グーテンターク!りほです。
突然ですが、あなたは「ずっと続けていたことを、大学に入ってやめてしまった」という経験はありませんか?
「中高6年間サッカー部だったけど、東大に入ってからは全然プレーしてない…」
「小学生の時から習っていたヴァイオリンを、上京を機にやめてしまった」
などなど。
かく言うわたしも長いこと声楽を習っていたのですが、東大入学後、サークルやバイトやなんやかんやでレッスンにあまり通えていません。カラオケに行くたび、己の劣化を感じて悲しくなっています。
ほとんどの人間は年を重ねるにつれて、自分が進む道を取捨選択することになります。
東大に行くということは何かを捨てるということであり、それがわたしにとっては声楽だったんだなあと思っていたある日。
わたしはTwitterで「星野源の『恋』の全パートを耳コピして、全部1人で演奏した」という動画を見つけました。2万リツイートくらいされていたので、ご存知の方も多いかもしれません。
その動画がこちらです。
初めて見た時の感想は、「は?」です。
全パートをピアノで弾ける技術もすごいけど、耳コピってなんなん??マリンバとかベースとか、耳コピできるものなの??バイオリンも1と2があるけどなんで聞き分けられるの???
YouTubeのプロフィールを見るに、この方は「firefoxist」という名前で演奏活動を行っているそう。
耳コピもピアノもすごいし、音大の生徒さんかな〜と思ってその日はスマホを置いたのですが…
後日、この動画を取り上げた記事をいくつか見ていたところ、
・・・ん???
「恋ダンスが好きすぎて13パート、全部演奏した!」 耳コピ再現の東大生がスゴい
東大生なのかよ!!!
ということで、取材に行ってまいりました。
どうやって耳コピしてるのか知りたいあなた、
勉強以外のことにも熱中する東大生に興味があるあなた、
音楽に限らず、ずっと続けていたことを大学入学とともにやめてしまったあなた、
必見のインタビューです!
…演奏家プロフィールを見ると、「なんかすげえ」という感情に圧倒されそうになりますが、インタビューを始めたいと思います。
筆者:今日はよろしくお願いします!
あきたさんの耳コピ動画はTwitterで回ってきて見たのですが、まさか東大生だとは思わなくてびっくりしました。耳コピ、端的に言ってやばいですね。
あきた:ありがとうございます(笑)
筆者:ピアノはいつから始められたんですか?
あきた:3歳からですね。ソルフェージュは1歳からやってました。
※ソルフェージュ…音楽の基礎的な訓練のこと。教室によって内容は違いますが、聞こえた音を楽譜に起こす聴音や、楽譜を見てすぐに演奏する初見の訓練を行うところが多いです。
筆者:1歳ってハイハイしてるくらいでは…。コンクールとかは出られてたんですか?
あきた:そうですね、小学生の時はコンクールに出たりもしました。
でも高校の時から合唱を始めて、そこで指揮もやってたんですよ。そしたらピアノの先生が指揮の先生を紹介してくれて、夏休みに、ハンガリーに指揮を勉強しに行きました。
筆者:…ただの習い事とか趣味の域を超えてますね。どうして音大ではなく東大に来られたんですか?
あきた:音大に行ったら音楽で食べていくしかない、っていうイメージがあって、自分はそこまで実力があるわけじゃないなって思ったのはもちろんあります。
でも、東大に行っても音楽できるじゃん、とも思ってたんですよね。そもそも動画投稿を中2の時からやってたので、そういう形で演奏を披露できることも知ってたし。
あまり葛藤はなかったです。
筆者:なるほどなあ。披露する方法として、演奏会とかだけじゃなくて、動画投稿が自然にあったっていうのがおもしろいですね。
[広告]
筆者:その、耳コピして動画投稿っていうのはどんな経緯で始められたんですか?さっき中2の時に始めたっておっしゃってましたよね。
あきた:そうです、中2の時です。YouTubeとかを見ていて、『◯◯を弾いてみた』っていうのが結構あるっていうことを知ったんですよね。それで、自分もやってみようかな〜っていう感じで始めました。
最初はJ-POPではなくて、クラシックの演奏を投稿してました。
筆者:最初からバズらせよう!みたいな気持ちではなかったんですね。耳コピ自体はいつから始めたんですか?
あきた:うーん、明確にいつっていうのがあるわけではないんですけど、幼稚園のお遊戯の時間で、先生がピアノを伴奏して、子供達が歌うっていうのあるじゃないですか。
あの時に、僕はピアノが弾きたかったんですけど、楽譜がなかったので、耳コピして弾いたっていう記憶があります。
筆者:天才かな???
あきた:いやいや(笑)
でも身の回りの音を耳コピするみたいなことはふだんから自然としてて、それをTwitterにあげたらバズりました。
自分ではたいしたことだとは思ってなかったのですが、皆さんが面白がってくれてうれしかったです。
筆者:そもそも耳コピってどうやってやるんでしょう?あきたさんは感覚的にできちゃう感じなんですかね。
あきた:もちろん慣れもありますが、より簡単にできる方法もあります。
耳コピには2種類あって、1つは「横の音」を追う、つまりメロディとコードを聴きとって、間の音は適当に埋めるっていう方法です。
これは頭の中で曲を再生すると同時にピアノを弾いて、間の音を埋めてかなきゃいけないので、音感が必要です。
筆者:無理そう。
あきた:コードとかに慣れてないときついですね。で、もう1つは「縦の音」を追う方法で、一つの和音に集中して、上から下まで音を聴き取るっていう方法です。これは時間はかかりますが、音感がなくてもできます。
筆者:なるほど、ヴァイオリンの音を追うっていうよりも、1拍で鳴る音すべてを聴きとってから次に行くっていうイメージですね。
あきた:そうですそうです!みんな横の方をやろうとして、できないって言ってくるんですけど、縦の方は努力と時間を費やせばできます。
今度耳コピのやり方を説明した動画を作ろうと思ってるので、それを見ていただけたら!
