東京大学前期試験に合格した新入生諸君、おめでとう。
早速だが、東大に5年間在籍した先輩として、君たちに忠告すべきことがある。
君たちは今、。「東大に入った理由?近いからっす」とかうそぶいている君も、「私は東大“まで”の人間ではなく、東大“から”の人間になります」と真面目な抱負を語る君も、内心は心底調子に乗っていることだろう。
なぜそのようなことが断言できるのか?
それは私自身が調子に乗っていたからだ。もっと言うと、私のクラスの同級生も全員調子に乗っていた(特に挫折を知らない地方出身現役文一とか)。
そして、この慢心とうぬぼれが最も甚大な結果をもたらすのが第二外国語の選択だ。
新入生たちは言う、
「私はフランス語にしようかな~。国連とか興味あるし、出来るようになったら世界の多くの人と喋れるようになるよね」
「政治・経済における中国の伸長具合はすごい。世界のトレンドに乗り遅れないために俺は中国語をとる!」
しかし私は知っている。こんなクラーク博士もびっくりな大志を宣っていた彼らが、5月には授業をさぼり、ツイッターで「二外落としたwww芸」を繰り広げていたことを。
なぜこのような意識のスカイダイビングが毎年のように起きているのか?
それは東大の新入生は第二外国語について3つの勘違いをしているからだ。
そして、苦い思いをした上級生は、下級生にドヤ顔したいが故にその間違いを引き継がず、オリ合宿で自分が「こんなにも難しい二外」を「いかに最小限の労力で」「単位(成績ではない)をとったか」を自慢するだけだからだ。
そう、まるで君たちの東大合格体験記のように。
だからそんな上級生を信用してはいけない。東大で君のことを真剣に考えてくれてるのは、君と筆者くらいだ。
残念なことに、君たちの80%は、初心者レベルにすら到達せずに卒業する。二外で電車のチケットを買うことすら苦労するだろう。
考えてもみてほしい。君たちは東京大学の受験には成功した。しかし、今まで外国語の習得について誉められたことはあっただろうか?
東大の受験に求められる能力と、語学の習得に必要な能力は大きく異なる。君たちは受験のプロかもしれないが、語学のプロではない。それは偏差値とクイズ力をごちゃまぜにするクイズ番組と同じくらい不正確な認識だ。
[広告]
さらに残念なことに、二外は君の将来に99%役に立たない。
君が日本で就職するにせよ、海外で就職するにせよ、就職せずに起業するなり学界に行くにせよ、ほぼ確実に役に立たない。
よくある勘違いに、こういうものがある。「私は国連とか国際協力に興味あるから、フランス語かな?」
これは完全な間違いだ。まず、邦人職員で業務レベルのフランス語を喋れる人間は殆どいない。
西アフリカ圏で人権人道分野を扱うなどのかなりの特殊例でない限り、フランス語を使う機会はない。現地スタッフやフランス語が母語の職員が山ほどいるからだ。
英語以外の外国語を扱う職業としては、通訳や在京の外国大使館の現地職員などがあるが、東大生が就職した例は聞いたことがない。
東大からの就職が多い職業の中で、これら外国語を専門的に扱う職業は、外交官やJICA職員、一部の研究者などごく狭い範囲に限られる。
もちろん、第二外国語の学習は、外国語の能力そのものではなく、その言語の文法や思考法を通じて多角的な視点を養うなど、ツールとしての価値を超える意義がある。
だから、二外を習得することが不必要であったり、そこまでの労力を割くことが適当でなかったとしても、やる価値はある。だからこそ、東大は必修科目としているのだ。
しかし、その学びを超えて力を入れるのは、「あなた」にとって必要なことであろうか?
そもそも、私たちの多くには、第二外国語よりも優先すべきことがあるのではないか?
