「コンサルタント」とは、昨今の東大生に人気の職業の一つである。
UmeeTで「コンサル」と検索してみると、数多くのコンサル出身者・現役コンサルタントがいることがわかる。どの方も非常に魅力的な方ばかりだ。
しかし彼らを見ていて違和感を感じるところがある。
多くが5年も働かぬうちに、早々と辞めているのである。そのせいか、記事の本数の割に、コンサルという職業がよく分かるものはあまりないようだ。
そういう職業なのだ、といえばそうかもしれないが、長く続けて、初めて見えてくるものもあるんじゃないの?
そういう疑問に答えてくれるのが、東大を卒業して、10年間コンサルタントとして働いてきた後藤さんだ。
「東大生は、もっと直感を使え。」というメッセージに耳を傾けてみよう。
学部は工学部で、学部を卒業してすぐ入社しました。
当時私が所属していたのはシステム創成学科でしたが、ここは学際的で、当時できてから間もない新しいところでした。
進学振分けでは理学工学と悩みましたが、理論を追求するのは自分に合わないと思いました。「型にはまりたくない」という気持ちがあったからだと思います。
進路としては、大学院の内部推薦をもらえるだけは勉強して、大学院に進もうと思っていましたが、一方で、大学院に行く前に社会を見ておこうとも思っていました。それが就活をした理由です。
業界はあまり絞らず考えていたところ、コンサルかベンチャーが合うかなと。
最初は商社も考えたのですが、それだとものすごく”Specific”な仕事しか任されません。
例えば、肉の輸入だけに特化して携わり続けるという業務を何年もできるかと言われたら、自分には難しそうだと感じました。同じ対象について関わり続けるというのは自分には向かないのです。
その他には、金融業界も考えましたが、数字だけを扱うこともちょっと自分の志向とは違う。多くの人と触れたいというのもありました。
人に触れながら、様々な業界のことを知りたいと思い、コンサルティング業界を選びました。
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自分が就活をやっていた当時、今ほどコンサルティング業界というのは主流ではなかったです。
そんな折、コンサルはその名に日本語訳が無いように、欧米でやられているものというイメージを持っていました。
そこで自分は、どうやったらこの職業のことを知ることができるだろうかと考えました。
コンサルをやるならアメリカに行って、その後欧米の違いみるためにEUに行こう。最後に”アジア”とかいう話をしていました。
それにまともに取り合ってもらえたのがここの会社です。
他にも外資系コンサルなども受け、内定もいただきましたが、アビームがいいなと。
— ちょっと待って下さい、日本に無いものを知りたければ、外資系に行った方が良いのではないですか?
確かに、所謂「外コン」に入れば、アジアとか、優秀ならアメリカの本社には行けます。でもEUには行けなさそうでした。
つまり、各社のヘッドクオーターに所属していないと、世界各地にはいけないのです。
かといって留学していたわけでもない自分がアメリカのコンサルティングファームのヘッドクオーターに入社するのは難しい。4年間アメリカ留学した人でもアメリカで就活するのは難しいのだから現実的ではないと考えました。
— 海外に憧れを持つ学生の多くが外資系を受けに行く印象がありましたが、そんな単純ではないのですね。
やはり職業の日本語訳がない通り、コンサルは日本で生まれたものではない、と。そう思うと、入社後から色々な国々に行けるのは良い環境です。
最初はアメリカに行き、EUも行きました。最近になってアジアにも行くようになりました。今後は日本だけではなく、もう少しアジアに本腰を入れたいところです。
入社当初から思っていたのは、国ごと・地域ごとに違いがあるだろう、ということです。
私は最終的にアジアで仕事をしたいと思ってきましたが、「アジアだけ知ればいいというものではない」と。
この業界にいるとやりたいことがコロコロ変わりやすいです。ビジネスの潮流はすぐ変わるし、同じことをずっと続けていても、数年後には価値がなくなる可能性もあります。
ただ、一貫して大事にしたいと思うのは、どこかですでにやっていることを真似したり、拡大したりというよりは、その地域の特色に根ざしたことをやりたいです。
— いろいろな国に行っておられるみたいですが、実際それで初めてわかってくるものはありますか?