筆者:星野源の『恋』は、どういう経緯で耳コピされたんですか?
あきた:ふつう、曲を聴くときはメロディに注目することが多いと思うんですけど、僕はその裏で鳴ってる音を聞くのが好きなんですよ。
『恋』を初めて聞いた時、いろんな楽器が鳴ってるなと思って。
裏の伴奏でこれだけ多くの楽器が使われてるんですよ!こんなことやってるんですよ!っていうのをわかりやすく見せられたら楽しいなと思ったんです。
筆者:確かに、画面に鍵盤がいくつも映されることで、『こんなにいろんなパートがあったんだ!』って思いました。ヴァイオリンとか2つ使われてるんですね。
あきた:そうなんですよ!
僕は、J-POPには「編曲者」の存在が不可欠だということを広めていきたいと思ってるんです。
筆者:編曲者?
あきた:はい。作曲者っていうのはだいたいメロディとコードを作るんですが、それに色々な楽器を足したりするのが編曲者の仕事です。それこそヴァイオリンを入れたりみたいな。
だから編曲者ってすごく重要なんですけど、そのことを意識して音楽を聴いてる人は少ないと思うんです。そこを、動画などを通じて取り上げていきたいですね。
筆者:なるほど…!じゃあ星野源の『恋』も、誰かすごい編曲者がいるんですね。
あきた:いや、『恋』は編曲も星野源じゃなかったかな。
筆者:天才かな???
あきた:星野源は本当にすごいと思います。
ちなみに二胡っていう人の声に似た音が出る中国の楽器が使われてるんですけど、
実はそれ最初二胡って気付かなくてソプラノ歌手だと思ってたので、動画でも実はコーラスとして弾いてしまっています。
筆者:その二胡って楽器、曲のはじめの方で使われてたりします?
あきた:そうですそうです!
筆者:やっぱり!なんか中国ぽいメロディだなあって思ったんですよね!
曲の本当に最初の部分。よく聞くと、「ウ〜ウウウウウウ」みたいな感じで、女性の声っぽい音が鳴っています。それが二胡だそうです。
筆者:あそこまでリツイートされると大変じゃなかったですか?
あきた:さすがに通知切りましたね…。あと、バズるとやっぱすごいパクツイされるんですよね。
結構前なんですけど、大晦日のガキ使の、アウトになった時に鳴る『デデーン!』を耳コピして楽譜に起こしてツイートしたんですけど、むちゃくちゃパクツイされました。
筆者:あきたさんは東大に入っても音楽を続けていらっしゃいますが、わたしみたいに大学入学後にやめてしまった東大生も結構多いと思うんですよね。
あきた:そうですね。僕の周りにもピアノとか、楽器がすごくうまい人がたくさんいました。
でもみんな結局やめてしまったり、やってても仲間内だけだったりするんですよね。
もちろん本人が良いなら良いのですが、もっと外に出してくれたら嬉しいなあと思います。僕も聞きたいので。
僕が動画投稿をして、時々こういう形でバズったことによって、おれもやってみようかな、みたいな感じで投稿を始めた友達も何人かいて、それはすごく嬉しかったですね。
筆者:音楽を続ける方法として動画投稿はすごく面白い形だと思うのですが、他に何かあったりしますか?
あきた:自分がやってて思うのは、演奏を披露する機会だったり、勉強をしに行く機会、例えば偉い先生のお話を聞きに行ったりだとかは、TwitterやYouTubeを使えば意外とあるんだなということです。
僕も動画投稿を始めてからお仕事の話をいただくようになり、伴奏とか作曲とか、あとは歌い手さんとのコラボをさせてもらったりしています。
筆者:へえ!動画投稿がさらに演奏の機会を生むんですね。
あきた:そうですね。今は、Twitterで声をかけていただいて、海外のコンテストに出すCGの映像作品に音楽をつけるっていうのをやっています。
筆者:スケールがでかい。
あきた:学内の話だと、作曲・指揮の講座を1年生の時に取っていました。
今はその先生の授業は受けていないんですがお世話になっていて、先生のおかげで東大のオケと東京藝大の弦楽器の方と一緒にワークショップを開いたり、プロの方に僕が作曲した曲を歌っていただいたりしました。
筆者:それ最高じゃないですか…!東大に行っても藝大の人と一緒に演奏ができるって、それはすごい嬉しいですね…!
あきた:本当に良い経験をさせていただいています!
さっきも言った通り、僕の周りには素敵な特技を持った人達が沢山いるのですが、皆それを披露する場がなく、宝の持ち腐れとなっているケースを本当に沢山見てきました。
サークル以外にも、音楽を続ける方法っていうのは色々とあるので、もし自分の演奏を世に出したいけど出す機会がなくて悶々としている方がいたら一歩踏み出してほしいなと思います。
東大の勉強と、音楽活動は両立できます!