それは英語かもしれないし、古典を読むことかもしれないし、学外活動かもしれない。つまり、冒頭で述べた、二外で脱落した彼らも、二外に注力しないことこそが、彼らにとって正解であるかもしれないのだ。
だから、改めて考えてみて自分にとって二外が重要でないと判断したのであれば、二外の選択は男女比やサイコロで決めてしまい、ほどほどの成績をとれるように勉強すればよいだろう。
語学ごとのクラスの雰囲気については、こちらの記事などが役に立つだろう。
以上、過去の自分の影を重ねて新入生諸君を痛烈に皮肉った。
しかし本稿の目的は生意気な新入生の鼻を折ること、「自分の人生にとって二外がどのような重要性を持つか」を考えてもらうことにある。
筆者の願いは、二外で無駄な時間を費やす新入生を救いたいという思いただひとつなのであるから。性格が良いのである。
続けて、「二外履修者のうち、どんな人が二外をモノにするか」についても語っておこう。
[広告]
先ほどは二外履修者の80%が大成しないと述べた。では、残りの20%はどのような水準にまで達するのだろうか?
19%ほどの、真面目な学生や情熱を持ち続けた学生は初級~中級くらいにはなる。欧州統一基準でいうところのA2からB1くらい、英検でたとえると4級から3級くらいだ。
旅行をすれば何とか伝わるし、その言語を話す相手と出会えば少しウケることだろう。それだけでも、二外を学んだ意義はあるのかもしれない。
しかし、“とても優秀な東大生”の中でこのレベルになるだけでも、相当の努力を要するであろう。
そして、これよりも上の壁を打ち破ることは難しい。そもそも、東大の授業プログラムがそれ以上のレベルを授業の目安としていないからだ。
では、残りの1%はどうやってこの壁を超えるのであろうか?
それは他でもない自助努力である。
交換留学や自費での語学学校、留学生との交流などを駆使して自ら学んでいる。筆者の友人には大学から始めて4年で、フランス語の最高位の語学資格を取った者もいる(彼は研究にフランス語が必要とのことだった )。
ただ、彼らの存在は機会と努力の結晶なのであるから、安易に目指すことはできない。
このような現実を踏まえたうえで、自分がどの程度まで二外に時間と努力を割くことが適切で、どのレベルを着地点とするのかを考えてほしい。
本稿が言いたいのはまさにこのことである。
最後に、私が選択したフランス語について、せっかくなので詳しく述べておこう。ここからはフランス語に興味がある人だけでいい。一読いただければ幸いだ。
アフリカに関心がある人。日本民法典や哲学・社会学、人権などフランス語研究が盛んな分野に興味がある人。
全フランス語話者2.7億人の中で、アフリカの占める割合は43%であり、その人口は爆発的に増えている。
逆に言うと、フランス語で職業人生を歩みたいと考える人は、アフリカに関心があったり、アフリカに出張や赴任に行く気構えがないとやっていけない。
今日においてフランス語ができる人間が送られるのはパリではなく、まずアフリカであることを心にとめられたい。
研究者に関しては、教養としてフランス語の読み書きをできる人はかなり多い。専門分野の分権が多いのであれば言わずもがなである。
女子率が高いクラスに行きたい人。仏語圏文化・料理などに関心がある人。フランス語話者を口説きたい人/口説かれたい人。
注意して欲しいのは「パリに旅行したい・オシャレに見られたい」という理由で決めようとしている人だ。
まず、フランス語は発音が難しいのでそれなりに本腰を入れないと旅行会話すらできない。
フランス人は英語を話さないなどと言われているが、他の教育水準の低い国に比べたら英語の通用率は高いし、本当に困っているのであれば英語でも話してくれるだろう。
そして別にオシャレではない。仮にフランスの文物がオシャレだったとして、フランス語を二外にしている人がオシャレなわけではない。
「フランス語には例外しかない」とのフランス人の言葉のように、フランス語は文法・発音が複雑である。その一方で、一定の高い論理性を持つので、中級に到達することができれば、あとは楽かもしれない。
女子率が3-5割(文系の場合)。文一フランス語は、ドイツ語ほど硬派で真面目じゃないくせに、そこそこ難易度が高い言語に挑戦していることから、プライドが高い連中が多い。
以上、私見によるフランス語の情報を綴った。それ以外の語学についても、安易なセールストークに惑わされずに、情報収集していただければと思う。