これまで十数か国に行ってきましたが、どこもそれぞれ違います。
仕事でいろいろな国の人たちと関わる際に、視点を日本に固定してしまうと危険です。
日本から見ればドイツとイギリスは似ていると思いがちですが、実際には彼らはまったく違います。
例えば、あるプロジェクトでドイツとイギリスのメンバーがいたとき、イギリス人はドイツ人に「頭が固い」という。
一方で、ドイツ人はイギリス人に、
「前の打ち合わせで決めた事が、何で次になると違うのか。」
などと言ってくるわけです。
最初はそのことに全然気付かなかったのですが、プロジェクトがうまく進んでない事に気付き、1対1で、それぞれと個別に話をするようになって、問題が見えてきました。
二人のコミュニケーションの橋渡しをして、上手くルールを定めたら、段々とスムーズにまわるようになりました。
チーム内のルール整備、ポイントとなる考え方の整備をし、違いを理解した上でみんながストレス無くやるのが大事です。
こうしたことに、入社2、3年目で気づきました。
自分の入社時は、欧米のやり方をそのまま持ってきて、日系企業にあてはめていましたが、今では、日本ならではの事情を踏まえるようになりました。
例えばよく言われる「欧米ではまず初めにシンプルに結論を言う」ということがあります。
でも、日本人と話すときは、リサーチ結果を最初に言って、本論をできるだけぼかしながら、最後に結論を言う。こちらの方が良いときもあります。
つまり、相手に合わせたやり方のほうが、相手に伝わり、話が進む。
毎回同じやり方で通用すると思わず、相手を見て、「向こうの腹落ちしやすいストーリー」をつくることが重要です。
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— 大分上手く仕事をこなしているように見受けられるのですが、苦労などは無いのですか?どんなときが大変なのでしょうか?
コンサルは、コンサルであるがゆえ、そもそも声がかかる時点で状況がよくないことが多いです。
何らかの不満を抱えているクライアントの担当者がメインの状態からスタートする。つまり味方は少ないというケースがあるのです。
そこで信頼を勝ち取って、上手くやる、というのがポイントです。そこで一緒に仕事をした人から、いい体験ができた、といってもらうのが嬉しいです。マイナスの状況からそこまで行くのが、楽しいですね。
仕事自体は淡々と進めることもあります。
だけど、人と人、そこをどうしていくか、どうやったら同じ方向を見てくれるのだろうか、と考えているときが楽しいです。
日本人同士だとしても、コンサバな人もいれば、アグレッシブな人がいたり、なかなか上手く行かないことも多いです。
また、クライアントから雑談ベースで相談されたりもします。
特にアビームはクライアントとの距離が近く、近くなればなるほど、そういった本来の仕事と関係ない相談が増えますが、それも大事で楽しいですし、次の仕事にもつながります。
アビームは設立から35年が経ちますが、手探りかつ柔軟であるので、裁量ある人がいろいろ変えてきています。
昔は欧米のマネしかできなかったし、それしか知らなかった。
でも段々それで上手くいかないという事が蓄積されて、ここ10年くらいで変わってきています。
淡々とやるうちに、見えてくるものがあるでしょう。
— 仕事が楽しそうなのであえて聞きますが、学生時代や入社直後を振り返って、後悔などはありませんか?
学生時代はもっと人と繋がっていれば良かったな、と思います。
なんせ学部に2,3名しか就活をしている人がいなかったので仕方ない面もありましたが、自分はあまり他の人と情報交換していませんでした。また、東大生は割と自分で結論を出したがるというのもあります。でも今考えると、いろいろな人たちとの関係性を学生時代から持っておくことには意味があると思います。
入社した直後は、仕事そのものだけを見ていた気がします。あまり人が重要だと考えていませんでした。就活、受験など、言葉で表せる事を見ていた気がします。
この仕事をやっていると、人と繋がっていることの面白さをとても実感します。
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— 最後に今の学生へ、メッセージをください。
私自身もそうですが、判断に悩みますよね。特に東大生。
一度決めた事の影響をすごく考える。
この中からこれを選ぶ事の重みをすごく考える。
失敗しない選択を、って思いがち。
でも特に東大生は、何かを選択して失敗したとしても、まだリカバリーが効くので、直感を大切にして決めてしまって良いのではないかと思います。
”一番” 自分に向いていることは何なのか、などと考えると、動けなくなるし、後からでも、いかようにでも変えられます。
20年先のこととかは、あまり考えなくても大丈夫な世の中になっています。
周りの人は置いておいて、自分のいまの直感、思いで行動すれば良いでしょう。
みんなが同じ事を考えていてもバリューがないし、面白くないです。
影響ばかりに目を向けず、思い切った選択をして欲しいと思います。
ちなみに後藤さんはこのインタビューの翌日に、自らシンガポール駐在希望の話を上司にしに行くと仰っていました。
その上司は駐在反対だったそうですが、それでも自分は行きたい、そうアビームコンサルティングの後藤さんは語りました。
先の見えない時代だからこそ、意思に従って行動し、あらゆる現場に飛び込む。
ただ決まったフレームをスキルとして振りかざすのではなく、個々に対するアプローチを淡々と生み出す姿。
「横風を力に変えて進む」という意味を持つアビームの社名の通り、「しなやかな強さ」が魅力的な方でした。