろんです。公共施設でよく見ますし、自動車学校の救護の授業でも使いました。
瀧本:AEDは、とある医学部のゼミ生が、いざという時に使われていないという事実を問題視し、議員や教授と連携したロビイング活動をした結果、なんと県の条例ができたんですね。
瀧本:さらに医者や教授を巻き込んだ財団まででき、しかもこのイシューを担当した人は学生なのにこの財団の委員会に参加しているんですよ。学生の小さなアイデアをきっかけに、こうやって大きな成果を作ることができるんです。
瀧本:私達はこの一回の成功に満足するのではなくて、継続的にやろうと思っています。瀧本ゼミは分析中心だったんだけれども、そこで発見されるイシューがあまりにもたくさん生まれたと。そこで、イシューの分析よりもロビイングするチームが必要だということで、今回瀧本ゼミの卒業生が自分で今度はロビー活動をやるため、日本政策創造基盤をつくったというわけです。
(日本政策創造基盤HPはこちらから https://goo.gl/yyrvCs)
学生:学生がロビイングするんですね。議員さんや官僚の方に聞いてもらえるんですか?
瀧本:みんなにとっての問題で、仕組みを変えれば解決でき、エビデンスがある。この三原則に合うものならば、関心を持ってくれる政治家や官僚は実に多いですし、実は民間企業でも関心を持ってくれる方は数多くいます。その点で民間企業との協力も面白いんですよ。
学生:私にも、心に引っかかる社会課題があります。瀧本先生は、日本政策創造基盤にどのような学生が来てほしいとお思いですか?
瀧本:色々なタイプの人に来てほしいですね。自分の行動で世の中を良くしたい、成果を出すことを目標にがんばることで自分を成長させたい、そういう人を探しています。今まで学生団体や研究で実績がある人は即戦力なので特に募集しています。でもとりわけそういった実績が無くても、日本政策創造基盤は基礎的なトレーニングをしたり、その人の成長段階に応じたタスクを任命したりする開かれた団体ですから、みなさんそれぞれに違うキャリアパスを用意していますよ。
学生:最後に日本政策創造基盤の目標を教えていただけますか?
瀧本:日本ではこれからエビデンスベースドポリシー(Evidence-Based Policy)という考え方が広まり、当たり前になっていくと思うんですけれど、日本はいつからエビデンス重視に変わったかという2025年くらいの論文に、日本政策創造基盤が少なからず貢献したということが、一章とは言いませんが、一節くらいになっていてくれれば嬉しいですね。
瀧本:あとはここの卒業生が色々なところに広がっていき、世の中を変える活動を様々な形で続けるリーダーが生まれれば、と思っています。ゼミ卒業生にはヘッジファンドに行った人、霞が関、ベンチャーに行った人、大学に残った人もいましたし、民間企業に行った人もいましたからね。
学生:本日はありがとうございました。早速河野議員への提案を書いて、社会を変えるための一歩を踏み出します。