「男と女」では終わらない――魚の性転換に見る性別の不思議

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なぜ性転換?

メスがオスに性転換すると、それまで作っていた卵ではなく、精子を作らなければいけません。さらに、自分と繁殖してもらえるようにメスに求愛する、オスとしての振る舞いも身に着ける必要があります。

そのために、体(生殖腺)と心(脳)の両方を逆の性のものに作り変えます

これにはかなりのコストがかかります。なにせ一度作った卵巣をしぼませ、代わりに精巣を作るのですから、エネルギーが要ります。新しい精巣が発達してオスとして振る舞えるまでは、近くに相手がいても繁殖できないというデメリットもあります。

 

どうしてそのコストを投じてまで性転換を行うのでしょう

魚に聞いても話してくれませんので、本当の正解はわかりません。ですが、我々は「性転換ができると、たくさんの子孫を残せるから」だと解釈しています。

雌性先熟模式図

ホンソメワケベラなどオスが何匹ものメスを獲得するタイプの魚では、強いオスしかメスを獲得できません。小さくて弱いオスは繁殖ができないのです。一方、繁殖相手をめぐって競う必要がないメスは、小さくても繁殖できます。

小さいうちはメスでいて、他のオスにも勝てる大きさに育ったらオスに性転換」ができれば、生涯でよりたくさんの子孫を残せるのです。

 

カクレクマノミやマハタなど、強いオスがメスを独り占めせず、それぞれで繁殖する魚では、少し違う話になります。

卵を作るには膨大なエネルギーが必要です。そのため、体の小さいメスはごくわずかな卵しか作れず、繁殖に参加しても子孫は少ししか残せません。一方、精子は小さい体でも多量に作れるため、小さいオスでも多くの子孫を残せます。

つまり、「小さいうちはオスでいて、卵をたくさんつくれる大きさに育ったらメスに性転換」ができれば、生涯でよりたくさんの子孫を残せることになります。

 

性転換ができた個体は多くの子孫を残し、できなかった個体は少しの子孫しか残せなかったため、繁殖を繰り返すうちに性転換できる個体ばかりが残ってきたと考えられています[5]。

 

性転換のとき、脳の中は?

魚では、性転換のとき、脳も体も逆の性別のものに作り変えます

脳の性転換

この、「脳を作り変えられる」というのが、魚のすごいところです。

先ほど、「自分と繁殖してもらえるようにメスに求愛する、オスとしての振る舞いも身に着ける必要があります」といいました。これが、脳を逆の性に作り変えるということです。

脳にはオスとメスで違うところがいくつもあり、オス型の脳はメスへの求愛やメスをめぐる争いといったオス型の行動を、メス型の脳は求愛の受け入れといったメスの行動を引き起こします。

メスがオスに性転換するときには、脳をオス型に変え、オス型の行動である「メスへの求愛」を身に着けるのです。

 

実は、これができるのは、脊椎動物の中では魚だけです。

ヒトでは、体を逆の性別に作り変えることは可能です(性別適合手術といいます)。ですが、脳を逆の性別のものに変えることはできません。

「自分はこの性別である」という認識をひっくり返すことはできないのです。

私自身の研究テーマはここにあり、魚はどうしてこんなことができるのか?性転換のとき、脳の中では何が起きているのか?という謎を追っています。

魚は哺乳類と違い、潜在的に両方の性別を脳内に持っていると考えられています[3]。実際どうなっているかを知るためには、まずはオス型の脳とメス型の脳の違いを知らなければなりません。

現在、脳の中で、オスとメスで大きな違いがあり、性転換のときに変化が起こりそうな部位がいくつか見つかってきています。それらを詳しく調べることで、性転換の仕組みを解明していく予定です。

 

最後に、魚以外の生き物に話を広げます。

性別が変わったりはっきりしなかったりするのは、魚だけの例外的な性質でしょうか?

 

次ページ:魚だけではない!多様な性別の世界

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ABOUTこの記事をかいた人

農学生命科学研究科 水圏生物科学専攻 博士課程在籍。
魚類の脳の性転換の仕組みを研究しています。
大学院生が高校生に向けて研究内容を発信する活動を行っています。 https://sites.google.com/site/baputokyo/
大学院生・若手研究者による、社会人含む一般向けのトークイベントも開催中です。 http://bapcafe.blogspot.jp/

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